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Bitter treat Black trick SRWNovel

Bitter treat Black trick

ギリアム・イェーガーに関する、数多くの噂のひとつ。 『バレンタインデーのお返しがとても充実している』 非常に現金、かつ彼に関する噂の中では確実な裏が取れている珍しいもの。 ――――――名前付きのメッセージカードに、贈ったものの意図に対する細やかな返事と、地球圏各地の珍しいものや高級なものが、贈ったものの約3倍の価値で返ってくる。 手作りは受け取らないので、逆に投資しやすいという注意事項兼要項まで流れている。 元より特殊戦技教導隊として数多くの伝説を残す、少し――だいぶ変わったエリートパイロットであり、鋼龍戦隊としての戦績もある。 年齢、20代後半。『人間離れした』という修飾語のつく顔立ちの整い[…]
笑顔の溢れるやりがいのある職場 SRWNovel

笑顔の溢れるやりがいのある職場

「地球連邦軍情報部所属、サイカ・シナガワ少尉、かあ……」 規律を守ったナチュラルメイク。真新しい軍服に袖を通したがどうにもコスプレじみている。 実感が湧かない。あのスパムメールから異形じみた自律兵器に狙われていたということも、その調査をしていたギリアム・イェーガー少佐の目に留まり司法取引で軍属になり今日から着任という事実も。 Dコンの星座占いアプリでは一位、仕事運と恋愛運が特に良し、運命の出会いが訪れるかも、などなど都合のいいことがずらりと書かれている。 ――でもギリアム少佐って特殊戦技教導隊の人だし今もハロウィン・プランでゲシュペンストの改良に力を入れているから、夢のPT開発に携われるチャン[…]
100年後の未来も、きっと明るくて SRWNovel

100年後の未来も、きっと明るくて

DC戦争からはじまり、数多の並行世界を巻き込んだ一連の戦いが終結してから6年が経った。 「お久し振りです、そしておめでとうございます」 エルザムは微笑んだ。 「この目出度き時に呼んでくださること、旧交を温め合えること、誠に僥倖」 ゼンガーも頷いた。 カイの娘・ミナの結婚が決まり式の段取りをする所で彼以上の料理人が思い浮かばず、ミナにとっても知らぬ相手でもないため、エルザムに料理のことを全て任せることにしたのだ。 「それで……お前たちもギリアムの行方はわからないのか?」 もう1人の戦友は戦後処理を終えた後軍を去り、エルザムたち同様隠遁生活を送っているはずだったが、連絡がつかない。 「コールには応[…]
エンキョリレンアイ SRWNovel

エンキョリレンアイ

ようやく1人になれる時間が出来てDコンを取り出して、ふと我に返った。 連絡を取ろうとした相手はヴィレッタだが、鋼龍戦隊の置かれた状況が思わしくないことは他でもなく先程までしていたGS絡みの任務その他で嫌というほど知っている。 仕事やそれを振ってくる上層部への愚痴というのは俺たちの日常会話としてはよくあることだが、久方振りの連絡でそれはどうかという良識があった。 ヴィレッタもそこでアーマラ・バートンという敵対存在に心を乱されている。 話題が必要だ。気を紛らわすような面白みのある話で彼女が知らないようなもの。 ――――無理だな。楽しい人間に混じるのは好きだが、正直ネタ切れだ。 全体の心身のケアと自[…]
ぬいぐるみの少女がいる世界 SRWNovel

ぬいぐるみの少女がいる世界

初夏の風と心地良い陽気に誘われて、街に出た。積もった仕事が片付いた慰労も当然ながら含まれる。 「あ…………」 公園に差し掛かった時、ギリアムが嘆息と共に目を丸くした。視線の先には幼稚園児ほどの少女がいて、くまのぬいぐるみとままごとをしている。少し距離を置いて見守る両親らしき若い男女は幸福感に溢れており、釣られて視線を移したヴィレッタも思わず微笑んだ。 「……ギリアム?」 しかし長くは続かない。この日常に似合わぬ動揺が伝わり、そもそも彼が取り乱すという異常事態がヴィレッタを強張らせる。 「ああ、いや、何でもない。君とああいう夫婦になれたら、と思っただけさ」 急ごしらえであることが露骨な口説き文句[…]
隊長業と甘い罠 SRWNovel

