星を映す門にて
分の悪い賭けは嫌いではない、とキョウスケはよく言う。
大一番での賭けに負けることはないと言い切っていいものの、周囲の皆がそう言い切るには抵抗があった。
ジョシュア・ラドクリフもそうだった。
彼の信条は“分の悪い賭けをするつもりはない”である。
確実に目の前の状況を突破する。生き残るために必要なこと。
しかし彼もまた、分の悪い賭けをすることになる。
グラキエースは隣で彼を見つめていた。
人間でないモノ。人間の敵ですらあったメリオルエッセ。感情の欠けた人型のモノ。
しかし彼女はジョシュアを慈しみ、その悲しみを感じ、癒やそうとしていた。
そうなったのは、彼が分の悪い賭けをし、それに勝ったからだ。
宇宙に、クリスとウェンが消えた“門”がある。
星の煌きを背景として、クロスゲートは自ら発する光とともに星を映し続ける。
だがこの星のどこにも彼らはいない。
リアナが泣いていた。
ジョシュアもいつの間にか泣いていた。
共感を引き起こしたのか、グラキエースも泣いていた。
ペルフェクティオを、ガンエデンを、ユーゼスを倒し、世界はまた輝いた。
この輝く世界と星々に彼らがいないのが悲しくて、嗚咽し水滴に星を映した。
「分の悪い賭けをするつもりはない……」
確認するように呟く。
分の悪い賭け。
即ち、この門を通れば、自分たちも彼らのいる場所に行くことが出来るかもしれないという希望。
何故かクロスゲートに詳しいギリアムは、その可能性を否定しなかった。
「俺は、その希望に縋り続けた。いつか俺がいた世界に渡ることが出来るかもしれないと」
その結果、彼は異邦人になり、シャドウミラーを、混沌を呼び込んだ。
「クロスゲートを見ていると、映るんだよ」
「何がですか?」
「おや、君たちはまだ見ていないのかな……なら安心だ。君たちは本気で“向こう側”に行こうとは思っていない」
貶しているようにも見えるが、ギリアムの目は優しい。
「信じているんだろう? 彼らが、いつかこちら側に戻ってくる、と」
「……それも分の悪い賭けですが」
否定はしなかった。
信じている。そしてそれ以上に、わかる。
ギリアムのように未来を視る力があるわけではないが、クリス特有のふわふわした笑顔がまた見られることを、疑ってはいない。
それでも、悲しかった。
未来はどうあれ、今は彼らはいないのだから。
「……ギリアム少佐はクロスゲートに何か見えるんですか」
感情を誤魔化してへし折られた会話を修復する。
「色々なモノが見える。過去の記憶、未来への願望、在り得た現在」
「門の向こう側にはそれがあるんでしょうか?」
「あるかもしれない」
目を細め、しかし眉尻を下げて、彼は呟く。
「辿り着けるかは別として、な。俺は選んだ。この世界にいることを。この世界が、駆け続けた俺の終着点だ」
「俺にはまだわかりませんが……クリスとウェンが帰ってきて安心するような、輝いた世界にしたいですね。この世界を」
微笑みあった。
今日もクロスゲートは淡く輝いている。
そこに映るものが何かは見つめる本人しか知り得ない。
そして、そこから何が現れるか、この世界の者にはまだ知る由がなかった。
第19回フリーワンライ、お題は「渡る」「かける」「世界は輝いた」「星と嗚咽」の4つを使用。
このワンライは毎回5つのお題から自由選択(1~5個、組み合わせも数も自由)なのですが入らなかったお題は「グリム童話」でした。
「かける」は変換自由ということなので何種類か使っています。
しっかしホントジョッシュたちがギリアムと行動するとはなぁ。