■10月31日のファルコンハウス

ミュートシティ、かつてはニューヨークと呼ばれた街。
大手を振って仮装できる民間行事として定着した収穫祭は空の上に街がもうひとつ出来ようと変わることはなかった。
「げぇっ、仮装してきたらケーキセット無料だったのかよ!? 知ってたら仮装してきたのによ!」
「ジャック、俺たち仕事上がりだろ。どこで仮装するんだよ」
下層の路地裏にある隠れた名所――マスターの自画自賛だが――喫茶店・ファルコンハウスではこの10月31日に特別な催しをしていた。
「マスター、この猫耳バンドで……トリック・オア・トリートにゃおん」
「合格です、ルーシーさん。今日の会計はタダでいいですよ」
「ありがとにゃん!」
「ずっりーぞルーシー! 知ってたら俺たちにも教えろよ!」
「だって仕事上がりで用意できる仮装なんて猫耳バンドかゴミ袋のオバケくらいですよ。ジャックさんやリュウさんのは見たくないです」
狼男の仮装をしたバートがルーシー用のコーヒーを淹れている。
「まあジャックやリュウはうちの赤字会計の役に立ってもらうってことで」
悪魔の仮装をしたクランクが皿を拭いていた。
「しっかしハロウィンねぇ。ガキんころは楽しみにしてたけど刑事になってから街の警備ばっかだったからなぁ」
「そういう雑務とは無縁の高機動小隊に感謝だね」
注文が出てくるまで雑談をしているとドアベルが鳴った。
「ファルコンハウスのみなさーん、トリック・オア・トリートよ!」
ラメと電飾とフリルがついた妖精姿でプリンシアが入ってきた。
「ほう、これは可愛らしい妖精さんだ。どんな悪戯をしてくれるものか興味深いな」
「お菓子の国のお姫様だからー、っていつの間にそこにいるのよサイバー卿……」
「コーヒーを嗜んでいることからわかるように最初からだが?」
吸血鬼の仮装をしたサイバー卿が茶々を入れる。
静かにしているので気付かなかったが、確かにリュウたちが来た時にはその席は占拠されていた。
「というか違和感なさすぎ! 仮装っていうより正体を現したって感じじゃない!」
「お菓子の国の姫君というまんまな仮装をしている君に言われたくないものだがね……ちなみに仮装はしているが会計は支払っている。庶民の行事に参加するのも貴族の嗜みだが最低限の礼節は失わないようにしたいからな」
「うー、私もお持ち帰り用のホールケーキは予約して料金支払っているもの! 差し入れのお菓子も持ってきたし!」
「いたずらしなきゃお菓子を渡すぞ、ってか。つか衣装にいくらかけてんだこの2人。生地とか明らかに高い奴だろ」
「野暮なツッコミはナシですよ、ジャックさん」
高機動小隊の3人用のコーヒーとケーキが出てきた所で再びドアベルが鳴る。
「ハッピーハロウィン!!」
赤い帽子、白いボンボン。顔の上半分を隠すマスク。赤いツナギ。
サンタクロース、そしてフェニックスに相違なかった。
「マスター、コーヒーを一杯いただけるとありがたい。そして皆に菓子を配りに来た!」
「いや、仮装は仮装だけど季節間違ってねーか?」
「む、QQQに予め季節行事について調べて貰ったのだが」
「あのポンコツとっとと修理しろ」
29世紀の技術でないと、と呟きながら背中の袋を漁る。
フェニックスが菓子を配り終わり、プリンシア用のケーキセットが出てきた所でまたドアベルが鳴る。
「ハッピーハロウィン、そしてトリック・オア・トリート!」
赤いメット、ゴーグルの奥の強い眼光、黄色いマフラー、青いレーサースーツ。
「いやあ、キャプテン・ファルコン自ら来店いただけるなんてありがたいですね」
「マスター! ツッコんで! 僕ですケントです! わかってて言ってるでしょう!?」
メットを外しワッと泣き出すキャプテン・ファルコン――もといケント・アケチ。
続いて彼の悪友であるミッキー・マーカスがミイラ男の包帯でもわかる呆れ顔で入店する。
「表彰台ではいつも自分はファルコンの息子だー、って気合入っているのに何で泣くかねぇ。おおっぴらにファルコン名乗れるチャンスじゃねぇか」
「何か違う、絶対違う! 僕はこんなことで……」
「トリック・オア・トリート。お菓子あげるから泣かないで!」
「むう、泣くことがイタズラとはなかなかやるなケント! だが菓子をやるから泣き止むんだ!」
「ご注文いかがします?」
「子供扱いしないで下さい! あ、ケーキセット。タダの奴」
「そこは譲れないのかよ!」
クランクの悲鳴が響く。
こうしてファルコンハウスの10月31日は更けていくのだった。

 

F-ZEROワンドロ10月のお題は『ハロウィン』という訳でアニメ&AX&GBAごった煮。
人選は趣味ですwGBAキャラは謎が多いですがケントはマシンに乗ると性格が変わると信じていますw

 

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