隊長業と甘い罠

モニターに向かう。数値の羅列、3人のT-LINKシステムのグラフ、隊員たちの所感、演習の成績、その他諸々。 今日のテストは大規模で、SRX計画の完成形、コードネーム『アルタード』のため改良されたT-LINKシステムと連携する新型エンジンを搭載した特殊なゲシュテルベンでの演習だった。 機体に搭乗していたとはいえ監督だったヴィレッタは隊員たちを労ってゆっくり休むように声をかけ、報告書と戦っていた。 0時を回ったのを確認し、少し目眩がした。ここのところアルタードの件に追われロクに休めていない。 人造人間といっても生理反応は人間とほぼ変わりなく、睡眠不足は集中力と体力に響く。 その時執務室の入口のコー[…]
朝へと続く光 SRWNovel

朝へと続く光

「大丈夫か? 震えている」 ギリアムのコートを掛けられた。防弾仕様で武器があちこちに仕込んであるせいか重く、そして彼の温もりを感じる。 彼の右手に座ったおかげで、その瞳を見ないで済む。きっと心配で揺らめいているのだろうけど、目が合わせられなかった。 先の出撃が終わって、格納庫で会った彼はこの展望室に私を連れてきた。気遣いが痛い。私は――――ただの人形なのに。 「!!」 己の思考に入り混じった囁きに身が強張った。まだ、残っている。ゴラー・ゴレムとの戦闘で揺るがされた自我の歪みが。 「……ねえ、ギリアム」 「断る」 予知能力ゆえか、状況からの判断か、彼は私の懇願を言葉になる前に断じた。 「有り得な[…]
政の方が得意そうな2人 SRWNovel

政の方が得意そうな2人

盆暮れ問わず仕事があるのが、軍隊というもの。 しかし今年は平和で、基地博ではアルトアイゼン・リーゼの展示が人気スポットとなり、兵士たちはオフに近隣の祭りを楽しむことが許されている。 「それで何故君が引率に? SRXチームの彼らも子供ではないだろうに」 夜空を彩った男性用の浴衣を着用したギリアムは、わたあめを味わいヴィレッタに問いかける。 長い髪も後ろで結っており、軍人らしさが感じられない。 それが彼の情報部としての偽装術なのかもしれないが。 「あなたは何故だと思う? 推理力に期待するわ」 一方のヴィレッタは橙色の浴衣を提灯に光らせ笑う。 思案する。わたあめを少しずつ口にしながら。 「まず、その[…]
波に浮かぶ恋心 SRWNovel

波に浮かぶ恋心

東京の海は、少し泳ぐには向かない。 環境問題が騒がれて旧西暦の時代よりは綺麗になったらしいとはいう。 しかし旅行でしか浅草を離れたことのないショウコにとって、海とはやはり東京の海だった。 「修羅界には海ってあったの?」 「あったぞ。海を縄張りにした奴らがいて、軽い気持ちで出たら痛い目に遭う」 少し予想とは違う、でもだいたい想像通りの答えに期待が膨らむ。 「今停泊している所のすぐそこにレーツェルさんのプライベートビーチがあるんだって。行ってみない?」 「そこに海の修羅……この世界で言うところの海賊はいないのか?」 「いるわけないでしょ。泳ぐかはともかく、見に行ってみようよ!」 半ば強引に連れ出す[…]
今度こそ、彼を SRWNovel

今度こそ、彼を

“向こう側”に残してきたリュケイオスが何らかの影響で変異を遂げ、こちら側に現れた。 ギリアムですらも把握していないその存在は、何故かギリアムのよく知るXNガイストの姿をしていた。 「だが、俺なら制御出来るはずなんだ」 無差別に攻撃を繰り返すそれを相手に、彼は何らかの決意を決めたようだった。 「奴の動きを止めてくれ。その間に俺がコアユニットとして入り込む」 皆、危険だと制止した。それしか手段はないのか、むしろそれは手段には成り得ないのではないか。 「ヴィレッタ……君は俺を信じてくれるよな?」 「信じている。でも、貴方にそれをさせる訳にはいかない」 ギリアムは軽薄に笑う。 彼には珍しく、そして彼ら[…]
その愛は幻影か SRWNovel

その愛は幻影か

状況を理解するのに、しばらく時間が掛かった。 近くには彼女の仲間はおらず、センサー類は現在地を感知できない。 ただ、R-GUNは呼び出す事が出来るし、不自然な程に無傷だ。 意識を失う前は、機体の損傷も弾薬の消耗もあったはずだが、それが全く無くなっている。 有機的にも無機質にも見える壁に囲まれた空間はどこか禍々しさ、そして何故か迷いを感じた。 しかしこの空間には扉というものが見当たらず、強いていうなら六芒星を描いた魔法陣があるくらい。 意を決して、R-GUNに乗ったまま魔法陣に踏み入れる。 似たような空間だったが、広く、そして人がいるという相違点があった。 「よく来たな……ヴィレッタ・プリスケン[…]
昼下がりのワーカホリック SRWNovel

