恋人ごっこの始まり

「俺を『お義兄様』と呼ぶならヴィレッタとの付き合いを許してやってもいいぞ」
「何だ、その程度でいいのか、お義兄様。至らぬ点の多い義弟ではあるがよろしく頼むぞ、お義兄様。肩でも揉もうか、お義兄様」
「やはり許さん! 因果地平の彼方へ消し飛べ!」

要するにそういう時空の話である。細かいことを考えてはいけない。

「そういう時空って何だ。そもそもあいつは誰だ」
「ヴェートの恋人らしいわ」
遠目に眺め呆れ顔の2人。キャリコとスペクトラである。
囁いた後慌てて気配を探る――ヴィレッタはこの場にいない。
『自分の嫌なことは他人にしない』は子供にもわかる道徳であるが、積極的にそれを行って挑発してきた経緯から未だアウレフ、ヴェート、アインと呼んで一触即発になる2人であった。
「愛だ恋だなんて人間みたいなこと言っちゃって、馬鹿みたい。所詮私たちは人形なのに」
「ああ。それがわかっているからアウ……イングラムも妨害するのだろう」
単純に気に食わないだけである。
「私はあなたがいればいいわ、キャリコ。お姉様は欲張りね」
「俺もだ、スペクトラ。だが興味はある。人間の恋人同士とはどういうものなのか」
呟いて顔を見合わせる。しばしの沈黙――スペクトラのみ発汗、赤面。
「そ、それはその……性交……じゃなくて一緒に寝たり? 同じ食事をしたり?」
「それなら俺たちもしているな。わからん」
隣接する修理ポッドで寝て、同じ経口栄養を取ってきた。
「そうじゃなくて、あ、あと、手を繋いだり……」
「繋いでみるか」
無造作に差し出された手を恐る恐る取る。
「バイタルが乱れているな。不調か?」
「そ、そう、この不調を多分お姉様は恋愛だと誤認識しているのよ! そうね、あと買い物に行くのよ! 何の目的もなく歩き回って甘い物を食べたり買いもしない服を試着したり!」
「非合理的だ……理解できん」
ため息をつきつつ握っていない手でスペクトラの髪を撫でる。
「ひゃっ!? キャリコ、何を!?」
「身体接触が不調の原因ならばと試行したが、酷くなったな。お前を壊してしまう所だった、すまない」
歯噛みしうなだれる。謝罪の想いが痛々しいほどに伝わってきた。
「……ねえ、キャリコ。私たちもこうして生き残ったからには人間のフリをして恋人らしいこともして……そうやって生きていかなくてはならないんじゃないかしら? 私たちは人形だけど……二度と人形扱いはされたくない」
だからこそ彼らは『キャリコ』と『スペクトラ』になった。
「ならば」
キャリコの頬が緩む。
「買い物にでも行くか」
「……ええ!」

 

Twitterでのリク企画でぷらいべったーに上げていたキャリスペ。
よりにもよってシラカワさんを怒らせてしまったためOGでも死亡フラグビンビンですが彼らが救われる時空があってもいいんじゃないか的な話です。
キャリコさんは無自覚にスペクトラさんの乙女回路を暴走させる朴念仁だと思っています!

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