■白夜より明るき希望、暗夜より昏き心
暗夜との本格的な戦争が始まったというのに、白夜王国の空は相変わらず美しい。
清浄なる星明かりが、眩しくすら感じ――故にこの国の名は白夜と言うのかもしれない。
大河の如き星の集まりは、恋人を引き裂く戒めという。
年に一度、恋人は川を渡り一時の逢瀬を楽しむのだ。
でもそれは、愛し合い、誓い合った仲だから。
彼女の主君でもある人は、気高く、故に、彼女を見てくれることはないのだろうと星を映した水面に顔を向ける。
川の向こうで彼は狩りに興じ、そして別の女性を見初めるのだろう。
せめて己が天馬武者ならと喩え話に本気になってしまうが、呉服屋の娘である彼女の素質に天馬武者は含まれない。
それでも、と想い続けてしまう往生際の悪さはどちらかと言うとリョウマ様似だな、とヒナタに言われ小枝で必殺を発動させたことをふと思い出す。
元々雲の上の存在であるが、戦争が始まってから彼の周りは不穏なことばかりだ。
それは誘拐された後戻ってきた彼の姉の存在であったり、彼自身が何者かに操られるということであったり、それを救った姫君の存在であったり、他にも魅力的な女性がいる。
揃いも揃って暗夜の残り香がして、顔が思わず引きつってしまう。
例外なく恋敵であり、全ての面でも敵だ。 そして敵うはずもないと感じ、醜いわねぇと白い夜に闇を吐き出す。
自分の服を見立てて欲しいという主君の言葉だけが彼女の戦う理由であり留まる理由。
式典服を仕立てるのも、きっと、平和式典だけでなく、将来的には婚礼の服も仕立てるのだ。
その頃にはこの恋心も区切りがつくようにしよう。
故に、烏滸がましい頼み事をする。 彼と川で隔てられても、思い出を抱えて生きていられるように。
「タクミ様、今度は逆に私のアクセサリーを1つ見立てて貰えませんか?」
「僕はあまりそういうのは得意でないけど、オボロがそういうなら今度行こう」
約束だよ、と小指を交わした。
白夜の星明かりは、眩しすぎた。 そして、彼女も。
天を流れる星の川の伝説になぞらえようにも、いつか逢えるという願いも持てない星のない空間に隔離されるのが関の山だろうという想いを抱く彼にとって、この約束が、どれだけの意味を持つか彼女は知らない。
平和式典の衣装にしても、頼んでいる呉服屋の仕事にしても。
それを彼自身のために成し遂げてくれるだろう“いつか”だけを希望に、己の闇と悪夢と戦っている。
アクセサリー屋を毎日見て、どれが彼女に似合うか、ないに等しい美的感覚を過度に働かせる時間がどれだけの楽しみになるか。
彼女は知らない。考えもしない。知らないままでいて欲しいという傲慢さ。
きっと、彼女が知る時は、そんな我を通せなくなった時。
彼女が悲しむ顔を認識できないであろうことが、救いになるのかどうか、それは今の彼にはわからない。
彼にとっての今の救いは、星が今日も眩しすぎること、それを映す水面も煌めいていること、そして、彼女と交わした小指だけだ。
第55回フリーワンライ用FEifタクオボ。
使用お題は全部(天の川を渡れたら・恋愛戦争、敵の敵だって敵・水平線に君をのぞむ・悪い往生際・小指の約束)です。
このワンライの度に全部のお題無理矢理にでも使いたくなる癖何とかしたい。でも挑戦状だと思ってる。
オボロちゃん支援は他の人の方が正直幸せになれそうなんですが片想いが通じる話が好きなのと「僕のお嫁さん」というパワーワードによりタクオボ推しです。
タクオボ推しの某様に勝手に捧げていたりする。