世界は小さく果てしなく

つまらぬ情けをかけられた。
世界は変わらなければならない。我々のような選ばれた者によって。
ニュータイプや仮面ライダー、ウルトラ族という力があれば理解できそうなもの。
このままでは、未来などない。あの甘い連中に世界の未来が背負えるものか。
あの様子ではそれよりも、別の真実の方が重いかもしれないが。
そして気付いた。アポロン総統も、紛れもなく“ゼウス”であることに。
計画が立ち上がった時は違った。
情け深く、しかし時に冷酷に謀略も粛清も躊躇わぬ姿勢。
そこに私情の介入する余地はなく、崇高と言えた。
事故で行方不明になった時は流石にどうなるかと思ったが、更なる力を得て戻ってきた。
ゼウスの力量も行動原理も、よく理解していた。
ただし、奴らに引き金が引けないという添え物つき。
本当はあの場で殺すつもりだったと悔恨して心変わりをしたようだが、如何なるものか。

戦う力を失っては如何ともし難く、ふらりと外を目指す。
シロッコが振り向いて嘲った。
「シャドームーンよ、貴様も敗れたか……よもや手心など加えたのではあるまいな」
「戯言を。私は創世王、シャドームーン。私に過去などない」
第一、先に敗れた者には言われたくないものだ。
ヤプールは死んだらしい。
この2人は私と違い情けをかけられるよしみもない。運が良かったか、悪かったかだ。
「フン、してこの後どうする」
「どうする、とは?」
「……陛下は敗れる。ゼウス……忌々しいイレギュラーめが!」
同じことを考えていたようだ。
「今更本気になった所でもう遅い。奴らは力をつけすぎた……もっと早く始末しておくべきだったのだ」
「ゼウスの者どもを……陛下も含めてか?」
「強化手術やそれも検討に入れるべきだったな」
「今更手遅れだ」
この世界が実験室のフラスコだというなら、実験者は素晴らしい采配をする。
このような未来を誰が予知、または予期しようというのか。
変わってしまったのだ。何もかもが。
「……この世界そのものがいつまで続くかはともかく、少なくとも連中に付き合ってここで死ぬ気はない。私は脱出する。貴様はどうする?」
「…………雪辱を晴らす。情けをかけたことをブラックサンたちに後悔させてやる……!」
感情に流されるのは、我々も同じかも知れない。

シロッコと別れ、見てまわったところ、どうも既に脱出した者が多いらしく、要塞内は異様に静かだった。
ふと気付くと、場違いな看護婦姿の女が倒れていた。
ここにいるのは強化人間や改造人間、宇宙人ばかりだ。治療をする者にしてもこんな姿はしていない。
ゼウスに協力するレジスタンス、という所か。
おおかた戦う力もないのに出しゃばって巻き込まれ、負傷したのだろう。
「……この世界に歴史が残っていくとするなら、貴様はその証人として極めて貴重な存在となるのだろうな」
気絶しているだけで、まだ息があるのを確かめた。
これも如何なる気紛れか――――

************

――――私は気付くと、自分の職場のベッドに寝ていた。
ヘリオス要塞の外に倒れていたのだという。
誰が私を助けてくれたのかは知らないが、負傷は軽く、すぐに原職復帰できた。
ただ朦朧とした意識の中で、歴史の証人だとかなんとか聞いた気がする。
歴史、か。
あの要塞も、独裁者アポロンも消えた。ネオ・アクシズは事実上崩壊したことになる。
残り火はゼウスや他所の軍がどうにかしてくれるだろう。
でもそれで何かが変わるのだろうか。
どうなるかはわからないけれど、また新しい政府が出来て、政治家たちが色々策略を練って、といったところじゃないのか。
勿論あのアポロンの政策よりは良くなるだろうけれど。
彼が仮面の下で何を考えていたかは知らない。心がない機械のようなものじゃなかったのかとさえ思う。
ただ1つ確実に言えることは、あの人は間違っていたということ。
そんなことを考えながら、私に礼をしにきたゼウスの青年にこちらこそ、と返した。
そこに駆け寄ってくる女の子が2人。
「シーブック!」
「お兄ちゃん!」
「セシリー、リィズ、無事だったのか!」
恋人と妹、か。
私の恋人は死んだのに、というドラマとかでありがちな憎しみは湧いてこなかった。
自分でも不思議だけれど、諦めに近い感情しかなかった。
終わったのだ。戦争も、私の復讐も。
ゼウスの支援をするというほんの些細な、自己満足にしか過ぎないかもしれない復讐だけれど。
「本当にありがとうございます……僕は何の役にも立てなかったけれど」
「いえ、出来る限りのことをしただけだと思います。私もあなたも……それではお元気で」
少なくとも、これ以上私や私の恋人のような犠牲は出ない。これだけは確かだ。
何も変わらないかもしれない。変わるかもしれない。
歴史の証人なんて大それたものになるつもりはないけれど、私が見たものは何らかの形で残しておきたいと思う。
そして、彼が愛してくれた命を救う看護婦として、何で拾ったかもわからない残りの人生を歩み、この先を見届けていこう――――

