SRWNovel

SRW関係やロボット作品の二次創作小説集です。
文章:波多野奈津目、挿絵:焔安芸

Bitter treat Black trick SRWNovel

Bitter treat Black trick

ギリアム・イェーガーに関する、数多くの噂のひとつ。 『バレンタインデーのお返しがとても充実している』 非常に現金、かつ彼に関する噂の中では確実な裏が取れている珍しいもの。 ――――――名前付きのメッセージカードに、贈ったものの意図に対する細やかな返事と、地球圏各地の珍しいものや高級なものが、贈ったものの約3倍の価値で返ってくる。 手作りは受け取らないので、逆に投資しやすいという注意事項兼要項まで流れている。 元より特殊戦技教導隊として数多くの伝説を残す、少し――だいぶ変わったエリートパイロットであり、鋼龍戦隊としての戦績もある。 年齢、20代後半。『人間離れした』という修飾語のつく顔立ちの整い[…]
冷たい唇を暖めて SRWNovel

冷たい唇を暖めて

救護室を離れられない。 ヒューゴが眠っている。強い副作用で半ば昏睡状態だ。 ツェントル・プロジェクトやその裏で暗躍していたGSのことが片付いても、ヒューゴの身体が完全に元通りになったわけではない。 解析して、改良して、それでも一生ついてまわるのが機械仕掛けの身体とそれに言うことを聞かせるための薬だ。 新しい敵が現れて、鋼龍戦隊がまた招集されて、出撃続きだったのがいけないのかもしれない。先の出撃の後急激に苦しんで、そして今度は眠っている。 「王子様のお目覚めにはお姫様のキスがお約束、ってね?」 「きゃっ!?」 背後にいたのはエクセレン―― 「茶々を入れるな、エクセレン」 「だってだって、このまま[…]
数多の交差の『来年も』 SRWNovel

数多の交差の『来年も』

L2宙域――ザンスカール軍・ポセイダル軍の同盟による戦線膠着。 ドライクロイツ実働部隊による一旦の鎮圧が求められる。 アステロイドベルト――ウルガル機の観測数、関数状に増加。 チームラビッツの運用最適化のためにも出撃が求められる。 各地のクエスターズの活動――メイヴィー・ホーキンスの提示データと一致することから『遺産』と見られ―――― 「今年の仕事はここまでにしましょう」 レイノルド副長の拍手がブリッジに響きふと引き戻される。 「副長。我々は……」 「この世界の平和を導くため軍と民間、地球と宇宙、これまでとこれから……罪・咎・覚悟……様々な想いの交差を背負う『ドライクロイツ』そしてその旗艦ドラ[…]
面影に捧げるHappyBirthday SRWNovel

面影に捧げるHappyBirthday

ヴィレッタの戸籍上の誕生日は11月14日だ。 そして、ギリアムの誕生日は11月20日――こちらも戸籍上そういったことにしている、というものだが。 「1年365日、或いは366日、誰かしらの誕生日であるものだが、君と近い誕生日というのは少し嬉しいものだな」 彼はそれを確認した時言葉どおりに表情を崩した。 そういった月に、外出許可が出て互いのプレゼントを選びに出た。食事とデートも兼ねている。 お互いどうにも色気のない誘いが多く、それも嬉しくはあるがたまには恋人らしい過ごし方をしたいと感じている。 「すまない、寄り道をしても良いだろうか。忙しくならないうちにゼンガーの誕生日のものも用意しておこうと思[…]
狂言回しは静かに踊る SRWNovel

狂言回しは静かに踊る

「長い、旅だった」 『それ』がこの世界に定着する前に討とうとした。 「無駄だ、クォヴレー・ゴードン。俺がここに現れることも含めて全ては予定調和⋯⋯お前が憎むべきはこの世界そのものの仕組みではないか? 因果律の番人、そして銃神⋯⋯」 「黙れ!」 多くの者は何が起きているのか理解出来なかった。ただ、その声は知っていた。 「⋯⋯クォヴレー、ひとつ聞きたい」 彼と同じ声を、していたから。 「俺が例の力を使ったなら、状況は変えられるか?」 「やめろ、ギリアム・イェーガー⋯⋯⋯⋯変わるが、悪化する。何が起きるかは俺にはわからないが、それだけは確実だ」 次元を越えて今現れようとする、転移を伴う爆撃を仕掛ける[…]
一発ネタをやらないと出られない部屋 SRWNovel

一発ネタをやらないと出られない部屋

――――――別名、終了メッセージ時空。 「またここに来てしまったか」 毒づかずにはいられない。人には向き不向きがあり、彼、ギリアム・イェーガーは個性豊かな面子に囲まれて騒ぐのは好きだが、自身は面白味のない人間であると定義している。 ノルマとして1つやることが決まっているものがあるが、ネタ切れもネタ切れだ。 「こういう時は……そうだな。第3次スーパーロボット大戦αもヨロシク!」 「いつからそこにいたんだ、クォヴレー」 「予知出来なかったか?」 少年の軽い嘲笑は露骨に『彼の真似』という悪ふざけをしている。 「というのはさておき、俺が来たのはお前とほぼ同じタイミングだ。どうやら俺たちで何かやれという[…]
これもひとつのBloodlines? SRWNovel

これもひとつのBloodlines?

「しかしお前が所帯を持つとは、と意外に思ったが、まさか渓の正体が元気とはな。そしてその手の話はとんとなし、と」 竜馬が鼻で笑って炭酸をジョッキで掲げる。 アルコールはご禁制だ。その類の規則を守るつもりはないが実物がないのでは仕方ない。 「武蔵先輩に託されたんだ。それにあいつに罪はない、放っておいたら早乙女の子としてリンチだったんだぞ」 「などと言いつつ渓を嫁にはやらんなどと時々喚いている。今アルコールがないのは救いだな?」 「ぐっ……10年も父親やってればそれらしくなるのは当然だろうが! お前たちだって当事者になればそうなる!」 顔を見合わせた。所帯を持つ。子を持つ。 隼人は副官の山崎の顔を思[…]
ある日の約束、未来への扉を開いて SRWNovel

ある日の約束、未来への扉を開いて

その『亡霊』は突如としてこの世界に現れた。 「……俺……は…………」 今はまだその意識も定まらず、黙するのみ。 ************ 転移反応を掴み、先んじて回収出来たのは幸いであった。 異世界間の転移が耐えない中、単機とはいえお互い何の情報も掴めないまま敵性組織へ渡ることは望ましくない。 話し合った結果友好的な関係を築ける可能性があるのなら尚更だ。 そのアンノウンは生体反応を内に持ち武装もしているが、完全に動作を停止しており、パイロットの意識もないようだった。 「って、ゲシュペンストRVじゃねえか! っつーことはギリアム少佐か!」 そして完全なアンノウンという訳ではなく、どうやら先に現れ[…]
取り零した約束に SRWNovel

取り零した約束に

朝と夕の祈りは欠かすことがない。 「今日は招待されて映画を見に行ったのさ。ひいおじいさまはこんなカッコいい人じゃなかった、などと言っていた少女……ナンブ、といったかな。どうにも悪癖の方が伝わっているようだ」 一辺の曇りもないよう磨き、花を捧げて、答えのない会話を投げる。ルーティンでありながら常に違う動き。 「君と行けたら良かった」 彼と同様招待され変わらぬ姿のラミアと久しぶりに会い、少しおかしな丁寧語の彼女としばらく話すと、あなたは変わったと憐れみ呟いた。 「変わるはずがない俺に、何でラミアはあんなことを言ったのだろうな」 隠した愛機に改修を繰り返し、闇を払い護るべきものを護る。揺らぐはずのな[…]
盾の護る希望 SRWNovel

盾の護る希望

「オラオラ! バテてんじゃねぇぞ! 強度上げてあと30分だ!」 ラマリス発生の大規模な予兆、ガディソードとゴライクンルの連合軍の不穏な動き。鋼龍戦隊がそれらに対応するため大気圏を離脱し、無事衛星軌道上に辿り着いたのが数刻前のことだ。 その慌ただしさからか、ヒリュウ改のトレーニングルームはオクト小隊の独占状態となっていた。 こうなると常時より過激になるのがカチーナ・タラスク中尉というもので、並んだランニングマシーンをリモコンで一括操作した。 「た、タンマタンマ! 無理です! 無理ですって! ギブギブ!」 「何が無理だァ!? あたしが余裕でこなせるんだ、野郎でティーンのお前が出来ない訳がねぇだろ![…]
世界に駆ける SRWNovel

世界に駆ける

その時、不思議なことが起こった。 卑劣にも過去の世界に干渉し、パワーアップ前の仮面ライダーBlackを消すことで現在を変えようとした秘密組織だが、RXの持つ力の一つが彼を過去に送り、更にロボライダー・バイオライダーも駆け付けたのだ! 力を合わせた4人のライダーの前に敵は最早敵ではなく、圧倒的な正義の前に姑息な悪は滅びた。 だが彼の戦いは続く。この世界に真の平和が訪れるまで…… **************** 「な・ん・だ・よ・こ・れ!」 雑誌を捲っていた光太郎が怒声を上げた。血の気が多い彼だが、その中でもかなり頭に来ていることはアムロとダンには理解出来る。 「おいアムロ、これ書いたのお前の友[…]
いつの未来も、きっと幸せな SRWNovel

いつの未来も、きっと幸せな

データルームの入口にはずっと在室を示す掲示灯が光っている。ドアベルのボタンを押して、室内との通信が開くのを待った。 「ギリアム少佐、入ってもいいかしら。何か手伝えたらと思って」 《君か、ヴィレッタ。歓迎する》 電子ロックの解錠と共にプシュッと空気音がして彼女を招いた。彼女が腕から下げたのは給餌用の保温バスケット。会釈するとポットを手に微笑んだ。 「そろそろコーヒーのおかわりも欲しい頃合でしょうしね。詰め過ぎよ? それと軽食も」 バスケットを置くとサンドイッチが入っているのがわかる。トーストと少し溶けたチーズの薫香と共に瑞々しい野菜の色が本能を刺激した。 「これは君が?」 「あら、よくわかったわ[…]
海辺にて想う、戦いの終わりを SRWNovel

海辺にて想う、戦いの終わりを

海辺から人混みが消える刻になっても、じわりと纏わりつく暑さは変わらない。 「研究所では知らなかった風の流れ、季節……」 うだるほどだがアユルは嬉しそうにワンピースを踊らせる。 連れて来た甲斐があるというものだが、あまりにも無邪気なものだからジンは思わず意地悪を言った。 「それはそうだ。観測史上稀に見る酷暑、アユルどころか地球の誰もこんな暑さは経験したことがない」 「あら!」 しかし無垢な彼女はやはり顔をほころばせてジンの手を取った。 「ということは、私は今スペンサー大尉と同じ驚きを共有出来ているのですね!」 「あ、ああ……そういうことになるな……」 ――――逆にやられた。主にその笑顔に。 「そ[…]
大切な日に変わっていく SRWNovel

大切な日に変わっていく

「ヒューゴの誕生日?」 フォリアに問い返す。一週間後がヒューゴの誕生日だと教えてもらったのだ。 「何で教えてくれなかったのかしら……パートナーなのに」 「姐さんは悪くないです! 戸籍だけの奴だからって無頓着だし、祝われても微妙な反応だしで。でも姐さんから祝われたなら別だと思うんですよね」 ニシシ、と歯を見せて笑う。親友の反応が楽しみだという好奇心と、彼らへの好意が7対3ほどの割合で溢れている。 「フォリア、ありがたいのだけどひとつ忠告しておくわ」 「何でしょう姐さん!?」 クライ・ウルブズの末席として舎弟精神が染み付いているフォリアはアクアの静かな叱責にビシリと敬礼をして袖を正す。 「お店の予[…]
笑顔の溢れるやりがいのある職場 SRWNovel

笑顔の溢れるやりがいのある職場

「地球連邦軍情報部所属、サイカ・シナガワ少尉、かあ……」 規律を守ったナチュラルメイク。真新しい軍服に袖を通したがどうにもコスプレじみている。 実感が湧かない。あのスパムメールから異形じみた自律兵器に狙われていたということも、その調査をしていたギリアム・イェーガー少佐の目に留まり司法取引で軍属になり今日から着任という事実も。 Dコンの星座占いアプリでは一位、仕事運と恋愛運が特に良し、運命の出会いが訪れるかも、などなど都合のいいことがずらりと書かれている。 ――でもギリアム少佐って特殊戦技教導隊の人だし今もハロウィン・プランでゲシュペンストの改良に力を入れているから、夢のPT開発に携われるチャン[…]
100年後の未来も、きっと明るくて SRWNovel

100年後の未来も、きっと明るくて

DC戦争からはじまり、数多の並行世界を巻き込んだ一連の戦いが終結してから6年が経った。 「お久し振りです、そしておめでとうございます」 エルザムは微笑んだ。 「この目出度き時に呼んでくださること、旧交を温め合えること、誠に僥倖」 ゼンガーも頷いた。 カイの娘・ミナの結婚が決まり式の段取りをする所で彼以上の料理人が思い浮かばず、ミナにとっても知らぬ相手でもないため、エルザムに料理のことを全て任せることにしたのだ。 「それで……お前たちもギリアムの行方はわからないのか?」 もう1人の戦友は戦後処理を終えた後軍を去り、エルザムたち同様隠遁生活を送っているはずだったが、連絡がつかない。 「コールには応[…]
エンキョリレンアイ SRWNovel

エンキョリレンアイ

ようやく1人になれる時間が出来てDコンを取り出して、ふと我に返った。 連絡を取ろうとした相手はヴィレッタだが、鋼龍戦隊の置かれた状況が思わしくないことは他でもなく先程までしていたGS絡みの任務その他で嫌というほど知っている。 仕事やそれを振ってくる上層部への愚痴というのは俺たちの日常会話としてはよくあることだが、久方振りの連絡でそれはどうかという良識があった。 ヴィレッタもそこでアーマラ・バートンという敵対存在に心を乱されている。 話題が必要だ。気を紛らわすような面白みのある話で彼女が知らないようなもの。 ――――無理だな。楽しい人間に混じるのは好きだが、正直ネタ切れだ。 全体の心身のケアと自[…]
ぬいぐるみの少女がいる世界 SRWNovel

ぬいぐるみの少女がいる世界

初夏の風と心地良い陽気に誘われて、街に出た。積もった仕事が片付いた慰労も当然ながら含まれる。 「あ…………」 公園に差し掛かった時、ギリアムが嘆息と共に目を丸くした。視線の先には幼稚園児ほどの少女がいて、くまのぬいぐるみとままごとをしている。少し距離を置いて見守る両親らしき若い男女は幸福感に溢れており、釣られて視線を移したヴィレッタも思わず微笑んだ。 「……ギリアム?」 しかし長くは続かない。この日常に似合わぬ動揺が伝わり、そもそも彼が取り乱すという異常事態がヴィレッタを強張らせる。 「ああ、いや、何でもない。君とああいう夫婦になれたら、と思っただけさ」 急ごしらえであることが露骨な口説き文句[…]
隊長業と甘い罠 SRWNovel

