かささぎの渡せる橋に置く霜の
『休みが欲しい』と書かれた短冊が笹にぶら下がっている――しかも複数。具体的に言えば4枚。
筆跡からして全部別の人間が書いたものだろう。
「それで今日は午後を休みにし、仕事の多さに音を上げて私を呼んだと」
「面目ない」
「私も書いていい? 『休みが欲しい』って」
「他の願いで頼む」
彼はモニターから目を離さずにいるが若干の焦りを感じた。
恐らく意図的に混ぜた感情だろう。彼はそういう所がある。
「じゃあこれ」
――だから、短冊を手渡した途端感情が読めなくなる。
「『仕事以外でもギリアムに会えますように』か。君は俺を喜ばせるのが得意だな」
「どうせ飾っておくのは今日限りでしょうから」
仕事机から立ち上がり笹に吊り下げる。
言葉の割に表情を見せない。だからもう少し揺さぶってみることにした。
「ねぇ、一年に一回しか逢えなかったら、どうする?」
「織姫と彦星か」
ようやく目を合わせる――何でそんなに嬉しそうなのかしら。
「今生の別れよりはいいだろうと思うがな。織女星は西洋では琴座のベガだが、琴座の由来は妻が冥界に逝ったオルフェウスが――」
――ああ、これは語りたくって仕方なかった話か。
妻を冥界から連れ帰るために旅をしその琴を奏でた男の話。
「――大和神話のイザナギとイザナミにもあるようにこの手の話は万国共通だ。そして結局オルフェウスは独りで地上に戻り、妻の幻影を求めて川に身を投げた」
「それが天の川?」
「いや。哀れんだ神が彼の琴を星座にし語り継ぐようにしたのさ……俺はオルフェウスはその後エウリディケに逢えたかが気になるがな」
――――言えない。『逢えていたらいいわね』などという気休めは。
その一言を未来の彼が拠り所にしないなどと誰が言えるのだろう。
「それじゃああなたは織姫と彦星は我慢が足りないって?」
だから話題を変える。
「いや。一年経てばという望みがあるからこそ諦めがつかないのかもしれないな。その意味では哀れだ」
「随分引っかかる言い草ね」
「引き離された原因が原因だからな。愛に溺れて仕事をしなくなったから天帝の怒りを買ったのさ」
「つまりこう言いたいのね。『仕事以上は期待するな』と……仕事を口実に逢瀬を重ねる方が不誠実ではなくて?」
来てみてわかったが今日の仕事は彼の技量ならそれほど無理な量ではない。
部下たちが休みを欲しがったのは本当だろうが体よく追い払ったというのが本当の所ではないのか。
「知らなかったのか。俺は元々不誠実な男だ。だが……そうだな。一年に一回しか君に逢えない、だがその一回は確実に逢えるのだとしたら……きっと俺も誠実になるのだろうな」
「そうでなかったら?」
「掟を破り琴を奏で迎えに行くさ」
――そして身を投げるのだろうと思うと、私もそうそう簡単に死ぬわけにはいかなそうだ。
Twitterでフォロワーさんが「ねぇ、一年に一回しか逢えなかったら、どうする?」というフレーズを使ったネタが見たいと仰っていたのでギリヴィレで拝借しました。
神話マニアギリアムさん自重しませんw
UXネタ絡めようとして出来なかったのは秘密