■迷惑なヤツ
大魔王の名に相応しい、強靭な肉体と強烈な炎。
彼こそがカメ族の王、クッパである。
子供と部下たちにも慕われ、順風満帆に見える彼。
だが、そんな王にも、悩みがある。
「……何故皆、マリオマリオと言うのだろう。ワガハイはとてもかなしひ」
彼が勝つと、クッパ軍団は喜ぶ。
しかし他のファンが群がるのは大抵負けたマリオの方だ。
悪の大魔王なのだから嫌われてなんぼ、とは思っている。
だが。
「このパワー、この戦い方! ワイルドでダンディな魅力に溢れているハズ!」
もう少しファンが増えてもいいはずだ。
そしてそれが女性ならもっといい。
ファンは決して少ない方ではないのだが、彼を応援する声は少々野太い。
そんな悶々とした思いを抱えながら屋敷の部屋で過ごしていると、ヨッシーが訪ねてきた。
「見てください! お花、いっぱい咲いたんです。クッパさんもどうぞ」
「フン、マリオの腰巾着めが。貢ぎ物ならもっとマシなものを持ってくるのだ!」
――こいつもこいつだ。
昔はワガハイも乗ったことがあるのに、マリオマリオとうるさい。
別のヨッシーらしいとは言うが、区別がつかない。
「そんなこと言わないで下さいよぅ。ボク、クッパさん大好きですよ?」
「何!?」
「クッパさんもマリオさんもルイージさんもピーチ姫もドンキーさんも――――」
延々とメンバーの名前を並べ立てるヨッシーを見て、思わず頭を壁に打ち付ける。
「――みんな、みんな、大好きです!」
「帰れこのトカゲ!」
「トカゲじゃなくてスーパードラゴンですよぅ」
「ならワガハイを乗せてみるのだ。大層な肩書きをつけるくらいならそれぐらいやってみせろ!」
ヨッシーはしばらく首を傾げ、そしてそれを横に振った。
「ごめんなさい、クッパさんはちょっと大きくて無理です……」
「帰れ帰れこの貧弱トカゲ!」
少し涙目になりながら三度追い返す。
「……お花、ちゃんと飾って下さいね」
ヨッシーも渋々帰っていった。
沈黙の中、しばらく置いて行かれた花を見つめていた。
その晩、彼はクッパ城に帰った。
「お帰りなさいませクッパ様!!」
「先日の乱闘も素敵でした!!」
「ガハハハハ! 当然なのだ!!」
部下たちの歓待を受ける。
子供も呼んで、土産物を振る舞い、自慢話をする。
「そこをワガハイ、強烈な一撃! マリオなど物の数ではなかったわ!」
「うっす、見ていました!」
「クッパ様は俺たちの誇りだ!」
「カメ族、万歳! クッパ軍団、万歳!!」
皆の声を受けまた高笑いする。
宴は、大いに盛り上がった。
「ところでクッパ様、この花束は?」
「ん? ま、まあ、ワガハイのファンからのプレゼントだ! 飾っておけ!」
ヨッシーが皆に配っているのは知っているが、そこは部下たちの手前、見栄を張ってみせた。
「クッパ様に直接お渡し出来るなんて羨ましいですわ……」
「私たちクッパ軍団からは、奥様を選べないと言うんですもの……」
「すまんな、皆の者。ワガハイは公平でありたいのだ」
ひそひそ話をする女性陣に慈しみの目を向ける。
「しかしクッパ様、奥様をお迎えにならないと……」
「わかっているのだ!」
諸事情で妻や子供の母親は今はいない。
これでは王、そして軍団の面目が立たない。
そして、選ぶなら理想は高くいきたい。
そう思った時、いつも最初に向かう相手は。
「あら、いらっしゃいませ。ちょうど紅茶を入れた所ですわ」
翌日、屋敷でピーチの部屋を訪れる。
いつものようにお茶会を楽しんでいたが、思い切って話を切り出した。
「なあ、ピーチちゃん……」
「もしかして『ワガハイの妻になってくれ』ですか?」
「そう、そう、そうなのだ! ワガハイ、ピーチちゃんのことが大好きなのだ!」
「わたくしもクッパのことは好きですけど」
紅茶に口をつけ、一呼吸置く。
「マリオのことはもーっと大好きですの」
いつもの満面の笑顔が輝かしい。
そして、続いた言葉も、また慣れたもので。
お土産のクッキーを受け取って、大人しく部屋を後にした。
クッパ城を上回る難攻不落ぶりである。
「あなたも大変ね」
そして何故かサムスの部屋でコーヒーを飲むことになる。
たまたま暇を持て余していたらしい。
「この際サムスちゃんでもとは思うが、いくら可愛くても賞金首として追いかけられた相手などごめんなのだ」
「うん、妥協で狙われても嬉しくないから安心した」
「と言うより、あの時は本気で殺す気だったのではないのか!?」
「そうだったわね。今はそうじゃないけど」
ピーチのクッキーを食べながら語る。
何故だかこの2人、妙に気が合う。
「でもここのメンバーから選ぶのは、悪いけれど絶望的だと思うの。皆相手がいるし」
「それは奪えばいい話だが、ナナちゃんやプリンちゃんは可愛いが子供すぎるのだ。あとはゼルダちゃんとデイジーちゃんだが……」
「白馬の王子様だけじゃなくて、メンバーの皆から白い目を向けられるわよ」
「サムスちゃんもか?」
「まあ、人の恋路を邪魔する奴は……って奴?」
しばらくの沈黙の後、クッパがため息をついた。
「青春時代の苦い思い出…………」
「元気出して。きっとどこかにいるはずだから」
「どこかじゃ困るのだー!」
また鬱屈した感情を抱え、廊下に出る。
「あ、こんにちは、クッパさん」
「また貴様か!」
笑顔で駆け寄ってくるヨッシーを手だけで追い払おうとする。
「だって美味しそうな匂いするから。いただきまーす!」
長い舌を伸ばして、クッパの口元を舐める。
「な、な、な、何をするのだ貴様ああああああぁぁぁぁ!! ワガハイの唇を!」
「食べかすついていたんで。ピーチ姫のクッキーですよね?」
「そういう問題ではないわこのタワケ! どう責任を取る!」
「え? え? ダメだったんですか?」
「ダメに決まっておろうが! 貴様のようなオスかメスかもわからんトカゲに用はないのだー!!」
真っ赤になりながら首を横に振る。
「ボク、どっちもありますよ」
「だから、それで片付く問題ではない!!」
「どうすれば片付くんですか?」
「とりあえずしばらく近付くな! そしてこのことはヒミツにするのだ!!」
「ヒミツ? わかりました、ボク、ヒミツを守るのは得意です!」
そして秘密は守られた。
しかしこの時から、この悪の大魔王は自分より小さく非力なヨッシーをつい恐れつつも意識してしまうようになるのであった。
マイナーというか他所に存在するんでしょうか。クッパ×ヨッシーです。
焔が言い出したんですが、「お前好きなキャラ組み合わせただけと言うかただ単にツンデレ×天然が好きなだけだろ!」と。
しかし考えてみたら行ける気がしたし萌えたので、このサイト全体でクパヨシを主張することにいたしました。
接点自体は結構多いですし。というか私も好きなんだこの方々。
ちなみにうちのクッパ様はスーマリRPG(カッコいい&ツンデレ!!)やマリルイにいたストDSの女性好き成分を足した感じです。