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――――看護婦さんの笑顔に見送られて、僕たちは病院を後にした。
あの人の恋人は無理矢理徴兵された挙句、ロクな訓練も受けず、前線に送られて戦死したのだという。
僕は望んで参加したけれど、生き残れたのは機体の性能と、ちょっとした勘と運のおかげ。それに最終決戦には参加していない。
世の中不公平だって改めて思う。
「コスモバビロニアの被害はサナリィの工場だけで済んだのか?」
「ええ。小さい国だから無視されていたみたい」
「そこからゼウスが入り込んだ……ネオ・アクシズもでかかったのに、そういう所から崩れるんだな」
旧アクシズも、ジオンも、大掛かりな戦争をするわけでもなく、些細な所から崩されていった。
それをやってきたアポロンが同じように、というのも皮肉だ。
力は心を歪めエゴを増大させていく。
僕だって、一歩間違えれば。
「リィズ、何が食べたい? セシリーのパンに合いそうな奴だったら何でもいいぞ」
「ちょっと、何で私がパンを焼くことになってるの?」
「そうよ。ストレス解消に焼く必要なくなったんだからしばらく休ませてあげたら、お兄ちゃん」
「もう、リィズ!」
だから、セシリーもリィズも、他の皆も無事なこの小さな幸せと、影で奪われたそういう輝きを忘れずにいきたい。
実際僕だって父さんを亡くしたんだ。大変なのは、これからだ。
そんなことを考えながら一歩一歩帰路を歩んでいくと、何か争う声が聞こえてきた。
「だからニャんでライダー大陸に行こうとしているのにアバオアクー市の辺りをさまよっているんニャ!」
「だってこの地図わかりにくいんだよ!」
「ルートがあるからフツーは迷わニャいわよ……」
「あの、マサキさん?」
僕の代わりにアポロンたちとの最終決戦で戦った、サイバスターとかいう不思議なロボットのパイロット。
喋る猫とか連れているし何かどこかで会った気がしたり、謎は多いけど、少なくとも歳は同じくらいだ。
「あ、シーブック、だっけ? 悪かったな、この前は見せ場取っちまってよ」
「いいんです。僕も手柄や名声が欲しくて戦ったわけじゃないですから」
「だよな! あんたたちが後ろで抑えてくれたお陰で俺たちはおもいっきり戦えた。礼を言うぜ」
わだかまりがないわけじゃないけど、その笑顔でだいぶ救われた。
「そっちにいるのはいわゆるコレと妹か?」
「マサキ、小指を立てるのは古いニャ」
「るせぇ」
僕とセシリーは顔を見合わせて苦笑いした。
多分、ちょっと赤くなっていたと思う。
「大事にしてやれよ? 特に妹。悲しませるような真似したら許さねぇから」
「あ、ありがとう、えっと……マサキさん!」
リィズが笑うと、少し照れくさそうにしていた。
やっぱりこの人にも家族とかいるんだろうな。
その辺りは皆、変わらないんだ。
ニュータイプも、改造人間も、宇宙人も、普通の人間も。
「ところで道に迷ったって言ってましたけど」
「おう。リド市に行こうと思ってな。けどどこがどこに繋がってるんだかわからないんだよ」
普通わかりそうな気がするけど、そういえば桁違いの方向音痴だって聞いた気もする。
それにルートが復旧できていない所も多いから、確かにちょっと複雑かもしれない。
教えてあげると、礼を言われ、そして別れた。
でも何だか、また会える気がした。
根拠はないけれど、ニュータイプの勘って奴かもしれない。
「それにしても、本当にお疲れ、シーブック。もう戦わなくていいんでしょう?」
「いや、悪いけどまだゼウスとして働くつもりなんだ。大きな活動は止まったけどやっぱ燻っているから……出来るだけのことはやろうと思うんだ、僕も」
「……無事帰ってきてね、お兄ちゃん」
「当たり前だろ? 一番守りたい相手守れなかったらどうしようもないじゃないか」
「私とリィズ、どっち?」
「やなこと聞くなぁ。だから女って奴は」
「男女差別はんたーい!!」
でも、しばらくはゆっくり休もうと思う。それくらいは、いいと思うんだ。
そして皆、戦争には疲れている。だからきっとこの先うまくいく。
これはきっと、ニュータイプじゃなくてもそう考えるはずだ――――

