謎多き情報部

バーニングPTの世界へようこそ!
私は進行役のサイカ・シナガワです。
この軍服ですか? コスプレです。
実在のエースのデータを再現したバーニングPTの新しい展開。
その雰囲気を出すためには大事ですよね。

……などなど嘘ばかり並べてしまった私。
地球連邦軍情報部所属、サイカ・シナガワ少尉。
コスプレではないし任務の一貫です。

新西暦186年2月に日本で稼働を開始したロボット操縦対戦アクション式のアーケードゲーム『バーニングPT』はまたたく間に流行しました。
Dコンのアプリと連携して事前に機体のカスタマイズが出来ます。
コックピットは複雑ですが、それだけに『リアル』で上達が楽しいです。
非常に優秀な成績を収めれば無料で出来ます。頑張って下さい。

――とにかく怪しいですね。誰か疑問に思わなかったんでしょうか。
『リアル』じゃなくて『かなり本物』なんです。
優秀なパイロットを民間から見いだす、という軍としてどうかという事業です。
確かに人型機動兵器という概念は当時斬新で、戦車や戦闘機に慣れた熟練のパイロットには逆に難しいです。
鋼龍戦隊のリュウセイ少尉もリョウト少尉も、バーニングPTの有名プレイヤーだったせいで無理矢理軍人にさせられてしまいました。
結果として活躍を見せているのですが、人道的にどうかと思います。
私の尊敬するマオ社所属の機動兵器の開発者、ロバート博士がかなりのゲーマーで、影でゲーム開発活動をやっていたことを生かした、というのはわかります。
ですがその才覚を見いだしてこんな徴兵システムを作ってしまった軍の偉い人がいたはずです。
少し調べたのですが関係者が多すぎて明確な責任者はわからないです。軍の偉い人は謎に満ちています。

私の直属の上官であるギリアム少佐は軍の偉い人ですが、とてもいい人です。
そんな酷いことをする人ではないです。
年齢の割に凄すぎるキャリアとか、元特殊戦技教導隊の紛れもないエースパイロットで凄い人で、謎ばかりですが優しい人です。
ギリアム少佐は情報部の責任者の一人ですが、少し不器用な人です。
全ての任務を見ている訳ではないですが、多分ハニトラは出来ないですね。
旧特殊戦技教導隊解散後、ジェイコブ中将がスカウトした時は皆戸惑ったらしいです。
様々な実績はあれど生きながらにして軍史に名を残したテストパイロットである少佐が、いきなり情報部の責任者ですから。
ですがすぐに諜報員としても優秀で指揮も的確、ということがわかったので慕われています。
ただ純粋に諜報員としてそこまで行けたかというと、優秀な上に利益では動かないので煙たがられるし、話芸が苦手そうなイメージがあります。
命の恩人なのでそう思ってしまうのかもしれませんが。
そしてその名前を出せば『情報部の調査任務の一貫で改装中の試作機を使う』という許可が取れてしまいます。
鋼龍戦隊に行く時ならわかるのですが、その権限で『ハッキングされた機密情報を流用しているけれど、ただのスパムメール』の捜査にゲシュペンストを持ち出してしまいました。
このスパムメールにお金を振り込んでしまった人たちが謎の撲殺死を遂げていた、とか。
他でもないスパムメールの発信者である私が狙われていて、少佐がゲシュペンストを持ち出さなかったら同じことになっていた、とか。
ストレス解消になるし、お金が結構入って来るのが楽しくてやめられなかっただけなのに、そんなことになってしまったかもしれないことが凄く怖かったです。
そしてそれを『嫌な予感』だけで用意してしまったあたりが謎に満ちています。

