ワンライ

温泉回再び SRWNovel

温泉回再び

キャプテン・ガリスの極秘情報から、LOTUSの彼らは特別任務につくことになった。 「って、ここ旅館なんだけど?」 「全く問題ありません! 今日の任務はゆっくり温泉に入って疲れを癒やすことです!」 歓声が湧き上がった。 「温泉というのは何ですか、渚」 「くすすっ。私は知っているよ、お姉様! もーっと気持ちよくなったお風呂だよ!」 「源泉掛け流しの上かなり広いみたいね……いいのかな、LOTUSの権限こんなことに使っちゃって」 そして一時間後。 正座で説教を受ける一鷹たちがいたのだった。 「つか俺は覗きに参加してないんスけど!? 甲児さんとか剣児さんたちはともかく!」 「ぼ、僕もです!」 「うるさい[…]
何度でも呼ぶ、君の名を SRWNovel

何度でも呼ぶ、君の名を

薄く目を開く。弱々しい人工光。 周囲を見渡して、彼は実験の失敗を認識した。 ここがどこかはわからないが、天にも大地があることから、少なくとも彼の目的地でないのは確かだった。 それを告げるが如く、サイレンと臨時の公共放送が流れ始めた。 『コロニー・エルピス市民の皆様、周辺宙域で地球連邦軍と統合宇宙軍の戦闘が始まりました。至急シェルターへの避難を。繰り返します……』 避難勧告の中、彼は動けずにいた。足も、思考も、動作を拒否している。 彼はほぼ全てを失ったが、残った予知能力は戦いがここから始まることを告げていた。 その時、誰かに名を呼ばれた気がした。 遥か昔に失った、そして今取り戻した名を。 ***[…]
愛の絆 SRWNovel

愛の絆

艦内にはいつも新しい花が飾られている。 ――――麗しい花たちを飾る別の花も必要なものですよ。 そう言ってショーン副長が消耗品の予算から割いているという噂がまことしやかに流れているが、その真偽は彼女たちにはわからなかった。 ただ、どの花を飾ろうかと話の花を咲かせるのも、楽しみのひとつではあった。 「アヤ、青い薔薇はないのか?」 「昔と違って今は結構出回っているけれど、ここにはないみたいね」 今日の担当はSRXチームの3人。 早々に職務を放棄したヴィレッタと知識全般が欠けているマイを見て人選ミスを疑ったアヤである。 「そうか。戦って死んだ敵には青い薔薇を手向けるものだというから」 「どこで聞いたの[…]
戦う理由 SRWNovel

戦う理由

「君にも君の仕事があるだろう? 俺は、大丈夫だから」 ギリアムの言葉で我に返った。 彼の準備を手伝っていたが元々荷物は少なくやることは少ない。 つい考え事をしてしまっていた。 鞄を受け取ろうと手を伸ばしている。 ため息のような微笑。 渡せばしばらく彼には会えなくなる。 ――――大丈夫なんてそれほど便利な言葉じゃないのよ。 視線を微かに逸らせながら鞄を手渡した。 青の亡霊が視界に入る。 この機体を受け取った時は嬉しかった。 彼女のために調達してくれたこの機体は彼にとって特別な意味を持つもののはずだから。 知識や腕が求められているだけでもよかった。 何でもいいから少しでも多くのことを為したかった。[…]
『自由』の使い方 SRWNovel

『自由』の使い方

「何をしに来た、この暇人が」 「自由戦士って言ってくれよメイシスお嬢ちゃん、もとい氷槍のメイシス様!」 剣を喉元に突きつけられ悲鳴を上げる。 修羅に模造刀などという文化はない。これは真剣だ。 そしてメイシスの心も、刃の如く。 「メイシス、そこまでにしてやれ」 「アルティス様が仰せなら」 渋々ながら剣を下ろしたメイシスを見て、調子に乗らずにはいられないのがこの男の信条。 「さっすがマイダーリンアルティス様!」 「やれ、メイシス」 「アルティス様の仰せのままに」 「いやいやいやいや! 冗談だから! つかアルティス! そのやれって絶対物騒な字書くだろ!」 「修羅にとっては日常的な字だが?」 「貴様ま[…]
今ここにいる幸運を SRWNovel

