亡霊:盾
俺は色々出来るが、出来ないことの方が多い。
会話。手品。ヤマカン。幸運。
その辺は正直天才だけど、面白くないことは絶対嫌で、体力はない。
漫才師や博打打ちは面白いけど、俺の才能はそんな所で終わらせちゃいけない。
世界を相手にした大博打――軍だ。
とまあ意気込んだはいいが、現実はつらい。
手先が器用で頭脳明晰な俺は整備士になった。
ただの整備士じゃないのは一応言っておく。
天才整備士である俺は歴史に名を残す戦艦、ヒリュウ改の整備員になった。
正確に言うと歴史に残ったのは改装前のヒリュウ。
しかも外宇宙に出ようとした途端やばい敵に囲まれ逃げ帰ったという散々な奴だ。
ただその敵は明らかに地球を狙っている。
航行船団の旗艦相応の力を持ったヒリュウを奴らに対抗する戦艦にした。それがヒリュウ改。
なので未来があれば歴史に残る、と。
そして俺は整備員で終わるつもりはない。
俺の器用さとヤマカンと幸運は絶対パイロットの方が生かせる。
……とカッコつけたはいいが、体力が邪魔をする。
努力は嫌いじゃないけど、結果の見えない努力は不毛すぎる。
学生レベルの体力しかない俺に軍人としての体力。
訓練はしている、けど不毛だ。
ヒリュウ改は特殊な船なせいか、お堅い人はいない。
ラッキー。堅い会話大嫌いだし。
変わり者ばかりで割と楽しい。
艦長のレフィーナ中佐は士官学校を首席で卒業した史上最年少艦長。
何より美人で可愛くてスタイル抜群。
弱気だけど天才だから、場数踏んで度胸つければ最強だろ。
副長のショーン少佐は前のヒリュウでもダイテツ艦長について副長をしていた大ベテラン。
好々爺、という言葉が凄く似合う。
お偉いさんに嫌われるタイプだが俺は大好き。
あとスリーサイズを一目で見抜く眼力がある。師匠と呼ばせて下さい。
オペレーターのユンは艦長の同期。
優秀で美人だけど堅すぎるほど堅い。潔癖。
絡んだら凄く言われそうだし、美人だけどタイプじゃないから絡まない。
オクト小隊の隊長、カチーナ中尉は怖い。
大人しくしてたら美人かもしれないけどいつもキレてる。
叩き上げの実力者なんだけど、こんなキレっぱなしの人は軍じゃなくて愚連隊とか暴走族向き。
オクト小隊でカチーナ中尉の補佐をしているラッセル少尉は被害者。
真人間の中の真人間。カチーナ中尉を見捨てない常識と良識の塊だ。
ただしカチーナ中尉は常識と良識が一切ない。
そして俺たち整備班は漏れなく全員カチーナ中尉の被害者だ。
正直ヒドい。俺たちが整備しなくちゃパイロットも活躍出来ないんだぞ。
俺がパイロットになったら整備員を絶対大事にする。
お偉いさんとかどうでもいい。現場の付き合いが大事だ。
とまあカチーナ中尉はそんなことはわかきった上でキレ散らかすヒドい人だから始末に負えない。
ここは面白いけどツッコミがいない。
俺はツッコミ大好きだけど、ボケるのはもっと好き。
そして天才だけど一整備員でしかない俺は、せめて他の整備員の盾となりカチーナ中尉を止めるのであった。
訓練って大事だ。
そしてヒリュウ改が地球で合流したATXチームはこれまた変わり者ばかりだ。
断言する。ヒリュウ改は軍じゃない。愚連隊だ。
ゼンガー少佐は元特殊戦技教導隊で得物は常識外れの特機ですら持て余すデカい剣、斬艦刀。
キョウスケ少尉は俺と同じ博徒。
ただ堅実に派手に勝ちまくる俺と正反対で、大物逆転勝ち狙い。
勝つ時はガチでヤバい勝ち方するから運は運でも悪運で、天才というか神。
悪運があるから戦場では強い。博打打ちだったら絶対破滅する。
そんな博徒のキョウスケ少尉の機体はもっとヤバい。
アルトアイゼン、古い鉄。ガラクタの言い換え。
どういう人生送ったらゲシュペンストの改造機をこう出来るんだ。