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――――シュウの野郎は今度はリド市のあたりをうろついているっていう噂を聞いた。
ゼウスの奴らに力を貸したそうだが、何考えてんだかわかったもんじゃねぇ。
その内容ときたら鍵を奪うためにあのマのおっさんを催眠術で廃人にしちまったって話じゃねぇか。
やっぱりあいつは放っておく訳にはいかない。
けど、罠にかかって転送装置を奪われたり落とし穴にハマったりしたってのも聞いた。ザマぁ見ろ。
まあ俺も例によって迷って、シーブックに道を教えてもらう羽目になったんだが。
俺が迷い続けて戦いすぎて強くなりすぎたせいで、それで身を引いた奴。
いい奴だった。ちょっと悪いことをしたかもしれない。妹想いみたいだったし。
プレシア、元気にしてっかな。
シュウの野郎をブチのめしたら、一緒にゼオルートのおっさんの墓参りに行こうかと思う。
「……マサキ、ここライダー大陸じゃニャくてウルトラ大陸よ」
「何ぃ!?」
「ラベル市ニャ。全く、ニャにやってんだか」
シーブックのせい……じゃないよな、多分。つか絶対。
まあまた誰かに聞くとするか。
街角のテレビでは、ゼウスの連中が色々言っている。
政府関係やマスコミ連中が好きなように編集しているんだろうが、少なくとも自分のペースを保ちながら協力しあう、って主張は曲げられていないようだ。
そして編集以前に、最終決戦に参加した奴しか知らない事実がある。
ネオ・アクシズの統率者、仮面の男アポロンは、元はゼウスのメンバーだったということだ。
そいつ、ギリアム・イェーガーのことは俺もゼウスの連中から聞いたことがある。
ぶっきらぼうだが優しくて、そしてかなり不器用な奴だったと。
シュウの奴の変わり身っぷりとアポロンの実際の施策を見ると、実際の所はどうだか怪しいもんだと思う。
ただ、ゼウスに甘かったのは事実で、世界がヤバかったのも確かで、そして本当にあいつらがこの結末を認めているのかは少し気になる。
俺は強く口止めされた。
ギリアムの名を捨て、実際に死んだということにした、その意思を汲んでやりたい、と。
実際アポロンの言葉はシデン・レポートと呼ばれる記事をはじめ、色々な形で伝わっているが、その正体は誰にも明かされていない。
テレビの中ではちょうどそれにツッコまれていた。
「……仮面の下にいたのは、妄執に取り付かれた、けれどそう変わった所のない人間だった。誰もが“アポロン”になる可能性がある……僕らはそう考えています」
ああ、実際そうなんだろうな。
けど何というか、バカだよなぁ。ゼウスの奴らも、あのギリアムも、そして俺も。
他にどうにか出来たかもしれないっつーのに。
けれども、どうにも出来なかった……あの時も、そして今回も。
だが、後悔しても仕方ない。
とりあえず俺が今やるべきことはシュウの野郎を止めることだ。
そう決意を新たにした所で、のんきな声がして振り返った。
「あれ? マサキさん、でしたっけ?」
「っと……東の方の光太郎だっけか? ウルトラマンタロウの」
「タロウでいいですよ。面倒なんで」
渡りに舟、と言いたいけどこのぼうっとした奴で大丈夫なのか?
「人のこと言えニャいニャ」
「るせぇ」
「??? まあまあとりあえず、本部でお茶でもどうですか? お茶が怖いなら残念ですけど」
「お前、それ逆の意味だぞ」
「はあ、そうですか」
本当に大丈夫かコイツ。
まあちょっと疲れたしプラーナ補給といくか。

