信頼と献身の方程式

「號、いるかなぁ……」
自分の部屋にいないとすれば、まずはここ、格納庫――予想通り。
しかしなんでまた、ブラックゲッターの上につっ立っているのか。
――――何とかと煙は高いところが好きって言うケド。
「ゴーウー!!」
仰ぎながら大声で叫ぶ。
影が動き、渓は続ける。
「アンタそんなトコいないでちょっと降りてきなさいよー! これで話すの、疲れるンだからー!!」

やれやれ、だ。
戦闘中なら勢いでいけるが、普通の時にこう上を向いて叫ぶのはなかなかにキツい。
おまけに。

「……アンタねぇ……そりゃあたしは降りてこいって言ったケドさぁ……」
目の前で、號がきょとんとしている。
「何で! アンタ飛び降りんのよ! あっこから!!」
「駄目、なのか?」
「フツーはンなことしないの!!」
しないというより出来ないというべきか。
一般常識から外れた人間が一般常識というものを認識しないとどうなるか、いい例がここにある。
今更だが呆れてため息が漏れる。

「あー、こんなこと言いに来たンじゃないのよ。んじゃ、本題ね」
一転して明るい顔と調子で続ける。
「シティ7に行く許可貰ったから、ルーたちと美味しいもの食べに行こうって話なんだけど、行く?」
期待を信じきって輝く表情。
行くに決まっている。何しろ、號は……
「いや、行かない」
はぁ?と思わず気の抜けた声が出る。
聞き違いではなかろうか。
「ここに、いる」
渓の肩が震えだした。
「楽しんでくると」
「ばっかやろぉぉぉぉ!!」
渓は號を殴っていた。口より手が先に飛び出すのが彼女の習性である。
「アンタを誘ったあたしが馬鹿だったよ、全く! 知らないわよ、アンタなんて!!」
ダメージははっきり言えば0に等しいが、思わず手で押さえた。
「渓、何を怒っているんだ?」
問いを投げかけるが、既に姿そこにあらず。

「何かさ、渓さん荒れてないか?」
「ニュータイプじゃなくてもわかりそうなくらい、ね」
「やっぱり號さんが来なかったから……」
「そこぉっ! 聞こえているわよ!!」
まわりはカップルばっかりで自分だけ一人――
――という状況にならなくて、渓はほっとしていた。
男も数人混ざっているが、基本的には姦しい集団である。
ただし、姦しいということは決して喜ばしいことではない。
「確かにこれはちょっとねぇ。號さんらしいけど、仮にもこ……」
「だから、あたしと號はそういうんじゃないんだって!!」
「はいはい、チームメイトね」
女、ゴシップ好きのこの生命体。
戦闘ばかりで娯楽の少ないブルー・スウェアなら尚更である。
そしてこの部隊はそのネタには事欠かない。
渓も確実にその類だが、何しろ育ちが育ち、人ほど興味は示さない。
自分が対象なら余計に、だ。
「っていうかむしろ飼育係、かもね」
そんな彼女たちと自分と號にため息をつきつつ笑った。
「それはちょっと……あ、でもだったらちょうどいいじゃない。飼育係って任務から解放されて」
「それとこれとは別!」
そして號が原因だというのは認めるのか、と言われふてくされた。
間違いなくそれが原因。
否定できようはずもない。かといって、肯定もしたくはないが。
「――案外、それで来なかったのかもね、號」
「何が?」
「渓に羽伸ばさせようとか、思ったのかもしれないわよ」
突拍子もない意見。少なくとも渓にとっては。
「……號がそんなこと考えているわけないじゃない。あいつ気遣いとか全然ないよ」
「そーお? 少なくとも渓のことは気遣ってると思うけど」
「ことしか考えてない、の間違いじゃないの? あ、ゲッターのことはちょっと考えてるか」
「それに彼、街苦手そうじゃない? きっとまた渓に迷惑かけちゃいけないって思ったのよ」
そうかもしれない、と思った。
何を考えているか良くわからないが、渓のことはいつも考えてくれている。
しかしうなだれて呟く。
「そんなんじゃ、戦争終わった後、やってけないよ。平和に馴染めないようじゃさ。だから誘ったのに、アイツ…………」
「まあ、女心が理解できてないのは事実だけど、ネ」
「でも戦争終わっても大丈夫よ、きっと! だって、前よりずっと馴染んでるもの」
「表情とか変わったものね……渓がいるから、でしょ? やっぱり」
自分の存在はそんなに大きい物だろうか。
考えてもわかるはずのない問題。
「……なら、いいンだケドねぇ」
「いいんだけど、じゃない! そうなんだって、思わなきゃ!」
「男のコなんて女のコいなきゃダメダメなんだから!」
「俺たちがいる前でそれを言うか……」
「男子は黙ってる!」
女性陣の大力説。
ここまで言われれば根が直情型の渓は黙ってはいられない。
「わかったわよ! やってやろうじゃない!!」
「そうそう! その意気その意気! いっその事『號はあたしが守る』って言っちゃえば?」
「そ、それはちょっと……」
「あははっ。確かにねぇ。じゃ、元気になった所でお店行こ!」

手荷物をさげて格納庫に向かう。
ゲットマシンの上でぼうっとしている人影が見える。
「……帰ってきたのか、渓」
「シティ7、楽しかったわよ」
渓は笑って、横にやってくる。
「號がいれば、もっと楽しかったと思うけど」
「そう……なのか?」
――ニブチンめ。
「そおよ。だいたい號、あたしを守ると言いながらついて来ないってどういうこと? シティ7だってバンパイヤ騒ぎとか色々あった所なんだから」
「……すまん」
「へぇ…………アンタ謝れるようになったんだ」
怒って見せながら、眼は輝いていた。
袋をまさぐってクレープを取り出した。
シティ7のお土産、と笑って。
「甘い物、大丈夫よね?」
「ああ…………うまいな」
「当然よ。その場で食べればもっと美味しいんだから」
黙々と食べる號を横目で見て、小声で続ける。
「だから……今度はちゃんと来なさいよ?」
號が頷く。
渓の最上の笑顔。
それを見つめる號も、微かに笑う。

 

SRWDより、チェンゲの號×渓。バンプレオリ以外のネタは初ですね。
マク7とビゴーの2択でとりあえず地上行ったら見事に渓に一目惚れしまして……OVA借りました、クリア後直で。
そしてこれ以上ないくらいのベタベタラブコメっぷりにも惚れ。
タイトルにした精神コマンドの関係性もグッジョブ。愛じゃないのがいいんだ!
ジュンやらミカやらにからかわれるのにも萌えvです。

 

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