挿絵あり

普段は食べない人たちも SRWNovel

普段は食べない人たちも

今日はレーツェルが台所に立つということで、食堂は大賑わいだ。 少しピークタイムを外して行ったが、それでも人でごった返している。 「ヴィレッタ大尉、こっち開いてますよー!」 もっと時間をずらすべきだったか、という思考に割り込んできた声。 ――苛烈なクールビューティー。 実態は“意外と親しみやすい”と言われているが、それを知らぬ人間にはそう表される彼女に親しげに話しかける人間は限られている。 たとえば直属の部下であるSRXチーム、たとえば付き合いの長いラーダ、たとえば誰とでも打ち解けるエクセレン、たとえば―― 「…………すまない、あなたたちをコードネーム以外で呼ぶ術を知らないの」 「がぁっ!? 俺[…]
春咲小紅 SRWNovel

春咲小紅

桜の季節であるらしい。 花見の話題がこの極東基地でもあちこちから聞こえる。 さぞ美しいのだろう。見てみたいものだ。 だが、花見と言って騒ぐのは好かない。 リュウセイやアヤが企画しているが、あまり乗り気でないのが正直なところだ。 一緒にいけば、楽しいに違いないのだが。 せめて、周りが騒がしくないところで出来ればいいのだが。 そんな時に、ギリアム少佐と廊下で会った。 軽く挨拶をしてすれ違おうとすると、彼は話をする気のようだ。 「ヴィレッタ、今週休めるか?」 「ええ、明後日は休みだけど……それが何か?」 何か思惑があるに違いない。 彼なら容易に人の休みを把握できるだろうから。 仕事の依頼かと思ったが[…]
笑っても、いいですか? SRWNovel

笑っても、いいですか?

イングラムから託された使命を果たすために私が選んだ接触対象は、情報部のギリアム・イェーガー少佐だった。 マオ社経由で口を利いてもらってもいいが、イングラムが使ったルートでもあるし、別の後ろ盾が欲しかったのだ。 元々直接は関わっていないが、裏では――表でもマオ社の人間としてSRX計画に関わっている。 別に不自然ではないはずだ。 テストパイロットとしての実績はあるし、それ以外にも実力を示せと言われればすぐに出来る。問題はない。 経歴や戸籍は誤魔化しきれない部分があるが、この不安定な時勢ではそういったものはあまり意味を持たない。 ギリアム少佐自身、軍に入る前の経歴は不透明だ。 故にそこを突いてくるこ[…]
聖なる亡霊 SRWNovel

聖なる亡霊

クロガネと別れ、伊豆基地に帰還せんとするヒリュウ改。 そのデータ室でうとうとしていたギリアムの頬に、熱いカップが押し当てられた。 驚いて覚醒すると、それを行なっていたのはヴィレッタ。 「寝るなら個室にすることね……コーヒーと、携帯用食料」 「気が利くな。しかし特に栄養補給の必要は感じないのだが」 「消耗しているんでしょう? システムXNの仕組みは知らないからそれが原因かは知らないけれど」 「皆の力を借りたしそれほどでもないさ。SRXチームの心配をした方が懸命だ」 「私は隊長よ? そちらは既にフォロー済み」 「それは失礼。では、ありがたくいただくとするか」 笑ってそれを受け取る。 それを見たヴィ[…]
狂乱の堕天使 SRWNovel

狂乱の堕天使

ホワイトデー前日の補給とあって、買い出しに行く人間は後を絶たない。 ただ出入りが多くなるというのは、それだけ騒ぎが起きやすいということで―――― イングラムとギリアムはうめき声をあげ、自らの体制を立て直すより先に、荷物の中身を確かめた。 その結果、即座に立ち上がり相手を睨みつけることに。 「お前が不注意だから……!」 「貴様こそその予知能力は飾りか!?」 二人が差し出したのは出合い頭の衝突事故によって無惨に潰れたギフトボックス。 この状態では中身が無事で済むはずもない。 まだ時間はあるから買いなおせばいい話ではあるが、それで済むなら彼らの仕事はもう少し楽になるのである。 それでも相手が別の人間[…]
“希望”の大地にて SRWNovel

“希望”の大地にて

「ここはこのコロニーで一番大きな公園なんだ」 ヴィレッタは興味なさげに頷く。 実際、興味なんてない。 湖が綺麗だとか緑が豊かだとか言うけれども、結局、それは偽りにすぎないのだから。 「本社から、エルピスでちょっとした仕事をやってくれって」 そう言うとラーダは補給やら整備やらで手が離せないから、とすまなそうに頼んできた。 ヴィレッタとて仮にもマオ社社員。 彼女向きとは言いがたい、量だけは多い雑用の類だが、そういう仕事もしなければならない。 「でもちょっと場所がわかりにくいわね」 「そうね。一応地図はあるけれど…………あら、少佐。珍しいですね。私服なんて」 軽く挨拶をして二人の横を通りすぎた人影。[…]
こんな日もあるさ SRWNovel

こんな日もあるさ

宇宙へ上がり、エクセレンも無事に取り戻したハガネ及びヒリュウ改の面々。 しばらく敵襲もなく、各員は自機の調子を整えつつ、訓練や趣味に勤しんでいた。 しかしそんな時間さえも混乱に奪われてしまうのは、戦士の宿命だろうか。 平和は、長くは続かない。 悲鳴とも怒号ともつかぬ叫びが、ヒリュウ改であがった。 オペレーターのユンは艦内の異常を手早く報告した。 「艦長、食堂で騒ぎが起きているようです」 「食堂!?」 食堂で騒ぎになるとしたらおかずが多いとか少ないとかの口論だが、今は食事時ではない。 何事だろうか。 ユンが映像を出そうとする間もなく、向こうからコールが入った。 「ど、どうすれば、どうすればいいん[…]
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