バベル市中央のビルの割と上の方に案内された。
「エース兄さん、ミルクってどこでしったっけ」
「バカ! 民間人の前で……あー……」
苦労してそうだなー。
タロウも、シロやクロにも出そうとするあたり律儀なんだが。
事情を知っていることを話すとほうっとため息をついたが、まだ微妙に納得が行っていないようだ。まあそりゃそうだ。
「だいたいそうやって慌てるから怪しくなるのよ、星司さん」
「甘い! タロウ、この際厳しく言っておくが……」
ヤンロンほどじゃないが長くなりそうだ。
やっぱ間違っていたような気がする。
「あのさ、お話の最中すまねぇが、俺一応急いでんだ。リド市への道を教えてくれないか?」
「何? ああ、すまないな。早く言ってくれれば良かったのに」
それぞれの街の全容も載った細かい地図を渡してしっかり説明してくれた。
「そこまでしても迷う気がするけどニャ」
「ないよりゃマシだ。ありがとな、エースさんよ。タロウも茶、ごちそうさん。兄弟仲良くしろよ!」
「じゃーニャ。ミルクうまかったニャ」
落ち着いて見渡すと、ラベル市では世界の情勢の他に、復活した怪獣博物館の話題でも盛り上がっていた。
世の中、そんなもんなのかもしれない。
実際昔テロリストに家族を殺された俺も、戦いつつも割り切って、こうしてのんびりすることもある。
アポロン――ギリアムが最期に見た未来は希望に満ちていたと言っていた。
その予知がどこまで当たっているかはわからないが、少なくともシュウの野郎にその未来をぶっ潰されるのはゴメンだ。
別にこの世界には愛着はないし、シュウの目的はわからないが、それでもこの日常が続くといいと強く感じた――――

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――――マサキという青年が去ったので、遠慮なくタロウへの説教を再開した。
「もう勘弁してくださいよう、兄さん」
「いーや、お前は末っ子だからって甘やかされすぎなんだ」
「夕子姉さーん、星司兄さんが意地悪言うんですよー」
「こんな時だけ人間名を使うな!」
こいつも実力はあるんだが、すぐサボろうとしたり甘えたりするのが欠点だ。
僕もセブン兄さんのように軽く受け流せれば良かったんだが。
「光太郎君、あんまり星司さんを困らせてはいけないわ。それにあなたも取材があるんじゃなかったの?」
「わかってます。皆が普通に怒って笑って、泣いてワガママ言ったり出来る世界、欲しいですから……じゃ、行ってきます」
「お前はワガママを言いすぎだ」
心のこもっていない謝罪をしながら会見にいくタロウを見て、軽くため息をついた。
申し訳程度に立っていた湯気がかすかに揺れる。
「真面目なのはいいけれど、少し厳しいんじゃないかしら?」
「ああ、わかっている。あいつもあの戦いを経て成長したしな」
「なら何故?」
「油断は禁物、ってことさ」
実力はあるが頼りなかったあいつだが、だいぶ凛々しい顔をするようになった。
それでもやはり甘えた所がある。
ウルトラの父や母も最近は突き放すこともあるようだが。
「ふふ、何だかんだ言って結局は光太郎君が心配、ってことでしょう?」
やはり夕子にはお見通し、か。
まあな、と短く答えて窓を開け街を見下ろした。
この高い塔からは人や建物がやけに小さく見える。
時の静止した遥か高い要塞から街を見下ろしていたアポロンには尚更で、確かに実験動物にも見えたのだろう。