今ここにいる幸運を

アーニーがUXに保護された時、正体を隠していた頃のサヤから『らっきーだったナー』と言われたことがある。 命が助かったこと。異星人との連携を強める軍の方針を知ることが出来たこと。 その時は素直にサヤの言葉を受け入れる事ができた。 しかし、世界の在り方を知って疑問が出た。 幸運でも何でもなく、必然だったのではないか、と―― 何度も繰り返した世界。ジンが今のアーニーの位置にいた世界もあっただろう。 むしろこの親友2人はそういう風に仕組まれている。 片方がUXのような部隊に行き、サヤのような存在と出逢い、彼女を目覚めさせる。 この閉じられた世界がそれを脱却するために、蜘蛛の糸のように導かれてきた2人。[…]
枯れない花、されど散る花 SRWNovel

枯れない花、されど散る花

街を割る河に船が浮かぶ。 花火大会があるというので、アルティメット・クロスの面々の一部も純粋に観光に興じている。 「サヤ、行かなくていいのか?」 「リチャード少佐が見ていたドラマで花火大会がどういうものかは知っています」 「だが実物は見たことがないということだろう?」 彼らが戦場で聞くものとは全く違った、火薬の炸裂音。 命を消す爆炎とはまた違った、色彩溢れる『花』と呼ぶに相応しい流れる火。 「会場に行かなくても見られるではありませんか。実物はなお美しいですね」 「出店もあるから行った方が楽しめるだろうが、サヤは人混みは苦手かな?」 「ええ。少尉と……アーニーとはぐれたらと思うと不安です」 素直[…]
最後の戦い(ほぼ日課、10ターン経過) SRWNovel

最後の戦い(ほぼ日課、10ターン経過)

「もー! フェアリさんの課題難しすぎ!!」 机をバシバシ叩き、うめき声とも悲鳴とも取れる不平を漏らす。 彼女の名は赤月光珠。遊ぶのが大好きで勉強が苦手な極普通の女子高生である。 少し前までは地球を護るスーパーロボットのパイロットという一面もあったが、地球防衛組の面々と同様に平和な日常へと回帰した。 復興支援でその活動をすることもあるが、学業に支障が出ない範囲でという学校の要請と彼女の姉同然のフェアリの希望により、その回数は減りつつある。 「戦争をなくすなら受験戦争もなくせば良かったぁ。あ、でも大学潰すのはダメだよね。どうすれば良かったのかな……」 「相変わらず独り言が多いなお前は」 いつの間に[…]
政の方が得意そうな2人 SRWNovel

政の方が得意そうな2人

盆暮れ問わず仕事があるのが、軍隊というもの。 しかし今年は平和で、基地博ではアルトアイゼン・リーゼの展示が人気スポットとなり、兵士たちはオフに近隣の祭りを楽しむことが許されている。 「それで何故君が引率に? SRXチームの彼らも子供ではないだろうに」 夜空を彩った男性用の浴衣を着用したギリアムは、わたあめを味わいヴィレッタに問いかける。 長い髪も後ろで結っており、軍人らしさが感じられない。 それが彼の情報部としての偽装術なのかもしれないが。 「あなたは何故だと思う? 推理力に期待するわ」 一方のヴィレッタは橙色の浴衣を提灯に光らせ笑う。 思案する。わたあめを少しずつ口にしながら。 「まず、その[…]
波に浮かぶ恋心 SRWNovel

波に浮かぶ恋心

東京の海は、少し泳ぐには向かない。 環境問題が騒がれて旧西暦の時代よりは綺麗になったらしいとはいう。 しかし旅行でしか浅草を離れたことのないショウコにとって、海とはやはり東京の海だった。 「修羅界には海ってあったの?」 「あったぞ。海を縄張りにした奴らがいて、軽い気持ちで出たら痛い目に遭う」 少し予想とは違う、でもだいたい想像通りの答えに期待が膨らむ。 「今停泊している所のすぐそこにレーツェルさんのプライベートビーチがあるんだって。行ってみない?」 「そこに海の修羅……この世界で言うところの海賊はいないのか?」 「いるわけないでしょ。泳ぐかはともかく、見に行ってみようよ!」 半ば強引に連れ出す[…]
昼下がりのワーカホリック SRWNovel

昼下がりのワーカホリック

何もない、というのも困ったものだ。 軍人、特に彼――ギリアム・イェーガーにまわる仕事がないというのは平和の証であり、素晴らしいことではある。 部下である光次郎が昼食を要求してくれたのなら、今なら仕方のない奴だと連れて行くのに、粛々と雑務をこなしている。 普段からこの勤勉さを見せてくれればもっとありがたいのに、と手伝う旨を言えばたまには休んでいいですよとあまりありがたくない答えが来る始末で頭を抱えたくもなる。 ワーカーホリックというのはこういうものを言うのだろう。 彼の予知能力はしばらくの平和を告げており、これではシャドウミラーと同じだと己を戒めるも状況が改善されるはずもない。 「ギリアム少佐、[…]
涎下りのスーパー女子高生 SRWNovel