肩にクレイモア。腕に杭打ち。機動力という概念を無視した直線的な動きしか出来ない強力なブースター。
その相方のエクセレン少尉はノリの塊。ここまで会話がうまく行く人初めて会った。
ただまあお互いタイプではなく、スッゲーキョウスケ少尉とお似合い。
絶対キョウスケ少尉ムッツリだし。
そしてアルトアイゼンを作ってしまったマリオン・ラドム博士がエクセレン少尉に用意したのがヴァイスリッター。
白騎士と言えば聞こえがいいし外見は綺麗だけど、アルトとは逆に空を飛びまくる軽すぎる機体。
実弾とビームが撃ち分け出来るバカデカい銃、オクスタン・ランチャー以外は飾り。
一発貰えば終わりだけど何故か当たらない。
博徒夫婦とマ改造の出逢いは奇跡だった。
俺も運命の出会いしたい。
博打は好きだけどやりすぎは良くないから止めてくれる人。あと可愛くて美人。
ブリットは真面目だし歳も同じだから楽。
楽じゃないのは整備。
ATXチームは人はとても楽しいけど機体が整備員泣かせすぎる。
そして敵の特殊戦技教導隊。
テンペスト少佐。コロニーで起きた16年前の事件の復讐、と言っていた。
俺の天才頭脳はピンと来てしまった。
歴史の勉強は楽しいけど酷い歴史の方が多い。
その象徴もヒリュウ改にある。
ジガンスクード、巨大な盾。
その名前が皮肉や誹謗中傷にしかならない機体。
拠点防衛用の砲戦型機動兵器、といえば聞こえはいいが、要するに反逆者をぶっ飛ばす用の砲台だ。
地球とコロニーが争っていた時代に連邦軍が作った兵器。
まあ焦るよな。いつコロニーごと吹っ飛ばされるかわからない。
テロリストってのは過激派って意味だ。
過激なコロニー側の奴らがジガンスクードを奪いコロニーを占拠し人質を取った。
過激な連邦軍は対処を誤ってジガンスクードごとコロニーをぶっ飛ばした。
テロリスト同士のテロで多くの犠牲者が出たが、ジガンスクードは盾らしく生き残ってしまいました、と。
16年前スペースコロニー『ホープ』を舞台にした惨劇だ。
良くなったことと言えばヤバい兵器は作っちゃダメだし何より戦争は良くないよね、という当たり前の事実を認識しなおしただけ。
おまけに改造されてヒリュウ共々外宇宙を目指し、無様に逃げてまた生き残ってしまったという曰わくつきの盾だ。
10基のコロニーは全て『希望』という意味の単語だ。
名前には意味がある。俺の名前はとにかく幸運だ。
地球人が宇宙に踏み出す希望の第一歩、というわけ。
まあ現実は宇宙に出ようとしたらそこにいたのは地球を狙う侵略者でした、という夢のなさすぎる話になってしまった訳だ。
ただ今の所は夢がないが、太陽系なんて俺たちにとっては唯一だけど、宇宙全体から見たらホコリにもならない。
そんなところをガチ監視。
宇宙のロマンを追求した結果、地球は色々希望に溢れた星だということがわかった訳だ。
まあそんな歴史はない。俺の勘。
でも俺の勘って運命的だからな。多分そうなる。
もう1つのコロニーを舞台にしたテロの悲劇とその象徴の教導隊が現れた。
悲劇だ。惨劇とはちょっと違う。
第一基エルピス、コロニーの象徴で総督府。
ホープ事件から数年後のエルピス事件、そこでテロリストが使った兵器は毒ガス。
誰だか知らねーけど考えた奴は凄まじく悪趣味だ。
隔壁があり、片方に毒ガスを入れました。
要求を呑まなければ隔壁を開けます。
コロニー総司令の長男で元特殊戦技教導隊のエルザム少佐は、愛する奥様ごと隔壁が開く前に撃ち抜きました、と。
カルネアデスの板って哲学問題がある。
殺さなきゃ殺される状況の殺人は罪に問うべきか。
答えは法律的には罪にはなるけど仕方がなかったから軽くなる。
本人にとっては殺人は殺人なので罪の意識を一生背負う。
この悲劇の当事者のエルザム少佐にとっては少し違う。
何をしても自分は死なない。