『この世界は人為的に作られた歪んだ世界である』

アポロンのその言葉の真偽を確かめるのは、僕たちには到底不可能だ。
そしてシデン・レポートの締めくくりの言葉のように、僕たちはここで生き、未来を作っていく。それだけは誰にも否定させない。
その時眼下にふと場違いな黒尽くめのテンガロンハットとスーツの男が映った。
が、注視しようとした時には彼は消えていた。
「星司さん、今度はどうしたの?」
「いや……」
格好だけでなくどことなく人の関心を惹く雰囲気を持っていたが、気にすることでもないか。
そしてその印象を消すため、という訳でもないが話題を変えた。
「……結局あの戦争は何だったんだろうな」
街は何事もなかったかのように明るさを取り戻している。
ウルトラ大陸は全体的に直接被害が少なく、戦時中もそれほど深刻ではなかったが。
この街は被害が怪獣博物館くらいで済んだし、きっとそれは喜ぶべきなのだろう。
だが、その裏に未だ影が潜んでいるというのも事実だ。
特別なことではなく、誰もが持つもの。
アポロンやヤプールはそれを利用して、戦争を引き起こした。
「もっと信じあうことが出来れば、ここまではならなかったと思うんだ」
「確かに。その意味では皆が望み、起こるべくして起きた戦争と言えるわね」
窓際を離れ再び腰かける。茶はすっかりぬるくなっていた。
「だからといって、アポロンやヤプールたちを肯定する訳にはいかない。元々持っていた、他人を信じる心まで奪ってしまったのだから」
確かに色々なことが起きるだろう。
酷く裏切られることもあるだろう。
それでも信じることを諦めてほしくない。
「そうね。だから頑張りましょう、星司さん。皆が信じあえるように。エルピスがその名の通り希望に溢れた星になるように」
「そうだな、夕子。これから復興支援も行わなければならないしな」
「じゃあ最初は光太郎君を信じてあげることね」
くすくす笑う夕子にまた僕は呆気に取られた
「信じていない訳じゃないと言っているだろう? まったく……」
「冗談よ。私も力になるから」
夕子の笑顔は月のように静かに輝いていた――――

************

――――宅急便の男は俺の目の前で一瞬でその姿を転じた。
「あんたの渡し方は悪くない。だが、世界じゃあ二番目だ」
「ほう……ならば一番は誰なんだ?」
男は口笛を鳴らし自分を指差す。
まあ、そんな所だろうと思っていたが。
「宅急便など使わず黙ってカードとプレゼントだけ置いていけばいい」
「次はそうするさ」
次なんてあるかはわからないが。
彼女は特別なケースだ。
ある意味始まりとなったあの少女、そしてぬいぐるみ。
だからこそ最初に成すべきはこれだと思った。
男はそのまま調子外れの歌を歌いながら去ろうとする。
「次はどこへいくつもりなんだ?」
「さて、な……あの風にでも聞いてくれ。あんたこそどうする?」
「人の事情に興味はなかったんじゃなかったのか?」
軽く帽子を弾いて笑う。
「聞きたくなったからだ」
非常に優秀なこの男。
偶然か必然か、とにかく出会った彼に宅配を頼むことにした。
徹底した個人主義で、面倒がなさそうだと思ったのだがどうにも気紛れらしい。
「フッ……あの太陽にでも聞いてくれ」
本当に行く宛てのない俺は真似してそう言ったが、彼は満足げに口の端を歪めた。
そしてまた歌いながら、振り返ることもなくその姿を消した。
何処へ行こうか。
本当に太陽にでも聞こうかとも思うくらい、俺自身の行く先は全く見えない。

