雨上がりの”アポロン”

山道を走るワゴン車の窓には雨が打ち付けている。
「この中に雨男でもいるんですかね」
助手席の怜次が呟く。
常時様々な案件を抱える情報部の彼らが揃ってオフを楽しめる日は珍しい。
無論情報部には他にも優秀な軍人が揃っているのでギリアムのチームがたまのドライブに出掛けた所で咎める者など誰もいないのだが、何しろギリアムは自他共に認めるワーカホリックである。
無理矢理休ませたかと思いきやSRXチームや特殊戦技教導隊に顔を出して演習相手になっていた、という事件も後を立たなかった。
そこで主に壇とサイカが中心となって計画したのが『ヴィレッタを巻き込んでドライブに行く』という今日の休暇である――が生憎の雨となってしまった。
「怜次先輩、雨“女”かもしれませんよ」
「え、サイカそうなの!?」
「うーん、私は花見の日に限って曇っていたり、あじさいを見に行ったらカンカン照りになったり……ですね。あ、でもこのチームに入ってから良くなりました!」
「宗教の謳い文句じゃないんだから。祀っている神と他の御利益を知りたいわね」
「予知と光明の神、アポロンです! 人生と戦いに未来を切り開きます!」
サイカが宣言した瞬間雷が轟いた。
「……ゼウスの怒りに触れたようだが?」
「少佐の肺もやられているわね」
ギリアムがむせている。缶コーヒーを飲んでいるところに雷鳴が響いたからであろうか。
「いえいえ! 私は常日頃から思っています! ギリアム少佐は時代が時代ならデルフォイの神官を務めて時代を動かせた方だと!」
「サイカ! それは違う! 少佐と俺たちは現在進行系で時代を動かしている!」
「そろそろやめるべきだな。ゼウスの雷ではなく少佐のカミナリが飛ぶぞ」
運転席の壇がカラカラと笑う。ギリアムは未だむせている。
「確かに少佐の先読みは凄いからそういう設定も面白そうね」
「ですよねー! やっぱりヴィレッタ大尉は話がわかる人です! 今の“漆黒の堕天使”って通り名も凄くイイと思うんですけど!」
「俺はその異名を認めていないぞ」
「リュウセイの“壁際のいぶし銀”は喜んでいたくせに」
「初耳です! 詳しく!」
「その話はいい。だがサイカ、何故アポロンなんだ?」
ようやく落ち着きを取り戻したギリアムが問う。
サイカの眼鏡がキラリときらめく。
「やっぱりヴィレッタ大尉の言うように予知能力でもあるんじゃないかってくらいビシバシ先を読んじゃうからですね! それに少佐はまさしく“光明”や“太陽”を背負っている人だと思うんです。アポロンは男性美の象徴とも言われていますが少佐もなかなかイケメンですし、やたらと手出しが早い割に身近なヴィレッタ大尉には」
「わかった。そこまでにしろ」
語り出すと止まらないのが彼女の欠点である。
「ちなみにもうひとつの候補は“ロキ”です」
「出典が違うし対極も対極すぎはしないか……俺は神も神託の戦士も騙る気はない。俺は“亡霊”で十分だ」
「そういう台詞をさらりと言うからサイカが止まらないんじゃないですかね……」
怜次がぼやくと壇がそろそろ尾根沿いだと告げる。

雨はいつの間にか止んでいた。
雲の切れ間から光が差す。
「ふふ、やっぱりアポロンの加護があるかもしれないわね。ねえ、ギリアム少佐?」
「やれやれ。さあ、しばしの安息を謳歌するとしようか、皆」

 

ワンライ『雨上がり』でギリヴィレ&情報部。
基本サイカちゃん=情報部漫画のハッカーさん説採用なんですが実際の所どうなんですか公式様!
オタク気質が無意識にギリアムさんの過去をぐさぐさ刺すノリが好きなんですが自重しなさすぎですね!

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