■Dreams Dreams
くしゃみ1つ。
体温計を回収したトナカイが小さなサンタに宣告する。
「これは! 明らかに病気だな! メディカルセンターで診てもらうがいい!」
六芒均衡の専用のキャンプシップを母艦に戻るルートへとセットし直す。
「ダメだ! クリスマス会場の制圧作戦があるだろう! ヒューイ、貴様は使命を忘れたのか!」
「ああ。会場から困ったフォトンを感じるな。だが!」
端末を操作すると、その姿はトナカイスーツからヒーローズクォーターを纏ったいつもの姿になる。
「お前からも感じるぞ、困ったフォトンを!」
「バカ! 私は困ってなどいない!」
叫んだ後こほこほと咳をする。
鼻水まで出てきて、慌てて拭きとった。
「無理をするな! サンタに倒れられたらトナカイは誰のソリを引けばいいのだ!」
「そ、その……それは貴様には私が必要ということか?」
「当たり前だ! 今更何を言う!」
クラリスクレイスの頬が紅潮する。
六芒均衡同士で戦ったあの日まで、ヒューイが自分の傍にいるのは当然だと思っていた。
そして同じ日に、そうでないことを知り、ヒューイは簡単に自分を切り捨てられると考えるようになった。
それが思い違いだというのが、とても嬉しい。
「む、顔が赤いぞ! 熱が上がったか! 急がねばな!」
着艦と同時に軽くクラリスクレイスを抱き上げて走りだす。
――鼓動が早い。体温も上がっている。これは思ったより重症だな。
そんなことを考えたが、口には出さない。
この少女は自分の弱みを見せるのが、そして弱さを指摘されるのが大嫌いだ。
彼女を見守り、そして共に戦う者として、口には出さずやるべきことをした。
即ち、メディカルセンターに彼女を送り届け、今の病状を説明することである。
「わかりました。クラリスクレイスさんは預かります」
フィリアが微笑む。
「頼んだぞ! 俺は出撃せねばならん! 今から急げば作戦に間に合うはずだ!」
「ひゅ、ヒューイ!」
クラリスクレイスが呼び止めた。
駆け出しはじめた足が違和感で止まる――彼女が他人を『貴様』ではなく名前で呼ぶのは珍しい。
悪意があるわけではないのだが、三英雄として振る舞ううちに、すっかり身についてしまった習慣というものだ。
「そ、その……」
――私の傍にいて欲しい。
その言葉が出てこない。
この少女は弱みを見せるのが大嫌いだ。
まして寂しい、だとか不安だ、とかいった弱い感情を見せる訳にはいかなかった。
「あ、ヒューイさん。あなたも検査です」
「何ぃ!?」
フィリアの言葉に2人共驚く。
「だって感染性の病気かもしれないでしょう? クラリスクレイスさんが呼び止めなければ危ない所でした」
「む、そ、それは困るな! 人助けをするどころか病気をうつしてしまっては如何ともし難いな! 仕方ない、本部に連絡をしておく!」
隣同士のベッドで枕を並べる。
「貴様の言う困ったフォトンというものが良くわからなかったが、少し理解した気がする。今、貴様は困っているな?」
「そうだな。健康だけが取り柄のオレがこんなことになろうとは」
「無理はしちゃいけないんだぞ。治ったら2人でまた出撃だ」
言いながら背を向ける。
また、顔が熱くなってきたのを、隠そうとして。
「カスラー、あのバカどもの報告聞いたか?」
マリアが面倒そうに机に足を投げ出す。
「ええ。クラリスクレイスは出自から免疫面に不安があるのは仕方ないとして、あの馬鹿は病原菌の培養槽に漬けても病気にはならないでしょうに。フィリアも何を考えているのやら」
机の書類に向かいながら、やはり面倒そうに視線を向けることなく応える。
「まあフィリアの狙いはわからなくもないけどね。それがわからんなら、カスラもまだまだボーヤだね」
「? どういうことです?」
書類からマリアに視線を移すが、彼女はその動揺を気にも留めない。
「ああ、やだやだ。アークスの男共は女心を解さない朴念仁の馬鹿どもばっかだよ。あのクソジジイといい、ゼノといい、テオドールってボーヤといい、何でこうかねぇ」
「貴女にだけは馬鹿と言われたくないでしょうね」
「あたしの馬鹿さとあんたらの馬鹿さは違うってことさ」
Pixivで先行公開したヒュークラ小説。ヒュークラですが×ではなく←です。
この年のクリスマス緊急はトナカイヒューイとサンタKKで神でした。
どこまでも保護者なヒューイと意識しはじめてドギマギしてるKKがいたら可愛いなと思います。