ゼウスの皆を逃がそうと必死だった。
それ以外のことを考える余裕などなく。
そして気付けば俺はヘリオス要塞の外にいた。
ご丁寧にパイロット保護モードが起動したゲシュペンストのコックピットの中に、だ。
間違ってはいない。俺もかつてはゼウスに所属していたのだから。
間違ってはいないが、無意識とはいえ酷い理屈だ。
自己意思でこの世界の武力統一を行おうとした俺にだけは、それを言う資格はないだろうが。
自ら命を絶とうとも考えたが、光太郎の言葉がそれを押しとどめる。
『生きて償うのがお前のやるべきことだ』
償い。
何をすれば償いになるのだろう。
俺の犯した罪は大きすぎて、何をしたところで赦されるものとは思えなかった。
自首は得策ではない。
そうした所で被害者の溜飲が下がるはずもなく、更にようやく立ち直ろうとしている世界を再び混乱に陥れることになる。
ゼウスが2つに割れて戦っていただけ、とも受け止められかねない。
彼らは英雄であり希望でなければならないのだ。
その存在を支えに、これからの世界は動いていくのだから。
彼らの所へは今のところは戻れない。
俺は図々しくも甘えてしまうだろうから。
彼らも俺には甘くなってしまうだろう。怒りと喜びを露にしながら。
今回のようにひとりひとりの所へ廻ることも出来ない。
それをするには俺のもたらした被害は大きすぎた。
そして、例えばその中のひとりが怒りに任せて俺を殺したとする。
では、その後そのもとに向かうはずだった相手はどうなるのか。
考えれば考えるほど自縄自縛に陥っていく。

郊外で芝生に転がり空を見る。
小さな空。小さな世界。
濁り混じってくすみ澱み、0と1の集合体にしか見えなかったような、その行く末。
だが今の俺には、その天上が思いがけず輝いて見えた。
様々な光が混ざり合い作り上げた果てしない青。
確かに感じていた。きっとこの空は変わらないことを。
そこに響く笑い声も朗らかであることを。
願望だか予知だかわからない。
俺自身のとるべき道もわからない。
だが、元々俺は何もわかっていなかったのだ。わかっているような気になっていただけで。
探すとしよう。行くべき道、罪を償う方法、俺自身の未来。
真実というものが何処に在るかはともかく、俺はまだ存在しているのだから。

ふと耳に届いた話し声。
街に爆弾を仕掛けるという物騒な話題。
変わらない奴もやはりいるんだな、と思いながらその連中の前に姿を現した。
狼狽しながら俺が何者かを問いかけてきた。
「問われて名乗るのも何だが…………ゼウスの者だ」
その言葉が真っ直ぐ出たのに俺自身も戸惑った。
俺がゼウスの名を騙っていいものか。
俺はアポロン。
そして同時に、ゼウスのギリアム・イェーガー……それでいいのか?
しかしこの状況だ。
赦されなくともいい。だが、これくらいのことはさせて欲しい。
仕方のないことだとは言わないが。それでも。
いくつもの答えのない問いを心中で繰り返しながら敵の武装と攻撃の意思を確認し、こちらも転送装置を構える。

俺は、こういうのは嫌いじゃないんだ。
「コール・ゲシュペンスト!!」

 

ヒーロー戦記やった人なら誰もが考えるであろうヒューイのおともだちその他諸々のお話……なのに今までなかったんだよな。
私自身はWikiペでの記述とは逆に、OG2まであれを贈ったのはゼウスのメンバーでありギリアムではないと考えていました。
OG2ではじめてシステムXNで贈ったのかな、とか考えました。
でもやっぱりOG設定とは別に、色々考えてみたくなったのです。おともだちは凄くおまけ的な扱いになりましたが。
本編EDでスポットが当たらなかった人を書いてみましたが(風見先輩は別・笑)どうでしょうか?
セシリーとリィズは本編には出てきません(シーブックの両親は言及されます)が、やっぱりいるだろうし出したかったので。
ギリアムを除けば一番書きたかった人たちかな? その次は……誰でしょうねw多分皆です。
セシリーは多分この世界では貴族関係なしの普通の女の子かと。
夕子はウルトラ族だけど変身できないか、既に北斗と結婚しているかw

テキストのコピーはできません。