昼下がりのワーカホリック

何もない、というのも困ったものだ。 軍人、特に彼――ギリアム・イェーガーにまわる仕事がないというのは平和の証であり、素晴らしいことではある。 部下である光次郎が昼食を要求してくれたのなら、今なら仕方のない奴だと連れて行くのに、粛々と雑務をこなしている。 普段からこの勤勉さを見せてくれればもっとありがたいのに、と手伝う旨を言えばたまには休んでいいですよとあまりありがたくない答えが来る始末で頭を抱えたくもなる。 ワーカーホリックというのはこういうものを言うのだろう。 彼の予知能力はしばらくの平和を告げており、これではシャドウミラーと同じだと己を戒めるも状況が改善されるはずもない。 「ギリアム少佐、[…]
恋人のいない夜 SRWNovel

恋人のいない夜

プレゼントは前日までに用意しておいた。 レオナやカーラに混じってレーツェルの講義を受けてまで手作りをする気にはなれなかった。 レーツェルはやたら世話焼きだからギリアム少佐の好きなお菓子のレシピを手ほどきしてくれるだろう。 だが、それでは駄目なのだ。 レーツェルに教わる限り、手作りに拘る限り、彼の料理を超えるのは不可能だ。 無論少佐なら「君が作ってくれたのが一番さ」と笑うだろう。 その笑顔を誰にでも振りまいているであろうことが、とても寂しい。 少し苦いチョコレートに、ネクタイを添えた。 それで彼を拘束出来る、なんておまじないをしなかった訳でもないけれども。 彼(と情報部の面々)がいつもいる小会議[…]
今願う、無限の地平 SRWNovel

今願う、無限の地平

誘ってきたのは、レモンからだった。 「男と女だもの。別に不自然でもないでしょう?」 おれは特に餓えていた訳でもないが、これで断ればレモンとの良き同僚としての関係すら崩れるというのは、それはそれで嫌だった。 険悪になり何の関係もなくなるよりは、恋人という関係になった方がマシ。 なりゆきと言うしかなかったが、考えてみればそう思えた時点でおれもレモンを愛しく想っていたのだろう。 レモンを抱いた時、ゴムはいらないと無理矢理制止された。 性に奔放な女なのかと思えば、前戯への反応は初々しいし、挿入時処女特有の感触があった。 「お前、何で……」 「子供が出来ない体質なの。でも抱いて欲しかった。あなたにだけは[…]
英雄の熱動 SRWNovel

英雄の熱動

夢を、見た。 『全ての世界の愚民どもよ!! 見ているか? 俺様はカイザーベリアルだ!! これからヒーローどもの処刑を執り行う!!』 高らかに宣言する者はどことなくあの世界の『ウルトラ族』に似ていたが、禍々しい負の力を感じる。 そしてその背後で磔にされているのは、三人とも良く知る、そう、良く知っている―― 「アムロ!!」 自分の声で目が覚めた。 これは予知夢なのだろうか。 そうだとしたら、あの世界にまた帰れる時が来るという―― 「馬鹿げている」 その可能性は自分で棄てた。 部下は相変わらずだし、久しぶりに会うジョシュア、リアナ、グラキエースも元気そうだった。 そして、彼女も。 「ギリアム少佐、お[…]
最後の出撃 SRWNovel

最後の出撃

ゲシュペンストRV。 ギリアムにとって始まりの地であった世界にも、極めて近く限りなく遠いあの世界にも存在しなかった機体。 量産型を発展させたMk-II改と違い、ギリアムの専用機体としてPTX-001を徹底的に改造したものだ。 ――龍虎王のように機体と会話することが出来たら、彼(または彼女)は何を話すのだろう。 そんな思考実験をしてしまう。 普段ならありえないことと一蹴するが、ギリアムの“ゲシュペンスト”に対する思い入れが、その思考をむしろ面白いものと感じさせる。 「君はこんな姿にされて恨み事も言いたいかもしれないな」 元の曲線的なフォルムとは打って変わって直線で構成されたシルエットは、どことな[…]
『愛』を覚えるには未熟 SRWNovel

『愛』を覚えるには未熟

『俺は、闘う事しかできない不器用な男だ。だから、こんな風にしかいえない。俺は、お前が、お前が、お前が好きだっ!! お前が欲しいっ!!』 流麗な字で書かれたその文章を見て、ヴィレッタは己の好奇心を悔いた。 何故ギリアムが真顔で書いていた手帳に流派東方不敗の継承者の告白が記されているのか。 無論好奇心だけでなく彼に関する情報が手に入れば、と思っていたのだが。 万が一見られても大丈夫なようにか、その手帳には食事のメニューだとか――今日の昼食は日替りA定食だったらしい――あたりさわりのないことしか書かれていなかった。 昨日の謎の文章は『ダイヤモンドより君だ』だった。 『好きになっちゃったんだからあった[…]
彼らが”友”になったとき SRWNovel

