幸福な復活祭

ヴィレッタ大尉は魔女だ。
恐ろしい女性だ。あのギリアムが恋をしたなど。
何という魔法だろうか!

ギリアムは非常にわかりやすい。
ゼンガーより正直だ。
これを言うと何故かだいたいの者は笑うのだが、彼のわかりやすさがわからぬなどと、目が曇っている。
ただヴィレッタ大尉は笑った。
「そうね。ギリアム少佐は誰よりも正直だわ」
魔女だ。
誰よりもなどとは流石の私も断言出来ん。
カトライアは誰よりも美しく可憐で儚い人だったが、ヴィレッタ大尉は魔女だ。
善き魔法を使う……面白い、見せてもらおう。

********

鋼龍戦隊は何よりも強い。
戦場での強さは言うまでもないが、日常の楽しさを知っているからこそ強くなれる。
「ギリアム、ハロウィンの仮装はどうする?」
「吸血鬼だな」
わかりやすすぎる。
意外性を出したつもりでいる表情と声だが、専用機のヴァンピーア・レーザーの例を出すまでもなくギリアムは吸血鬼で幽霊の人間だ。
「……少し変えた方がいいぞ? お前が仮装をするというだけで皆が驚くのだから、もっと驚かせた方がいい」
「狼男か……?」
ギリアムは面白い男だ。発想が貧困な点も含めて面白い。狼男もかなりそのものだぞ、言わないが。
予測不可能な戦況を何故だか予測してしまえるのに、日常では何ひとつ役に立たない。
予知能力があるなどと冗談めかして言うし実際にそうとしか思えないほど勘が鋭いのだが、何故か日常ではあまり働かない。
何よりも己の恋心に対しては致命的なまでに気付いていない。
自分のことは自分が良く知っているが、他人を通さなければ見えないこともあるものだ。
ギリアムは自分のことを知らなすぎる。
「お前の好きな色は黒で、機体はゲシュペンスト……意外性がない」
「ハロウィンに現れるのは怪物だ。それに似合わなすぎるのも考え物だろう? 俺は元々仮装など似合わないのだから」
「ハロウィンは善き怪物の祭典だ。人間でないものであればいいしお前は自分で思っているより仮装が似合うぞ。そうだな……」
少し思案する。
「エルフだ」
「トールキン風か?」
知識はあるが発想出来ない。
「耳は仮装では難しいだろう」
「確かに。ならば……ムーミンか?」
「もっと難しいぞ」
私が言わねばならんようだ。
「エルフは森の精霊で文献の記録も様々だ。知識に捕らわれるな」
「難しいが……やってみよう」
人の意見は聞き入れるので、ギリアムは好感が持てる。

********

そして。
ヴィレッタ大尉は魔女で、絶対魔女の仮装をしてくるだろうから、少しばかり入れ知恵をしなければならん。
兄としての職権濫用だ。
「兄さん、どうしてここに?」
「私はレーツェル・ファインシュメッカー……お前の兄ではない」
「……ああ、そうですね。ところでレーツェル少佐は何故ここに?」
「私は軍属ではないので少佐の肩書きは意味を持たない」
「本筋に戻そう、兄さん」
「そうだな」
ライディースは可愛げに溢れた弟だ。
「なかなか面白い行事なのでな。皆の準備を見ている所だ」
「わかってしまったら面白くないだろう。それに俺たちも考えているところだ」
「猫は前やったから、色々考えている所です」
「猫ではダメなのか……?」
「猫にしましょう、マイ。前と違う猫よ」
わかってしまった。
「俺はやっぱカッコいいのだな!」
「お前の考える格好の良さはハロウィンには向かん」
「いいじゃねぇかよ。ライはどういうのがいいんだ?」
「お前には教えん」
知っているぞ、ライディース。悪魔だ。
「ヴィレッタ大尉がいないようだが?」
「お仕事が忙しいみたいで、私たちが用意しようかと」
「隊長に似合うものを、と」
「いや、少し似合わない方が面白いぞ?」
「隊長で遊ぶのはちょっと……」
「レーツェル、勘違いをしているぞ。隊長は綺麗だから何でも似合う。似合わないものなどない」
「そもそもお遊びなんだから徹底的にやってやろうぜ! 厳しい訓練のお返しだ!」
「お前は自業自得だがわからなくもないな。よし、考えよう」
流石は我が弟。場を動かすのが得意だ。
「面白くなりそうだ。私も思考を巡らせるとしよう」

ハロウィンが楽しみだ。

********

タスクとレオナが赤くなっている。
「そ、その……タスク、タキシードは……意外だけど、ハロウィンじゃないわ……」
「そ、それもそうだけどよ……レオナ、それは……」
「妖精よ! 似合わなくて悪かったわね!」
「いや、すっげー似合う! 意外だけど可愛い! やっぱレオナ最高!」
「……やめて、恥ずかしいわ」