偉い軍人さん的にどちらを取るかなんて明白で、罪にはならずむしろ名誉。
奥様はガスのある方にいるのでどのみち助からない。
けど男ってのは悲しいもんだ。
愛する人1人と世界を天秤にかけたら凄くブレる。
どのみち助からないならどうなってもいいという考えが出てしまう。
結局そうはしない訳だが、発想自体は出てしまう。
全てを救うために愛する人にトドメを刺した、ってのは人からすれば美談だけどかなりどうしようもない。
想像するだけで死にたくなる。
生まれつきの幸運男子である俺には縁のない話だけど、それ以上に俺は愛に生きる男なのでわかってしまう。
そんな元教導隊のエルザム少佐に誘われ、元教導隊ゼンガー少佐は俺たちを裏切った、と。
そこに現れたのがまた元教導隊。
味方だけど今まで見た元教導隊はヤバい奴ばっかで例外じゃない。
ギリアム少佐。現在は連邦軍情報部の人。
機体は試作機の1つ、ゲシュペンストmk2・タイプR。
今までの機体に比べればマトモ。
ゼンガー少佐の特機とか、テンペスト少佐のコロニー統合軍の指揮官機、そのカスタム機である派手な色に家紋つけた自己主張の激しいエルザム少佐の専用機と比べるまでもない。
ヴァイスリッターは同じ試作型ゲシュペンストmk2の改造機だからポテンシャルはあるだろうけど、マ改造とエクセレン少尉だから活かせる。
つまりマトモすぎる。
整備や改良はされてただろうけど、放ってあるも同然の機体を前線引っ込んでた元エリートパイロットのロートルが引っ張り出す。
そこまでしなきゃいけないのがヤバい。
何よりヤバいのが本人。
意味不明な髪型にカッコ付け気味だけどマトモなことを言うしノリもいい。
どこがロートルだってくらいの腕前で、ただのテストパイロットだったこの人が改良され続けたPTで凄く活躍する。
何よりもツッコミ所は年齢。
俺と10も変わらない。
信頼は出来る。絶対俺たちの味方。勘だけど。
そんな訳で、気取り屋でお偉いさんとのやりとりが苦手そうなエリート少佐が愚連隊に加わった。
この状況で俺がするべきこと。
整備員の技能で天から与えられた幸運を、不幸なジガンスクードに分ける。
一般的なパーソナルトルーパー用のコックピットに換装。
あとはこのコックピットに俺が座れるように訓練する。
こいつは何ひとつ悪くない。使う人間がダメだっただけ。
ダメな奴らに振り回され続けて悪夢の塊になった奴を本当の盾にする。
俺は運命の女性にはまだ巡り会えてないけど、ジガンスクードは俺の運命の機体だ。
勘だけど絶対そうだ。
ヒリュウ改で出会った時からそう思っていた。
ジガンスクードの名前を知る前だった。
そして俺の幸運は思っていたより悪運だった。
酷いだろ。
斬艦刀がヒリュウ改に迫ってるのに誰も止められないとか。
だけど幸運だ。満足には動かせないけど盾にはなる。盾になれれば十分!
……とカッコ付けたけどやっぱ悪運だ。
アバラ何本か逝った。動けないし正直死にそう。
だけど最強の矛と最強の盾がぶつかったら、決着はつかない。
そして勘が当たってゼンガー少佐は撤退。
俺は医務室行きだけどジガンスクードは割とピンピン。
アレだな。代償が命って奴。不運を幸運にするには俺が死にかける。
まあ俺は幸運なので死なない。訓練していて良かった。
やっぱり運命だけど少し呼びにくい。
相棒の名前はジガンだ。
正式にジガンのパイロットに任命され階級は少尉、正式にオクト小隊の下っ端になった。
カチーナ中尉の痛すぎる愛の鞭を受け、ラッセルに労られる。
結果が見えてるのでいくらでも頑張れる。
愛の鞭に耐えかねて手品でトンズラするのもまた努力。
息抜きって大事だ。
そして。
絶対これは運命。
レオナ。
可愛い!
美人!
綺麗!
クール!
絶対ツッコミ!
罵って下さい!
