悩める父親の哀歌

――何故ここにいるのが俺なんだ。こういうのはエルザムかギリアム向きだろう。
カイ・キタムラは頭を抱えていた。
彼は現場を好む叩き上げの軍人である。腹芸には向いていない。
今カイは伊豆の高級料亭である人物と1対1で向かい合っている。値段などどのみち想像もつかないだろうと早々に考えるのをやめた。
「はは、そんなに固くならないで下さい、キタムラさん」
「ケントルム上院議員、ありがとうございます。どうもこういう場は苦手で」
カイをここに招いたのはテイラー・ケントルム。連邦議会の上院議員でありカイの部下、アクアの父親である。
鋼龍戦隊に数々の便宜を図ってくれた、いわば恩人だ。しかしそれは愛娘が所属しているという前提を多分に含むし、いつその力が牙を剥くとも限らない。そして政治家相手に腹芸など前述通りカイには荷が重い。
「楽にしてくれていい。私は今連邦の上院議員としてではなくひとりの父親として君と話をしたいと思っている。聞けば君も年頃の娘がいるそうじゃないか」
先にテイラーが言葉を崩した。
しかし安心は出来ない。殺気のようなものをテイラーから感じる。
「ええ。なかなか会えず家内に任せっきりで申し訳ないと思っていますよ」
「君の仕事は素晴らしい。そう、アクアが憧れるほどに」
――――なるほど。テイラーの言葉に嘘はない。
この場は政治家と軍人の腹の探り合いではなく、愛娘を奪った軍とそこでの上司に対する恨み言のために使われるのだ。
「本当なのかね。以前の特殊戦技教導隊が太平洋での海上演習の休憩時にマグロを釣り上げてその場で振る舞われたというのは」
「……本当です」
――あいつら――!!
「君がパーソナルトルーパーで異形を背負い投げしたというのも」
「…………本当です」
――――ああ、俺も人のことは言えなかったな。
「素晴らしい。いや、本当に素晴らしい。さあ、遠慮せず呑みたまえ。君、いや、特殊戦技教導隊の努力で新しい兵器が開発されればアクアもあの破廉恥なDFCスーツとやらを着なくて済むのだ」
「その……普段はちゃんと軍服を着ていますのでご心配なく」
「ヒューゴ君が! コックピットで! 2人きりで見ているのだぞ!」
卓を打つ。都合の悪いことに、カイ本人としてはテイラーに非常に共感出来る。
ミナが軍を志望しようものなら全力で止めるだろうし、普段は父や叔父への愚痴を言うアクアを窘めている側である。
まして知らぬ所で恋人など作ろうものなら、と思えばこの時間を無為と思いこそすれテイラーに反論しようとは思えない。
「……すまない、取り乱した。ヒューゴ君は非常に真面目な好青年だ。アクアが嫌がってもちゃんと私に対しての筋を通してくれた。ああ、いい青年だ」
「そうですね」
「だが! 過ちの1つでも起きやしないかと心配するのは父親として当然ではないかね!? 健全な青年だからな!」
「自分が監視します」
言い淀まなかったのは偏に彼の軍人として鍛えられた戦場での経験である。
――言える訳がない。基地を出発するカイを見送るヒューゴとアクアが腕を組んでいて恐らく今頃、などと――

 

Twitterのリクエスト企画で書いてぷらいべったーに上げていたヒューアクの再録。
お父様は非常に書きやすいですね! カイ少佐の新教導隊にヒューアクが配属された公式の采配にうなります。
本人たちを出さないのはカプ小説的にどうかと思わなくもないんですが割と効果的に書けたと自画自賛しております。

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