隊長業と甘い罠

モニターに向かう。数値の羅列、3人のT-LINKシステムのグラフ、隊員たちの所感、演習の成績、その他諸々。 今日のテストは大規模で、SRX計画の完成形、コードネーム『アルタード』のため改良されたT-LINKシステムと連携する新型エンジンを搭載した特殊なゲシュテルベンでの演習だった。 機体に搭乗していたとはいえ監督だったヴィレッタは隊員たちを労ってゆっくり休むように声をかけ、報告書と戦っていた。 0時を回ったのを確認し、少し目眩がした。ここのところアルタードの件に追われロクに休めていない。 人造人間といっても生理反応は人間とほぼ変わりなく、睡眠不足は集中力と体力に響く。 その時執務室の入口のコー[…]
朝へと続く光 SRWNovel

朝へと続く光

「大丈夫か? 震えている」 ギリアムのコートを掛けられた。防弾仕様で武器があちこちに仕込んであるせいか重く、そして彼の温もりを感じる。 彼の右手に座ったおかげで、その瞳を見ないで済む。きっと心配で揺らめいているのだろうけど、目が合わせられなかった。 先の出撃が終わって、格納庫で会った彼はこの展望室に私を連れてきた。気遣いが痛い。私は――――ただの人形なのに。 「!!」 己の思考に入り混じった囁きに身が強張った。まだ、残っている。ゴラー・ゴレムとの戦闘で揺るがされた自我の歪みが。 「……ねえ、ギリアム」 「断る」 予知能力ゆえか、状況からの判断か、彼は私の懇願を言葉になる前に断じた。 「有り得な[…]
春の陽気に誘われて SRWNovel

春の陽気に誘われて

春の陽気は思った以上だった。開け放した窓から爽やかながら夏を思わせる熱を帯びた風が舞い込んでくる。 衣替えを早めておいて良かった、とノースリーブで家事をし、子に熱が籠っていないか頻繁に気を配る。 「ただいま」 「おかえり、鉄也」 夕飯の支度は時間通りで、愛しい人を出迎えた。 「……ジュン」 「あら、何?」 ガチリ、と腕を回し浅黒く引き締まった、しかし柔らかい肩に深い口づけを受ける。 「冷えるぞ」 彼の不器用な優しさに微笑み、硬い髪を指で撫でた。 「ふふっ、そうね。何か羽織るわ」 「ああ。少しばかり刺激が強いしな」 「もう、そんなこと言って余裕綽々のくせに」 何度かキスの応酬をして、夫婦はようや[…]
長き夜を越え、花園で待つ SRWNovel

長き夜を越え、花園で待つ

SRXチームの詰め所に春の花が届いた。 贈り主はギリアム・イェーガー少佐。 女性陣宛て、花籠3つ、それぞれへのメッセージカード。 「花言葉も選んでありますね、これ」 アヤが目を丸くしている。 「隊長には普通に愛の花を取り詰めてるのに、私とマイには親愛だとか希望なのが……」 「隊長の分だけ花が多いな。羨ましいぞ」 公然の仲なのに何のアリバイ作りだろうか、と疑問になってしまうが。 「ギリアム少佐ってプレイボーイだよなぁ。絶対机の上にチョコ山積みにしてるしホワイトデーの予算組んでる」 理解していない約一名の反応を見るに極度の鈍感または鋼龍戦隊外には通用しそうなカモフラージュである。 ――少し、恨めし[…]
噂の真相 SRWNovel

噂の真相

ギリアムは笑っている。 「聞いたことがあるな。士官学校に流れているという特殊戦技教導隊の功績を誇張した噂話の存在を」 アクアは煌めいた目で尋ねる。 「はい。本当なんでしょうか。『ギリアム・イェーガー少佐は敵機が出撃する前に撃墜出来る』というのは」 「本当だとも、アクア少尉」 休憩室で立ち話になり再度追求に至るが、アクアもヒューゴも巻き込まれただけであることを再確認しただけで、残りは余興だ。 「ギリアム少佐、少しばかり語弊があるように思いますが」 ヒューゴは気に入らない、という感情が少し出て――――何が気にいらないのかわからないのがまた気に入らないが――――堅実に意見を述べる。 「つまりは潜入工[…]
大空の勇者、穏やかな海辺に立つ SRWNovel

大空の勇者、穏やかな海辺に立つ

  雷を操る大空の勇者、グレートマジンガー。 ただ今日の海はとても穏やかで、潮風の爽やかさに揺れるジュンの髪の柔らかさや褐色の素足を波に晒し喜ぶ姿は、平穏だが少し衝動のやり場に困る。 鉄也は少しばかり襲来警報を期待した己を恨んだ。戦闘マシンでなくなったのは他でもない彼女のおかげだ。 「キャッ、何するの!」 誤魔化そうと腕で掬った海水をザバリとジュンに掛けると少し怒った。 「ハッ、結構子供らしいと思ってな」 「そういうことをする鉄也の方が子供じゃない!」 カラカラと笑うと激情を示し迫っている――結局ジュンも気性が荒い炎の女なので直接戦闘は危険だ。 「悔しいならやりかえしてみろ」 離脱し[…]
誕生日の心 SRWNovel

誕生日の心

  「誕生日だしたまにはヒューゴが料理を作って。勿論サバイバル料理以外でね」 ヒューゴは誕生日でなくても作るが、アクアの料理が美味しいため頼ってしまう。 分担は大事だ、と心中で呟きながら包丁を慎重にトン、トンと刻んでいく。 食事は生きる喜びであり、味や栄養がいいほど――――と謎の食通が語るまでもなく、ヒューゴもそれなりの料理が作れる。 ただアクアの実家の大富豪ぶりを考えると萎縮してしまう。 トンカツ――豚肉とパン粉と卵だ。別の上品な名前で出ているだろう。 味噌汁――――アクアの味噌汁は最高だ。勝てない。 要するに『和』だ。 ヒューゴの知っている和風料理と言えば禅と夜の精進料理だが、ど[…]
涙の後に喧嘩して SRWNovel

涙の後に喧嘩して

  ――あの時の涙は、私を強くしてくれた。 ************ 「うちの家計どうなっているかなぁ……」 ショウコにとって、鋼龍戦隊の戦況よりもそちらの方が悩みの種だ。 「ショウコちゃんは凄いね、流石歴戦の戦士って感じ。この戦況で負ける心配していないもの」 新たに仲間になったアケミは同じ年頃で、ショウコと同様巻き込まれる形でパイロットになった。 違うのは巻き込まれたのが『ファイター・エミィ』としての運命か、弟の正義の心かということで、何かと話すようになった。 コウタとアキミは仲がよくもお互いの喧嘩の早さもあり、仲裁に疲れ好きにさせることにした。 「コックピットはパーソナルトルーパ[…]
カーテンコールの裏側で SRWNovel

カーテンコールの裏側で

ギリアムのチームではブリーフィングが行われている。 「お偉いさん方は無茶を言いますな……何やらカンヌに出せるものを、と」 壇が愚痴をこぼす。 鋼龍戦隊は軍からも民間からも人気がある――――反感も買っている。たまたま搭乗していただけだと。民間人を徴収している、と。 個性派揃いの独立部隊から統合参謀本部預かりになった鋼龍戦隊は上からの抑えつけが激しい。 「プロバガンダに利用したい元帥閣下にはお引き取り願いたい所だが、民間からのイメージは大事だ」 この状況で誰よりも頭を抱えているのはギリアムである。 その名称がつく前、最初の戦いであるDC戦争からハガネとヒリュウ改と共に連邦軍情報部から出向したパイロ[…]
猛暑の慰労会 SRWNovel

猛暑の慰労会

新西暦の時代においても、日本は四季の国として知られている。 「あづい~」 アラドが溶けている。彼は時折り形を失い、軟体生物と化す。 「アラドは少し極端だけど、暑いわね」 「今年はまだ耐えられる暑さだ。湿度が低いからな」 「いや、生粋の日本人のカイ少佐にはそうかもしれないっスけど!?」 少年の姿を取り戻した。 「こんな暑いのに軍の食堂はいつもの! 夏野菜! 肉! 食いたい!」 「……という訳でお前たちには浅草から召集がかかっている。日本の夏を満喫してほしい、と」 元スクールの3人はパッと輝いた。 「ジャーダ、ガーネット!」 「流石ね! それ以上にコウタが張り切ってそうだけどショウコもこういうの好[…]
あどけない寝顔 SRWNovel

あどけない寝顔

ヴィレッタが熱にうなされているという連絡がアヤから入った。 「隊長不在のSRXチームによる投票で賛成2票浮動票2票でギリアム少佐に看病していただく方がいいという決議になりました」 何故俺なのかという疑問を挟めば、病気ではないとの診断のため心労か『地球の技術ではわからない』のどちらかだ、と。 票数で言えば俺とヴィレッタが反対した所で浮動票ーーリュウセイとマイは賛成に移る。 俺には拒否権があるが行使するつもりもなく、単独任務だと告げてRVで向かった。 目的は違えど常日頃から行ってきたことだ――いや、何故これが日常になっている。 どう考えても上司が悪い。今日も例の仕事着を着ている。 そもそもこれをこ[…]
クラン・ドゥイユ~夏の2人~ SRWNovel

クラン・ドゥイユ~夏の2人~

青空に水色の髪が跳ねる。 ケントルム家の所有するプライベートビーチで2人は夏の海を楽しんでいた。 お互いの心身に魅力を感じ既にそういう関係もある。そして父親からの多少の反発はあるが2人の付き合いは公認だ。 「DFCスーツは水着みたいだけど、私の水着はこんな悪趣味じゃないわ」 契機は季節とその浜辺があること。 何よりアクアのその一言に応じ、ヒューゴが思わず見てみたいと言ったことだ。 ヒューゴも外見は常人と変わらないため、彼には少し高いと思えたが洒落た柄の海パンを買いこの日に挑んだ。 彼女が言うようにツェントル・プロジェクトに強制された黒が密着し余計な所しか露出していないDFCスーツと違い、アクア[…]
太陽に焦がれる影の希望 SRWNovel

太陽に焦がれる影の希望

忘れていた。俺が記憶喪失だったことを。 名前以外の全てを忘れて、軍の演習場に倒れていた。 技能だけはあった俺はαフォースの一員としてゲシュペンストで活躍した。 漆黒の堕天使の異名は少しどうかと思ったが、赤い彗星や白き流星のようで悪くはなかった。 その一年で功績が認められ、ゼウスに選抜された。 世界中で暗躍するテロリストの討伐を主目的とした治安維持組織だ。 ゼウスの初期メンバーは俺を含めた4人。 他でもない白き流星のアムロは、機械弄りが好きで本来戦うことが好きではない。 だが戦えるので戦い、英雄扱いされるのに戸惑う、困惑的な笑顔が印象的な優しい奴だ。 モロボシ・ダン。正体は光の国の英雄の1人、ウ[…]
謎多き情報部 SRWNovel

謎多き情報部

バーニングPTの世界へようこそ! 私は進行役のサイカ・シナガワです。 この軍服ですか? コスプレです。 実在のエースのデータを再現したバーニングPTの新しい展開。 その雰囲気を出すためには大事ですよね。 ……などなど嘘ばかり並べてしまった私。 地球連邦軍情報部所属、サイカ・シナガワ少尉。 コスプレではないし任務の一貫です。 新西暦186年2月に日本で稼働を開始したロボット操縦対戦アクション式のアーケードゲーム『バーニングPT』はまたたく間に流行しました。 Dコンのアプリと連携して事前に機体のカスタマイズが出来ます。 コックピットは複雑ですが、それだけに『リアル』で上達が楽しいです。 非常に優秀[…]
二人の黒天使 SRWNovel

二人の黒天使

死を以て因果から解放された彼と、未だに生きながらえながら鎖が解けない俺はどちらが幸せなのだろうと考える。 因果の鎖から逃れようもなく縛られているとはいえ普段の生活はむしろ平穏――とは言い難い戦闘だらけだが――で幸福感すら覚える。 だがこの幸福は続かない。 彼の後継者は未来を繋ぐ。 俺は、誰に、何を託せばいいのだろう。 俺がむしろ、託される側だ。 「或いはお前に託すのもいいかもしれんな、イングラム・プリスケン」 虚空に向かって呟く。 勝手に託すな、という声が聞こえた気がした。 「お前とはもっと別な形で出会いたかった」 だが何となく感じるのだ。 別な形で出会って、それでも戦いが避けられなかった世界[…]
恋は、ご多忙申し上げます。 SRWNovel

恋は、ご多忙申し上げます。

ギリアムは秘密が多い。 話したくないことは聞かない方がよく、知らない方がいいことも多いだろう。 そもそも彼自身わからないことが多そうだ。 両目を出した方が絶対に綺麗なことだとか、変化の少ない表情でかなりわかりやすく感情が出ている所だとか。 教えたら仏頂面になりそうなので言わないが。 ただ、これだけは疑問だし知りたい。 「ギリアム」 「どうした。目的地はまだ先だが」 「遊園地に行くのは中止。計算されすぎててあまり楽しくないわ」 「確かに。では?」 読み通り。どこかの上司の入れ知恵ね。 「次で降りて気まぐれに歩く、というのは?」 「君が望むなら」 ただの恋人としてのあなたを、教えて。 ******[…]
餓え渇く SRWNovel

餓え渇く

私は渇いている。 アクアという名。 何もかもが幸福に満ちた生活。 なのに渇いて、何かを求めて、それが何かがわからない。 籠の鳥らしい我が儘さ。 扉が開いた隙に、何かを探して鳥は空へと飛び立った。 *********** 俺は餓えていた。 身寄りもなく日々を生き抜くのに必死で、食えるものは食ったしそれで死にかけたこともままあった。 悪運と体力だけはあるらしく、死ぬことはなかった。 経験を積めば次に活かすことが出来る。 悪運と体力と経験しかない俺は、生き抜くために軍に入った。 軍は生きやすい――死ななければどうにでもなる。 戸籍だけあったヒューゴ・メディオという名が俺になった。 覚えていないが、俺[…]
あのときは、ごめん SRWNovel

あのときは、ごめん

信頼がある。 協力しあい、笑いあい、泣きあうことが出来る。 「……ごめんなさい」 「君はすぐに謝る。君は何も悪くないのに」 「謝ってばかりのあなたに言われたくはないわね」 「すまない」 表情の乏しい彼なりの沈痛を示す。 「ほら、また謝る。悪い癖よ。あなたはいい人なのに」 「そうかもしれないな」 心からの賛辞に心のない返答が返る。 「あの時はごめんなさい」 「いつのことだろうか。色々ありすぎたな」 「いつでも、よ」 困ったようにふわりと笑いヴィレッタを包容する。 許して欲しい。 あなたに赦しを与えられない私の弱さを。 「私をゆるして……」 「俺で良ければいくらでも」 あなたにしか出来ないことを気[…]
猫たちの休日 SRWNovel

猫たちの休日

休日は大事だ。戦士である彼らが守るべき平和、帰るべき日常を味わう日。 ライは色々言って呆れつつもリュウセイの趣味に付き合っており、女3人で街を歩く。 「たいちょ……ヴィレッタ、次はどこへ行く?」 マイにはなかなか難しい。 子供だが軍しか知らない彼女は同年代や肩書きを持たない人間は普通に呼ぶが、目上の人間はそう呼んでしまう。 大人たちはその度に訂正してきた。 「ヴィレッタさん。映画館と美術館、どっちにします?」 アヤはこの極稀な機会を楽しみ笑っている。 「美術館でしょう、アヤ」 ヴィレッタも笑う。いずれこうするのが当たり前になることを願いながら。 動物を題材にした絵を描き続けた、とある水彩画家の[…]
戦火の中でもそばにいたい SRWNovel