そのギリアム少佐が、私のハッカーとしての才能を見いだしてスカウトしてくれました。
戸惑いましたが嬉しかったし、助けてくれたお礼をしたかったので受け入れました。
何かを作りたくて大学院まで行っても就職出来ず、妥協で入った会社ではお茶組みばかりさせられて図面を引けなかった、ただの使い走りの事務員だった私がいきなり軍人です。
士官学校を卒業すれば少尉から始まるのですが、現場で頑張り続けている伍長さんや軍曹さんには、ぽっと出の私がいきなり少尉とか面白くないでしょう。
なのでかなり緊張していました。

ですが結構やれてしまいました。
ハッキングを含めた情報収集だけならともかく、嘘と偏見だらけのバーニングPTの進行役という任務も出来てしまいました。
確かに私は「凄いものを作りたい」って思う自分を隠して、地味で何も出来ないお茶汲みをやっていたので、隠し事は得意です。
努力の矛先を間違えただけだったのかもしれません。意外と適職です。開発の夢は諦められないですが、それは影で。
でも今ではバーニングPTによるパイロットのスカウトは行われていないです。
そして民間人が本物を使って残した戦闘データはネットワークに残るので参考にはなるのですが、私はそれ以外の理由を知っています。
ヴィレッタ大尉と仲良くして欲しい、もしくはヴィレッタ大尉のことが知りたい、というところです。多分。

ヴィレッタ大尉。SRXチームの隊長。
工作員としても優秀でギリアム少佐もかなり協力を求めています。
元々はマオ社のテストパイロットです。図面も引けて何より美人です。こういう女性に憧れます。
バーニングPTの進行役として集めたデータはヴィレッタ大尉にも提出します。
SRX計画もバーニングPTに関わっているので必然性もわかります。
諜報員のイロハも教わることが出来て嬉しいです。
ですが、それだけではない気がします。女の勘という奴なので、ギリアム少佐の勘ほどは働かないですが。

そんなわけで報告と相談を行っている時に聞いてみました。
「ヴィレッタ大尉は凄いですね。絶対情報部向きだと思います」
「そうね。L5戦役が終わった時にギリアム少佐にスカウトされたわ。断ってしまったけど気持ちは嬉しかったから今も協力している」
「SRXチームの隊長になる前ですね。R-GUNのテストパイロットでしたけどそこまでする必要があったのですか?」
「……そうしたかったからよ」
今でも後ろめたいのですね。
ギリアム少佐も何だか時々憂う表情をしていますが、それとは何だか違う気がします。
「いいですね。ギリアム少佐は絶対ヴィレッタ大尉のことそういう意味で好きですよ」
「サイカはそうなの?」
「常識外れすぎてそういう発想が出ないですね。もうちょっと普通の恋がしたいです」
今まで色々あって報われつつ、これはまだうまく行きませんが、それだけは断言出来ます。
美形で伝説のエースで20代独身高給取り、ということでそういう人気は高いのですが、キャリアの凄さが実際の人柄と結びつかないです。
「そういうことなのでご安心下さい」
「勝手に決められても困るのだけれど……わからないわね、そういうものなのか」
ヴィレッタ大尉は凄い人なのにやはり謎が多いです。
何故わからないのでしょうか。
「ギリアム少佐にとってもそうよ。パイロット同士で諜報員同士でかなりの似た者同士。それで女性、ってだけよ」
なかなかエグいこと言いますね、この人。
DC戦争から一緒ですし、鋼龍戦隊の中で付き合いやすい相手なのはわかります。
確かに男の友情というのは『語らずとも心でわかる!』という奴なので今更でしょう。
ですがヴィレッタ大尉はわかっていないです。
優秀なのはわかります。美人だし優しいし凄い人です。情報部内でも慕われています。
――そもそも情報部所属でないヴィレッタ大尉が普通に慕われています。
私はギリアム少佐直属の5人チームの紅一点なのですが、ハガネにもヒリュウにもクロガネにも直接乗り込んだことのない人にまで、ヴィレッタ大尉は慕われています。
この事実は機密事項なので言えませんが、わからないものなのでしょうか。
そしてヴィレッタ大尉は優秀なので頼りたくなるのもわかるのですが、多分頼らなくても何とかなります。
スパムメール事件の時に使用されたネットワームはヴィレッタ大尉のお手製だったらしいです。
なかなかのセンスでした。事実が判明したこと以上に怖かったです。
マオ社時代に社内のお遊びで作ったジョークプログラムの流用らしいです――ジョークで作ったものを頼っています。
ギリアム少佐はプログラムも得意です。
私は見たことがないし、そもそもネットワークから隔離された端末の場所に単独潜入して専用Dコンを挿入、というギリアム少佐にしか出来ない任務のひとつなので見るはずもないですが『あらゆるセキュリティを無効化するコマンドプログラム』があるらしいです。
噂でしかないですが、他のキャリアに比べれば常識的です。
隔離されているだけに守りも薄いですし、私にも作れそうですが使用することはありませんね。
そしてPTのOSだとかモーションを好きに出来る少佐が、ジョークで作ったネットワーム程度作れないはずもなく。
確かにあの台詞は少佐にはないセンスですが、発想そのものはわかるので私もつい正体をバラしてしまった、と。
他に頼っているアレコレも、ギリアム少佐本人が出来なくても情報部の誰かしらが出来ます。
優秀な諜報員で指揮官のギリアム少佐がわかっていないはずがありません。
本当はパイロットをやりたい人ですし、人付き合いが好きなので話がしたいのはわかります。
肩書きとキャリアが邪魔をして、対等に話せる相手はあまりいませんし。
実際に同じくらいやりとりしているのが、カイ少佐です。
特殊戦技教導隊の同士でゲシュペンストを愛してやまない男の友情ですが、今の特殊戦技教導隊のために技術の出所を調べて、現場の感想を聞いて、という協力関係です。
確かにSRXチームの手伝いに行くこともあるのですが、少佐はヴィレッタ大尉を頼りすぎだし、そもそも人を頼るのが苦手です。
ワーカーホリックです。頼りにされる、というのはとても嬉しいことなのですが。