涎下りのスーパー女子高生

放課後は校門前で待ち合わせるのがジークとサリーと光珠の約束だ。 ただ、今日はサリーと光珠が来なかった。 2人は同じクラスなので、そこで何か問題があったのだろうとジークは校庭を引き返す。 「もう食べられないよおぉぉぉぉ」 「何そのベタな寝言!?」 そして教室に入った途端光珠のいつも以上にとぼけた声とサリーの呆れ声が届いた。 「あ、兄さん。ごめん、待ったんじゃない?」 「ああ。あまりにも来ないから迎えに来たらこのザマだ」 机に突っ伏して顔面だけ日当たりのよい南向きにしていることといい、 広げたノートにミミズが這っていたのはわずかな区間だけで残りは白紙であることといい、 少々とぼけた性格の普段の光珠[…]
愛哀傘 SRWNovel

愛哀傘

トン助を追い回す剣人やシローたち。 情勢を鑑みて敵襲がしばらくなさそうだということで、ウッソが見付けた花の綺麗な公園にブルー・スウェアのメンバーが休暇に訪れたのだ。 荒れ果てた地球でこのような場所は珍しい。 何故ウッソがそんなことに詳しいのかといえば、いつかカテジナを誘うために昔からデートスポットのデータ収集は怠らなかったのだという。 そのカテジナはザン・スカール軍の兵士になりいつ襲撃があるかわからないことを考えると、随分皮肉だ。 「……で、何であんな追っかけっこやっているワケ?」 ルーの問いにミカが微笑む。 「『花見と言えば酒だな』『バーベキューもいいんじゃないか?』とゲッターチームが言って[…]
恋人のいない夜 SRWNovel

恋人のいない夜

プレゼントは前日までに用意しておいた。 レオナやカーラに混じってレーツェルの講義を受けてまで手作りをする気にはなれなかった。 レーツェルはやたら世話焼きだからギリアム少佐の好きなお菓子のレシピを手ほどきしてくれるだろう。 だが、それでは駄目なのだ。 レーツェルに教わる限り、手作りに拘る限り、彼の料理を超えるのは不可能だ。 無論少佐なら「君が作ってくれたのが一番さ」と笑うだろう。 その笑顔を誰にでも振りまいているであろうことが、とても寂しい。 少し苦いチョコレートに、ネクタイを添えた。 それで彼を拘束出来る、なんておまじないをしなかった訳でもないけれども。 彼(と情報部の面々)がいつもいる小会議[…]
今願う、無限の地平 SRWNovel

今願う、無限の地平

誘ってきたのは、レモンからだった。 「男と女だもの。別に不自然でもないでしょう?」 おれは特に餓えていた訳でもないが、これで断ればレモンとの良き同僚としての関係すら崩れるというのは、それはそれで嫌だった。 険悪になり何の関係もなくなるよりは、恋人という関係になった方がマシ。 なりゆきと言うしかなかったが、考えてみればそう思えた時点でおれもレモンを愛しく想っていたのだろう。 レモンを抱いた時、ゴムはいらないと無理矢理制止された。 性に奔放な女なのかと思えば、前戯への反応は初々しいし、挿入時処女特有の感触があった。 「お前、何で……」 「子供が出来ない体質なの。でも抱いて欲しかった。あなたにだけは[…]
英雄の熱動 SRWNovel

英雄の熱動

夢を、見た。 『全ての世界の愚民どもよ!! 見ているか? 俺様はカイザーベリアルだ!! これからヒーローどもの処刑を執り行う!!』 高らかに宣言する者はどことなくあの世界の『ウルトラ族』に似ていたが、禍々しい負の力を感じる。 そしてその背後で磔にされているのは、三人とも良く知る、そう、良く知っている―― 「アムロ!!」 自分の声で目が覚めた。 これは予知夢なのだろうか。 そうだとしたら、あの世界にまた帰れる時が来るという―― 「馬鹿げている」 その可能性は自分で棄てた。 部下は相変わらずだし、久しぶりに会うジョシュア、リアナ、グラキエースも元気そうだった。 そして、彼女も。 「ギリアム少佐、お[…]
天衣夢包の愛逢道中 SRWNovel