戦火の中でもそばにいたい

私たちはパートナーだ。 2人で1つの機体を動かす。 どちらが欠けても成立しない。 ランページ・ゴーストは凄い。 何をどうすればあそこまで変幻自在な完璧な連携が出来るのか全くわからない。 だけどアルトだけでもヴァイスだけでもとても強い。 私たちは。 「ヒューゴ、私の方は問題ないわ」 「了解、仕掛ける!」 ふたりでひとつ。 「多少の無茶は!」 「承知の上よ!」 最高のパートナー。 「「イグニッション!!」」   -------------   複数お題提供ありがとうございます! ヒューアク希望別カプOKでしたがヒューアク以外思いつきませんでした。 お題「戦火の中でもそばにいたい[…]
砂糖ひとさじ、薬を一粒 SRWNovel

砂糖ひとさじ、薬を一粒

特殊戦技教導隊がブリーフィングを行っている。 「えーっと、つまりこうだな! 試作機のテストをしろ!」 「もう。それ最初に言ったわよ、アラド。全然聞いてないんだから。ただの試作機じゃないわ。量産を前提にした新型よ。PTでもAMでもないし、特機と言うには小さいわね」 「カイ少佐、少し気になるのですが……」 「言うな、ラトゥーニ。俺たちはパイロットだ。技術の出所とかそういうのを気にするのは別の連中の仕事だ。伝手に調べさせているから俺たちはただ動かせばいい」 その『ただ動かすだけ』でどれだけの犠牲が払われてきたかはカイが一番良く知っているが、この名を持つテストパイロット集団の隊長になった以上負わなくて[…]
未練 SRWNovel

未練

ギリアムとヴィレッタの間には強い絆があり、男女としても愛しあっていた。 信頼から始まったヴィレッタの感情は明白に恋愛感情に変わっていった。 ギリアムは恋など知らなかったが、一際大切な存在が女であることと己に恋愛感情を持っていることを尊重した。 男女であるが遺伝子構造が根本的に違う彼らが新しい命を生むことはなく、寿命の差はどちらが先かの違いはあれど決定的と確信出来る。 そしてギリアムは己の意思とは関係なく記憶を保ったまま放浪する宿命にある。 その上で結ばれることに意味がある。 全て理解した上で拒んだ。 理解している。 ヴィレッタは全て理解した上で一線を越えることを望んでいる。 ギリアムも同じだ。[…]
亡霊:盾 SRWNovel

亡霊:盾

俺は色々出来るが、出来ないことの方が多い。 会話。手品。ヤマカン。幸運。 その辺は正直天才だけど、面白くないことは絶対嫌で、体力はない。 漫才師や博打打ちは面白いけど、俺の才能はそんな所で終わらせちゃいけない。 世界を相手にした大博打――軍だ。 とまあ意気込んだはいいが、現実はつらい。 手先が器用で頭脳明晰な俺は整備士になった。 ただの整備士じゃないのは一応言っておく。 天才整備士である俺は歴史に名を残す戦艦、ヒリュウ改の整備員になった。 正確に言うと歴史に残ったのは改装前のヒリュウ。 しかも外宇宙に出ようとした途端やばい敵に囲まれ逃げ帰ったという散々な奴だ。 ただその敵は明らかに地球を狙って[…]
亡霊:漆黒の堕天使 SRWNovel

亡霊:漆黒の堕天使

俺は実験に失敗した。 単身飛ばされた世界は概ね前の世界と変わらないようだった。 地球があり、エルピスをはじめ希望を冠した10のコロニーがある。 そしてシャドウミラーがいずれ現れる。 何もかもが崩れていくあの世界のようにはしない。 少なくともシステムXNの部品ではないこの世界の俺は、ゲシュペンストのパイロット、ギリアム・イェーガーになる。 対策を立てるのに必要なものは情報であり、工作員として活動すべきだろう。そしてコロニーに行くのは極力避ける。 希望の名を持つ箱庭に俺は存在するべきではない。 *********** 戸籍の捏造に少し失敗したが、概ねうまくいった。 若いままの外見と低めの声は『青年[…]
亡霊:黒い竜巻 SRWNovel

亡霊:黒い竜巻

異星人は技術と敵を提供した。 ビアン・ゾルダーク博士は提唱した。 それらは同一の意図をもった地球への挑戦状であり、与えられた技術を地球の技術で発展させる目的だ、と。 敵の異星人をエアロゲイターと命名し、彼らはは人型機動兵器を操るため、対抗するこちらも人型機動兵器が必要だと。 連邦軍はそれを受け、地球側の人型機動兵器をパーソナルトルーパーと称した。 特殊戦技教導隊はパーソナルトルーパーを実用化させるためのパイロット集団だ。 光栄にも私はその6名のうち1人に選ばれた カーウァイ大佐は敬意しか抱きようのない偉大な人物であり、カイ少佐は個性しかない我々をどうにかまとめようとしていた。 テンペストは戦士[…]
亡霊:復讐鬼 SRWNovel

亡霊:復讐鬼

ホープ事件でレイラとアンナを失い、俺は止まったままだった。 何も考えず将校として振る舞い続けた。 その命令もどうでも良かった。 ただ、少しだけ嬉しかった。 そこは目的のためだけにある6人だけの特殊部隊だった。 特殊戦技教導隊。 人型機動兵器の実用化などという絵空事のためのパイロット集団。 試作機の一号機の名はゲシュペンスト。 亡霊。 戦場に存在するが目に見えぬ者。 そして戦争が終われば消える者。 皮肉でしかなかったがそのとおりだ。 隊長のもとに集まった俺たちは変わり者ばかりだった。 上層部の都合に振り回される必要もなく、むしろ俺たちが振り回す側だった。 変わり者揃いだが優秀な俺たちは次々に結果[…]
亡霊:拳 SRWNovel

亡霊:拳

突拍子もつかない命令だった。 聞いたことはある。 異星人が人型機動兵器を持っているからこちらも人型機動兵器を造らねばならないなどという絵空事を。 未知の技術や敵があるのは事実だが、俺には関係ないと思っていた。 そして何故かその実現に向けたパイロット集団の一員に選ばれてしまった。 名だたる面々の中に現場で戦い続けてきただけの俺が混ざる。 ただ、実力が認められたという事実を受け止めその絵空事に挑戦した。 特殊戦技教導隊は非常識だった。 エリート集団と言えば聞こえはいいが、非常識な人間しかいない。 隊長のカーウァイ大佐は常識と良識を備えた偉大な人だが、個人や個人間の諍いを咎めることは出来ても複数にな[…]
亡霊:悪を断つ剣 SRWNovel

亡霊:悪を断つ剣

特殊戦技教導隊は我が誇りだ。 いずれ地球に訪れる侵略者と戦うために人型機動兵器が必要だった。 人型には欠点が多い。 関節を増やせば動きの可能性が増えるが関節そのものを突かれれば弱い。 武器もそうだ。 だが兵器を使うのが人間である以上、人間の形をしているということが何より大事だ。 夢物語を現実にするために集められた6名は相応しい個性を揃えていた。 俺は悪を断つ剣。 エルザムは黒い竜巻。 カーウァイ大佐は指導者。 カイ少佐は指揮官。 テンペストは全てを憎悪する復讐鬼。 そして、ギリアムだけはわからなかった。 非常に優秀で好感の持てる男だ。 最年少で階級も中尉だったがそれすらも異例の肩書きだ。 選抜[…]
幸福な復活祭 SRWNovel

幸福な復活祭

ヴィレッタ大尉は魔女だ。 恐ろしい女性だ。あのギリアムが恋をしたなど。 何という魔法だろうか! ギリアムは非常にわかりやすい。 ゼンガーより正直だ。 これを言うと何故かだいたいの者は笑うのだが、彼のわかりやすさがわからぬなどと、目が曇っている。 ただヴィレッタ大尉は笑った。 「そうね。ギリアム少佐は誰よりも正直だわ」 魔女だ。 誰よりもなどとは流石の私も断言出来ん。 カトライアは誰よりも美しく可憐で儚い人だったが、ヴィレッタ大尉は魔女だ。 善き魔法を使う……面白い、見せてもらおう。 ******** 鋼龍戦隊は何よりも強い。 戦場での強さは言うまでもないが、日常の楽しさを知っているからこそ強く[…]
亡霊の復活祭 SRWNovel

亡霊の復活祭

ギリアムがおかしい。 何故かR-GUNパワードをじっと見ている。 「どうしたの、ギリアム少佐」 「いや、ハロウィンプランの参考にしようと思ってな。RVは俺用にチューンしすぎたから様々な機体の良さを学んでいるところだ」 自覚はあったのね。OSもモーションも複雑すぎて使いこなせる気がしないわ。 「ではあなたの考えるR-GUNの良さは?」 「SRXチームの指揮官機らしい特性だ。SRXは普段はPT3機で運用し敵部隊を殲滅、大型の敵を相手に合体する。そしてR-GUNはPTだがSRXの武器になる。イングラムの計算がよくわかる」 「流石ね」 心から笑った。 よくわかっているじゃない、イングラムのこと。あと、[…]
悪の女ボスvs謎のヒーロー SRWNovel

悪の女ボスvs謎のヒーロー

酷く不公平だ。 あの女と同じ顔を持たされ人形として使い捨てられる。 所詮人形でしかないあの女は人間として人間に囲まれ愛しあう仲の人間までいて、私たちと殺しあう。 殺すだけではすませない。 「楽だったな。何の障害もなかった」 「平和ボケしているのよ。所詮兵器なのに」 ヴェートを拉致した。酷く簡単だった。 所詮奴らは強い機動兵器を持つだけだ。 それがバルマーがもたらした技術の産物ということも忘れ、私たちを蹂躙する。 ならば私たちなりのやり方で蹂躙するしかない。 ヴェートが目覚めた。 拘束に抗い睨みつけてはいるが、明らかに怯えていた。 「こうして会うのは初めてね。私はスペクトラ・マクレディ」 「俺は[…]
彼らなりの愛し方 SRWNovel

彼らなりの愛し方

彼らは人形であるが心を持ち人間になりたがった。 人間として愛しあい、人形故に愛し方を知らなかった。 「愛している」 スペクトラが真っ赤になった。 混乱している。感情回路の暴走か? 少しデータを取って修理せねばならん。 「キャリコ、そ、その……」 「お前が愛しろと命じたのだが、何か間違ったか」 「間違ってないわ! 凄く嬉しい! け、けど……その、刺激が強すぎるというか……」 「わからん。どこがだ」 「声の低さとか」 「声帯は変えられん」 「凄くキラキラした顔とか」 「元々この顔だが。知っているだろう、俺も嫌いな顔だ。少しは好きになれた気がするんだが……」 「好きよ! 大好き! 愛するしかない最高[…]
壊れあう SRWNovel

壊れあう

彼らは人形であるが心を持ち人間になりたがった。 人間として愛しあい、人形故に愛し方を知らなかった。 「愛して」 応える。肉体を求める。愛をもって蹂躙する。 「素敵。愛しているわ、キャリコ。今度はあなたの愛を見せて」 「スペクトラ、命令する。俺を痛めつけろ」 「了解よ、キャリコ」 相手に応じた適切な拷問を行う技術。 「痛い? 痛いでしょう!」 「っ……足りない!」 「ええ、ええ! もっと痛めつけてあげる! 愛してあげる!」 スペクトラは嗤う。 前のキャリコは別の愛し方が良かったようだが、そんなものは関係ない。 ひとつなのだから、自分が求める愛し方に造り変えても何の問題もない。 「愛しているわ」 […]
ポケモンと出会ったら SRWNovel

ポケモンと出会ったら

不思議な不思議な生き物、ポケモン。 どこにでもいるけれどその場所にしかいないポケモンがいる。 「ヒューゴ、ポケモンが欲しいわ」 アクア、その意味がないのはわかっている。 ただポケットモンスター、というのはアレの隠語でもあるのは確かなんだ。 なので海外ではポケモンはポケットモンスターの略ということは消されている。 皆知ってるけど敢えて言わないだけなんだが、アクアの無邪気さが好きなのでこのムラっとした気持ちは夜にぶつける。 「どのポケモンがいい?」 「迷うのよねぇ。可愛いのがいいけれど、どの子も可愛いし。狼っぽいルガルガンは?」 「俺が微妙だ」 「ふふ。そうよね、微妙よね」 知っててからかわれてる[…]
神の名を持つ放浪者の戦争 SRWNovel

神の名を持つ放浪者の戦争

あらゆる世界を渡った気がする。 様々な役割をした。 この世界での役割は『宇宙を漂流していた未知の技術による次元転移装置の生体パーツ』だった。 彼らは穏やかだった。 配慮はしてくれたが、逃亡は許さなかった。 死ぬことすら出来ず、何より死ぬ気はなかった。 知っている。彼らがただの次元転移装置だと考えているものはXNガイストの一部でしかないと。 そして彼らは軍だった。 厳密に言えばそうではないが、戦うために技術を集め、研究していた。 次元転移の機能だけでももたらす惨劇は容易に想像がつくが、同時に異次元からの侵略者への抵抗力に成り得る。 この世界は実験室のフラスコで、未来は暗雲に包まれている。 俺で行[…]
因果律の向こう側 SRWNovel

因果律の向こう側

使命とプログラムと意思の一致で、俺は地球に降り立った。 この世界は存在するべきではないと直感した。 因子は1つでは意味がない。 因子の関わりが因果を作り、結果を出す。 この世界のすべての因子は終焉のために存在している。 別の世界であればまた違う結果が出るだろうが、この世界においては終焉への因子にしかならない。 俺という存在もその1つだ。 理解すれば枷は意味を持たなかった。 抗う。 念動力者を初めとする対抗力の育成はとてもうまくいっていた。 それすらも終焉を呼ぶが、彼らの笑い声は俺の救いだった。 抗う力をつけた。 抗うために理解しなければならなかった。 システムXN。 理論や能書きを読むまでもな[…]
巡り逢える奇跡の時 SRWNovel

巡り逢える奇跡の時

また奴との戦闘があった。 私をヴェートと呼び剥き出しの敵意を見せる女――――あれは私から造られ、その事実が憎らしく消そうとする。 事実は変えられない。 私がイングラムの複製であり、ヴェート・バルシェムとして造られたのは事実だ。 そして自我を持ちながら創造者の意図に囚われた彼女が酷く哀れで、不愉快だった。 ギリアムとの情報交換――必要性の感じられない細やかなデータまで提示する。 不器用な人だ。私のことを案じ、口実を作って話しかけている。 あまり指摘するわけにもいかないが嬉しいので、礼を告げた。 「ギリアム少佐、ありがとう」 何故礼を言われるのかわからない、という顔だった。 わかりやすい。本当に不[…]
巡り逢えた愛しい人 SRWNovel

巡り逢えた愛しい人

ヴィレッタの様子がおかしい。 原因は明らかだ。地球を狙うバルシェムシリーズ。 与えられた使命など、それを覆す意思があればどうということはない。 ただそれが揺らいでいる気がしたので、情報交換を増やした。 話す内容に意味はない。 変わり得る未来。何らかの規則はあるが筋道と意味の見いだせない無数のデータ。 それでも、会話をすることが大事だ。 「ギリアム少佐、ありがとう」 ヴィレッタの感謝がひどく唐突に思えた。 「あなたの懸念を晴らす材料になれたらいいから、知っていることを話すわ。私はあのバルシェムたちに不快感を覚えるけれど、それは正確な表現ではない」 「正確な表現?」 「あの中の1体だけが、酷く不愉[…]
どこかの巡り逢い SRWNovel

どこかの巡り逢い

イングラムと街を歩く。 変わらない日常、平穏極まりない毎日、ありふれた幸福。 雑踏から視線を感じた。 「ヴィレッタ、どうした」 「誰かと目が合ったの」 「気のせいだろう、行くぞ」 イングラムの言葉に応える前に、彼に声をかけた。 「少しいいかしら?」 「ふふっ、どこか懐かしい人に声をかけられるとは、これは運命かな」 「そういうのでは、ないのだけど……」 何かが気になる。 会ったことはないはずだ。目立つ印象、絶対に見たら忘れない。 懐かしい人。 「ヴィレッタ、見知らぬ男に声をかけるとはどういう了見だ」 「そうね、イングラム……ごめんなさい、あなたも。知っている人に似ていた気がして、どうしても……」[…]
一生離れられない SRWNovel

一生離れられない

**ヴィレッタside** 意地の悪い笑顔。 敵に対してもここまではしないのではないかというくらい、真剣に悪意を込めたもの。 「君は俺から一生離れられない」 未来を宣告される。 瞳と腕が縫い止めている。 抵抗をやめ、そもそも見つめる以外の抵抗が出来ないまま、その未来を受け入れた。   **ギリアムside** いつもの仕事のはずだった。 「ギリアム」 振り向いた口が不意に優しく奪われる。 「あなたは私から一生離れられない」 なかなか面白い挑戦状だ。 「君が一生俺から離れられない、の間違いではないかな? それなら既に言うまでもない事実だが」 「未来だろうと並行世界だろうと追い詰めてあげ[…]
付き合ってたの? SRWNovel

付き合ってたの?