彼らが”友”になったとき

グラスに伸ばしたゼンガーの手をギリアムが制止する。 「ゼンガー大尉、それは酒です」 「む?」 「エルザム大尉がすり替えていました」 睨みつけると笑ってその酒をギリアムに差し出す。 「よくぞ見抜いたギリアム! その慧眼に乾杯!」 「酔っているフリをしても無駄ですよ。あなたがここで一番酒に強いのは皆知っています」 テンペストが頷き、カイがため息をつく。 「ギリアム、残しておくとロクなことにならない」 カーウァイの一声に受け取った酒を煽る。 「……エルザム大尉、ゼンガー大尉を殺すおつもりですか?」 ギリアムが顔をしかめた。かなり強い酒だったらしい。 「ふふふ、止めたいのならお前が飲むことだな」 更に[…]
普段は食べない人たちも SRWNovel

普段は食べない人たちも

今日はレーツェルが台所に立つということで、食堂は大賑わいだ。 少しピークタイムを外して行ったが、それでも人でごった返している。 「ヴィレッタ大尉、こっち開いてますよー!」 もっと時間をずらすべきだったか、という思考に割り込んできた声。 ――苛烈なクールビューティー。 実態は“意外と親しみやすい”と言われているが、それを知らぬ人間にはそう表される彼女に親しげに話しかける人間は限られている。 たとえば直属の部下であるSRXチーム、たとえば付き合いの長いラーダ、たとえば誰とでも打ち解けるエクセレン、たとえば―― 「…………すまない、あなたたちをコードネーム以外で呼ぶ術を知らないの」 「がぁっ!? 俺[…]
絡み合う嘘つきたちの真実 SRWNovel

絡み合う嘘つきたちの真実

口先で数重ねてきた嘘の中で生きてきた真実。 この世界で君たちと出逢い君を愛した。 嘘だと言い切れたら、どれだけ楽だっただろう。 君を愛してしまったこと。 君にとっても痛みにしかならない。 俺にとってもいつかは苦しい思い出にしかならない。 どうせ俺は嘘つきの罪人だ。 言ってしまえ、君への言葉も全て嘘だと。 しかし口は思考を裏切る。 「愛しているよ」 「それならあなたのことを抱きしめさせて」 「俺としては俺から君を抱きしめたいんだがな」 「嘘つき。誰かに繋ぎ止めて貰うの待っているくせに」 「それは君自身だ」 「そうよ。嘘つき同士よくわかっているじゃない」 「それでは嘘と妥協に満ちた夜を始めようか」[…]
星を映す門にて SRWNovel

星を映す門にて

分の悪い賭けは嫌いではない、とキョウスケはよく言う。 大一番での賭けに負けることはないと言い切っていいものの、周囲の皆がそう言い切るには抵抗があった。 ジョシュア・ラドクリフもそうだった。 彼の信条は“分の悪い賭けをするつもりはない”である。 確実に目の前の状況を突破する。生き残るために必要なこと。 しかし彼もまた、分の悪い賭けをすることになる。 グラキエースは隣で彼を見つめていた。 人間でないモノ。人間の敵ですらあったメリオルエッセ。感情の欠けた人型のモノ。 しかし彼女はジョシュアを慈しみ、その悲しみを感じ、癒やそうとしていた。 そうなったのは、彼が分の悪い賭けをし、それに勝ったからだ。 宇[…]
太陽と月 SRWNovel

太陽と月

アポロン、ヘリオス、リュケイオス、アギュイエウス。 ギリアムの別の顔、もしくは半身の名前。 全てギリシア神話の太陽神に由来するのだと、あの決戦の後でヴィレッタは教わった。 「あなたには夜の闇を照らす月の方が似合うかもしれないわね」 くすり、と口角を上げる。 何の悪気もなく、ただ彼には闇と静寂が似合うという理由で。 「俺という月を照らしてくれる太陽はもういない……だから俺が太陽になるしかないんだ」 彼も笑っていた。 何もかも諦めて、笑うしかないというように。 彼もまた鎖に縛られているのだろう――イングラムとは違う形で。 ヴィレッタにはそれがわかってしまう。 そしてイングラムと重ねてしまうことを申[…]
黒服が似合う2人で SRWNovel

