■闇の戦士たち

このフロアの敵はだいたい片付けたようだ。
テムは息をつき傍の石に腰掛けた。

「ふう……」
気が浮かなかった。むしろ段々滅入ってくる。
フリージアの街から少し行った所にあるダイヤモンド鉱山。
表面は綺麗なあの街も、裏通りは奴隷商人の巣窟……というのも気が滅入る事実だったが、
実際に奴隷が働かされている現場であるここはそれ以上にひどい。
人間が魔物に使役される、そんな所があるなんて、思いもしなかった。
前にも旅に出たことがあるが、その時は父や頼れる大人たちがいた。
それに、戦う必要はなかったのだ。
今は同い年の仲間と旅をしているが……戦いの場ではテムは一人だった。
もっとも、一人、というのは少し違う。

『悲しいがこれも現実……遥かな時の彼方より、少しずつ形を変えながらも繰り返されてきたものだ』
ため息。憂いの表情。
そう、戦いの場ではいつも彼、フリーダンがいるのだ。
彼は戦士で、時にアドバイスをくれ、時に代わりに戦ってくれた。
あくまで“代わりに”であるが。
というのも――彼は、テムの中の存在だからだ。
だからテムには存在が感じ取れるし、今のように話もできるし、仕草をみることもできる。
“闇の空間”に行けば彼と交代し、変身することもできる。
しかし逆にそうしなければテム以外の現実には干渉できない。
よく考えなくてもおかしな存在だが、テムは元々不思議な力を持っていたしそうでなくてもおかしな事は多いので、彼が突然現れた時もそれほど気にせずに受け入れたのだ。

「フリーダンは前にもこんな所を見たことがあるの?」
『ああ。何度となく。自分の身の丈に合わない欲は自らを滅ぼす……いつかはそんな人間もいなくなると思ってきたが……』
「……まだなくならないんだ」
お互いに神妙な顔をして並んで座っていた。
『ああ……何しろ私自身がそういう人間だ』
驚いてフリーダンを見た。
彼が欲に取り付かれた人間だったというのは想像できない。
父親によく似た、頼れる戦士である彼が。

「……フリーダンの欲って?」
恐る恐る尋ねた。
聞いてはいけない気もするが、聞かずにはいられなかった。
『……永遠の、命』
静かな、確かな声でフリーダンが答える。
『戦う力と、それを永遠に保つことを……結果は、知っての通りだ』
“時を越えて生き続ける者”
初めて出会った時、フリーダンは自分を称してそう言った。

「でも、誰かを、何かを守るためだったんだろう?」
『そう。それでもこれは望んではいけない物だったんだ』
「後悔、しているんだ」
テムの言葉に、テムには意外だったが、フリーダンは微笑した。
『後悔はしていない。何かのために戦えるのなら、どんな形であれ……そう、武器を振るう戦いでなくても、それはいいことなんだ。私がそれを望んだからこそ、君の戦いを助けることもできる』
微笑したまま、小声で付け加えた。
『ただ、そう、ただ……それ故に会えない人がいるのが、悲しいだけだ』
テムにはその意味するところがわからなかった。
彼が独立した一人の人間であったころに共に生きた人々のことだろうか?
彼はまだ“生きて”いる。しかし、その人たちは既に……

フリーダンが立ち上がってつぶやいた。
『……いかんな。話が長くなってしまった』
「そ、そうだね。休憩はこれで十分だし……奥にいかなくちゃ」
『ああ……そうだ、テム。気が滅入ったときにいい方法を教えておこう』
立ち上がったテムを見下ろしながら言った。
『歌をうたうのでもいい。君の笛を吹くのでもいい。気が滅入ったときは、音楽がいいんだ』
「そっか……ローラおばさんも言っていたな、それ……何かリクエストある?」
『……風のメロディーを』
テムの笛から、インカの風が歌ったメロディーが流れ出す。
ダイヤモンド鉱山に静かに響き、その奥に消えていく。
無心で吹くテムの後ろで、フリーダンの瞳から一筋の涙が流れた。

 

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SFCの隠れた名作、『ガイア幻想紀』の話。
音楽とクインテット作品特有の雰囲気がいいです。
テムのさらさらヘアーもシャドウもいいですが私が愛するのはフリーダンでして、昔から幻覚キメてます。
ダークフライヤー強いしファーロス相手に無敵だし長髪剣士様だし、背景設定的なの凄く気になるよう。

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