**ヴィレッタの場合** 「隊長とギリアム少佐、羨ましいなぁ……」 「何が?」 「とぼけても無駄ですよ。付き合ってるじゃないですか。大人の恋! 羨ましい!」 「……私たち、付き合ってたのかしら?」 「え、え、隊長?」 「そう言われるとそうな気もするけれど、ギリアム少佐がどう思っているかにもよるわね……」   **ギリアムの場合** 「ギリアム、ヴィレッタ女史との付き合いは順調か?」 「当然だ」 「そういう意味ではない。男女として、だ」 「……俺たちは付き合っていたのか? そちらの意味で」 「かなりわかりやすく。我が友ながら残酷だ」 「俺はともかく、ヴィレッタはそうではない。失礼なこと[…]
後ろめたさの協奏曲 SRWNovel

後ろめたさの協奏曲

ヴィレッタはギリアムと通信を行っている。 完全に1対1の秘匿回線、よくこういうものを準備出来たものだと思う。 ヴィレッタの着任の時の根回しといい、手慣れている。 パイロットとしてもそうだが、工作員としても優秀なのだと改めて頷く。 「すまなかったな、ヴィレッタ。受け取ったデータとプログラムを概ね確認したが問題ない。手伝ってくれて助かる」 「そういう約束でしょう? 気にしないで」 モニター越しに笑いあう。 「それに、たったこれだけ用意すればそれを口実にあなたと話せるんだもの。安すぎる対価よ」 「嬉しい言葉だ」 「……あなたにしか言えないこともあるし」 「そうかもしれないな。だから君の悩みならいくら[…]
クロスゲート・ディメンション SRWNovel

クロスゲート・ディメンション

観測システムに声をかけた。 「ようやく役に立ってくれたな。力なき鍵よ」 答えのあるはずもない。人の姿をしているが、それだけの部品だ。 「そして、お前もそうなる」 真の目的、クロスゲート・パラダイム・システムがこの世界に現れたのを捉え、回収に向かった。 ーー地球に存在するサイコドライバーの能力を開花させ、回収する。 「っ……」 イングラムは与えられたプログラムに抗おうとする。 この世界のユーゼスに先手を打たれ、活動を開始する前に回収され洗脳された。 自我はある。しかし抗うほどの力はない。 あの世界では仲間との繋がりにより本来のプログラム、ユーゼスのクローンであり操り人形としての本能に抗い打倒した[…]
好きになった日 SRWNovel

好きになった日

名前も知らないその人に、ひと目で惹かれてしまった。 「ラーダ、彼は?」 社外の人間だが内部の者であるかのように距離が近い。 「あら、あなたは初めてね。連邦軍のギリアム・イェーガー少佐。名前くらいは知っているでしょう?」 「元特殊戦技教導隊」 「社長やあなたもだけど実際に運用するパイロットの意見って重要だものね。図面も引けるし」 端正な顔付き。適切な距離感と気配り――立ち回りの機敏さ。工作員の癖って出るのよね、と自戒する。 そして彼が振り向いて歩いてくる。 「私の噂かな。ラーダ、と君は初見か」 「ヴィレッタ・バディムと申します、ギリアム・イェーガー少佐。御高名はかねがね」 「ああ、堅くならなくて[…]
君を忘れた日 SRWNovel

君を忘れた日

いつかそんな日が来ると思っていた。 極めて近く限りなく遠い世界で、すれ違ったあなたの背中を見送って寂しく思うような日を覚悟していた。 ******** ヴィレッタの被撃墜は珍しい。 いつも以上に戦闘を早く終わらせて見舞いに行った俺に君は言った。 「……あなたは?」 本当にわからないのだと直感してしまう冷たい声。 「混乱しているようだな。私はギリアム・イェーガー少佐。君の同僚にあたる」 「失礼しました、ギリアム少佐」 「君の部下たちも見舞いに来たようだ」 彼らの名を呼ぶ君の明るい声を聞いて、俺は静かに病室を去った。 何事も起きなかった。 いつものように話し、いつものように戦った。 「ギリアム少佐[…]
ある日ふたりの情報収集(アポイントメント) SRWNovel

ある日ふたりの情報収集(アポイントメント)

「ギリアム、服がちょっと」 「む? 何か変か?」 今回のギリアムの任務は人混みに紛れての情報収集。 2人の男女が他愛のない会話をしていればどう動こうとあまり違和感は持たれない、とヴィレッタに協力を要請。 「サイカでは駄目なの?」 「断られた。未熟でぎこちないし、うっかり少佐と呼ぶかもなどと」 「彼女は結構やり手だし大丈夫だと思うのだけど」 「口実だろう。その上で君を推挙してきた」 「いつもの奴ね」 勿論スーツは使えない、ということで情報部の備品も含めて変装しいざ出発、という所で駄目出しが入った。 「変ではないわ。むしろ変な所がないのがいけない。着こなしすぎでモデルみたい。適度に抜くの」 「……[…]
誰かに聞いて欲しかったあの日の約束 SRWNovel

誰かに聞いて欲しかったあの日の約束

ツェントル・プロジェクトはクソだ。 あの悪魔との戦いから目覚めたらクソ研究者に作り物だらけの身体にされていて、拒絶反応を抑えるために奴の薬を飲まなくてはならず、イエスもノーもなく試作機のテストパイロットとして抜擢された。 ノーと言うことも出来るがそうすれば俺は死ぬ。 『死中に活を見い出せ。死には何の意味もない。倒すべき敵を倒し、生き延びろ。生に執着しろ』 クライ・ウルブズの鉄則。 あの戦いで生存したのは俺と隊長だけで、俺が半死半生で改造されている間に、隊長は責任から自ら軍を去ったという。 だからクライ・ウルブズは厳密には全滅じゃない。 フォリアたちの死を本当に無意味にしないために、俺は生に執着[…]
ふたつの心が結ぶ約束の勝利 SRWNovel

ふたつの心が結ぶ約束の勝利

私は、幸せだ。 何ひとつ不自由のない生活。ちょっと過保護だけど優しいお父様と強くて綺麗なお母様。 「アクアお嬢様! あまり無茶をしてはいけません!」 「ふふ、そうね。お父様を心配させてしまうわ」 本当に、幸せだと思う。 ******** お母様が亡くなった。 まだ若かったのに。もっとずっと私のことを可愛がって欲しかったのに。お父様のことを怒って欲しかったのに。何で。 ******** 「アクア! 絶対に許さん! 軍など! 絶対に許さん! お前は軍がどんなに危険かわかっていないんだ!」 「お父様のわからずや! お父様なんて大嫌い!」 ******** 私は家を飛び出し、士官学校に入った。 わかっ[…]
情報部へようこそ! SRWNovel

情報部へようこそ!

ヴィレッタは今情報部の手伝いをしている。 ギリアムのチームは彼女のことをよく理解し、尊敬し、親しくしている。 「ヴィレッタ大尉、この案件で不自然なデータがあるのですが」 「助かりました、ヴィレッタ大尉」 「皆さん、コーヒーが入りました。ヴィレッタ大尉には特別にお菓子です!」 「ヴィレッタ大尉がいて良かった! 救いの女神! 天使!」 「お前たち、あまりヴィレッタを困らせるんじゃない」 呆れるギリアムもどこか楽しげだ。 だがそれはヴィレッタが飽くまでSRXチームの隊長で、たまに手伝いをしにきているからだ。 彼らは適性や程度こそ違えどいずれも優秀だ。 オーバーワーク気味とはいえ、ヴィレッタがいなくて[…]
ちょっとした黒歴史 SRWNovel

ちょっとした黒歴史

ゼンガーが倒れている。酒を間違えて飲んでしまったようだ。 通りがかったギリアムとカイとヴィレッタが介抱した。 「いつものだな」 「いつものですね」 「そういえばお前も昔酔いつぶれたことがあったな。大笑いはするし泣くし、おまけに」 「カイ少佐!」 恐る恐るヴィレッタの顔を窺う。 恥だ。恥すぎて忘れていた。 「ふっ……ふふふ……」 笑われている。 「もう! ギリアム少佐意外と可愛いのね! うふふふふふふふ!! 最高じゃない!」 抱きしめられたのは嬉しかったが、何か腑に落ちなかった。 -------- 診断メーカーのお題を借りました。 「秘密にしていた、ちょっとした黒歴史が相手に知られてしまい、恥ず[…]
友と恋の話 SRWNovel

友と恋の話

レーツェルの料理が振る舞われた。 卓を囲むのはカイ、ゼンガー。 旧特殊戦技教導隊の親交を暖めるための会だ。 「ギリアムはどうした」 「呼ぼうとしたが邪魔しては悪いのでな」 「珍しいな。どれだけ渋ろうが無理矢理食べさせていたお前が。何かあったか?」 「いえいえ。ですが人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られて、と言いますので」 ピンと来た。 古い仲だ。お互いのことは良くわかっている。 ギリアムが多くの者から冷静沈着、と評されているのを内心苦笑いしていた。 「まあ、そうだな。あいつは絶対自覚がないがな」 「そういう男だ」 「ヴィレッタ女史も苦労するだろうな」 食事と会話を楽しむ。話題は勿論、ギリアムのこと[…]
英雄たち SRWNovel

英雄たち

私たちは、逃げていた。 捕らえられれば、全てが終わる。イングラムとヴィレッタが消される。 ひとときも休めなかった。お互い以外信じられるものは何もなかった。 どれだけ逃げても、逃げきれる気がしなかった。追手を殺し続けた。 ある日の朝。 「死体、か。何があったかは知らんが巻き込まれないうちに行くぞ」 イングラムの言葉に私は頷いた。死者よりもそれを生み出した脅威に警戒を―― 「そこに……いるのは……?」 ――向けられなかった。生きている。 「気にするな、行くぞ」 そう、それが正しい。人道的行動などリスクに見合わない。 「イングラム……ヴィレッタ……?」 「貴様ぁ!」 疑問を抱く間もなくこの存在を放置[…]
変わらない人 SRWNovel

変わらない人

「お前は変わらないな」 レーツェルが笑った。友の唐突な言葉に意図を測りかねて、ギリアムは問う。材料を切る手は止めないまま。 「いや、最初は私も驚いた。私がいくら美味い食事の魅力を伝えようとしても、目を離せば味気ない栄養食ばかり食べていたお前が料理を教わりたいなどと」 「必要性は理解していたさ。ただ何を食べるか、という思考の手間に見合わないと考えたからな」 口元を歪めて続きを促す。 「その合理性より感情を優先する……まったく、お前らしい。飲み込みが早いので教え甲斐があるがな」 「お前のおかげだ」 手を止めて向き直る。 「その感情はお前が教えてくれたものだ。心と知識と技能を尽くして、美味しいものを[…]
月灯りの使者 SRWNovel

月灯りの使者

いつもの情報交換、いつものインスタントコーヒー。 ギリアムの部下たちが気を遣って席を外すのもいつものことだ。 「聞かれてやましいことなんてないのにね。折角2人きりにしてもらったしそういうこともしてみる?」 「あいつらの思い通りになるのは気に入らないな」 いつもと違う反応が欲しくて茶々を入れると口元を吊り上げる――――この程度では彼は揺るがない。 ギリアムとヴィレッタが恋人だという話は噂を通り越して既に周知の事実として広まっており、それを知らない2人でもないのだが実際の所これは誤りである。 お互いを理解し、息が合って、信頼しあっている。 それで男と女だからと恋人という枠組みに当てはめて見世物にし[…]
悩める父親の哀歌 SRWNovel

悩める父親の哀歌

――何故ここにいるのが俺なんだ。こういうのはエルザムかギリアム向きだろう。 カイ・キタムラは頭を抱えていた。 彼は現場を好む叩き上げの軍人である。腹芸には向いていない。 今カイは伊豆の高級料亭である人物と1対1で向かい合っている。値段などどのみち想像もつかないだろうと早々に考えるのをやめた。 「はは、そんなに固くならないで下さい、キタムラさん」 「ケントルム上院議員、ありがとうございます。どうもこういう場は苦手で」 カイをここに招いたのはテイラー・ケントルム。連邦議会の上院議員でありカイの部下、アクアの父親である。 鋼龍戦隊に数々の便宜を図ってくれた、いわば恩人だ。しかしそれは愛娘が所属してい[…]
恋人ごっこの始まり SRWNovel

恋人ごっこの始まり

「俺を『お義兄様』と呼ぶならヴィレッタとの付き合いを許してやってもいいぞ」 「何だ、その程度でいいのか、お義兄様。至らぬ点の多い義弟ではあるがよろしく頼むぞ、お義兄様。肩でも揉もうか、お義兄様」 「やはり許さん! 因果地平の彼方へ消し飛べ!」 要するにそういう時空の話である。細かいことを考えてはいけない。 「そういう時空って何だ。そもそもあいつは誰だ」 「ヴェートの恋人らしいわ」 遠目に眺め呆れ顔の2人。キャリコとスペクトラである。 囁いた後慌てて気配を探る――ヴィレッタはこの場にいない。 『自分の嫌なことは他人にしない』は子供にもわかる道徳であるが、積極的にそれを行って挑発してきた経緯から未[…]
ヒューゴとアクアの周囲には結界が出来る SRWNovel

