少女の夢=青年の非常識
紅茶の良し悪しは、カーラにはわからない。
ただ、それを語るユウキがとても輝いて見えた。
何を言っているかはわからない。ユウキにとっては大事なことなのであろうということだけがわかる。
――こんなアタシ相手に語っててユウは楽しいのかな?
そんな思考がよぎったりもする。
それでも茶葉が入る度に丁寧にカーラの分まで淹れて薀蓄を語ってくれるのが、とても嬉しかった。
だから。
「レーツェルさん、忙しいのはわかっているんだけど……」
カーラの申し出にレーツェルは口角を上げた。
少女の願いは茶菓子の作り方を知りたいという歳相応のもので、その理由も容易く想像がつく。
「君はどれくらい料理が出来る?」
「えっと……全然」
表情豊かな彼女は微笑ましさを感じるほど極端に沈んで見せた。
「ティータイムも普段の食事あってこその嗜み……君には茶菓子だけと言わず料理全般を教えよう」
「え、めんど、じゃなかった! レーツェルさん忙しいのにいいの!?」
「今でこそこのクロガネが君たちの家だが、いつか平和な世が訪れれば外で暮らすことになる。その時君はどうしたい?」
褐色の肌が微かに紅潮する。
暫しの沈黙の後、決心したかのようにカーラは頷く。
「うん、めんどいなんて言ってられないね。レーツェルさん、アタシ料理を習いたい!」
「それでこそだ。幸いクルトをはじめとして優秀なクルーが揃っている。私が少しばかり席を外す時間が増えた所で何が起こる訳でもない」
ユウキは混乱していた。
異形のモノと遭遇したかそれ以上に平静を失って艦内を逡巡している。
「ユウキ、どうしましたの?」
後ろから問いかける人間ならざる少女が原因というわけでもない。
「お前には関係ない」
「そういう素っ気ない所、嫌いじゃないですの。カーラは今秘密の特訓中ですのよ」
「!? い、いや、別にアイツを探していたとかそういう訳では……」
アルフィミィと共に現れたアクセルは鼻で笑う。
「ティータイムを忘れるくらいの用事か?」
「……ティータイムだからこそ、だ。折角艦長がいい茶葉を仕入れてくれたというのに……」
「そういえばユウキは紅茶に拘りがあるんだっけ。チェーン店でバイトしたことはあるけど本物ってのを俺も一度味わってみたいなぁ」
同行していたトウマが何気なく言うとユウキも表面上は平静を取り戻す。
「ならば俺が本物を淹れてやろう」
「私もご一緒させて欲しいですの。アクセルも来ますわよね?」
「勝手に決めるな。だが悪い気はしない」
豊かな香りの後に舌で実際に味わう。
「なるほど、よくわかんねーけど本物ってやっぱ違うな! で、何でユウキはあんな慌ててたんだ?」
「そこで蒸し返しますのね。ミナキを振り返らせるのはずっと先になりそうですの」
「な、何でそこでミナキのことが出てくるんだよ!」
「こいつの言うことは放っておけ。そして無闇に他人が首を突っ込むものでもない、これがな」
ユウキは無言でカップに口を付ける。
だが味わう余地もなくそれを置いた。
「アルフィミィ、カーラの秘密の特訓というのは何だ」
「秘密は秘密ですの。女の約束は堅いんですの」
「ここ数日あいつの姿を見ていない。クロガネの外に出たはずもない、そしてあいつのいるところなどだいたい決まっている」
「成程、カーラのことか! 確かに俺たちも秘密にしといてくれって言われたなぁ」
「完全に盲点というわけだ、これがな」
「盲点、だと?」
思考を巡らせたところで中断させるべくドアの開閉音がした。
「ユーーーーウーーーー」
そして探し人は、あっさりその姿を現した。
「あ、皆もいるんだ。ちょうどよかった! お茶菓子作ってきたんだよ! ティータイムに間に合ったみたいでよかった!」
「茶菓子……だと?」
そして結びつく。
確かに盲点だった。厨房という場所は。
「お前は、茶菓子のために、ここ数日……」
「あ、お茶菓子だけじゃなくて色々料理教わってたんだよ! これからも特訓は続くけど、折角いいお茶が入ったタイミング逃したくなくってさ」
「うふふ、ユウキの慌てっぷり見せてあげたかったですの」
「え、ユウが何で慌ててたの? 何か非常識なモノでも見た?」
非常識だ、と思わず言いそうになった。
しかしそれをグッと堪えた。
いくら照れ隠しとは言えパートナーの努力を否定はしたくなかった。
「遅いぞ、カーラ。折角の紅茶が冷めてしまった」
「えー、そうなのー!?」
「だがちょうどいい。お前の分も淹れねばならんだろう。出来たての茶菓子と共に味わおうではないか」
「やったあ! ユウ、今回のお茶ってどういうお茶なの?」
「知らずに作っていたのか、非常識な。茶菓子にも紅茶の種類との相性がある。今回は……」
語り合う2人を眺めながら種類は違えど3人は笑みを浮かべた。
「アツいねー。俺もミナキとああなりたいなー」
「下らん」
「そう言いながらアクセルもちょっと楽しそうですの」
スパロボワンライお題『リルカーラ・ボーグナイン』なので直球でユウカーラです。
ユウカーラ好きなのに何気に書いたことなかった……なんでじゃろ。