********

特殊戦技教導隊が集合している。
「すっげー……カイ少佐が鬼教官ぶり全力で発揮している……」
「鬼教官らしくしごいてやる」
「スンマセン! せめてご飯だけは!」
「アラドとゼオラは白鳥と鴉ね」
「凄いです、アクア少尉! あまりそれっぽくならなくて心配だったから嬉しい……」
「カラス……ゴミ漁りしか出来ないカラス……撃墜され王のおれにピッタリ……」
「ち、違うわ、アラド。カラスはカラスだけれど空を飛ぶカラスよ」
「そっか。カッコいいカラスなんだな。ゼオラも綺麗だぜ」
「き、きれい……?」
「……俺たちにツッコミが入らないな」
「やっぱり2人だけで考えたから意外性がないのかしら……ヒューゴのサメ男、意外だと思うのだけど……」
「俺もアクアのヘルハウンドは意外だと思うが……互いのイメージを入れ替えただけだからか?」
「そ、そうだわ! 何で気付かなかったのかしら!」

********

ジョッシュとグラキエースが食事をしている。
「結構食べるようになったな、ラキ」
「食べ方と食事の楽しさをだいぶ知った。楽しい、という感情はいいものだな。この場は楽しさに溢れている。どういうことなんだ?」
「祭りさ。収穫祭の日だけ死者が蘇り生きている者も仮装して、変わった格好の奴らばかりで楽しく過ごすんだ」
「私たちの服もそうなのか。確かにお前にしては変な格好だ」
「そうだな。ミイラ、と言うには少し包帯が足りないが蘇った死者だ。ラキは氷の妖精だ」
「何だ。仮装ではないではないか」

********

SRXチームとATXチームが楽しんでいる。
「お姉様は別の所でお楽しみだけど? うふふ、ウサギはウサギだけどふわふわのウサギちゃんよん。この後狼男さんに……」
「キョウスケ中尉、乗らない方がいいです」
「ああ、放っておく」
「ムッツリコンビキツい……」
「アヤ大尉とマイ少尉は黒猫と白猫ですね」
「ええ。マイらしく可愛いのにしたの」
「アヤのかわいさが数倍だ!」
「リュウセイ君のそれは?」
「俺にしか出来ない発想! 電光石火の超人だ!」
「……見たことがある気がするが何だろう。俺とクスハはトカゲと猫」
「龍虎王を可愛くしたけど、トカゲはドリンクの材料にはいいけど私が着ると変だからブリット君に着てもらったの」
「ドリンクの材料もやめて欲しいけど……ライは幽霊か」
「ゴースト、と呼んでもらおう」

********

ギリアムとヴィレッタは彼らを遠巻きに見守っていた。
「楽しそうだな」
「あなたもね」
「楽しいが……少し恥ずかしい」
だいぶ赤面している。
青の帽子と緑の麻の服。
「小人、かしら?」
「……エルフだ」
「なるほど。ギリアムが着ると確かにエルフね」
ギリアムがキラリと輝く。
「なかなか似合うだろう? レーツェルのアドバイスだ。あいつは凄い」
「確かにあなたからは出ない発想ね」
ヴィレッタは冷静な声を出していたが、表情に紅が差していた。
「……皆が選んでくれたのだけれど……何だかわかる?」
「光の妖精か」
「少し違うわ。炎の妖精、みたい」
輝く布地は朱い。
「なるほど。着ている人が輝いているから勘違いしてしまった。ああ、そうだ。言い忘れていた。トリック・オア・トリート」
「選択肢になっていないわ……あまり褒めないで。恥ずかしいから」
どこまでも赤くなっていく。
「何故だ? 君の美しさならいくら褒めても足りないくらいだが」
「キラキラしすぎよ……」
「光の妖精の魔法のせいだろう」
「……あなたの方が魔法使いよ。絶対にあなたにしか解けない魔法をかけられてしまった」
「何だ? それは」
「それは……」

********

神と新選組の仮装をしたレーツェルとゼンガーが聞き耳を立てている。
正確に言えば聞き耳を立てているレーツェルにゼンガーが付き合わされている。
「ギリアムは悪魔だな……無自覚なまま翻弄している……心の底から言っているのがわかるばかりに……魔法をかけた相手が悪すぎたな……だがこのままなら……」
「レーツェル、楽しそうだが人の恋路の邪魔をするな」
「フッ、邪魔などしないさ。馬にだけは蹴られたくない。あとゼンガー、それは」
手遅れだった。
ギリアムが駆け寄り、ヴィレッタは笑って皆の元へ行った。
「……トロンベに蹴られるな」
「何の話だ、レーツェル。ゼンガーにたまに飲ませるのは面白いがなかなか洒落にならない。下戸は下手をすれば死ぬからな」
「大丈夫だ、ゼンガーは死ぬ前に倒れて防御出来る。だが度数が少し高めだ」
「何を飲んだ?」
「ジュースのような4%ほどのものを」
「連れて行くぞ」
「ああ」

********

彼らは日常を楽しんでいる。

 

———–

 

ハロウィン・プランを書いたので季節外れのハロウィンです。
ギリヴィレ中心複数男女カプのツッコミ不在ラブコメでした。
趣味に走りすぎましたがギリヴィレ&トロンベ関係者及びその関係者に絞っています。
個性豊かすぎてツッコミ兼ボケばかりで常識人にはツッコめないです。
原作がシリアスなのでシリアスに走りがちですがどちらかと言うとコメディが書きたいです。

テキストのコピーはできません。