黒服が似合う2人で

俄に降りだした雨に動じることなく、ギリアムは鞄から折りたたみ傘を取り出した。 「流石準備がいいのね」 「いや、2人で入るには少し小さかった」 ヴィレッタの方に傘を傾けて、口元を歪める。 身を寄せるとそのままの距離を取ろうとじりじり動く。 「私に近寄られると嫌?」 「そんな訳がないだろう。ただ、ちょっと雨に濡れたい気分なだけだ」 「何それ。風邪引くわよ」 「『雨の日に傘をささずに踊ってもいい。自由とはそういうことだ』という格言があってな」 ギリアムの言葉に、傘を持った手と鞄を持った手を握る。 荷物が当たるのを恐れて、振りほどくことが出来ない。 「一曲、踊ってくださらない?」 「ここでか?」 「自[…]
春咲小紅 SRWNovel

春咲小紅

桜の季節であるらしい。 花見の話題がこの極東基地でもあちこちから聞こえる。 さぞ美しいのだろう。見てみたいものだ。 だが、花見と言って騒ぐのは好かない。 リュウセイやアヤが企画しているが、あまり乗り気でないのが正直なところだ。 一緒にいけば、楽しいに違いないのだが。 せめて、周りが騒がしくないところで出来ればいいのだが。 そんな時に、ギリアム少佐と廊下で会った。 軽く挨拶をしてすれ違おうとすると、彼は話をする気のようだ。 「ヴィレッタ、今週休めるか?」 「ええ、明後日は休みだけど……それが何か?」 何か思惑があるに違いない。 彼なら容易に人の休みを把握できるだろうから。 仕事の依頼かと思ったが[…]
新たな誓いと気付いた感情 SRWNovel

新たな誓いと気付いた感情

――君は、誰なんだ? ギリアムの夢に出てくるおぼろげな影。 わかるのは、それが女性であることと、彼女が悲しんでいること、そしてその影に恋をしていることだ。 顔も交わす言葉も知らない。それでも彼は恋慕の情を抱いていた。 理由や過程はない。ただ彼女に恋をするという結論があるだけだ。 予知という能力を持つ彼には、たまにそういうことが起きた。 結果が先にあり、そこから過程を導き出して、自らが起こす行動を決める。 そうして彼は予知を実現、或いは回避していた。 しかしこの事態は流石に未知のもの。 誰とも知らぬ相手にも関わらず、止められずに焦り、身を焦がすようなその感情を制御することが、彼には出来なかった。[…]
一人パニック・214 SRWNovel

一人パニック・214

ギリアムは他のことはいいかげんだが、人付き合いについてはマメな男だった。 普段世話になっている人間を漏らさずリストアップ、人数分のプレゼントを確保。 だが、今年のバレンタインデーは一味違う。 ――――わざわざ取り寄せた総天然原料で作る甘さ控えめココアクッキー……ヴィレッタは気に入るだろうか。 レーツェルの講義をみっちり受けたから大丈夫だろうとは思うけれども。 急に眩暈がしたのはオーブンを開いた時で、ようやく出来た原型を落とさないよう必死にならなければならなかった。 ――――――バレンタインの当日。 自分のプレゼントをヴィレッタが食べることはない。 暗い所に放り捨てられてしまう。 そして、自分は[…]
ゆっくりと、きらめいて SRWNovel

ゆっくりと、きらめいて

ふと窓の外に目をやると、闇の中雪はまだ降り続いていた。 ヴィレッタが作業を始めたときにはちらつく程度だったが今は本格的になって管制官を苦しめている。 ――――ギリアム少佐は待っているのだろうか。 夕方5時、公園の噴水前で。 時計を見ると約束の時間はとうに過ぎていた。 トラブルが起きてしまったこと、その対応に追われること自体はヴィレッタの責任ではない。 ただ、Dコンがこんな時に故障するなんて思いもしなかった。 別の方法で連絡を取るには、時間が足りなかった。 約束を無断で破ったのは辛い。 しかしそれ以上に白い沈黙の中独り守られない約束を信じて待つ彼の姿を想像すると。 ――諦めていてくれればいい。 […]
ベットOK? SRWNovel

ベットOK?