ヒューゴとアクアの周囲には結界が出来る

鋼龍戦隊にはティーンエイジャーが多い。 そしてその上の例えばキョウスケとエクセレンのパートナーを越えた仲は周囲公認であり、恋愛話に事欠くことはない。 しかしそこを離れれば話は別である。隊長のカイを除けば若者ばかりの新教導隊はいい顔をされなかった。 アラドたちの元スクール、という点にも難色を示された。 実力は確かかもしれないがいつか彼らが連邦軍に牙を剥くのではないのかと。 ラミアも同様だ。 そんな中で新たに入ったヒューゴとアクアはツェントル・プロジェクトのことはさておき周囲からの評判は良かった。 クライウルブズの名が知れ渡っていたのもある。 軍人然として振る舞う彼らのおかげで実力以外も認められる[…]
ギリアム少佐はアイドルの追っかけが恋人にバレたようです SRWNovel

ギリアム少佐はアイドルの追っかけが恋人にバレたようです

――ギリアムの音楽の趣味が変わった。 彼の好きな音楽と言えばジャズにクラシック、たまにリュウセイが目を輝かせるアニメだか特撮だかの曲、だったはずだ。 『お願い! シンデレラ 夢は夢で終われない 叶えるよ 星に願いをかけたなら』 移動中の情報部の偽装トラックの中ではアイドルソングが流れている。 光次郎の趣味かとも思った。しかし良く見れば車に繋いであるのはギリアムの私用Dコンだ。 「少佐、この曲は?」 「シンデレラガールズの『お願い!シンデレラ』だな」 「光ちゃんバージョンヘビロテしまくってましたもんね、少佐」 当然のように返されて当然のように怜次が乗ってきた。 「ダメです少佐、先輩! ヴィレッタ[…]
雨上がりの”アポロン” SRWNovel

雨上がりの”アポロン”

山道を走るワゴン車の窓には雨が打ち付けている。 「この中に雨男でもいるんですかね」 助手席の怜次が呟く。 常時様々な案件を抱える情報部の彼らが揃ってオフを楽しめる日は珍しい。 無論情報部には他にも優秀な軍人が揃っているのでギリアムのチームがたまのドライブに出掛けた所で咎める者など誰もいないのだが、何しろギリアムは自他共に認めるワーカホリックである。 無理矢理休ませたかと思いきやSRXチームや特殊戦技教導隊に顔を出して演習相手になっていた、という事件も後を立たなかった。 そこで主に壇とサイカが中心となって計画したのが『ヴィレッタを巻き込んでドライブに行く』という今日の休暇である――が生憎の雨とな[…]
何でもない日のプレゼント SRWNovel

何でもない日のプレゼント

ギリアム・イェーガーは予知能力者である。 唐突な予知に慌てず平静を装うのも彼にとっては慣れたものである。 ――ヴィレッタが笑顔でプレゼントを渡してくれる。 そんな嬉しい予知であっても。 なるほど、部下に何かとギリアムの好みについて探りを入れているのは――と納得するが腑に落ちないことがある。 ――何のためのプレゼントだろうか。 バレンタインではない。クリスマスでもない。戸籍上の誕生日でもない。 思い当たるところを考えてみるが皆目見当がつかない。 問いただしたくなるがこれはまだ予知だ。 何食わぬ顔で日々を過ごすしかない。 ******** 「ギリアム、これ」 綺麗にラッピングされた小箱。 予知のと[…]
世界の選択、彼らの選択 SRWNovel

世界の選択、彼らの選択

決戦を間近に控え、パイロットたちも整備員たちもオペレーターたちもそれぞれの仕事に追われている。 アキミたちも例外ではなく、ジンプウとフェアリが陣頭を取りスーパーソウルセイバーの調整を行っていた。 ジーベ・ドライブはクロスゲートの力を応用している。その出力が安定しないのはクロスゲート本体と近づいたこと、グランティード・ドラコデウスが覚醒したことと無関係ではないだろう。 アキミとアケミはスーパーソウルセイバーの、フェアリはセイバーブースターのコックピットに乗り込み少しずつ調整を行いながらジーベ・ドライブのエネルギーを計測していく。 突如フェアリが警告を発する。出力を示す数値が異常な値を示しだしたの[…]
ギリアム少佐は南条光の追っかけのようです SRWNovel

ギリアム少佐は南条光の追っかけのようです

今日の光の営業は新しいCDの手渡し会だ。 「お姉さん、前の握手会に来てくれた人だな! いつも応援してくれてありがとう! おかげでこのCDが出せた!」 20代と思わしき女性に力強く握手をしあらかじめサインを入れたCDを手渡す。 「ありがとう光ちゃん! この日のために投票頑張ったから嬉しい! 宝物にするね!」 手を振りながら指定された順路へ。 次に並んだのは夏にも関わらず黒いロングコートをまとった長髪、しかも前髪まで長く伸ばして顔の右側を隠している男性だ。 「お、お兄さん……また会ったな」 「どうした、南条光。声が震えているぞ。悪の組織のボスにはCDを渡せないかい?」 南条光のファン層は少し特殊だ[…]
かささぎの渡せる橋に置く霜の SRWNovel

かささぎの渡せる橋に置く霜の

『休みが欲しい』と書かれた短冊が笹にぶら下がっている――しかも複数。具体的に言えば4枚。 筆跡からして全部別の人間が書いたものだろう。 「それで今日は午後を休みにし、仕事の多さに音を上げて私を呼んだと」 「面目ない」 「私も書いていい? 『休みが欲しい』って」 「他の願いで頼む」 彼はモニターから目を離さずにいるが若干の焦りを感じた。 恐らく意図的に混ぜた感情だろう。彼はそういう所がある。 「じゃあこれ」 ――だから、短冊を手渡した途端感情が読めなくなる。 「『仕事以外でもギリアムに会えますように』か。君は俺を喜ばせるのが得意だな」 「どうせ飾っておくのは今日限りでしょうから」 仕事机から立ち[…]
ギリアム・イェーガー、南条担になる SRWNovel

ギリアム・イェーガー、南条担になる

またこのイベントがやってきた。 シンデレラガール総選挙。並み居るアイドルの中から最も輝く『シンデレラガール』をファン投票で選ぶイベントだ。 南条光もこのイベントのため、都内某所のCDショップの前で握手会を行っていた。 握手会といっても通行人に声をかけ宣材を配る、いつもの営業とは異なるアウェイな状況。 ――負けるものか。根性と笑顔で街の人々を振り向かせてみせる。 ――――でも、何のために――――? 「君はアイドルなのか」 少し考え事に気を逸らしている間に足を止めてくれた人がいたようだった。 パッと笑顔になり宣材を差し出す。 「ああ! 南条光だ! 輝くヒーローになるため活動をしている! な、なので[…]
家族の形 SRWNovel

家族の形

事後処理で鉄也を始めとする統合軍は新光子力研究所に詰めている。 所長のさやかの会見は波紋を呼んだが、混乱を抑えたのもまたマジンガーであるという事実が風当たりを弱くしていた。 一段落ついて甲児が鉄也を喫煙所に誘ったがかぶりを振って鉄也は笑う。 「人が来ないのはいいが俺は煙草をやめたんでな。ここでニコチンの臭いを嗅いだら吸いたくなるかもしれん」 「マジかよ。あんだけ吸ってたのにか」 「家庭を持つというのはそういうことだ」 端末を操作して何かのアーカイブを見ている。 「これ料理番組の……え? 鉄也が料理?」 「退院したとはいえジュンは本調子じゃない。夕メシくらい俺が作ってやらなきゃだろ」 溜め息をつ[…]
おめでたい男 SRWNovel

おめでたい男

宇宙を行くヒリュウ改の暦は地球の標準時刻が適用される。 今日は12月31日、年の瀬である。 特に警戒する事案もなくパイロットたちはそれぞれ休息を取っていた。 タスクの部屋のチャイムが鳴る。 出し物の練習をしていたタスクは慌てて小道具を隠し応答する。 『タスク? 出るのが遅くてよ』 「すまねぇ、レオナ! お前だってわかってたらもっと急いだんだけどよ!」 扉を開き恋人を出迎える。 「大道芸の練習? 相変わらずこういうことにだけ真面目なんだから」 「え!? そ、そんなことはないぜ。そっちにだけは俺だって『天才』なんだからよ」 「ベッドの下から傘がはみ出していてよ」 「だああぁぁっ!?」 赤面し顔を背[…]
夕暮れと夜明けを共に過ごして SRWNovel

夕暮れと夜明けを共に過ごして

アユルは夕暮れ時が好きだという。 青かった空が赤く染まり、そしてだんだん紺の星空になるのがいい、と。 2人でゆっくり眺めた。 「そうだな、お前の言うとおり美しい。生きるのに必死で……ゆっくり空を眺めたこともなかったな」 「はい。それでお願いがあるのです」 「何だ?」 「私に『夜明け』を教えてください」 朝に弱いのとセキュリティの関係で外に出られないのとで、夜明けの空を眺めたことがないのだという。 「仕方のない奴だ。起こせばいいんだな?」 「お願いします」 「ならば今日は早めに就寝するといい。気持ちよく起きれるだろう」 目覚ましのアラームを設定しながら思案する。 常人なら見過ごしてしまうようなこ[…]
償いの最終回(ファイナル・エピソード) SRWNovel

償いの最終回(ファイナル・エピソード)

始まりがあれば終わりがある。 生があれば死がある。 出会いがあれば別れがある。 これが世の理であり覆すことは出来ない。 いくつの別れを重ねてきたか、その数はとうに数えるのを辞めている。 常人より長い寿命を持ち数多の『極めて近く限りなく遠い世界』を渡る俺にその全てを背負えというのは狂えというのと同義だ。 それに全てを記憶していては次に別の可能性と出会った時にその可能性を否定することに繋がる。 そうして俺は忘却を肯定する。 そうして俺は別れの時に『また』と言う。 それでも俺は忘れたことはない。 生きろというあいつの言葉を。 生きて罪を償えという呪縛に等しいあいつの純粋な願いを。 常に死と隣り合わせ[…]
MyHERO SRWNovel

MyHERO

その施設をヴィレッタが訪れていたのは、不幸な偶然と言う他ない。 バーニングPTによるパイロットの民間からの選抜事業は細々と続いていた。 イングラムの後任としてその監修も引き継いだだけのこと。 思いもしなかったのだ。 派閥抗争に敗れた軍の一部が自棄を起こし武力行使で施設を占拠し復讐を試みるなどと。 「あなたたち、こんなことをして何になるの? 軍が本気を出せば簡単に鎮圧されてしまうわ」 「うるさい! こっちには民間人の人質がいるんだ! 実力行使に出て人質死亡なんてなったら後味が悪いし世論が許さないだろうよ!」 確かに。この施設は一般的には民間施設とされているし実務にあたっているスタッフも殆どは事情[…]
縁遠き祭り SRWNovel

縁遠き祭り

空に花が咲く音が窓越しに伝わる。 祭りの終焉。故に一層輝く。 「今年からサイカが来てホンットーに良かった!」 光次郎がキーボードと共に軽口を叩く。 「あら、何でですか先輩」 「考えてもみろ! 祭りは遥か遠く、目の前には仕事の山! 職場はむっさい男だらけ!」 「ああ、光次郎。お前には言っていなかったか。過度に『華』を求める言動はセクハラとして減給の対象にする、と」 上官であるギリアムの警告を含めた――否、完全に警告である一言に光次郎は慌ててモニターに向き直る。 「だそうです、先輩。私は前の仕事お茶汲みばっかだったんでそういうの慣れてますけど、少佐は厳しいので」 「第一男所帯なのは認めますけどむさ[…]
もしも願いが叶うなら SRWNovel

もしも願いが叶うなら

今日は流星群の日だという。 天気の予測は晴れ、月もなく絶好の観測日和。 アイビスのテンションが高い。彼女の異名が“銀の流星”だからだろう。 「流星は夜を切り裂いて飛んでいるんだよ!」 季節外れの笹を持ち皆に短冊を配る。 笹には『スイーツ食べ放題!』と書かれた短冊が既にぶら下がっていた。 「折角だから皆で願い事、しよっ!」 『プレミアム超合金完全変形合体バーンブレイド!!』とリュウセイが書いていた。 「それは前発売されてなかったか? 軍の給料は安くはない。無駄遣いしていなければ買えるはずだ」 ライが呆れ顔で『チーム内円満』と書かれた短冊を抱えている。 「リュウも私も無駄遣いはしていない! ただネ[…]
互いを繋ぎ止める鎖 SRWNovel

互いを繋ぎ止める鎖

感覚にどうしようもないザラつきを覚える。 ここにいるのはユーゼスが造り出したバルシェムの残党。 単なる量産型。私の自我を揺るがすには至らない。 私にはイングラムの代行者としての誇りを持ち、そして妙な話ではあるが造られた者であることを感謝している。 そのはず、だった。 しかしその仮面の残党指揮官と思わしきバルシェムと対峙する度、私はとてもザラつき揺るがされる。 ヴィレッタ・バディム、或いはヴィレッタ・プリスケンからその意識を引き剥がし無理矢理ヴェート・バルシェムという枠に抑え込まれるような感覚。 バルシェムたちが消えるとその感覚も消える。 そして宣告されたような気になるのだ。お前は、所詮紛い物だ[…]
ふと思う、彼女への恋慕 SRWNovel

ふと思う、彼女への恋慕

タコ型異星人とかグレイみたいなのを信じていたわけじゃないけれど、俺が初めて出会った異星人は何も俺たちと変わる所がなかった。 勿論インスペクターとかのことを知らなかった訳でもない。でもたかだか民間人の高校生に伝わる情報なんて限られている。 どんなロボットを使っているのか、はネットで流れている映像を見て知っていたし、同時に流れる交戦相手の鋼龍戦隊に憧れもした。 でも実際に話したフェアリさんやサリー、ジークはとても気さくで、言われなきゃ異星人だなんて気付かない。 勿論軍が作った翻訳機がないと言葉は通じないけれど。 そして、サリーは凄く可愛い。 惚れたか、なんてからかわれて慌てて否定したりもするけど―[…]
情熱の赤 SRWNovel

情熱の赤

號が珍しく自室にも格納庫にもいない。 シティ7への外出許可が出たので一緒に出掛けようかと思ったのだが。 ――別にデートとかじゃないんだからね! ルーもミカもジュンもからかいすぎ! 凱はいるがゲッターチームで1人欠けて行動するというのもおかしなものだ。 凱も號の居場所については心当たりがないという。 そして渓にとってもこの2箇所以外に號がいそうな場所といえば食事時の食堂くらいしか思いつかない。 ――何なのよアイツ。私を守るって言っておきながら…… そんな不満を内に留めつつ結局その日はゲッターの調整で一日を過ごした。 夕時になって、ようやく號が姿を現した。 ――赤い薔薇の花束を手に。 「って、號、[…]
彼女の虚憶と『いつか』への想い SRWNovel

彼女の虚憶と『いつか』への想い

夢を、見た。やけにリアルな夢だ。 夢の中の私は現実と同じくソウルセイバーに乗って戦っていて、現実と違って『アキミ』と呼ばれていた。 父さんもジンプウさんも、サリーもジークもフェアリさんもいた。 ただ、私の双子の弟――本来の『アキミ・アカツキ』はどこにもいなかった。 元気だった頃の母さんに聞いたことがある。 子供が生まれる時名前は『アキミ』だけ決めて、男だったら『秋水』と書いて女だったら『光珠』と書こうと決めた、ということ。 出産が近付いた時の検査で男女の双子ということがわかって、慌てて私の名前を『アケミ』にして漢字は変えないままにしたのだ、と。 パラレルワールド――並行世界。おとぎ話のような話[…]
英雄たちの支え SRWNovel

英雄たちの支え

ヴィレッタはその荷物の扱いに苦心していた。 SRXチームは基本的にはハガネの所属とはいえ、基地に駐留することもある。 その時にヴィレッタに割り振られた私室が変わる。 家具などは備品だ。私物もそれほど嵩張るものではない――これ以外は。 それは、くまのぬいぐるみ。 意外と親しみやすいと言われているとはいえこれを枕元に置いていると知られたら、誰に何を言われるか。 抱き締めて身体を預けるのにちょうどいいサイズ。実際そうしたこともある。 とりあえず家具などのフリをして箱に詰めるべきか、と思案する。 次に会ったら贈り主に嫌味の1つでも言ってやろうかとも。 このぬいぐるみの贈り主はギリアム・イェーガー少佐だ[…]
サコンとシズカのお惚気夫婦漫才!愛の炎がBurning On!! SRWNovel

サコンとシズカのお惚気夫婦漫才!愛の炎がBurning On!!

