■次もきっと笑顔で

「貴様、これはどういうことだ……!?」
鬼面の相でノワールは問う。
「な、何でいきなりキレてるんだよ。俺何かしたか!?」
「貧血を起こしたから救護を呼んでもらったのに、何故貴様が来るのだ!」
「え、えーっと、俺今修道士の修行中で……治療の杖とか薬の使い方とか一通り母さんに習ったし、大丈夫だぜ」
言われてみればウードが手にした杖は初心者用のライブではなくそこそこ修練を積んだ治療者向けのリライブ。
「闇に生きる俺が神の名のもと治療を行うとは、俺も丸くなったものだ……だから弓構えるのやめてくれないか?」
「うっ、ううっ……」
「だぁっ!? 今度は泣き出した!?」
「私、ウードには弱い所見せたくなかったのに……この世界に来て元気になったんだって言いたかったのに……」
「お前とブレディが病弱なのは昔っからだろ。様子、見させてくれるか?」
2、3問診。薬を煎じて飲ませる。
「よーし、これで安静に寝てれば明日には楽になるだろ! 全く、無理すんじゃねえぞ!」
「ウード、こういう才能もあるのね……凄い」
「母さんがシスターだから血、かな? ノワールもダークマージの才能あるだろ」
「こ、攻撃魔法だけなら……呪術は扱えないけど」
「天幕まで送ってくぜ。ああ……外は最早夜、宇宙という深海に沈むかのように月の光は今日は届かない……」
肩を貸されてウードがいつものように詩人をやっているのが嬉しくて、ウードに悟られないようにくすりと笑う。
「じゃ、おやすみ、ノワール! 良い夢見ろよ!」
「おやすみなさい、ウード」
――――あなたは笑い、私は天幕に駆け込み歯ぎしりした。
『ウードが治療なんて似合わない』なんて一瞬でも思った自分が恥ずかしかった。
誇りに思っていないはずがないのだ。
リズはあの絶望の未来で最期の時までウードに杖を振り続けたのだから。
無論ウードは必殺技や強い武器が大好きだから前線に出る方が好きだろう。
だがそれと修道士という職業に憧れるかは、別だ。
「つ、次どんな顔で会えばいいんだろう……キレた顔で言ったら怖がるし……」
悶々としながら寝具に横たわった。

ウードは真っ直ぐには帰らず森に寄り道をした。
研ぎ澄まされた耳が何か異質な音を感じ取ったのだ。
気配を消しながら音の元に近づく。
それは、歌だった。
鼻歌のようにフレーズを微かに口ずさむ。
そして、それに合わせた踊り。
やがて踊り手は動きと歌を止める。
「見事なものだな、蒼穹のアズール」
「だああああああああああああっっっっ!?」
一方、踊り手のアズールは全くウードに気付いてなかったらしく、大げさに慌てふためく。
「は、恥ずかしい……! ウードのことだから馬鹿にして言いふらすに決まってる! 階段から転げ落ちて全知3日のたんこぶ作っちゃえ!」
「お前の中の俺の評価どんだけだよ! あんな真剣で美しい舞を貶すなど出来るものか!」
ウードの言葉に疑いの眼差しを向ける。
「俺の超絶必殺神名の書を読み上げるような精神だから他人もそのように見えるんだろ」
図星であるので反論のしようがない。
「それに……俺だってお前の踊りにかける情熱は知ってるつもりだよ。そこは心から信じている」
わななきが止まらない。
誰にも見せるつもりのなかった踊り。
「ねぇ、ウード。今度君に凄く恥ずかしいことをしてもらうよ。そうじゃなきゃ僕の気が収まらない」

「嫌だ―! 闇に生きる俺がそんな破廉恥なことをー!」
「まあまあ、僕と同等に戦うならこれくらいやらなきゃね。花火大会のナンパ、頑張って」
引き立て役として連れて行ったら自分まで同類項とみられる。
ならば、せめてみっともない敗北を。
しかし、その思惑は早々に外れることになる。
「そこの宝石の如き瞳をした天上の美の女神よ、一時花火の彩りに貴女を加えることを許して欲しい」
クサすぎだろう、と思ったら相手の女性は満更でもない様子でお茶に誘うウードに付いていった。
「な、何が……」
「何があったのだ」
自分が気配にここまで疎いとは気付かなかった。
やはり平和ボケということだろうか。
アズールの横には鬼面のノワールが弓を引き絞っていた。
「の、ノワール様……」
「まあ良い。牽制用の矢を何本か撃ち、それで反省すればそれでよし、しなければ……」
般若の相が余計激しくなった気がした。
アズールは逃げ出した。
今のノワールに対抗出来るのは邪竜ギムレーくらいだろう。
早速の喧騒から目をそらし、街の外に目をやった。
向日葵の咲く丘。
――ああ、絵になる風景だろうな。太陽の光と向日葵の中で女性というのは。
「それで思い浮かべるのが母さんの笑顔だから僕はモテないのかな」
自嘲とウードの長たらしい言い訳が、アズールを包んだ。

 

第150回ワンライのお題『打ち上げ花火の灯の下で・深海に沈む・向日葵の咲く丘・君は笑い、僕は○○ (○○は変換自由)・階段から転げ落ちて』の全部を使った自主練
FE覚醒でウード×ノワール(支援B~Aくらい)とアズールの話。
ウドノワは単なるラブコメなので置いておくとして←アズールが一番笑っていてほしかった人はやっぱオリヴィエなんだろうな、と思ってこんな話になりました

 

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