珍しく仕事の少ない時期。 極東基地の休憩室のひとつでコーヒーを飲みながら、ギリアムはため息をついていた。 「暇なのはわかるけど、ため息をつくと幸運が逃げるわよ」 頭に軽く書類を載せられた。 首と身体は固定したまま、視線だけを動かしてヴィレッタに答えた。 「君が迷信を口にするとは思わなかったな。それで何か用かい?」 「用っていう用じゃないけれど、あなたの暇を解消してあげようと思ってね……賭けを持ってきたのよ」 ――何か、企んでいるな。 ギリアムはヴィレッタの声の調子から直感的に、そして経験則として感じ取ったが、そのまま続きを促した。 「PTで私と三本勝負……あの時は直接戦闘はなかったから、実力差[…]
遭遇 SRWNovel

遭遇

外の様子は、耳にすることが出来る。 しかし、干渉することは許されない。 それは思ったよりも耐え難いことだ。 今は時を待つしかない。 過剰な期待は、していないけれども。 「面会だ!」 さて、何が出るだろうか? 「ヴィレッタ隊長、お久しぶりです!」 情報部、と聞いたときはまさかと思ったが、目の前にいるのは紛れもなくアヤ大尉だった。 投獄されてしまった私ほどではないが、アヤも行動にはかなりの制約を受けているはずだ。 SRX計画は上にとって不都合な点が多すぎる。 その為にチームは解散させられ、アヤは情報部に送られたのだから。 当然、私と面会するなど許されるはずがない。 そうなると。 アヤの背後の男性…[…]
意気地のない俺に SRWNovel

意気地のない俺に

壁の向こうからシャワーの音が聞こえてくる。 ――――何でこんなことに、いや、この状況をどうにかすることをまず―――――― わざわざ部屋まで仕事を手伝いに来てくれたヴィレッタに礼をしようと料理をしたところまではよかった。 しかし手元が狂ってソースをブチ撒けて彼女の服と髪を汚してしまった。 慌ててシャワーを浴びるように言って、汚れた上着を洗濯機に放り込んで床を拭いているところで己の発言のまずさに気付く。 男の部屋で女がシャワーを浴びる。ましてそれを命じたのだ。 この状況が何を意味しているのか知らないのならそのまま流せるのだが、生憎と知識も経験も積んできたわけで。 慌てていて忘れていたあの時ならとも[…]
ずっと願っている SRWNovel

ずっと願っている

廊下ですれ違っても一瞥するだけの君。 俺ではない誰かと談笑する君。 君に限らない。 この艦の中で俺が混じれる場所はない。 何故なら皆、俺を知らないから。 ――――息苦しさに目を覚ました。 夢。 そう、悪い夢。 現実――この世界がそう呼べるとしたら――では、違う。 少なくとも、ギリアムにとってはそうだった。 ――この部隊こそが俺の居場所。 そう断言できるほど居心地が良かった――情報部の面々には悪いと思っていたが。 しかしあの夢は過去に起こったかもしれない、或いはこれから起きるかもしれないこと。 それが予知能力者である彼の特性。 ――皆が、俺を、忘れる。 考えるだけで背筋が凍った。 考えていなかっ[…]
心のあたたかい人 SRWNovel

心のあたたかい人

日本の夏は蒸し暑い。 おまけに今2人がいる会議室は今しがた冷房を入れたばかりで、じりじりと汗がにじみ出る。 しかも彼女の隣にいる涼しい顔をした仕事相手の髪型はその暑さを増長させる。 ――バリカンか鋏はどこにあったかしら? しかし彼も内側では焦れていたようで、冷たい物を買ってくると言い出した。 「ちょっと待って少佐。私の分のお金……」 さっさと行こうとする彼の手を思わず掴み、2人の背筋が同時にびくりと震えた。 冷たい。 この夏日の蒸し暑い会議室にはまったく不似合いの冷えた指先。 ヴィレッタはしばらくその手を掴んだままだった。 「……ヴィレッタ?」 「少佐、病気? 冷え性?」 「生憎俺は健康そのも[…]
熱く未来を呼び覚ます SRWNovel

熱く未来を呼び覚ます

特殊戦技教導隊という実績はどこでも欲しいもの。 ブランシュタイン家の跡継ぎであるエルザムや叩き上げの実力者であるカイ少佐ほどではないが、教官や小隊長の口はいくらでもあった。 しかし俺は、その話を蹴った。 亡霊が怖くなって逃げたのだという中傷もあった。 彼らは全く根拠もなく――強いて言うなら自分の恐れを投影して言っているのだろうが――確かにその面がない訳ではない。 俺はどこに行っても“ゲシュペンスト”と巡り会う。 それもまた宿命というものなのだろう。 しかし俺はこの機体が好きだった。 一言で言えば、好き好んで呪われている。 だが俺には指揮官などの立場は向いていない。よくわかっている。 そして後続[…]
閃光と氷槍のお料理行進曲 SRWNovel