天衣夢包の愛逢道中

月を、眺めていた。 神楽天原の『温泉』は疲れを癒してくれる上に月見酒、花見酒と洒落込めるので人気があるそうだ。 それを貸しきり出来る幸運に感謝する。 輝きながら彼女の宿命を嘲笑うようで憎らしくすら感じることもあったエンドレス・フロンティアの月だが、今はただその輝きすら愛おしい。 桜の花もだ。神楽天原の花は常に咲き常に散っていく。その儚さを神楽天原の者は愛でるという。だがその儚さを彼女の運命と重ね合わせてしまった。 今は、花を愛でる彼女を愛し、故に花も美しく思う。 「ハーケンさん、お背中流しましょうか?」 「おおっといけないな、プリンセス。旅のバウンティ・ハンターの俺をプリンセスがもてなすなんて[…]
最後の出撃 SRWNovel

最後の出撃

ゲシュペンストRV。 ギリアムにとって始まりの地であった世界にも、極めて近く限りなく遠いあの世界にも存在しなかった機体。 量産型を発展させたMk-II改と違い、ギリアムの専用機体としてPTX-001を徹底的に改造したものだ。 ――龍虎王のように機体と会話することが出来たら、彼(または彼女)は何を話すのだろう。 そんな思考実験をしてしまう。 普段ならありえないことと一蹴するが、ギリアムの“ゲシュペンスト”に対する思い入れが、その思考をむしろ面白いものと感じさせる。 「君はこんな姿にされて恨み事も言いたいかもしれないな」 元の曲線的なフォルムとは打って変わって直線で構成されたシルエットは、どことな[…]
『愛』を覚えるには未熟 SRWNovel

『愛』を覚えるには未熟

『俺は、闘う事しかできない不器用な男だ。だから、こんな風にしかいえない。俺は、お前が、お前が、お前が好きだっ!! お前が欲しいっ!!』 流麗な字で書かれたその文章を見て、ヴィレッタは己の好奇心を悔いた。 何故ギリアムが真顔で書いていた手帳に流派東方不敗の継承者の告白が記されているのか。 無論好奇心だけでなく彼に関する情報が手に入れば、と思っていたのだが。 万が一見られても大丈夫なようにか、その手帳には食事のメニューだとか――今日の昼食は日替りA定食だったらしい――あたりさわりのないことしか書かれていなかった。 昨日の謎の文章は『ダイヤモンドより君だ』だった。 『好きになっちゃったんだからあった[…]
『幸運』持ちではないけど『幸せ』ではある2人 SRWNovel

『幸運』持ちではないけど『幸せ』ではある2人

着任祝いに、とサングラスを贈られた。 「君も大尉だからな。これを掛けるのがお約束というものだ」 「どこのお約束なの?あなたが大尉の頃こういうものを掛けていたとか?」 「俺にはこれがあるからな」 己の前髪をかきあげて彼は笑う。少しだけ覗いた右目が表情に不似合いな強い眼光を放っていた。 彼女にはそれが少し恐ろしくもあり、彼にもその感情は伝わっていたようで、髪を元の様に垂らして笑みを強くする。 「これはなかなか便利だよ。視線を隠すことが出来る――余所見をしても平気だ」 「私には見つめていたい人なんていない」 「視線の先は生きている人間には限らないさ」 彼女は応えない。それが答えだ。彼は右目を隠したま[…]
彼らが”友”になったとき SRWNovel

彼らが”友”になったとき

グラスに伸ばしたゼンガーの手をギリアムが制止する。 「ゼンガー大尉、それは酒です」 「む?」 「エルザム大尉がすり替えていました」 睨みつけると笑ってその酒をギリアムに差し出す。 「よくぞ見抜いたギリアム! その慧眼に乾杯!」 「酔っているフリをしても無駄ですよ。あなたがここで一番酒に強いのは皆知っています」 テンペストが頷き、カイがため息をつく。 「ギリアム、残しておくとロクなことにならない」 カーウァイの一声に受け取った酒を煽る。 「……エルザム大尉、ゼンガー大尉を殺すおつもりですか?」 ギリアムが顔をしかめた。かなり強い酒だったらしい。 「ふふふ、止めたいのならお前が飲むことだな」 更に[…]
普段は食べない人たちも SRWNovel

普段は食べない人たちも

今日はレーツェルが台所に立つということで、食堂は大賑わいだ。 少しピークタイムを外して行ったが、それでも人でごった返している。 「ヴィレッタ大尉、こっち開いてますよー!」 もっと時間をずらすべきだったか、という思考に割り込んできた声。 ――苛烈なクールビューティー。 実態は“意外と親しみやすい”と言われているが、それを知らぬ人間にはそう表される彼女に親しげに話しかける人間は限られている。 たとえば直属の部下であるSRXチーム、たとえば付き合いの長いラーダ、たとえば誰とでも打ち解けるエクセレン、たとえば―― 「…………すまない、あなたたちをコードネーム以外で呼ぶ術を知らないの」 「がぁっ!? 俺[…]
女の世界 SRWNovel