とまあ感じたことを色々言いまくったのをかなり省略したが、絶対運命。
知れば知るほど運命。
悲劇のエリート、エルザム少佐の従妹。
名門貴族。俺と同い年。
絶対初恋の人はエルザム様。
いとこだから法律的にはアリだけど、エルザム様の運命の人は愛する奥様でその人のこともとても好き。
初恋の人の悲劇に心を痛める悲劇の乙女。
一般人から勘と頭脳と器用さと幸運でのし上がってきた名前も知らない俺と、敵として出会う。
運命しかないじゃん!!
もひとつ運命なのはジガン。
歴史の悲劇で何よりコロニーのトラウマの象徴の血塗られた盾の相棒が俺。
最高の博打じゃねぇか!
敵として出会った悲劇の運命の女の子。
盾として作られたのに悲劇しか呼ばなかった運命の相棒。
世界の平和。
天秤にかけることなく最高に幸せな世界を作る。
ヤバすぎるな。命持つかな。
絶対俺のことうざがるどころかジガン諸共消そうとするよな。
むしろ命懸けで最優先で狙われるよな。
上等だ。
ジガンの盾としての次の仕事は、レオナの愛から俺を守るという最高の仕事だ!
これさえ出来れば後は簡単。
無理っぽい気がするけど諦めない。
絶対幸せにする!!
んでもって。
出来てしまうから凄い。やっぱ運命。
愚連隊であるヒリュウ改は敵からの投降者を悪いようにはしない。
投降というか捕獲したんだけど。俺とジガン凄い。
愚連隊の女番長であるカチーナ中尉は何だかんだでレオナを舎弟に加え、オクト小隊の完成。
戦力としてはイマイチだけど絶対最強。
オクト1。実力主義者で手厳しすぎるタコ殴り女番長、カチーナ中尉。
オクト2。常識人兼まとめ役兼カチーナ中尉のお守り、ラッセル。
オクト4。エリートクールビューティーで最高に可愛くてツンデレなレオナ!!
そして俺。オクト3のお祭り男、タスク・シングウジと相棒のジガン。
最高だし最強!
そして、ジガンを最強の盾にするために乗り越えなくちゃいけないことがある。
テンペスト少佐。
ホープ事件で奥さんと娘さんをなくした悲劇の人。
現場の軍人であるあの人はテロと上層部の都合に踊らされ天秤にかけることすら出来ず、ホープの爆発を見届けた。
傷を舐め合うことも出来なかった。
軍の遺族会は割と下っ端の集まり。
妻子をなくした偉い人が参加したら傷の舐め合いにならなくなるから止められた。
死にたいけど死んだら終わりだものな。
旦那さんやお父さんが生きててほしいと奥さんや娘さんが願ってるって思いたいよな。
だけど死んだら終わりなんだ。
そんなものは勝手な思い込みだ。
機体を心で動かす装置は機体を強くするためな心を余計に痛めつける。
ホープ事件で終わった男を部品にした機体はジガンだけを狙う。
恨み言はいくらでも聞く。
いくらでも傷つけろ。
それでも勝つ。終わらせる。
血塗られた盾のジガンはこの人の血を吸う。
どこまでも悲劇を受け止める。
そして俺の幸運で。
ジガンを最強の盾にする!!
俺たちは勝ち続けた。ラッキー。
あと間違いなく元特殊戦技教導隊で一番ヤバい人はカイ少佐。
他の人たちは人間離れしまくってるけど、カイ少佐は漢だ。
平凡な男が実力でのし上がり愚連隊の現場指揮官になる。
量産型のカスタム機であらゆる格闘戦をする。
美人な奥さんと奥さん似の年頃の娘さんが家で待ってる。
割と羨ましいし憧れる。
まいっか!
俺は最高の相棒と最高すぎるレオナを最高に幸せにするために生まれてきた男だ!!
俺以上に幸せな奴なんて俺に愛されるレオナだけじゃん!!
あれ。
でもレオナが幸せだと俺ももっと幸せだよな。
つまり!!
俺たちは最高に幸せな夫婦だ!!!
……まだ恋人未満、だけど。
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教導隊小説、トリはタスクです。
因縁ありすぎです。全員と遭遇するしテンペストの復讐相手です。
古くからある砲台が教導隊から作られたPT操作技術で人型機動兵器として運用されるとかガチ運命です。
教導隊の凄さは全てジガンとタスクの凄さに繋がります。
そしてそんなことは関係なしに最強の盾となり何よりもレオナへの愛に生きるお祭り男は最高です。
私の考えるタスクのカッコよさを全開にしました。