閃光と氷槍のお料理行進曲

「こんな……こんな料理が食えるか!」 メイシスが皿を叩きつけるように置いた。 「な……何と」 「てやんでえ、何しやがんだ! 食いモンには神様が宿ってんだぞ!」 レーツェルが珍しく狼狽している。 無理もない。絶対の自信があった彼の料理をこのように拒絶されたのだから。 「メイシス! レーツェルに謝るんだ!」 「嫌な物は……嫌なんです!」 アルティスに叱られ、食堂を駆け出して行ってしまった。 「信じられんな、こんな美味い食事を……フォルカ、食わんのなら俺が食うぞ」 「良く噛んで食べなくてはならないとショウコが言っていた。吸収が良くなるらしい」 フォルカの皿の上では白熱した攻防戦が繰り広げられていた。[…]
狂乱の堕天使 SRWNovel

狂乱の堕天使

ホワイトデー前日の補給とあって、買い出しに行く人間は後を絶たない。 ただ出入りが多くなるというのは、それだけ騒ぎが起きやすいということで―――― イングラムとギリアムはうめき声をあげ、自らの体制を立て直すより先に、荷物の中身を確かめた。 その結果、即座に立ち上がり相手を睨みつけることに。 「お前が不注意だから……!」 「貴様こそその予知能力は飾りか!?」 二人が差し出したのは出合い頭の衝突事故によって無惨に潰れたギフトボックス。 この状態では中身が無事で済むはずもない。 まだ時間はあるから買いなおせばいい話ではあるが、それで済むなら彼らの仕事はもう少し楽になるのである。 それでも相手が別の人間[…]
涙を拭いて SRWPict

涙を拭いて

13代目TOP絵のギリヴィレ。 っはーーーーーーーーっ! やっちまったい!!って感じです。 滅多に泣かないけど泣いた時にはお互い涙を拭きあえるそんな感じだと嬉しい。  […]
どこにも行かないで SRWPict

どこにも行かないで

OG2ギリヴィレイメージ。 途中のやりとりが辛かったです。 最終的にはハッピーエンドでひと安心。 回転版。 ギリアムさん的にはヴィレッタさん(と仲間)を想ってのことなんだよなぁ。 なお波多野は凄く発狂していました。  […]
お礼 SRWPict

お礼

3代目TOP絵、春仕様ギリヴィレさん。元々は小説の挿絵。 でも原文より遥かにやりたい放題。 しかしまるで百合のよーです。身長差なくなってるし。  […]
“希望”の大地にて SRWNovel

“希望”の大地にて

「ここはこのコロニーで一番大きな公園なんだ」 ヴィレッタは興味なさげに頷く。 実際、興味なんてない。 湖が綺麗だとか緑が豊かだとか言うけれども、結局、それは偽りにすぎないのだから。 「本社から、エルピスでちょっとした仕事をやってくれって」 そう言うとラーダは補給やら整備やらで手が離せないから、とすまなそうに頼んできた。 ヴィレッタとて仮にもマオ社社員。 彼女向きとは言いがたい、量だけは多い雑用の類だが、そういう仕事もしなければならない。 「でもちょっと場所がわかりにくいわね」 「そうね。一応地図はあるけれど…………あら、少佐。珍しいですね。私服なんて」 軽く挨拶をして二人の横を通りすぎた人影。[…]
雨の中で SRWPict

雨の中で

「希望の大地にて」挿絵。 身長差結構あると思うのですがどうなんだろう、と思っていたら後で公式発表されましたね。  […]
こんな日もあるさ SRWNovel

こんな日もあるさ

宇宙へ上がり、エクセレンも無事に取り戻したハガネ及びヒリュウ改の面々。 しばらく敵襲もなく、各員は自機の調子を整えつつ、訓練や趣味に勤しんでいた。 しかしそんな時間さえも混乱に奪われてしまうのは、戦士の宿命だろうか。 平和は、長くは続かない。 悲鳴とも怒号ともつかぬ叫びが、ヒリュウ改であがった。 オペレーターのユンは艦内の異常を手早く報告した。 「艦長、食堂で騒ぎが起きているようです」 「食堂!?」 食堂で騒ぎになるとしたらおかずが多いとか少ないとかの口論だが、今は食事時ではない。 何事だろうか。 ユンが映像を出そうとする間もなく、向こうからコールが入った。 「ど、どうすれば、どうすればいいん[…]
信じたい、だから SRWNovel

