お題

春咲小紅 SRWNovel

春咲小紅

桜の季節であるらしい。 花見の話題がこの極東基地でもあちこちから聞こえる。 さぞ美しいのだろう。見てみたいものだ。 だが、花見と言って騒ぐのは好かない。 リュウセイやアヤが企画しているが、あまり乗り気でないのが正直なところだ。 一緒にいけば、楽しいに違いないのだが。 せめて、周りが騒がしくないところで出来ればいいのだが。 そんな時に、ギリアム少佐と廊下で会った。 軽く挨拶をしてすれ違おうとすると、彼は話をする気のようだ。 「ヴィレッタ、今週休めるか?」 「ええ、明後日は休みだけど……それが何か?」 何か思惑があるに違いない。 彼なら容易に人の休みを把握できるだろうから。 仕事の依頼かと思ったが[…]
ホワイトデーの突撃狂 SRWNovel

ホワイトデーの突撃狂

「……やはりこれも失敗か! 忌々しい!!」 ギリアムは彼には珍しく、声を荒げていた。 珍妙なのは声の調子だけではない。 失敗をした、ということ。そして、エプロンをつけていること。 彼はため息をついて、テーブルに無造作に置かれた紙を摘み上げた。 紙にはクッキーの作り方、と書いてある。 彼はオフである今日3月13日に、半日近くずっとこれを見ながらクッキーを焼き続けていた。 エルザム直筆のレシピだけあって、料理については初心者マークのギリアムでも、それなりの物は作れるようになっている。 ただ、彼にとって不幸だったのは、本家のエルザムのクッキーの味を、彼がよく知っているということだった。 プロ級の腕前[…]
新たな誓いと気付いた感情 SRWNovel

新たな誓いと気付いた感情

――君は、誰なんだ? ギリアムの夢に出てくるおぼろげな影。 わかるのは、それが女性であることと、彼女が悲しんでいること、そしてその影に恋をしていることだ。 顔も交わす言葉も知らない。それでも彼は恋慕の情を抱いていた。 理由や過程はない。ただ彼女に恋をするという結論があるだけだ。 予知という能力を持つ彼には、たまにそういうことが起きた。 結果が先にあり、そこから過程を導き出して、自らが起こす行動を決める。 そうして彼は予知を実現、或いは回避していた。 しかしこの事態は流石に未知のもの。 誰とも知らぬ相手にも関わらず、止められずに焦り、身を焦がすようなその感情を制御することが、彼には出来なかった。[…]
笑っても、いいですか? SRWNovel

笑っても、いいですか?

イングラムから託された使命を果たすために私が選んだ接触対象は、情報部のギリアム・イェーガー少佐だった。 マオ社経由で口を利いてもらってもいいが、イングラムが使ったルートでもあるし、別の後ろ盾が欲しかったのだ。 元々直接は関わっていないが、裏では――表でもマオ社の人間としてSRX計画に関わっている。 別に不自然ではないはずだ。 テストパイロットとしての実績はあるし、それ以外にも実力を示せと言われればすぐに出来る。問題はない。 経歴や戸籍は誤魔化しきれない部分があるが、この不安定な時勢ではそういったものはあまり意味を持たない。 ギリアム少佐自身、軍に入る前の経歴は不透明だ。 故にそこを突いてくるこ[…]
一人パニック・214 SRWNovel

一人パニック・214

ギリアムは他のことはいいかげんだが、人付き合いについてはマメな男だった。 普段世話になっている人間を漏らさずリストアップ、人数分のプレゼントを確保。 だが、今年のバレンタインデーは一味違う。 ――――わざわざ取り寄せた総天然原料で作る甘さ控えめココアクッキー……ヴィレッタは気に入るだろうか。 レーツェルの講義をみっちり受けたから大丈夫だろうとは思うけれども。 急に眩暈がしたのはオーブンを開いた時で、ようやく出来た原型を落とさないよう必死にならなければならなかった。 ――――――バレンタインの当日。 自分のプレゼントをヴィレッタが食べることはない。 暗い所に放り捨てられてしまう。 そして、自分は[…]
ゆっくりと、きらめいて SRWNovel

ゆっくりと、きらめいて

ふと窓の外に目をやると、闇の中雪はまだ降り続いていた。 ヴィレッタが作業を始めたときにはちらつく程度だったが今は本格的になって管制官を苦しめている。 ――――ギリアム少佐は待っているのだろうか。 夕方5時、公園の噴水前で。 時計を見ると約束の時間はとうに過ぎていた。 トラブルが起きてしまったこと、その対応に追われること自体はヴィレッタの責任ではない。 ただ、Dコンがこんな時に故障するなんて思いもしなかった。 別の方法で連絡を取るには、時間が足りなかった。 約束を無断で破ったのは辛い。 しかしそれ以上に白い沈黙の中独り守られない約束を信じて待つ彼の姿を想像すると。 ――諦めていてくれればいい。 […]
ベットOK? SRWNovel

ベットOK?