女の世界

――たまに出撃のない時くらい、ルーを労ってやろう。 前の戦時中はプルとプルツーに時間を割かれ、ルーと心を通わす暇もなかった。 ルーがいつもいる談話室に行こうとすると、號に阻まれた。 「何だよ、號」 「俺は渓を守る」 「あんなおっかねぇ女を守ろうとしてるのはお前と剴くらいだよ!」 ルーも大概だけどな、と小声で付け加えつつも號を睨みつける。 「渓はいま『ぢょしかい』とやらをやっているらしい。男が近づいたら片っ端から追い返せとのことだ」 「な、何!? 女子会だと!?」 ジュドーよりも傍にいた他のメンバーの方が浮き足立っている。 女子会。男子禁制の秘密の花園。 コイバナ、スイーツ、男の格付け、“どうや[…]
星を映す門にて SRWNovel

星を映す門にて

分の悪い賭けは嫌いではない、とキョウスケはよく言う。 大一番での賭けに負けることはないと言い切っていいものの、周囲の皆がそう言い切るには抵抗があった。 ジョシュア・ラドクリフもそうだった。 彼の信条は“分の悪い賭けをするつもりはない”である。 確実に目の前の状況を突破する。生き残るために必要なこと。 しかし彼もまた、分の悪い賭けをすることになる。 グラキエースは隣で彼を見つめていた。 人間でないモノ。人間の敵ですらあったメリオルエッセ。感情の欠けた人型のモノ。 しかし彼女はジョシュアを慈しみ、その悲しみを感じ、癒やそうとしていた。 そうなったのは、彼が分の悪い賭けをし、それに勝ったからだ。 宇[…]
太陽と月 SRWNovel

太陽と月

アポロン、ヘリオス、リュケイオス、アギュイエウス。 ギリアムの別の顔、もしくは半身の名前。 全てギリシア神話の太陽神に由来するのだと、あの決戦の後でヴィレッタは教わった。 「あなたには夜の闇を照らす月の方が似合うかもしれないわね」 くすり、と口角を上げる。 何の悪気もなく、ただ彼には闇と静寂が似合うという理由で。 「俺という月を照らしてくれる太陽はもういない……だから俺が太陽になるしかないんだ」 彼も笑っていた。 何もかも諦めて、笑うしかないというように。 彼もまた鎖に縛られているのだろう――イングラムとは違う形で。 ヴィレッタにはそれがわかってしまう。 そしてイングラムと重ねてしまうことを申[…]
輪廻の庭 SRWNovel

輪廻の庭

荒れに荒れた庭に通され、ジンは唖然とした。 「ディラン博士、これは……」 「アユルにこの庭の世話を任せたの。あなたの傷が完治するにはまだ時間がかかるわ。それまで庭の手入れでもしてのんびりなさい」 アユルは俯いて赤面している。 彼女と知り合って間もないが、内気な少女だというのはよくわかる。 ただ、それでも細やかな女性であろうと思っていたので、庭の手入れ1つ出来ないというのは意外だ。 「娘の庭をよろしく、スペンサー大尉」 “娘”と比べて“の庭”の発声が弱かったように聞こえたのは、ジンの男としての性だろうか。 ディラン博士が立ち去り、アユルの赤面がますます強くなった。 「芸術的な庭だな。枯山水か?」[…]
黒服が似合う2人で SRWNovel

黒服が似合う2人で

俄に降りだした雨に動じることなく、ギリアムは鞄から折りたたみ傘を取り出した。 「流石準備がいいのね」 「いや、2人で入るには少し小さかった」 ヴィレッタの方に傘を傾けて、口元を歪める。 身を寄せるとそのままの距離を取ろうとじりじり動く。 「私に近寄られると嫌?」 「そんな訳がないだろう。ただ、ちょっと雨に濡れたい気分なだけだ」 「何それ。風邪引くわよ」 「『雨の日に傘をささずに踊ってもいい。自由とはそういうことだ』という格言があってな」 ギリアムの言葉に、傘を持った手と鞄を持った手を握る。 荷物が当たるのを恐れて、振りほどくことが出来ない。 「一曲、踊ってくださらない?」 「ここでか?」 「自[…]
テキストのコピーはできません。