信じたい、だから

簡単な、ことだ。 実行するだけなら。 肝心なのは、その一歩を踏み出せるか否か。 踏み出すための、理由。 本当なら、黙っていられないから、で充分。 それで足りないなら、早く行かなければコーヒーが冷める……を付け足そう。 どこかで狂っている思考は、まだ迷いの靄がかかっている。 しかし、迷っている暇なんて、俺にはない。 「ヴィレッタ」 彼女が、振り向いた。 「コーヒーの一杯くらいは飲んでおいた方がいいのではないか?」 オペレーションSRWは現在艦隊戦の最中だった。 格納庫では来るべきフェイズ4に備え、急ピッチの作業が進められていた。 そして我々パイロットは、「急いで休め」と艦内待機を命じられていた。[…]
小隊長様ご無体を SRWNovel

小隊長様ご無体を

直前一週間ほどから、皆が妙に浮き足立つ、この日。 2月14日、バレンタインデー。 友情と愛情とロマンと社交儀礼が渦巻く乙女たちの祭日。 それが及ぼす利益は凄まじく、それを狙った企業の思惑により、 新西暦のこの世界では世界中、いや、宇宙であろうとも彼女たちはプレゼントを抱え奔走する。 そして男は、ある者はそれをひたすら待ちわび、ある者は冷めた目でみつめるのであった。 「わざわざ業界の策略に乗ることはないだろう」 「んもぅ、そんなこと言ってないの。ほらほら!」 そして、ここでももう一人―― 「レオナのプレゼントが貰えますように、レオナのプレゼントがもらえますように……」 タスクはひたすら囁き祈って[…]
Greensleeves SRWNovel

Greensleeves

夜が、更けてきた。 情報の整理は大体片がついたし、BGM代わりの音声データも大した事は入っていない。 そろそろ寝ようか、と思ったところでヴィレッタの思考が止まる。 そして慌てて一つのデータを再生しなおす。 聴き間違いではない。 何度も繰り返した。 「どういうことなの……?」 一緒にする仕事の時、大抵はギリアムが呼び出すのだが、その時呼び出したのはヴィレッタの方だった。 「ごめんなさい、少佐。どうしてもあなたの見解を聞きたくて……」 「構わないさ。それで、何について聞きたいんだ?」 「音声データよ。今、再生するわ」 『お前がイングラム・プリスケン少佐か……』 『……む? この男…………何者だ、貴[…]
若さのヒケツ SRWNovel

若さのヒケツ

「ほら、こんなのもあるぞ」 「これはまた懐かしいものを……」 談話室の隅で元教導隊の4人が何やらやっている。笑いあって、何かやたらと楽しそうだ。 「何やってるんですか、少佐たち?」 「おう、何、教導隊時代の写真をな」 談話室の他のメンバーも興味を持って集まってくる。 手から手に回される一枚の写真。揃いの軍服で肩を組んでいる6人組。中央の男性以外は皆見覚えがあった。 「わお、カイ少佐もボスもわっか~い!!」 「こうして見るとやっぱりライに似てるよなぁ」 「この人がカーウァイ大佐ですか?」 「なるほど……流石写真からでも何か風格が感じられるなぁ」 艦内は娯楽が少ない故であろうか。 どこから聞きつけ[…]
指揮官Lv0 SRWNovel

指揮官Lv0

「戦闘指揮官……ですか?」 「はい」 ブリッジに呼び出され出向いてみれば、パイロット総出でお出迎え。 そして戦闘指揮官への任命、である。 「元々当艦ではゼンガー少佐が務めていたのですが……」 「アサルト1はキョウスケが引き継いだんですけど、指揮官はそうもいかないでしょう?」 「自分は情報部からの出向なのですが……」 あまりにもお粗末過ぎる言い逃れ。 これで任を逃れられるとはギリアム本人も欠片たりとも思っていない。 「本来そうでも今はパイロットとして出向していただいておりますからなぁ」 「いつも先頭に立つのに何言ってんだか」 「教導隊の人っすよねぇ」 「階級、実績、共に問題ないわ」 「少佐なら大[…]
「お互い様」だから SRWNovel

「お互い様」だから

ようやく、長い戦いが終わった。 機体が運び出され、静まりかえったヒリュウ改の格納庫。 ギリアムとヴィレッタの二人を除いては誰もいない。 話すことは色々あった。 この戦争のこと。イングラムのこと――これからのこと。 「それから……あなたにお礼を言わせて」 「礼?」 「そうよ……」 言葉の内容より、その響きに疑問を持って問う。 意外なほどに、優しかったから。 ヴィレッタがささやく。 「あなたは、私を信じてくれたから」 ヴィレッタの微笑がすぐそこにある。 どういうわけだか、そうしなければいけない気がして。 視線を少しだけ外した後、ギリアムも微笑する。 「……それはお互い様、さ」 ネビーイーム。地球側[…]
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