愛しています、心から
ヴィレッタと共にいる時のギリアムは楽しそうだ。
お互いの仕事の手伝い。演習相手。たまの買い物と食事。
無愛想もいい所の彼の口元が微かに緩み、目つきが優しくなる。
恋人同士だという噂は既にほぼ確定の情報として出回っている。
そんな噂に、ヴィレッタは悪い気はしなかった。本人も、そうだと思っていたから。
少なくとも彼女自身は、彼に恋愛感情を持って接していたから。
――――しかし、不安でもあった。
キスなどの事実はないし、好きだとかいう類の言葉を彼から聞いたことはない。
抱きしめてもらったことならある――――どうしても泣きたくて仕方がなかった時、胸を貸してくれた。
決して嫌われてはいない。嫌いな相手を何度も誘って楽しそうに振舞うなど彼には無理だ。
だから好意はある――――だがそれは恋愛感情なのだろうか?
書類の整理が一段落ついて、彼は昼食でも一緒に食べようか、と誘った。勿論俺の奢りだ、と。
その時、思い切って聞いてみた。
「ねえ、少佐は私のことをどう思っているの?」
真直ぐな彼女の瞳に対し、彼のそれは動揺に揺れていた――さしもの彼も予測出来なかったようだった。
いつもは全てを見透かすような美しくも少し恐ろしさを感じる眼が、面白いように泳ぐ。
「……聡明な君になら今までの行動及び態度で伝わっていると思うのだが?」
「あなたの声で、私の耳に届くように言って欲しい」
「…………大切な人さ」
その表情を見れば彼がこれだけの台詞を発するのにどれだけの決心が必要だったかわかる。
彼はこういうことを言うのは苦手だ。
客観的な事実に対しては雄弁だが自らのことについては寡黙。それがギリアムだった。
だが、ヴィレッタにとっては少し不服であった。
「それって、他の皆もそうでしょう?」
「……そうだな」
「その中で優劣をつけろなんて無理でしょうし言わないけれど……私だけに当てはまる言葉はないの?」
ギリアムは自他を問わず感情理解が苦手だが、流石にわかった。
ヴィレッタがどういう言葉を期待しているのか。
「……すまない。俺には、言えない…………」
そしてギリアムはヴィレッタに背を向けた。
「そう……ごめんなさい、こんなことを聞いて」
ヴィレッタはデータ室から出て、しばらく佇んだまま溜息をついた。
――――彼は言葉を濁したが、つまりはそういうことだ。
何故あんなことを聞いてしまったのだろう。
彼に何を期待していたのだろう。
気付くべきだった――いや、気付いていたが認めたくなかっただけかもしれない。
彼にとっての自分は、共にいると楽しく有意義な時間を過ごせる――未練がましく期待を込めるなら、親友だった。
そしてそれで良かったはずだった。
本当に、楽しかったから。
彼といると自分が変わっていき、そして世界も変わって見えたから。
だが、それも終わり。
きっと以前のようには接してくれないだろうし、接することは出来ない。
「楽しい夢をありがとう、ギリアム少佐」
これからは、ただの仲間。
それでも彼は私を信じてくれるだろうし、私も彼を信じる。
そうして、ずっと共に戦っていけたらいい。
――――最悪の回答だな。
期待している言葉でなくとも、何らかの明確な言葉であれば彼女は納得してくれただろう。
たが俺は、言葉を濁した。
自分が傷つきたくないがために、彼女を傷つけた。
彼女に限らず、仲間に対してはこれ以上の嘘はつきたくなかった。
何のためにもならない、自己満足だけのルール。
嘘を言わなくとも、肝心の事も言わなければ欺いているのに変わりはないのだから。
――だからと言って、本当のことを言えるはずもない。
愛しているなどと、何故言える?
推測通りなら、彼女が望むのはその言葉。
だが、彼女の望む結末は決して得られないだろう。
俺は罪人であり彷徨い人――人を幸せになどできない。愛という感情を持つ資格すらない。
俺が辿る末路は決まっている――――特に、彼ららしき者達が現れたらしい今となっては。
その時彼女の持つ感情は、痛みにしかならないだろう。しかも、今以上の。
やはり冷淡になるべきだった。成すべき事だけを成していれば良かった。
そして誰にも何の感情も持たれないのが理想のはずだった。
――俺は、ギリアム・イェーガーになるべきではなかった。
ただ、こうなったからには、ギリアムとして得た想いにより、大切な者達のために戦い、そして――――
――――願わくば、彼らがその時には俺に失望し、これ以上の痛みを感じることのないように。
日記からの加筆修正。OG2直前のギリヴィレ。
OG2(特にGBA版ファイナルコード)のすれ違いっぷりがたまらないので、ひたすらそれを目指してみました。
想いも願いも届いていない、我ながら後味が悪い話になりました。いや、それが目標なんだから正しいけど。