■異界の系譜
シグルドがオーブの入った箱を運んでいる。
「先を越されてしまったか」
エルトシャンが笑う。広間にアレスが召喚出来るようになったことを告示されて急いで来たのだが。
「セリスがはしゃいでいてな。良くあんな真っ直ぐに育ってくれた。オイフェとシャナンに礼を言いたいものだ」
「召喚された時セリスは私をアレスと間違えてな……セリスはディアドラに、リーフはエスリンに似たようだが、アレスにはどこまでグラーニェの面影があるやら」
「ふふ。私も君の反応を見たく、こうして召喚師殿を手伝っている」
「それに私の助けは必要か?」
怜悧な声が響く。
アルヴィス。元の世界でシグルドとその仲間の命を奪った男。
遺恨は置いてきた――はずだ。現し世を見守っていたシグルドは“この後”のアルヴィスのことを知っている。その戦いを。
かと言ってあの届かなかったティルフィングの剣先を、執拗に浴びせられたファラフレイムによって絶命した瞬間のことまで忘れられる訳ではない。
「それは召喚師殿が決めることだろう」
「それもそうだ。貴様と私は召喚された身ゆえ、共闘することはあっても手を取り合って馴れ合って話すような仲ではない」
「ああ。何より貴様自身が私やセリスに赦されることを拒んでいるからな」
「ふ……ふははははは! わかったようなことを言うのだな、シグルド! 死して空から眺め私を越えた気にでもなったか!?」
「シグルド、アルヴィス! 我らは召喚された身であることを忘れるな。馴れ合う仲でもないが争うことは禁じられている」
一触即発といった険悪な空気をエルトシャンが一喝する。
アルヴィスは背を向け、そのまま動かない。
呟くように語りかける。
「……つくづくこの特務機関とやらは懐が深いな。私やあのギムレーという異界の邪竜やロプトウスまで従えようというのだから」
「ああ。次の敵はユリウスだ」
「イシュタル……フリージの娘か。ユリウスの婚約者にどうかとヒルダが掛け合って来ていた。私の認識ではまだ幼い少女だがトールハンマーを継承し『雷神』の異名を取るとは……ロプトウスを止め得るかはわからぬがな」
「成程。貴様の狙いは戦力を増強しユリウスを止めることか」
「…………ここには暗黒教団の手は及ばない。我々の世界でロプトウスに染まったユリウスさえ止めればユリアが器になることはないだろう」
言い残してオーブ貯蔵庫に向かう。
「あ、父上、エルトシャン王! このような所で立ち止まってどうしたのですか?」
「少し、話していた。アレスはどんな騎士だろうとな」
「心配しなくても素晴らしい友人です!……でもエルトシャン王ほど厳格ではないので……大丈夫かな……」
「ああ、それを聞いて安心した。何しろ私はこの頭の固さゆえに身を滅ぼしたのでな」
笑みを作る。
「それよりいいのか? 後ろでユリアが息を切らせているぞ」
「ええ!? ユリア、君は手伝わなくていいって言ったじゃないか! それに召喚師殿と話をするのではなかったのかい?」
「にいさまが召喚師様と内緒話をしていたので……聞き出そうとしましたが……教えてくださりませんでした……何を話していたのです……!」
「……大事なこと、だよ」
――ユリウスとユリア、そしてディアドラが戦わなくても済むようにしてほしい、と。ナーガはきっとロプトウスを封じられるけれども、それでも、と――
「妹を困らせるところはシグルド似だな」
「からかうな、エルトシャン」
「そうです! そんなところよりにいさまにはシグルド様に似た良い所がいっぱいあります!」
「ユリアが珍しく怒ってる……」
談笑が広がった。
「貴様は演出を好むがよく考えろ……ナーガの力は強いがこの特務機関にはそれに並ぶ、いや、越える力があるだろう。戦力を浪費するな」
彼らがいる通路を避けて召喚の間に行ったアルヴィスは召喚師に進言した。
召喚師はその真意を理解していたが表には出さない。
英雄の心情などというものは、戦場ではあまり意味がない。
それでも大事にしたいのだ。大切な“思い出”だから。
悪戯心が湧くのも抑える。セリスが同じ願いを吐露したと言ったら、アルヴィスはどんな顔をするだろうか、と。
アレスだ! リーンだ! イシュタルだ! 初の女性キャラのクミコせんせー案件だ!
伝承でドブったことを後悔しつついつもの書けば出る教です。
FEHでばっかりセリス書いてるなー。