ギリアム少佐はアイドルの追っかけが恋人にバレたようです
――ギリアムの音楽の趣味が変わった。
彼の好きな音楽と言えばジャズにクラシック、たまにリュウセイが目を輝かせるアニメだか特撮だかの曲、だったはずだ。
『お願い! シンデレラ 夢は夢で終われない 叶えるよ 星に願いをかけたなら』
移動中の情報部の偽装トラックの中ではアイドルソングが流れている。
光次郎の趣味かとも思った。しかし良く見れば車に繋いであるのはギリアムの私用Dコンだ。
「少佐、この曲は?」
「シンデレラガールズの『お願い!シンデレラ』だな」
「光ちゃんバージョンヘビロテしまくってましたもんね、少佐」
当然のように返されて当然のように怜次が乗ってきた。
「ダメです少佐、先輩! ヴィレッタ大尉に14歳のアイドルの追っかけやってるなんて言ったら誤解を受けますよ」
「『光ちゃん』は14歳なのね……なるほど」
シンデレラガールズ。名前くらいは耳にしたことがある。昨今多い総人数100人を超えるアイドルプロジェクトだ。
しかも曲を聴くだけでなく1人の『推し』がいて追っかけをやるほどとは。
「誤解を受けることもやましいこともないさ。俺は南条光という偶像を崇拝している。その気持ちに一点も不純な点はない」
断言された。
こうも堂々と言われると嘴の挟みようがない。
「その……南条光のどういう所が好きなの?」
「彼女は特撮のヒーローに憧れている。自分も斯くありたいと願い、その想いをアイドルの活動で実現させようとしている。彼女を見ていると思うんだ。そういう想いを俺も持っていていいんだって」
「リュウセイみたいなことを言うのね」
やり取りをしながら手元の端末で『南条光』を検索する。
南条光、14歳。身長140cm体重41kg――思わず自分の体重を振り返った。やはり自分は軽すぎるのではなかろうか?
初仕事のヒーローショーのお姉さんとしてのアドリブが一部で話題を呼び、その『特撮ヒーロー好き』のキャラと真っ直ぐな瞳で総選挙の票を獲得し特別講演『Trust me』で躍進、とある。
写真も出てきた。成程、鋼龍戦隊にもこれくらいの歳の少女はいるが少しタイプが違う。
シンデレラガールズの流儀に従うならラトゥーニは『クール』だしシャイン王女は『キュート』だろう。
「でも彼女も成長する。そのキャラを保てるかわからないし恋人だって出来るかも」
「うおおおお、ヴィレッタ大尉がコワイ!」
「先輩、茶化しちゃダメなタイミングです! これはいわゆる修羅場ですよ!」
――純粋にアイドルのファン活動をしているのだろうがそれはそれで知らない一面があったということが腹立たしい。
おまけにたかが14歳の少女を神格化しているというのがある意味ロリコンを告白されるより悔しい。
あなただって私の『ヒーロー』なのよ?
「ああ、それはいいな」
光次郎の茶化しもサイカのとりなしも、そして私の怒りも受け流して彼はさらりと笑う。
「君は知らないだろうがどんなヒーロー番組も最終回があるんだ。沢山の人を救ったあと一人の女性としての幸せな日常に帰っていくというのが南条光というヒーローの最後なら……それは本当に喜ばしいことだな」
端末を操作して曲を変える。
これまでとは違うロック調のラップ。でもわかる。これもシンデレラガールズの曲だと。
――南条光という偶像を通してあなたは誰かを見ている。
その人(たち?)はテレビの中のヒーローのように、輝いていて、とても遠い人。
それが何となくわかっていたから、そして確信に変わったから、あなたの笑顔を直視できない――
「ふふっ、追っかけの鏡ね」
「修羅場セーフ! 良かった大尉が大人で!」
「思わずブレーキを踏みそうになりましたよ。ああ、もうすぐ到着です」
曲がぴたりと止まる――シンデレラの魔法は、12時になったら解けてしまう。
王子様ではない彼には残ったガラスの靴の持ち主を探すことは出来ない。
「という訳で君の理解を得られたところで君にもシンデレラガールズの曲を聞いてもらいたい」
「何で同じディスクを何十枚と持っているのかしら?」
彼というヒーローにも、いつか平和な日常が来ますように。
ギリアム少佐がデレマスのヒーローアイドル、南条光のファンになってしまった世界線の話第3弾。
需要なんか知るか! 私が書きたいから書いている!
微妙にシリアスなのは仕様です。