愛の絆
艦内にはいつも新しい花が飾られている。
――――麗しい花たちを飾る別の花も必要なものですよ。
そう言ってショーン副長が消耗品の予算から割いているという噂がまことしやかに流れているが、その真偽は彼女たちにはわからなかった。
ただ、どの花を飾ろうかと話の花を咲かせるのも、楽しみのひとつではあった。
「アヤ、青い薔薇はないのか?」
「昔と違って今は結構出回っているけれど、ここにはないみたいね」
今日の担当はSRXチームの3人。
早々に職務を放棄したヴィレッタと知識全般が欠けているマイを見て人選ミスを疑ったアヤである。
「そうか。戦って死んだ敵には青い薔薇を手向けるものだというから」
「どこで聞いたの、その知識」
「リュウセイと見た映画だ。薔薇の花言葉は情熱……私たちにもピッタリだろう?」
――リュウセイに後で仕置をしなければなるまい。
合っているが合っていないし、また『そっち側』の作品だろうということは容易に想像がつく。
「花言葉、ね。そういうことはアヤの方が詳しいから助かるわ」
「だからって全部私任せにしないでください隊長……」
呆れながらヴィレッタの視線の先を捉える。
「隊長、その花に興味が?」
「ええ。ストック、とあるけれど。この花の花言葉は?」
アヤの悪戯心が俄に湧き上がった。
「ストックの花言葉は『未来を見つめる』ですよ、隊長」
満面の笑みで答えると、予想通りヴィレッタの表情が少し狼狽えた。
「共用スペースに置く花を選んでいる所ですけど、個室に届けてあげてもいいんじゃないですか?」
「さて、誰のことを言っているのかしらね。でも自費で買うわ。綺麗だし」
苛烈な印象を与えがちなヴィレッタだが、付き合いが深くなるごとに彼女の率直な部分や思いやりの深さがわかるようになる。
まして、同じチームの部下として働いていれば、その機敏を察するのもお手のものだ。
何かとアヤ任せにしてくるのも、決して面倒とかではなく、信頼の証だ――――恐らく。
興味深そうに花を見つめるマイと会計に向かうヴィレッタを見て、人選如何はともかく来て良かった、と笑みがこぼれる。
「綺麗だな……だがアヤ、ビ●ランテはやはり売ってないのか? この目で見てみたいんだ」
「知らないけど何か凄い物騒な花な気がするわ……」
リュウセイへの仕置を増やす決意は、深まったけれども。
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「それで、俺にストックを?」
「花の香りが苦手でなければ、だけれど」
ギリアムは一輪のストックを手に取り、微笑む。
「知っているか? 花言葉は花の色ごとに違う。『未来を見つめる』はストック全般に当てはまるがな」
「そうなの? 殺風景な部屋だからせめてもの彩りに赤を選んだのだけれど」
「赤いストックの花言葉は『私を信じて』」
ヴィレッタが息を呑む。
「無論、信じているよ。君は……」
手にとったストックをヴィレッタに差し出す。
「『俺を信……」
「信じないはずがないでしょう? ギリアム少佐。あなたは私を信じてくれたから」
アヤに感謝しストックを受け取り、花束に戻す。
ギリアムの微笑がとても近く輝いて感じる。
「菊は葬花、薔薇は愛の告白……さて、ストックは何によく使われると思う?」
「意地悪ね。私が知らないことを知っていて聞くのだから」
ギリアムの浮かべた笑顔が、何故か先程のアヤと被った。
「結婚式のブーケだ。花嫁が持つ祝福の花束だな。ストック全般の花言葉に『永遠の恋』もある」
アヤへの感謝が一瞬で消え去った。
ギリアムのことを想っているが流石に飛躍しすぎだ。
「結婚、ね……したくない訳じゃないけれど、約束したら叶わない気がするわ」
「俺は約束だけは守る。何に変えても」
「遺品から結婚指輪が見つかるっていうのだけは御免だからね」
茶化して雰囲気を誤魔化す。
熱い時間を過ごすのはやぶさかではないが、今日のギリアムが少し遠い目を見ているのが気になった。
そう、今この世界ではない場所を見つめているかのように。
不安を覚えて花束を差し出した。
「少佐……『私を信じて』」
「君こそ『俺を信じて』くれないのか?」
「あなたを信じているからこそよ。仲間のためならどんな無茶もやる人だと信じている」
そう言うと、ギリアムの視線がようやくヴィレッタに戻る。
「君が見つめている未来はなかなか俺に厳しい世界のようだ。大丈夫だよ。俺が見ていた未来は……」
言葉を切り、微笑で誤魔化した。
「ありがとう、ヴィレッタ。この花は枯らさないよう大事にするさ」
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ギリアムは飾り方を調べながら一人物思いに耽る。
――――言えるわけ無いだろう。
可愛い子供を連れて、暖かい家庭を築いている未来を予知した、なんて。
スパロボワンライお題は『花』
ギリヴィレにはストックの花が似合うと常々思っていたのでネタにしたら私には珍しく甘くなりました。
マイが青い薔薇を探しているのは劇場版仮面ライダーカブトのせいですw