英雄たちの支え
ヴィレッタはその荷物の扱いに苦心していた。
SRXチームは基本的にはハガネの所属とはいえ、基地に駐留することもある。
その時にヴィレッタに割り振られた私室が変わる。
家具などは備品だ。私物もそれほど嵩張るものではない――これ以外は。
それは、くまのぬいぐるみ。
意外と親しみやすいと言われているとはいえこれを枕元に置いていると知られたら、誰に何を言われるか。
抱き締めて身体を預けるのにちょうどいいサイズ。実際そうしたこともある。
とりあえず家具などのフリをして箱に詰めるべきか、と思案する。
次に会ったら贈り主に嫌味の1つでも言ってやろうかとも。
このぬいぐるみの贈り主はギリアム・イェーガー少佐だ。
彼の私室にも小さなくまのぬいぐるみがある。
友達か、もしかしたら兄弟かもしれないな、と渡す時に彼は笑った。
何故彼がくまのぬいぐるみを持っていて、ヴィレッタにまで渡そうとしたのか、その理由を聞かなかった訳ではない。
彼は髪を掻き上げて両目でヴィレッタを見つめた。
滅多にない動作だが知っている。これはギリアムが言いにくいことで、それでもそれを越えて真実を伝えようとする時の証なのだと。
「このぬいぐるみは俺が『守るべきもの』『守りたいもの』『守ってきたもの』の象徴なんだ」
「ぬいぐるみを連れた少女を助けたのが初出撃だったとか?」
ギリアムは口角を上げ更に両目でヴィレッタを見つめる。
その何もかもを見通すような瞳を恐ろしく感じることもあるが、今日は不思議と恐怖を感じなかった。
感じるのは――むしろ安堵。
「当たらずとも遠からず、だな。そして俺が“ギリアム・イェーガー”である証でもある」
その両目はヴィレッタを見つめつつもどこかその向こう側を見ているようだった。
いくつもの偽名を持ってきたという彼が本名として名乗るのはこの名しかない、といつか聞いた。
「俺のぬいぐるみの友達を君が持っていてくれれば俺は『守るべきもの』も『守りたいもの』も『守ってきたもの』も忘れない……そんな気がするんだ」
「ギリアム少佐、ひとつ聞いてもいい?」
ぐっと顔を近付け顔を今更隠せないように手で髪を押しのけヴィレッタは笑う。
「その『守りたいもの』に私は含まれる?」
ギリアムは困ったように、しかし確かに笑った。
「君は『守りたいもの』を共に守っていきたい人かな」
「だからぬいぐるみを預けたって訳ね……あなたらしい解答だこと」
ぬいぐるみの頭を撫でてヴィレッタは微笑む。
「『君は俺が守る』くらい言ってくれた方が女は喜ぶものよ」
「君は守られるだけの人じゃないだろう」
「ええ、だから口説き文句の下手なあなたと一緒に守ってあげる……あなたの『守るべきもの』を」
思い返しながら輸送用の箱にぬいぐるみを詰める。
「ちょっと狭いけど我慢してね」
このぬいぐるみに象徴されるギリアムの『守るべきもの』が実際どのようなものなのかはわからない。
ただ、ギリアムに渡されて時に抱き締めたり時に誰にも言えないような愚痴を零したりするうちに、ヴィレッタにとってもこのぬいぐるみは掛け替えのないものになった。
「守り通してみせるわ。あなたも、あなたの贈り主も、その人が守りたいものも」
そう言葉にしていくと、不思議と胸が暖かくなるヴィレッタであった。
スパロボワンライOGお題『ギリアム・イェーガー』とフリーお題『守るべきもの』を組み合わせていただきました
熊プレゼントしてるのもギリアム少佐の仕草も捏造です!w
ぬいぐるみ抱き締めてるヴィレ姉が可愛いからいいんです!