亡霊:拳

突拍子もつかない命令だった。

聞いたことはある。
異星人が人型機動兵器を持っているからこちらも人型機動兵器を造らねばならないなどという絵空事を。
未知の技術や敵があるのは事実だが、俺には関係ないと思っていた。
そして何故かその実現に向けたパイロット集団の一員に選ばれてしまった。
名だたる面々の中に現場で戦い続けてきただけの俺が混ざる。
ただ、実力が認められたという事実を受け止めその絵空事に挑戦した。

特殊戦技教導隊は非常識だった。
エリート集団と言えば聞こえはいいが、非常識な人間しかいない。
隊長のカーウァイ大佐は常識と良識を備えた偉大な人だが、個人や個人間の諍いを咎めることは出来ても複数になると収拾がつかない。
ギリアムは実績は一番非常識だが中尉という肩書きを越えない良識があった。
髪型を変えると心を覗かれそうで嫌だなどというのは、むしろ人間らしさだ。
つまりここでの俺の役割は現場叩き上げの指揮官であり、拳だ。

ギリアムは頭が切れ、識別コードと長々しい概要ばかりの計画に名前を付けることが好きだ。
俺たちが作る人型機動兵器の一号機にゲシュペンストと名付けたいと提案した。
亡霊。
戦場に存在するが目に見えぬ者。
そして戦争が終われば消える者。

意味を説明されるとわかる。
発想は突拍子もないが筋道は立っている。

そしてこの非常識極まりない俺たちは、それぞれにそうなるだけの人生があった。

絵空事が完成した。
昔に見たアニメのロボットのような機体の名はゲシュペンスト、亡霊。
非常識だが現実だ。

拳を与え、仲裁した。
意味のわからんモーションについてはエルザムやギリアムに分析させ意見を出した。
やりすぎて隊長の叱責を受けることもあったがそれも必要だ。

絵空事が次々に発展していった。

タイプSの爆発事故で隊長はMIAになった。
遺体が見つからず、何よりあの方が死んだなどと認めなくなかった。
その事故を受け特殊戦技教導隊は解散した。

俺はただの現場の軍人に戻ったが、物足りなかった。
非常識な人材に囲まれているのが常識、という非常識な人間になっていた。
そしてその機体を受け取った。
量産型ゲシュペンストmk2。
試作機の改案を実現した試作機、を繰り返しとうとう量産に成功した。

人型の兵器が実在するのだから異星人などいて当たり前だ。
超能力も当然ある。
世界制服を企む悪の科学者がいてもいい。
裏切りや地球とコロニーとの諍いなど俺が生まれる遥か前からあったし、和解も必然だ。

一番非常識な事実は。
実弾を限りなく積み込んだ武器庫。
装甲を軽くして被弾すれば終わり。
そんな機体がゲシュペンストの改造機として製造され、息の合ったコンビネーションを発揮するパイロットと出会ったことだ。

テンペストが戦死した。
精神制御装置が逆に精神を狂わせ暴走させる、というのだけは絵空事であって欲しかった。
ラトゥーニに娘の面影を見出し、ジガンスクードに討たれた。
報われない復讐を終わらせた。

非常識なことがあるのが常識になり、俺はゲシュペンストで拳を与え続けた。

そして異星人の本拠地には改造された隊長とゲシュペンストがいた。
それだけは終わらせる。
俺、ゼンガー、エルザム、ギリアム。
亡霊同士の殴り合いはやや不利だったが、隊長は俺たちの名を呼び戦死した。

異星人を倒したが当然それで終わる訳がない。
ゼンガーとエルザムは表向きは裏切り者だがそれなりに戦っているだろう。
ギリアムは何かしていたし誘われたが、俺は現場の方が好きだ。
新しく特殊戦技教導隊の名を持つ部隊を作り、隊長に収まった。
後身の育成と試作機のテスト、とりあえずやれることはやる。
この名を継ぐことに意味がある。

テロリストの残党が息を吹き返すのも必然だし別の異星人が侵略してくるのも当然だ。
その中で俺たちが実現させた人型機動兵器は次々に発展していった。

喜ばしいことではない。
戦争などない方がいいが、戦争がある限り俺たちは戦う。

ギリアムに提案した。
俺たちがゲシュペンストの発展型を造る。
ゲシュペンストから色々な機体が誕生したが、旧式と言われ何度も新型量産機を使えと言われた。
ゲシュペンストを使いたいがロートルになるつもりはなく、奴も同感だろうと思うと非常に乗り気だった。
ギリアムはそれにハロウィン・プランと名付けた。
説明されずともわかる、亡霊の復活祭。
俺は量産を前提としつつも一般の兵士ではなくベテランやエース用のカスタム機。
ギリアムは試作一号機に拘って専用機にすると言った。
対極だが必要だ。

ギリアムは考えていたより非常識な過去があった。
パラレルワールドから飛ばされてきて、奴を追ってパラレルワールドから侵略者が来た。
大変だっただろう。無理をしつづけている。
思えば俺はかなり老けたのに、ギリアム・イェーガー中尉として出会った頃のあいつから全く外見が変化していない。
異世界人だか人造人間だか知らんが気にしないでいい。

液体金属を固定化させた斬艦刀一振りで戦う鎧武者だとか。
普段は人型だが鎧武者を乗せる馬になる機体だとか。
そんなものを造った科学者とそれで息を合わせて戦うゼンガーとエルザムに比べれば。
ギリアムは割と常識的だ。

量産型ゲシュペンストmk2改。
俺のハロウィン・プランの完成だ。
そして扱う力が何でも変わらない。
俺たちは亡霊で、俺は拳で戦い続ける。

 

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教導隊小説、カイ編です。
実験室のフラスコに振り回され続ける常識人です。
拳キャラは絶対教導隊でついた奴ですね!
あとカーウァイ大佐絶対おかんですよね……おかん最強

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