珍しく仕事の少ない時期。 極東基地の休憩室のひとつでコーヒーを飲みながら、ギリアムはため息をついていた。 「暇なのはわかるけど、ため息をつくと幸運が逃げるわよ」 頭に軽く書類を載せられた。 首と身体は固定したまま、視線だけを動かしてヴィレッタに答えた。 「君が迷信を口にするとは思わなかったな。それで何か用かい?」 「用っていう用じゃないけれど、あなたの暇を解消してあげようと思ってね……賭けを持ってきたのよ」 ――何か、企んでいるな。 ギリアムはヴィレッタの声の調子から直感的に、そして経験則として感じ取ったが、そのまま続きを促した。 「PTで私と三本勝負……あの時は直接戦闘はなかったから、実力差[…]
ChristmasGift SRWNovel

ChristmasGift

 CC097年12月 白い雪にイルミネーションが映える。 クリスマスを目前にして、街は下準備をするサンタクロースで溢れかえっている。 研修中のゼウスの面々にも街の熱気が伝わってきていた。 「もうすぐクリスマスか……なぁ」 「パーティーをやっている余裕はないぞ」 光太郎の舌にダンが釘を刺す。 「まだ何も言ってねぇじゃんかよー。あれか? ウルトラ族の特殊能力か?」 「そんなものがなくてもわかる」 「光太郎さん、わかりやすいですからね」 アムロとダンから攻撃を受け不貞腐れた光太郎はギリアムに助けを求める。 出会って1週間の彼らだが既にこの流れは確立されたものだ。 「ギリアム、お前だってパーティーやり[…]
遭遇 SRWNovel

遭遇

外の様子は、耳にすることが出来る。 しかし、干渉することは許されない。 それは思ったよりも耐え難いことだ。 今は時を待つしかない。 過剰な期待は、していないけれども。 「面会だ!」 さて、何が出るだろうか? 「ヴィレッタ隊長、お久しぶりです!」 情報部、と聞いたときはまさかと思ったが、目の前にいるのは紛れもなくアヤ大尉だった。 投獄されてしまった私ほどではないが、アヤも行動にはかなりの制約を受けているはずだ。 SRX計画は上にとって不都合な点が多すぎる。 その為にチームは解散させられ、アヤは情報部に送られたのだから。 当然、私と面会するなど許されるはずがない。 そうなると。 アヤの背後の男性…[…]
意気地のない俺に SRWNovel

意気地のない俺に

壁の向こうからシャワーの音が聞こえてくる。 ――――何でこんなことに、いや、この状況をどうにかすることをまず―――――― わざわざ部屋まで仕事を手伝いに来てくれたヴィレッタに礼をしようと料理をしたところまではよかった。 しかし手元が狂ってソースをブチ撒けて彼女の服と髪を汚してしまった。 慌ててシャワーを浴びるように言って、汚れた上着を洗濯機に放り込んで床を拭いているところで己の発言のまずさに気付く。 男の部屋で女がシャワーを浴びる。ましてそれを命じたのだ。 この状況が何を意味しているのか知らないのならそのまま流せるのだが、生憎と知識も経験も積んできたわけで。 慌てていて忘れていたあの時ならとも[…]
ずっと願っている SRWNovel

ずっと願っている

廊下ですれ違っても一瞥するだけの君。 俺ではない誰かと談笑する君。 君に限らない。 この艦の中で俺が混じれる場所はない。 何故なら皆、俺を知らないから。 ――――息苦しさに目を覚ました。 夢。 そう、悪い夢。 現実――この世界がそう呼べるとしたら――では、違う。 少なくとも、ギリアムにとってはそうだった。 ――この部隊こそが俺の居場所。 そう断言できるほど居心地が良かった――情報部の面々には悪いと思っていたが。 しかしあの夢は過去に起こったかもしれない、或いはこれから起きるかもしれないこと。 それが予知能力者である彼の特性。 ――皆が、俺を、忘れる。 考えるだけで背筋が凍った。 考えていなかっ[…]
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