風来のシレン

狂科学者監督伝説 Others

狂科学者監督伝説

ここにある村は、ひとつの事で苦しんでいた。 彼らは待ち望んでいた。 この状況を打破してくれる、救世主の存在を。 彼らにとって不幸だったのが、通りがかったのが困っている人を見過ごせぬ風来人ではなく、 破天荒で自己中心的な自称エレキ箱芸術家、バリバリだったことである。 双方がまだ理解していなかった。 村人は彼を救世主と思い総出で歓待したし、バリバリの方は自分の芸術を理解する人間が貢物をしてくれたのだと、完全に勘違いしていた。 「それで我輩はこのネコボーと共に旅に出たのだ! 一世一代のエレキ箱を完成させるために! 我輩の芸術を世界に広めるために! ハハハハハハハハハハ!!」 バリバリは、酔っていた。[…]
向かい風の中で Others

向かい風の中で

誘うだけ誘ったあとは、向かい風ばかり寄せてくる旅の神クロン。 早くこの村を出て行かなくてはならない。 その想いは焦燥を生むだけで、力に変わりはしない。 進むことも、戻ることも出来ない。 心は、荒んでいく。 「ちょっと気晴らしした方がいいンじゃねぇか、シレン?」 「煩いな、そんな暇ないよ……」 「その調子じゃダメに決まってらぁ。オイラの言うこと聞いてりゃ間違いはねぇって」 「何だよ、口だけ達者で、俺にばかり苦労させて……一人じゃなーんにもできねぇくせによ」 日常茶飯事である二人の口論も、どこか刺々しい。 結局はシレンが折れ、“気晴らし”をすることになった。 それを知ってげんなりしたのは、ヨシゾウ[…]
月の想い人 Others

月の想い人

「……ごめん、また戻されちゃった」 身を起こして、寝癖を適当に直して。 シレンさんは、すまなそうに笑う。 「ホンット情けねぇよなぁ、コイツ」 「るせぇ。そりゃ確かに今回は俺がしくじったせいだけど」 ふてくされるシレンさん、子供みたい。 かと思ったら、いきなりコッパちゃんにつかみかかった。 「けどなぁ、いっつも袋ん中で寝てやがるてめぇにだきゃ言われたくねぇ!」 「八つ当たりすんじゃねぇよこの馬鹿!!」 しばらく罵りあっていた二人が急にこちらを向いてきょとんとする。 私が、笑い出したから。 いつものことなんだけど、本気でやりあう二人がちょっと滑稽で可笑しくて……ついつい笑っちゃうの。 「ほれ見ろ、[…]
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