『信頼』持ちではないけど信じ合う2人
「少佐ー、いつまでこの張り込み続けるんですかー? もう疲れましたー」
「何だ、だらしがないな、光次郎。サイカはまだ我慢しているぞ」
偽装用トラックで情報部の5人は外を警戒しつつゆったりとした時間を過ごしていた。
「もう、光次郎先輩ったら。でも流石に無為な時間を過ごしすぎた気がしますね。光次郎先輩と一緒にお弁当買ってきましょうか?」
雨の中待機して数時間が経つ。朝の出勤ラッシュから昼下がりのショートタイム勤務の終わりまで、位置は移動しつつもずっとこの現場を張り込んでいた。
「残念ですがそういう訳にもいかなそうです」
怜次が声を挟んだ。
先程までのだらけっぷりが嘘のように緊張感が走る。
「ギリアム少佐の目星通りでした。決定的瞬間は外部カメラで抑えています……確保すべきかと」
壇の言葉に頷き手袋を装着しなおす。
「サイカはここで待機していてくれ。我々でホシは確保する」
「わかりました、ご武運を」
確保した重要参考人を公安に引き渡す頃には4人共濡れ鼠になっていた。
「お疲れ様です、タオルどうぞ!」
「さっすがサイカ! 気が利くな!」
4人の微笑にサイカも胸を撫で下ろす。
情報部に転属したばかりで荒事には慣れてないとはいえ、見守るしかないというのは辛いものだ。
「ヴィレッタ大尉から通信ありましたよ」
「内容は?」
「ギリアム少佐と打ち合わせしたいことがあると……あと私たちのためにオードブルを頼んでくれているそうなので、用も済んだことだし伊豆基地にちゃっちゃと帰りましょう!」
「流石ヴィレッタ大尉! 俺たちの女神!」
大げさな喜びを口にしつつ撤退の準備をする。
ギリアムが何か考え込んでいるようだったが、いつものことなので4人は敢えて触れないようにした。
「土砂降りの中お疲れ様。タオルだけだと生乾きになっちゃうから食事は後でもいいわよ」
「そうですね、先にシャワーでもどうですか、先輩。私は食べずに待ってますので」
「そう、俺たちには女神だけでなく天使もいた!」
光次郎が大げさに喜びを表現する。
「んなオーバーな……でもお言葉に甘えさせていただこうかな」
「そうだな、待たせて悪いがサイカ、待っててくれないか?」
「はい、皆で食べた方が美味しいですからね」
サイカは満面の笑みを見せる。
「少佐も先にシャワー浴びてきていいわよ。そんなに急ぐ用事でもないから」
「いや、随分待たせてしまっただろう。用件を伺おうじゃないか」
「仕事熱心ね。じゃあ場所を移しましょうか」
データ室にて、2人はコーヒーの入ったカップを片手に情報交換をしていた。
「それともう1つ聞きたいことがあるの、少佐」
「何だい?」
「XN-Lについてあなたは何か知っていることはないの?」
コーヒーに口を付けてため息を吐く。
「俺にだってわからないことはあるさ」
「ええ、そうね。あなたは全知でも全能でもない。でも……」
ギリアムから見てヴィレッタの顔はほんの数センチしか離れていない。しかしお互いその距離が何メートルもあるかに思えた。
「君だって最近現れたバルシェムの特に1体と特別な感応があっただろう。だからってその関係を問われても黙るしかなくなるのではないか?」
ヴィレッタは黙り込む。
彼の言うとおりだ。
何故そんな反応を示すかは彼女自身にもわからない。
感応を示すという事実そのものが不可解で不愉快なものだ。“ヴィレッタ・バディム”としての領域を侵され強引に“ヴェート・バルシェム”に引き戻されるようで。
「俺とXN-Lの間に特殊な何かがあるのは確かだ。だが俺にもそれは見当がついていないものでね」
片目だけが覗く彼の表情は伺いがたいものだが、眼光の鋭さと異様な煌めきが不安を増幅させる。
「ギリアム」
だからカップを置いて彼の手に己の手を添える。
「約束して。あなたは“ギリアム・イェーガー”で在り続けると。それなら私も“ヴィレッタ・バディム”でいられる気がするから」
出会ったばかりの頃は警戒心をぶつけあっていた。
だが彼は確かに言ったのだ――君を信じる、と。
彼の方の事情とそれ故に一度手を振り払われたことはある。
でも彼は再びその手を取ってくれた。
傍にいてくれるだけでこんなにも安心できる人は他にはいない。
「どれだけ隠し事があってもいい。でもあなたは私を信じてくれたギリアム・イェーガーで在り続けて。不安なの。“私”が揺るがされるのは初めてだから。あなたが私を信じていてくれれば、私はきっと」
くしゃみがヴィレッタの独白を中断させる。
顔を上気させたギリアムがちり紙で鼻をかむ。
「……だからちゃんと乾かしてって言ったのに」
呆れ顔で額に手を当てる。
「少し熱があるようね」
「君に看病してもらえたら嬉しいのだがな」
「看病くらいいくらでもしてあげるわ。あなたの部下の間で噂になるのは間違いないでしょうけど」
「君の部下の方は?」
「約一名、そういうのに興味がないのがいるから」
ほんの数センチしか離れていない顔でお互い微笑みあった。
「ヴィレッタ、先程の答えは決まっている――――『それはお互い様』さ」
「……ええ、私はあなたを信じるわ。たとえあなたが何者であろうとも」
その唇が触れるのに、時間はかからなかった。
いつものスパロボワンライではなくフリーワンライから5つのお題『黙らせる』『ほんの数cm』『「もう、疲れた」をギャグで』『傍にいてくれるだけでこんなにも』『濡れた日』の全部使ってギリヴィレ書かせていただきました!
結構強引な使い方をしているのはいつものことです。
XN-Lさんは関係性不明なのでネタにしにくいですね……
MDは外堀埋めっぷりが半端なかったので2人のやりとりの補完はファンにやれってことですね!と決意を新たにしています。