これは、嘘なんです

3月31日。特にそれといった敵が来る様子もなく、フリーデンは通常の航行を続けていた。
「そういえば戦前って、4月1日は嘘をついても許される日だったらしいわよ」
「平和な時代ならでは、ですね」
「……不潔だわ」
「飽くまで他愛のない嘘なら、だ」
ブリッジクルーたちはレーダーや視界に気を配りつつも雑談をする。
「でも、折角だから男連中でも騙そうかな。特にウィッツとか単純だし! ガロードはティファに譲ってあげる」
「えっ……?」
隅の方で大人しくしていたティファだが、急に話を振られてびくりとなる。
「余計なことを教えるな」
「女の子なんだもの。可愛い嘘の1つでも言えるようにならないと」
「……私は、嘘は嫌いです」
「まあ、そうか。サラは?」
「聞くまでもないわ」
そう言いながら、どんな嘘ならジャミルは喜ぶだろうとふと考える。
しかしお互い堅い人間だから、それは難しいだろうと思い直した。
ロアビィは喜ぶだろうけれども。

その晩、ティファは夢を見た。
――この荒廃した大地にある、花畑の夢。
目が覚めても、はっきりと覚えている。
どこにあるかもわかる。そして直接見たいと思った。
しかし、これはニュータイプには関係ない。
ティファの個人的な願望。
ジャミルなら応えてくれるだろうとは思う。
しかしそのために艦の皆を振り回してはならないのもわかっていた。
結局、いつものように絵に表すことにした。
少しは気が紛れる。

「綺麗な花だな」
急に声をかけられてどきりとする。
ガロードがいつものように笑っていた。
「今度の行き先か?」
「ううん……そうだったらいいなって思っただけ」
口ごもりながら、夢の話をした。
「行けばいいじゃんか。見たいんだろ? そう遠くないみたいだし」
「ダメ……皆に迷惑かけられない」
「ちょっと抜け出すくらいいいって! 俺が無理矢理連れ出したことにするから、行こうぜ!!」
答えを聞かず、手を握って格納庫まで引っ張っていく。

「おい、どこ行く気だガロード!!」
「へへっ、ちょっと散歩にな! ティファを連れて!」
「おーおー、やるねぇ、ナイト君は」
「壊すなよー……って、ジャミルの許可は!?」
「んなもん知るかぁ!!」
「そりゃ不味いでしょ!? 俺たちのお仕事増やす気か!?」
ウィッツとロアビィとキッドの制止を振り切り、GXを発進させる。

「……いいんでしょうか」
「いいんだよ。俺だって見たいからな、花畑。この辺りと来たら、どこもかしこも岩だらけでさ」
昔に比べれば自然は戻ってきたが、元々寒い地方のためか花には少々縁遠い。
街から街へMS狩りをしながら渡り歩いてきたガロードと、研究所育ちのティファなら余計に。
だから、とても楽しみだった。
2人きりの冒険、というのにも勿論心が躍らないわけがないが、純粋に花畑が見たかった。
空を飛びながら胸を高まらせる。

しかし、ティファが示した場所にそんなものはなかった。
ただ伸びきった雑草と岩があるばかり。
「……………………!!」
「あっれー? おかしいなぁ。ま、ちょっとずれたんだろ。きっとどこかにあるはずだ!」
花を求めて低空飛行を続ける。
見逃さないよう、真直ぐ見つめて。
ティファは胸が締め付けられるようだった。

しばらくして、呟いた。

「……もういいわ、ガロード」
「大丈夫さ。折角来たんだし、ティファが夢で見たんなら絶対あるって!」
「これは…………これは、嘘なんです……!!」
思わず目をつぶり、振り絞るように叫んだ。
「嘘って……」
「トニヤが言っていたの……今日は嘘をついてもいい日なんだって……だから私、あなたを……困らせてみたく」
「それこそ嘘だろ」
消え入りそうなティファの声を遮って、ガロードが言い切った。
閉じていた目を見開く。
「ティファが嘘つくの嫌いなの知ってるよ。それに嘘を言っている風に見えなかった。だから、俺はティファを信じる! 行くぜGX! もう一頑張りだ!!」
「ガロード……」
手を握り頷く。
そして、本当にあればいいと思った。
ニュータイプの夢は現実を予知したものであるとか、そういうものは関係ない。
ただ、夢見る少年と少女として。

「あった! あれだろ!!」

ガロードが叫び、ティファも思わず身を乗り出す。
それは花畑というには少し寂しい、白い小さな花の群生地。
しかしティファが見て求めたのは、まさしくそれだった。
機体を少し離れた所に置いて2人で降り立つ。
「きれい……」
「小さくて大人しい……まるでティファみたいだ、ってぇ……」
赤くなって鼻をこすり照れくさそうに笑う。
「似合わねぇ台詞言っちゃったな」
「ううん、嬉しい……」
屈んで指先で静かに触れる。
揺れた花は、微かに香りを放っていた。
「…………皆が心配している。戻らなくちゃ」
「そうだな。1本だけ摘んでいくか。このままにしておいた方がいいけど、折角見つけたんだし」
言って取った花を、ティファの髪に挿した。
「んにしても、やっぱり大目玉かな? ま、いいけどな」

「ガロード、どういうつもりだ!」
そして予想通り、ジャミルが待ち構えていた。
「ティファを散歩に連れてったんだよ。言っとくけど、悪いのは俺で、ティファじゃないから」
「いえ、私が……」
「いーや、俺だ!」
「とにかく、この事態を見逃すわけには行かない!」
「お待ち下さい、キャプテン。ニュータイプの保護を目的とするなら、その心のケアも重要では?」
「む……?」
いつもなら真っ先に同意しそうなサラがそう言ったので、ジャミルは少し戸惑った。
そして彼の本音もそうだったのだが、今回は艦長として、皆のためを思って言ったというのに。
「ま、敵さんたちも来なかったしいいんじゃないか?」
「それに今日はエイプリルフール……そしてまだ12時を回ってはいない。だから、これくらいの嘘は許されて然るべきだと思うがね」
「? どういうことだ、ドクター?」
「正確には、嘘を言っていいのは午前中だけなんだ。そして午後になったら謝る……これがエイプリルフールの正しい楽しみ方というものだ」
「……そうだな。しかし今後は勝手な行動は慎むんだ」
「わーってるよ」
ジャミルの口元が笑っていたのに、ガロードは気付かなかった。
「それにしても可愛いわねぇ。そのままも似合うけど、ティファの部屋に飾ろうか!」
「はい……それにしてもこれ、何て花なんですか?」
テクスが微笑んで答える。
「カスミソウ……花言葉は『清い心』だ」

 

エイプリルフールでガンダムXガロティファ!! ずっと書きたかったんだ、本当に! そして珍しく原作世界です。
花を摘むのも原作でありましたがとりあえず……タイトルはこうするのはお約束ですよね(笑)
本当に大好きですGX。α外伝で惚れてティファフラグ立てて使いまくったよ。
ガロティファだけでなく皆素敵。メカも素敵。フリーデンの皆さんしか書けませんでしたが。
カスミソウは4月1日の誕生花。何となく調べましたがティファに、そしてガロードにピッタリで嬉しかった!

 

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