ヒゲ剃りを終えて温めたタオルを当てる。 「はい、これでいつもの男前に戻ったよ」 シズカが笑いサコンがまばたきする。 「今日は珍しく大人しかったね」 「君に強引に剃られて怪我するよりはマシですからね」 タオルで顔を拭いてシズカに返す。 「あ、あのさ……」 シズカが顔を赤らめてサコンの肩に触れる。 戸惑いながら次の言葉を待つと、シズカは小声で囁いた。 「…………シロウ」 「!!」 椅子から飛び退き5メートルほど距離を取る。 「な、ななななななんですかシズカ君」 「そんなに怯えることないだろ、あたしとシロウの仲じゃないか」 「いや、そりゃあまあそうなんですが、先生と呼ばれ慣れすぎててですね」 「だか[…]
『信頼』持ちではないけど信じ合う2人 SRWNovel

『信頼』持ちではないけど信じ合う2人

「少佐ー、いつまでこの張り込み続けるんですかー? もう疲れましたー」 「何だ、だらしがないな、光次郎。サイカはまだ我慢しているぞ」 偽装用トラックで情報部の5人は外を警戒しつつゆったりとした時間を過ごしていた。 「もう、光次郎先輩ったら。でも流石に無為な時間を過ごしすぎた気がしますね。光次郎先輩と一緒にお弁当買ってきましょうか?」 雨の中待機して数時間が経つ。朝の出勤ラッシュから昼下がりのショートタイム勤務の終わりまで、位置は移動しつつもずっとこの現場を張り込んでいた。 「残念ですがそういう訳にもいかなそうです」 怜次が声を挟んだ。 先程までのだらけっぷりが嘘のように緊張感が走る。 「ギリアム[…]
突撃!ヒーローインタビュー SRWNovel

突撃!ヒーローインタビュー

天音を通して駆への取材申し込みがあり、駆とシャルは困惑した。 「全国レベルの陸上部ってホントだったんだ。見栄張ってるのかと思ってた」 「こないだだって100m走で大会新記録出したんだぜ。しっかし何で天音経由での取材申し込みなんだ?」 「担任の亜衣子先生の紹介なんだ。兄さんの噂聞いて是非取材したいって。ついでに家庭訪問もしたいみたい」 「戦後のケアって奴か。まあ父さんも母さんも一度様子見で帰ってきただけでまた海外に行っちまったしそういうの気にする人だもんな、亜衣子先生」 そして取材と家庭訪問の日、駆は驚愕の叫びを上げることになる。 「大魔界なくなったのに何でヤミノリウスが、しかも取材名目で来るん[…]
少女の夢=青年の非常識 SRWNovel

少女の夢=青年の非常識

紅茶の良し悪しは、カーラにはわからない。 ただ、それを語るユウキがとても輝いて見えた。 何を言っているかはわからない。ユウキにとっては大事なことなのであろうということだけがわかる。 ――こんなアタシ相手に語っててユウは楽しいのかな? そんな思考がよぎったりもする。 それでも茶葉が入る度に丁寧にカーラの分まで淹れて薀蓄を語ってくれるのが、とても嬉しかった。 だから。 「レーツェルさん、忙しいのはわかっているんだけど……」 カーラの申し出にレーツェルは口角を上げた。 少女の願いは茶菓子の作り方を知りたいという歳相応のもので、その理由も容易く想像がつく。 「君はどれくらい料理が出来る?」 「えっと…[…]
情サーの姫!? SRWNovel

情サーの姫!?

挨拶をする暇もないくらい目まぐるしく出入りするのがギリアムと彼の率いる情報部である。 それが実に久しぶりに彼のパイロットとしての腕前と前線の方が情報を集めやすいという事情から鋼龍戦隊に同行するようになった。 「んん!? ギリアム少佐、見慣れない女の子連れてますね!?」 「ああ、うちの新入りだ。サイカ少尉、挨拶をしておけ」 「はい、サイカ・シナガワ少尉です! エクセレン少尉に会えて光栄です!」 「あらん? 私って結構有名人?」 「はい、私情報部に入る前は伊豆基地から近辺のアミューズメントスポットでバーニングPTのデータ回収を行っていたので」 「最近のバージョンは実在エースのデータを使ってるんだっ[…]
青き絆に感謝を SRWNovel

青き絆に感謝を

今日もブルー・スウェアでは戦乙女が話の花を咲かせる。 「だから號はそういうんじゃないって! アイツが勝手に守る守るって言ってるだけで私は別にアイツのことなんか!」 「そうやって真赤になる所がアヤシイのよねー」 ルーがニシシと意地悪な笑みを見せると周囲もそれに同調する。 「それ言うんだったら! ルーはジュドーとどうなのよ!」 「アイツ? プルたちのことはまだ気にしてるけど別にそういう感情じゃないってわかってるし、エルはビーチャの方といい感じだし、ここはお姉さん余裕見せないとねぇ」 「うっ……ミカは!? タケルとはどうなってるの!」 「私と彼そういうのじゃないの。信頼しあっている大切な仲間ってだけ[…]
希望と祈りの輪舞曲 SRWNovel

希望と祈りの輪舞曲

当時の教導隊は政治面のバランスを考慮して地球連邦軍のメンバーから3名、連邦宇宙軍のメンバーから3名選ばれた。 そうは言ってもそれに拘るのはテンペストくらいで、他のメンバーは出身を問わず時に親しく時に意見をぶつけ合っていた。 ワーカーホリックのギリアムを心配して胃の負担にならない程度の夜食をエルザムが持って行くと、ギリアムは苦笑いしつつ礼を言った。 そしてエルザムに尋ねた。エルピスはどんな所か、と。 特殊部隊出身とはいえ地球育ちにはコロニーの生活自体が珍しいだろうと様々な話をした。 その時は何も疑問に思わなかった。 疑問を抱き始めたのは、ギリアムが並行世界から訪れた異邦人であるということを知って[…]
たまには肩の力を抜いて SRWNovel

たまには肩の力を抜いて

アキミが検査室から出ると、サリーが扉の前にいた。 「検査お疲れ様! ジュース飲みたいんじゃない? 休憩室いこ!」 「俺のこと待っててくれたの!? せんきゅ!」 近くの休憩室の椅子に腰を下ろし色々と話をする。 「あのさ、地球のゴタゴタにまで出撃させちまってゴメンな」 「いいのよ。ガディソードがゴタゴタを増やしているのも事実だし。その中で少しでも私たちを受け入れてくれた鋼龍戦隊の力になりたいの」 「あ、ガディソードやましてサリーのことを責めているわけじゃないんだけど」 「ふふっ、心配してくれるんだ。やっぱりアキミは優しいね。本当に惚れちゃうかも」 「え、えっと……」 真赤になって慌てるアキミを見て[…]
散る花に想う2人の時間 SRWNovel

散る花に想う2人の時間

軍には正月も暮れも、勿論盆もない。 ただ直属の部下が日本人ばかりということもあり、ギリアムは彼らに盆休みを与えた。 伊豆基地に着いてここから規定の数日は自由に休暇を過ごして欲しいと言うと、サイカが何か言いたげな顔をしていた。 サイカだけではない。壇も怜次も光次郎も表に出さないだけで同じことを考えているであろうという推測が成り立つ。 彼らの問いの答えは、彼の目の前にある。 有能な部下たちの働きで普段は承認だけで済む書類も、一から十まで、いやその裏に隠されたことまで目を通さなければならない。 それでも全て処理を終わらせるのがギリアムの能力であり、意地であった。 部下が次から安心して休暇を取れないよ[…]
渡せずとも、心は傍に SRWNovel

渡せずとも、心は傍に

「ギリアム少佐ならしばらくいませんよ。少佐からのプレゼント、預かっています」 私の目的を瞬時に理解した怜次の無慈悲な一言。 何だか前もこんなことがあった気がする。 「まったく、こういうのは直接渡すもんじゃないでしょうかね。あ、こっちは俺からですっ」 「ここぞとばかりにポイントを稼ぐな、光次郎。ああ、これは私からSRXチームの皆様へと」 「壇さんも負けずにアピールしてますね……」 彼らに用意したプレゼントを渡し礼を言う。 「あれ? 少佐の分は?」 「こういうものは直接渡すものだと思うから」 彼らは合点がいったという風に頷く。 だが私の本心としては、もう渡す気にはなれなかった。 任務であれば不在は[…]
ファルコン伝説もヨロシク! SRWNovel

ファルコン伝説もヨロシク!

やあ、今日のスーパーロボット大戦は面白かったかな? 相変わらず先生への質問が多くて多くて。参ったなぁ。 『ギリアム先生は何で顔を隠しているの?』 まだ秘密です。 『キョウスケ中尉の借金はいくらあるの?』 裏取引でチャラにしてもらうらしいですよ。 それでは中尉にバトンタッチして、私はこれでごきげんよう。 「数多の世界が交差し、人々の絆もまたクロスする。出ない次回作、増え続ける参戦作品。そろそろ立場の怪しいおれ、キョウスケ・ナンブが愛機アルトアイゼンと共に撃ち貫く! ここで一言『無限のフロンティアもよろしく!(to森住P)』君の心に、ブーストファイア!!」 カチンコが鳴り、スタジオに光が灯る。 「[…]
温泉回再び SRWNovel

温泉回再び

キャプテン・ガリスの極秘情報から、LOTUSの彼らは特別任務につくことになった。 「って、ここ旅館なんだけど?」 「全く問題ありません! 今日の任務はゆっくり温泉に入って疲れを癒やすことです!」 歓声が湧き上がった。 「温泉というのは何ですか、渚」 「くすすっ。私は知っているよ、お姉様! もーっと気持ちよくなったお風呂だよ!」 「源泉掛け流しの上かなり広いみたいね……いいのかな、LOTUSの権限こんなことに使っちゃって」 そして一時間後。 正座で説教を受ける一鷹たちがいたのだった。 「つか俺は覗きに参加してないんスけど!? 甲児さんとか剣児さんたちはともかく!」 「ぼ、僕もです!」 「うるさい[…]
何度でも呼ぶ、君の名を SRWNovel

何度でも呼ぶ、君の名を

薄く目を開く。弱々しい人工光。 周囲を見渡して、彼は実験の失敗を認識した。 ここがどこかはわからないが、天にも大地があることから、少なくとも彼の目的地でないのは確かだった。 それを告げるが如く、サイレンと臨時の公共放送が流れ始めた。 『コロニー・エルピス市民の皆様、周辺宙域で地球連邦軍と統合宇宙軍の戦闘が始まりました。至急シェルターへの避難を。繰り返します……』 避難勧告の中、彼は動けずにいた。足も、思考も、動作を拒否している。 彼はほぼ全てを失ったが、残った予知能力は戦いがここから始まることを告げていた。 その時、誰かに名を呼ばれた気がした。 遥か昔に失った、そして今取り戻した名を。 ***[…]
愛の絆 SRWNovel

愛の絆

艦内にはいつも新しい花が飾られている。 ――――麗しい花たちを飾る別の花も必要なものですよ。 そう言ってショーン副長が消耗品の予算から割いているという噂がまことしやかに流れているが、その真偽は彼女たちにはわからなかった。 ただ、どの花を飾ろうかと話の花を咲かせるのも、楽しみのひとつではあった。 「アヤ、青い薔薇はないのか?」 「昔と違って今は結構出回っているけれど、ここにはないみたいね」 今日の担当はSRXチームの3人。 早々に職務を放棄したヴィレッタと知識全般が欠けているマイを見て人選ミスを疑ったアヤである。 「そうか。戦って死んだ敵には青い薔薇を手向けるものだというから」 「どこで聞いたの[…]
戦う理由 SRWNovel

戦う理由

「君にも君の仕事があるだろう? 俺は、大丈夫だから」 ギリアムの言葉で我に返った。 彼の準備を手伝っていたが元々荷物は少なくやることは少ない。 つい考え事をしてしまっていた。 鞄を受け取ろうと手を伸ばしている。 ため息のような微笑。 渡せばしばらく彼には会えなくなる。 ――――大丈夫なんてそれほど便利な言葉じゃないのよ。 視線を微かに逸らせながら鞄を手渡した。 青の亡霊が視界に入る。 この機体を受け取った時は嬉しかった。 彼女のために調達してくれたこの機体は彼にとって特別な意味を持つもののはずだから。 知識や腕が求められているだけでもよかった。 何でもいいから少しでも多くのことを為したかった。[…]
『自由』の使い方 SRWNovel

『自由』の使い方

「何をしに来た、この暇人が」 「自由戦士って言ってくれよメイシスお嬢ちゃん、もとい氷槍のメイシス様!」 剣を喉元に突きつけられ悲鳴を上げる。 修羅に模造刀などという文化はない。これは真剣だ。 そしてメイシスの心も、刃の如く。 「メイシス、そこまでにしてやれ」 「アルティス様が仰せなら」 渋々ながら剣を下ろしたメイシスを見て、調子に乗らずにはいられないのがこの男の信条。 「さっすがマイダーリンアルティス様!」 「やれ、メイシス」 「アルティス様の仰せのままに」 「いやいやいやいや! 冗談だから! つかアルティス! そのやれって絶対物騒な字書くだろ!」 「修羅にとっては日常的な字だが?」 「貴様ま[…]
今ここにいる幸運を SRWNovel

今ここにいる幸運を

アーニーがUXに保護された時、正体を隠していた頃のサヤから『らっきーだったナー』と言われたことがある。 命が助かったこと。異星人との連携を強める軍の方針を知ることが出来たこと。 その時は素直にサヤの言葉を受け入れる事ができた。 しかし、世界の在り方を知って疑問が出た。 幸運でも何でもなく、必然だったのではないか、と―― 何度も繰り返した世界。ジンが今のアーニーの位置にいた世界もあっただろう。 むしろこの親友2人はそういう風に仕組まれている。 片方がUXのような部隊に行き、サヤのような存在と出逢い、彼女を目覚めさせる。 この閉じられた世界がそれを脱却するために、蜘蛛の糸のように導かれてきた2人。[…]
枯れない花、されど散る花 SRWNovel