何なのでしょうか。
ギリアム少佐とヴィレッタ大尉は裏でアレコレやっていてとぼけているのでしょうか。
情報部の先達の皆様は知っているのではないでしょうか。
ですがこれは2人だけの機密事項、ですね。

「どうしたの、サイカ。考えごと? 私で良かったら聞くわよ。男所帯で大変でしょうし」
「そうですね……」
考え事をしすぎました。どう誤魔化しましょう。
「ヴィレッタ大尉ならご存知だと思いますが、バーニングPTを承認した軍の責任者の人って誰なんですか? 必然性はわかりますが形式だけでも同意を得ない徴兵はどうかと思うのですが」
「………………」
あれ。何でしょうかこの沈黙。
時々やってしまうんですよね、ギリアム少佐に対しても。
ギリシャ神話は最高だし、少佐はロマンチストだからわかるはずなのですが、時々渋い顔をします。
「あれは明確な責任者はいないわ。誰も悪くなかった。確かに人道には反しているけれど」
何でしょうか、さっきの沈黙。

民間人から軍人になったばかりの私には軍はかなり謎が多く、ギリアム少佐とヴィレッタ大尉は特に謎ですが、それでいいのかもしれません。
スパイは謎だからスパイなのです。
私も謎の女スパイらしくバーニングPTの進行役をやりとげます。

 

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情報部ネタのギリヴィレです。
今まで賑やかし要員でしか書いてなかったサイカちゃんを、ハッカーさんの「無意識に古傷をエグる」と「バーニングPTのお姉さん」全開で書いてみました。
こうやって見返すとIBのサイカちゃんの台詞はかなりハッカーさん節ですね。
そしてやはり八房先生の情報部はツッコミ所しかないです。クロニクルのはともかくRoAでも黒服です。
公式になりましたしジェイコブ中将というやりそうな上司も出ました。情報部尊い
まあでもクロニクルのギリヴィレは最高だと思います。表情が良すぎる!

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