希望と祈りの輪舞曲

当時の教導隊は政治面のバランスを考慮して地球連邦軍のメンバーから3名、連邦宇宙軍のメンバーから3名選ばれた。
そうは言ってもそれに拘るのはテンペストくらいで、他のメンバーは出身を問わず時に親しく時に意見をぶつけ合っていた。
ワーカーホリックのギリアムを心配して胃の負担にならない程度の夜食をエルザムが持って行くと、ギリアムは苦笑いしつつ礼を言った。
そしてエルザムに尋ねた。エルピスはどんな所か、と。
特殊部隊出身とはいえ地球育ちにはコロニーの生活自体が珍しいだろうと様々な話をした。
その時は何も疑問に思わなかった。
疑問を抱き始めたのは、ギリアムが並行世界から訪れた異邦人であるということを知って、そしてクロガネに常駐するようになったアクセルからの『ギリアムは“向こう側”の住人ですらない』という情報からだった。
出自がどうあれギリアム本人の人格には疑問を差し挟む余地などない。
彼は人情深く、それ故に熱くなりやすい、好感の持てる人物だ。
ただ“向こう側”の“向こう側”では彼は地球ではなく――その戸籍自体捏造だが――エルピスの生まれなのではないか、と。
他のコロニーには余り興味を抱かなかったこともその根拠になる。
いつものように食事を彼の部屋に持ち込んで、酒を飲み交わす。
小賢しい手だな、と己を嘲笑う。お互い酒に強いことを知りながら、酔った勢いで話したことにしてその後は触れないという暗黙の了解。
尋ねるとギリアムも察して酒をいつも以上のペースで煽りいつもと変わらない冷然とした調子で語り出す。
「そうだな。俺の生まれたのはエルピスという惑星だった」
その語調は鋭くはあったが、その奥に信頼と親愛が込められているのがレーツェルにはわかる。
「俺が帰りたかったのはその惑星エルピス……この地球の持つ特異性もあるだろうが、その名に引き寄せられたこともあるのだろうな」
ギリアムは笑っている。
しかしゴーグル越しに見ているからかはわからないが、違和感があった。
レーツェル自身を見ていないのではないか、と異性であれば嫉妬の一つでも覚えそうなそんな感覚だ。
「“向こう側”ではテスラ研にこもっていたが世界のニュースは入っていた……エルピスが、非道なテロの被害にあった、と」
酒のペースを上げつつギリアムは眉間に皺を寄せる。
「だからお前はコロニーの人々の命だけでなく、俺の心も救ってくれたんだ。遠くない未来に親友がテロで倒れることを知りながら、俺は何も言うことも出来なかった」
「言われても信じなかっただろうさ。余計な心配を掛けて済まなかったな」
グラスを置いてギリアムは笑う――表情がわかりにくい彼だったが、それは確かに笑顔だった。
「お前が、お前たちが、鋼龍戦隊の皆が、俺にとってのエルピス――『希望』であり帰るべき場所だ。そのことが俺はとても嬉しい」
「ならばもっと無茶を控えてくれるとありがたいのだがな。お前も誰かにとっての希望なのだから」
「こればかりは性分でね」
食事の方を口に運び、やはりお前の料理は素晴らしいと賞賛する。
本気で美味しいと思ってくれていることがとても嬉しいが、また何かあれば熱くなって単身行動を取るのだろうと不安にもなる。
それにギリアムはまだ隠し事をしている、という確信があった。
今日聞いた以上のことを問い詰めはしない。まだ話すべき時ではないのだろうと感じ、その時が来れば自ら話すだろうと信じている。
「それはともかく、お前は食事をもっとちゃんと取れ。でないと今日のように部屋に押しかけるぞ」
「……善処しよう」
レーツェルにはギリアムのような予知じみた勘はない。
ギリアムは無事だという確信と無茶をしすぎて自滅するという確信の両方がぶつかり合っている。
ただ、これだけは言える。そのどちらも、彼自身が信じる希望に賭けての行動の結果だと。
――――その未来が明るく新しい希望に満ち溢れたものであるように。
祈る相手のない祈りは、誰にも届くことがなく、レーツェルの心中に留められていた。

 

スパロボワンライ『希望』から希望といえばエルピスだな!とエルピスに縁深い2人のお話。
焔にはカップリングっぽいと言われましたが私は&で書いています!(強弁)
ああ、そりゃエルギリは萌えますしMDのとある場面では夫婦かと思いましたけど←

 

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