枯れない花、されど散る花

街を割る河に船が浮かぶ。 花火大会があるというので、アルティメット・クロスの面々の一部も純粋に観光に興じている。 「サヤ、行かなくていいのか?」 「リチャード少佐が見ていたドラマで花火大会がどういうものかは知っています」 「だが実物は見たことがないということだろう?」 彼らが戦場で聞くものとは全く違った、火薬の炸裂音。 命を消す爆炎とはまた違った、色彩溢れる『花』と呼ぶに相応しい流れる火。 「会場に行かなくても見られるではありませんか。実物はなお美しいですね」 「出店もあるから行った方が楽しめるだろうが、サヤは人混みは苦手かな?」 「ええ。少尉と……アーニーとはぐれたらと思うと不安です」 素直[…]
最後の戦い(ほぼ日課、10ターン経過) SRWNovel

最後の戦い(ほぼ日課、10ターン経過)

「もー! フェアリさんの課題難しすぎ!!」 机をバシバシ叩き、うめき声とも悲鳴とも取れる不平を漏らす。 彼女の名は赤月光珠。遊ぶのが大好きで勉強が苦手な極普通の女子高生である。 少し前までは地球を護るスーパーロボットのパイロットという一面もあったが、地球防衛組の面々と同様に平和な日常へと回帰した。 復興支援でその活動をすることもあるが、学業に支障が出ない範囲でという学校の要請と彼女の姉同然のフェアリの希望により、その回数は減りつつある。 「戦争をなくすなら受験戦争もなくせば良かったぁ。あ、でも大学潰すのはダメだよね。どうすれば良かったのかな……」 「相変わらず独り言が多いなお前は」 いつの間に[…]
政の方が得意そうな2人 SRWNovel

政の方が得意そうな2人

盆暮れ問わず仕事があるのが、軍隊というもの。 しかし今年は平和で、基地博ではアルトアイゼン・リーゼの展示が人気スポットとなり、兵士たちはオフに近隣の祭りを楽しむことが許されている。 「それで何故君が引率に? SRXチームの彼らも子供ではないだろうに」 夜空を彩った男性用の浴衣を着用したギリアムは、わたあめを味わいヴィレッタに問いかける。 長い髪も後ろで結っており、軍人らしさが感じられない。 それが彼の情報部としての偽装術なのかもしれないが。 「あなたは何故だと思う? 推理力に期待するわ」 一方のヴィレッタは橙色の浴衣を提灯に光らせ笑う。 思案する。わたあめを少しずつ口にしながら。 「まず、その[…]
波に浮かぶ恋心 SRWNovel

波に浮かぶ恋心

東京の海は、少し泳ぐには向かない。 環境問題が騒がれて旧西暦の時代よりは綺麗になったらしいとはいう。 しかし旅行でしか浅草を離れたことのないショウコにとって、海とはやはり東京の海だった。 「修羅界には海ってあったの?」 「あったぞ。海を縄張りにした奴らがいて、軽い気持ちで出たら痛い目に遭う」 少し予想とは違う、でもだいたい想像通りの答えに期待が膨らむ。 「今停泊している所のすぐそこにレーツェルさんのプライベートビーチがあるんだって。行ってみない?」 「そこに海の修羅……この世界で言うところの海賊はいないのか?」 「いるわけないでしょ。泳ぐかはともかく、見に行ってみようよ!」 半ば強引に連れ出す[…]
今度こそ、彼を SRWNovel

今度こそ、彼を

“向こう側”に残してきたリュケイオスが何らかの影響で変異を遂げ、こちら側に現れた。 ギリアムですらも把握していないその存在は、何故かギリアムのよく知るXNガイストの姿をしていた。 「だが、俺なら制御出来るはずなんだ」 無差別に攻撃を繰り返すそれを相手に、彼は何らかの決意を決めたようだった。 「奴の動きを止めてくれ。その間に俺がコアユニットとして入り込む」 皆、危険だと制止した。それしか手段はないのか、むしろそれは手段には成り得ないのではないか。 「ヴィレッタ……君は俺を信じてくれるよな?」 「信じている。でも、貴方にそれをさせる訳にはいかない」 ギリアムは軽薄に笑う。 彼には珍しく、そして彼ら[…]
その愛は幻影か SRWNovel

その愛は幻影か

状況を理解するのに、しばらく時間が掛かった。 近くには彼女の仲間はおらず、センサー類は現在地を感知できない。 ただ、R-GUNは呼び出す事が出来るし、不自然な程に無傷だ。 意識を失う前は、機体の損傷も弾薬の消耗もあったはずだが、それが全く無くなっている。 有機的にも無機質にも見える壁に囲まれた空間はどこか禍々しさ、そして何故か迷いを感じた。 しかしこの空間には扉というものが見当たらず、強いていうなら六芒星を描いた魔法陣があるくらい。 意を決して、R-GUNに乗ったまま魔法陣に踏み入れる。 似たような空間だったが、広く、そして人がいるという相違点があった。 「よく来たな……ヴィレッタ・プリスケン[…]
昼下がりのワーカホリック SRWNovel

昼下がりのワーカホリック

何もない、というのも困ったものだ。 軍人、特に彼――ギリアム・イェーガーにまわる仕事がないというのは平和の証であり、素晴らしいことではある。 部下である光次郎が昼食を要求してくれたのなら、今なら仕方のない奴だと連れて行くのに、粛々と雑務をこなしている。 普段からこの勤勉さを見せてくれればもっとありがたいのに、と手伝う旨を言えばたまには休んでいいですよとあまりありがたくない答えが来る始末で頭を抱えたくもなる。 ワーカーホリックというのはこういうものを言うのだろう。 彼の予知能力はしばらくの平和を告げており、これではシャドウミラーと同じだと己を戒めるも状況が改善されるはずもない。 「ギリアム少佐、[…]
涎下りのスーパー女子高生 SRWNovel

涎下りのスーパー女子高生

放課後は校門前で待ち合わせるのがジークとサリーと光珠の約束だ。 ただ、今日はサリーと光珠が来なかった。 2人は同じクラスなので、そこで何か問題があったのだろうとジークは校庭を引き返す。 「もう食べられないよおぉぉぉぉ」 「何そのベタな寝言!?」 そして教室に入った途端光珠のいつも以上にとぼけた声とサリーの呆れ声が届いた。 「あ、兄さん。ごめん、待ったんじゃない?」 「ああ。あまりにも来ないから迎えに来たらこのザマだ」 机に突っ伏して顔面だけ日当たりのよい南向きにしていることといい、 広げたノートにミミズが這っていたのはわずかな区間だけで残りは白紙であることといい、 少々とぼけた性格の普段の光珠[…]
愛哀傘 SRWNovel

愛哀傘

トン助を追い回す剣人やシローたち。 情勢を鑑みて敵襲がしばらくなさそうだということで、ウッソが見付けた花の綺麗な公園にブルー・スウェアのメンバーが休暇に訪れたのだ。 荒れ果てた地球でこのような場所は珍しい。 何故ウッソがそんなことに詳しいのかといえば、いつかカテジナを誘うために昔からデートスポットのデータ収集は怠らなかったのだという。 そのカテジナはザン・スカール軍の兵士になりいつ襲撃があるかわからないことを考えると、随分皮肉だ。 「……で、何であんな追っかけっこやっているワケ?」 ルーの問いにミカが微笑む。 「『花見と言えば酒だな』『バーベキューもいいんじゃないか?』とゲッターチームが言って[…]
恋人のいない夜 SRWNovel

恋人のいない夜

プレゼントは前日までに用意しておいた。 レオナやカーラに混じってレーツェルの講義を受けてまで手作りをする気にはなれなかった。 レーツェルはやたら世話焼きだからギリアム少佐の好きなお菓子のレシピを手ほどきしてくれるだろう。 だが、それでは駄目なのだ。 レーツェルに教わる限り、手作りに拘る限り、彼の料理を超えるのは不可能だ。 無論少佐なら「君が作ってくれたのが一番さ」と笑うだろう。 その笑顔を誰にでも振りまいているであろうことが、とても寂しい。 少し苦いチョコレートに、ネクタイを添えた。 それで彼を拘束出来る、なんておまじないをしなかった訳でもないけれども。 彼(と情報部の面々)がいつもいる小会議[…]
今願う、無限の地平 SRWNovel

今願う、無限の地平

誘ってきたのは、レモンからだった。 「男と女だもの。別に不自然でもないでしょう?」 おれは特に餓えていた訳でもないが、これで断ればレモンとの良き同僚としての関係すら崩れるというのは、それはそれで嫌だった。 険悪になり何の関係もなくなるよりは、恋人という関係になった方がマシ。 なりゆきと言うしかなかったが、考えてみればそう思えた時点でおれもレモンを愛しく想っていたのだろう。 レモンを抱いた時、ゴムはいらないと無理矢理制止された。 性に奔放な女なのかと思えば、前戯への反応は初々しいし、挿入時処女特有の感触があった。 「お前、何で……」 「子供が出来ない体質なの。でも抱いて欲しかった。あなたにだけは[…]
英雄の熱動 SRWNovel

英雄の熱動

夢を、見た。 『全ての世界の愚民どもよ!! 見ているか? 俺様はカイザーベリアルだ!! これからヒーローどもの処刑を執り行う!!』 高らかに宣言する者はどことなくあの世界の『ウルトラ族』に似ていたが、禍々しい負の力を感じる。 そしてその背後で磔にされているのは、三人とも良く知る、そう、良く知っている―― 「アムロ!!」 自分の声で目が覚めた。 これは予知夢なのだろうか。 そうだとしたら、あの世界にまた帰れる時が来るという―― 「馬鹿げている」 その可能性は自分で棄てた。 部下は相変わらずだし、久しぶりに会うジョシュア、リアナ、グラキエースも元気そうだった。 そして、彼女も。 「ギリアム少佐、お[…]
天衣夢包の愛逢道中 SRWNovel

天衣夢包の愛逢道中

月を、眺めていた。 神楽天原の『温泉』は疲れを癒してくれる上に月見酒、花見酒と洒落込めるので人気があるそうだ。 それを貸しきり出来る幸運に感謝する。 輝きながら彼女の宿命を嘲笑うようで憎らしくすら感じることもあったエンドレス・フロンティアの月だが、今はただその輝きすら愛おしい。 桜の花もだ。神楽天原の花は常に咲き常に散っていく。その儚さを神楽天原の者は愛でるという。だがその儚さを彼女の運命と重ね合わせてしまった。 今は、花を愛でる彼女を愛し、故に花も美しく思う。 「ハーケンさん、お背中流しましょうか?」 「おおっといけないな、プリンセス。旅のバウンティ・ハンターの俺をプリンセスがもてなすなんて[…]
最後の出撃 SRWNovel

最後の出撃

ゲシュペンストRV。 ギリアムにとって始まりの地であった世界にも、極めて近く限りなく遠いあの世界にも存在しなかった機体。 量産型を発展させたMk-II改と違い、ギリアムの専用機体としてPTX-001を徹底的に改造したものだ。 ――龍虎王のように機体と会話することが出来たら、彼(または彼女)は何を話すのだろう。 そんな思考実験をしてしまう。 普段ならありえないことと一蹴するが、ギリアムの“ゲシュペンスト”に対する思い入れが、その思考をむしろ面白いものと感じさせる。 「君はこんな姿にされて恨み事も言いたいかもしれないな」 元の曲線的なフォルムとは打って変わって直線で構成されたシルエットは、どことな[…]
『愛』を覚えるには未熟 SRWNovel

『愛』を覚えるには未熟

『俺は、闘う事しかできない不器用な男だ。だから、こんな風にしかいえない。俺は、お前が、お前が、お前が好きだっ!! お前が欲しいっ!!』 流麗な字で書かれたその文章を見て、ヴィレッタは己の好奇心を悔いた。 何故ギリアムが真顔で書いていた手帳に流派東方不敗の継承者の告白が記されているのか。 無論好奇心だけでなく彼に関する情報が手に入れば、と思っていたのだが。 万が一見られても大丈夫なようにか、その手帳には食事のメニューだとか――今日の昼食は日替りA定食だったらしい――あたりさわりのないことしか書かれていなかった。 昨日の謎の文章は『ダイヤモンドより君だ』だった。 『好きになっちゃったんだからあった[…]
『幸運』持ちではないけど『幸せ』ではある2人 SRWNovel

『幸運』持ちではないけど『幸せ』ではある2人

着任祝いに、とサングラスを贈られた。 「君も大尉だからな。これを掛けるのがお約束というものだ」 「どこのお約束なの?あなたが大尉の頃こういうものを掛けていたとか?」 「俺にはこれがあるからな」 己の前髪をかきあげて彼は笑う。少しだけ覗いた右目が表情に不似合いな強い眼光を放っていた。 彼女にはそれが少し恐ろしくもあり、彼にもその感情は伝わっていたようで、髪を元の様に垂らして笑みを強くする。 「これはなかなか便利だよ。視線を隠すことが出来る――余所見をしても平気だ」 「私には見つめていたい人なんていない」 「視線の先は生きている人間には限らないさ」 彼女は応えない。それが答えだ。彼は右目を隠したま[…]
彼らが”友”になったとき SRWNovel

彼らが”友”になったとき

グラスに伸ばしたゼンガーの手をギリアムが制止する。 「ゼンガー大尉、それは酒です」 「む?」 「エルザム大尉がすり替えていました」 睨みつけると笑ってその酒をギリアムに差し出す。 「よくぞ見抜いたギリアム! その慧眼に乾杯!」 「酔っているフリをしても無駄ですよ。あなたがここで一番酒に強いのは皆知っています」 テンペストが頷き、カイがため息をつく。 「ギリアム、残しておくとロクなことにならない」 カーウァイの一声に受け取った酒を煽る。 「……エルザム大尉、ゼンガー大尉を殺すおつもりですか?」 ギリアムが顔をしかめた。かなり強い酒だったらしい。 「ふふふ、止めたいのならお前が飲むことだな」 更に[…]
普段は食べない人たちも SRWNovel

普段は食べない人たちも

今日はレーツェルが台所に立つということで、食堂は大賑わいだ。 少しピークタイムを外して行ったが、それでも人でごった返している。 「ヴィレッタ大尉、こっち開いてますよー!」 もっと時間をずらすべきだったか、という思考に割り込んできた声。 ――苛烈なクールビューティー。 実態は“意外と親しみやすい”と言われているが、それを知らぬ人間にはそう表される彼女に親しげに話しかける人間は限られている。 たとえば直属の部下であるSRXチーム、たとえば付き合いの長いラーダ、たとえば誰とでも打ち解けるエクセレン、たとえば―― 「…………すまない、あなたたちをコードネーム以外で呼ぶ術を知らないの」 「がぁっ!? 俺[…]
絡み合う嘘つきたちの真実 SRWNovel

絡み合う嘘つきたちの真実

口先で数重ねてきた嘘の中で生きてきた真実。 この世界で君たちと出逢い君を愛した。 嘘だと言い切れたら、どれだけ楽だっただろう。 君を愛してしまったこと。 君にとっても痛みにしかならない。 俺にとってもいつかは苦しい思い出にしかならない。 どうせ俺は嘘つきの罪人だ。 言ってしまえ、君への言葉も全て嘘だと。 しかし口は思考を裏切る。 「愛しているよ」 「それならあなたのことを抱きしめさせて」 「俺としては俺から君を抱きしめたいんだがな」 「嘘つき。誰かに繋ぎ止めて貰うの待っているくせに」 「それは君自身だ」 「そうよ。嘘つき同士よくわかっているじゃない」 「それでは嘘と妥協に満ちた夜を始めようか」[…]
女の世界 SRWNovel

女の世界

――たまに出撃のない時くらい、ルーを労ってやろう。 前の戦時中はプルとプルツーに時間を割かれ、ルーと心を通わす暇もなかった。 ルーがいつもいる談話室に行こうとすると、號に阻まれた。 「何だよ、號」 「俺は渓を守る」 「あんなおっかねぇ女を守ろうとしてるのはお前と剴くらいだよ!」 ルーも大概だけどな、と小声で付け加えつつも號を睨みつける。 「渓はいま『ぢょしかい』とやらをやっているらしい。男が近づいたら片っ端から追い返せとのことだ」 「な、何!? 女子会だと!?」 ジュドーよりも傍にいた他のメンバーの方が浮き足立っている。 女子会。男子禁制の秘密の花園。 コイバナ、スイーツ、男の格付け、“どうや[…]
星を映す門にて SRWNovel

星を映す門にて

分の悪い賭けは嫌いではない、とキョウスケはよく言う。 大一番での賭けに負けることはないと言い切っていいものの、周囲の皆がそう言い切るには抵抗があった。 ジョシュア・ラドクリフもそうだった。 彼の信条は“分の悪い賭けをするつもりはない”である。 確実に目の前の状況を突破する。生き残るために必要なこと。 しかし彼もまた、分の悪い賭けをすることになる。 グラキエースは隣で彼を見つめていた。 人間でないモノ。人間の敵ですらあったメリオルエッセ。感情の欠けた人型のモノ。 しかし彼女はジョシュアを慈しみ、その悲しみを感じ、癒やそうとしていた。 そうなったのは、彼が分の悪い賭けをし、それに勝ったからだ。 宇[…]
太陽と月 SRWNovel

太陽と月

アポロン、ヘリオス、リュケイオス、アギュイエウス。 ギリアムの別の顔、もしくは半身の名前。 全てギリシア神話の太陽神に由来するのだと、あの決戦の後でヴィレッタは教わった。 「あなたには夜の闇を照らす月の方が似合うかもしれないわね」 くすり、と口角を上げる。 何の悪気もなく、ただ彼には闇と静寂が似合うという理由で。 「俺という月を照らしてくれる太陽はもういない……だから俺が太陽になるしかないんだ」 彼も笑っていた。 何もかも諦めて、笑うしかないというように。 彼もまた鎖に縛られているのだろう――イングラムとは違う形で。 ヴィレッタにはそれがわかってしまう。 そしてイングラムと重ねてしまうことを申[…]
輪廻の庭 SRWNovel

輪廻の庭

荒れに荒れた庭に通され、ジンは唖然とした。 「ディラン博士、これは……」 「アユルにこの庭の世話を任せたの。あなたの傷が完治するにはまだ時間がかかるわ。それまで庭の手入れでもしてのんびりなさい」 アユルは俯いて赤面している。 彼女と知り合って間もないが、内気な少女だというのはよくわかる。 ただ、それでも細やかな女性であろうと思っていたので、庭の手入れ1つ出来ないというのは意外だ。 「娘の庭をよろしく、スペンサー大尉」 “娘”と比べて“の庭”の発声が弱かったように聞こえたのは、ジンの男としての性だろうか。 ディラン博士が立ち去り、アユルの赤面がますます強くなった。 「芸術的な庭だな。枯山水か?」[…]
黒服が似合う2人で SRWNovel

黒服が似合う2人で

俄に降りだした雨に動じることなく、ギリアムは鞄から折りたたみ傘を取り出した。 「流石準備がいいのね」 「いや、2人で入るには少し小さかった」 ヴィレッタの方に傘を傾けて、口元を歪める。 身を寄せるとそのままの距離を取ろうとじりじり動く。 「私に近寄られると嫌?」 「そんな訳がないだろう。ただ、ちょっと雨に濡れたい気分なだけだ」 「何それ。風邪引くわよ」 「『雨の日に傘をささずに踊ってもいい。自由とはそういうことだ』という格言があってな」 ギリアムの言葉に、傘を持った手と鞄を持った手を握る。 荷物が当たるのを恐れて、振りほどくことが出来ない。 「一曲、踊ってくださらない?」 「ここでか?」 「自[…]
War in the flask? SRWNovel

War in the flask?

「『名前:ハロ。サイズ:普通。口癖:ハロ、ゲンキ』って個性のない奴だな!」 依頼主から預かった書類を振り、毒づく。 バーナード・ワイズマン――愛称バーニィ――は探偵、もっと正確に言うならばその助手である。 探偵といっても仕事は地味で、ペット探しや浮気調査が主流だ。ちなみに今回はペットロボットの捜索依頼である。 しつけ次第で如何様にもなるハロがここまで無個性なのは飼い主に放置されていたからなのか、そういう風に育てたのか。 行方不明でわざわざ探偵に探させるのだから後者だろうが。 バーニィは不機嫌だった。その理由は多々あるが、強いて一番を決めるなら。 Dashing through the snow[…]
春咲小紅 SRWNovel

春咲小紅

桜の季節であるらしい。 花見の話題がこの極東基地でもあちこちから聞こえる。 さぞ美しいのだろう。見てみたいものだ。 だが、花見と言って騒ぐのは好かない。 リュウセイやアヤが企画しているが、あまり乗り気でないのが正直なところだ。 一緒にいけば、楽しいに違いないのだが。 せめて、周りが騒がしくないところで出来ればいいのだが。 そんな時に、ギリアム少佐と廊下で会った。 軽く挨拶をしてすれ違おうとすると、彼は話をする気のようだ。 「ヴィレッタ、今週休めるか?」 「ええ、明後日は休みだけど……それが何か?」 何か思惑があるに違いない。 彼なら容易に人の休みを把握できるだろうから。 仕事の依頼かと思ったが[…]
ホワイトデーの突撃狂 SRWNovel

ホワイトデーの突撃狂

「……やはりこれも失敗か! 忌々しい!!」 ギリアムは彼には珍しく、声を荒げていた。 珍妙なのは声の調子だけではない。 失敗をした、ということ。そして、エプロンをつけていること。 彼はため息をついて、テーブルに無造作に置かれた紙を摘み上げた。 紙にはクッキーの作り方、と書いてある。 彼はオフである今日3月13日に、半日近くずっとこれを見ながらクッキーを焼き続けていた。 エルザム直筆のレシピだけあって、料理については初心者マークのギリアムでも、それなりの物は作れるようになっている。 ただ、彼にとって不幸だったのは、本家のエルザムのクッキーの味を、彼がよく知っているということだった。 プロ級の腕前[…]
新たな誓いと気付いた感情 SRWNovel

新たな誓いと気付いた感情

――君は、誰なんだ? ギリアムの夢に出てくるおぼろげな影。 わかるのは、それが女性であることと、彼女が悲しんでいること、そしてその影に恋をしていることだ。 顔も交わす言葉も知らない。それでも彼は恋慕の情を抱いていた。 理由や過程はない。ただ彼女に恋をするという結論があるだけだ。 予知という能力を持つ彼には、たまにそういうことが起きた。 結果が先にあり、そこから過程を導き出して、自らが起こす行動を決める。 そうして彼は予知を実現、或いは回避していた。 しかしこの事態は流石に未知のもの。 誰とも知らぬ相手にも関わらず、止められずに焦り、身を焦がすようなその感情を制御することが、彼には出来なかった。[…]
笑っても、いいですか? SRWNovel

笑っても、いいですか?

イングラムから託された使命を果たすために私が選んだ接触対象は、情報部のギリアム・イェーガー少佐だった。 マオ社経由で口を利いてもらってもいいが、イングラムが使ったルートでもあるし、別の後ろ盾が欲しかったのだ。 元々直接は関わっていないが、裏では――表でもマオ社の人間としてSRX計画に関わっている。 別に不自然ではないはずだ。 テストパイロットとしての実績はあるし、それ以外にも実力を示せと言われればすぐに出来る。問題はない。 経歴や戸籍は誤魔化しきれない部分があるが、この不安定な時勢ではそういったものはあまり意味を持たない。 ギリアム少佐自身、軍に入る前の経歴は不透明だ。 故にそこを突いてくるこ[…]
一人パニック・214 SRWNovel

一人パニック・214

ギリアムは他のことはいいかげんだが、人付き合いについてはマメな男だった。 普段世話になっている人間を漏らさずリストアップ、人数分のプレゼントを確保。 だが、今年のバレンタインデーは一味違う。 ――――わざわざ取り寄せた総天然原料で作る甘さ控えめココアクッキー……ヴィレッタは気に入るだろうか。 レーツェルの講義をみっちり受けたから大丈夫だろうとは思うけれども。 急に眩暈がしたのはオーブンを開いた時で、ようやく出来た原型を落とさないよう必死にならなければならなかった。 ――――――バレンタインの当日。 自分のプレゼントをヴィレッタが食べることはない。 暗い所に放り捨てられてしまう。 そして、自分は[…]
ゆっくりと、きらめいて SRWNovel

ゆっくりと、きらめいて

ふと窓の外に目をやると、闇の中雪はまだ降り続いていた。 ヴィレッタが作業を始めたときにはちらつく程度だったが今は本格的になって管制官を苦しめている。 ――――ギリアム少佐は待っているのだろうか。 夕方5時、公園の噴水前で。 時計を見ると約束の時間はとうに過ぎていた。 トラブルが起きてしまったこと、その対応に追われること自体はヴィレッタの責任ではない。 ただ、Dコンがこんな時に故障するなんて思いもしなかった。 別の方法で連絡を取るには、時間が足りなかった。 約束を無断で破ったのは辛い。 しかしそれ以上に白い沈黙の中独り守られない約束を信じて待つ彼の姿を想像すると。 ――諦めていてくれればいい。 […]
ベットOK? SRWNovel

ベットOK?

珍しく仕事の少ない時期。 極東基地の休憩室のひとつでコーヒーを飲みながら、ギリアムはため息をついていた。 「暇なのはわかるけど、ため息をつくと幸運が逃げるわよ」 頭に軽く書類を載せられた。 首と身体は固定したまま、視線だけを動かしてヴィレッタに答えた。 「君が迷信を口にするとは思わなかったな。それで何か用かい?」 「用っていう用じゃないけれど、あなたの暇を解消してあげようと思ってね……賭けを持ってきたのよ」 ――何か、企んでいるな。 ギリアムはヴィレッタの声の調子から直感的に、そして経験則として感じ取ったが、そのまま続きを促した。 「PTで私と三本勝負……あの時は直接戦闘はなかったから、実力差[…]
ChristmasGift SRWNovel

ChristmasGift

 CC097年12月 白い雪にイルミネーションが映える。 クリスマスを目前にして、街は下準備をするサンタクロースで溢れかえっている。 研修中のゼウスの面々にも街の熱気が伝わってきていた。 「もうすぐクリスマスか……なぁ」 「パーティーをやっている余裕はないぞ」 光太郎の舌にダンが釘を刺す。 「まだ何も言ってねぇじゃんかよー。あれか? ウルトラ族の特殊能力か?」 「そんなものがなくてもわかる」 「光太郎さん、わかりやすいですからね」 アムロとダンから攻撃を受け不貞腐れた光太郎はギリアムに助けを求める。 出会って1週間の彼らだが既にこの流れは確立されたものだ。 「ギリアム、お前だってパーティーやり[…]
遭遇 SRWNovel

遭遇

外の様子は、耳にすることが出来る。 しかし、干渉することは許されない。 それは思ったよりも耐え難いことだ。 今は時を待つしかない。 過剰な期待は、していないけれども。 「面会だ!」 さて、何が出るだろうか? 「ヴィレッタ隊長、お久しぶりです!」 情報部、と聞いたときはまさかと思ったが、目の前にいるのは紛れもなくアヤ大尉だった。 投獄されてしまった私ほどではないが、アヤも行動にはかなりの制約を受けているはずだ。 SRX計画は上にとって不都合な点が多すぎる。 その為にチームは解散させられ、アヤは情報部に送られたのだから。 当然、私と面会するなど許されるはずがない。 そうなると。 アヤの背後の男性…[…]
意気地のない俺に SRWNovel

意気地のない俺に

壁の向こうからシャワーの音が聞こえてくる。 ――――何でこんなことに、いや、この状況をどうにかすることをまず―――――― わざわざ部屋まで仕事を手伝いに来てくれたヴィレッタに礼をしようと料理をしたところまではよかった。 しかし手元が狂ってソースをブチ撒けて彼女の服と髪を汚してしまった。 慌ててシャワーを浴びるように言って、汚れた上着を洗濯機に放り込んで床を拭いているところで己の発言のまずさに気付く。 男の部屋で女がシャワーを浴びる。ましてそれを命じたのだ。 この状況が何を意味しているのか知らないのならそのまま流せるのだが、生憎と知識も経験も積んできたわけで。 慌てていて忘れていたあの時ならとも[…]
ずっと願っている SRWNovel

ずっと願っている

廊下ですれ違っても一瞥するだけの君。 俺ではない誰かと談笑する君。 君に限らない。 この艦の中で俺が混じれる場所はない。 何故なら皆、俺を知らないから。 ――――息苦しさに目を覚ました。 夢。 そう、悪い夢。 現実――この世界がそう呼べるとしたら――では、違う。 少なくとも、ギリアムにとってはそうだった。 ――この部隊こそが俺の居場所。 そう断言できるほど居心地が良かった――情報部の面々には悪いと思っていたが。 しかしあの夢は過去に起こったかもしれない、或いはこれから起きるかもしれないこと。 それが予知能力者である彼の特性。 ――皆が、俺を、忘れる。 考えるだけで背筋が凍った。 考えていなかっ[…]
心のあたたかい人 SRWNovel

心のあたたかい人

日本の夏は蒸し暑い。 おまけに今2人がいる会議室は今しがた冷房を入れたばかりで、じりじりと汗がにじみ出る。 しかも彼女の隣にいる涼しい顔をした仕事相手の髪型はその暑さを増長させる。 ――バリカンか鋏はどこにあったかしら? しかし彼も内側では焦れていたようで、冷たい物を買ってくると言い出した。 「ちょっと待って少佐。私の分のお金……」 さっさと行こうとする彼の手を思わず掴み、2人の背筋が同時にびくりと震えた。 冷たい。 この夏日の蒸し暑い会議室にはまったく不似合いの冷えた指先。 ヴィレッタはしばらくその手を掴んだままだった。 「……ヴィレッタ?」 「少佐、病気? 冷え性?」 「生憎俺は健康そのも[…]
再会~そつぎょう~ SRWNovel

再会~そつぎょう~

ミョルニアからもたらされた情報の1つ、同化現象への特効薬。 アルヴィスの地下深くで眠る咲良への投与が根気よく続けられていた。 理論的には正しい。一騎たちの同化現象の進行も止められた。 しかしここまでの同化の進行は例がなく、臨床実験に近かった。 ――蒼穹作戦と同じ頃「母さん」と呟くのを確認。 しかし意識の回復は見込めず。 少し遅れた一騎が帰還する頃、母と恋人の手を握り―― 「咲良ー、学校行くぞー」 玄関口から先に準備していた剣司が呼び掛ける。 右側に自転車を携えて。 家の奥から、息を切らせた咲良と心配そうな母親が現れる。 「自転車なんて持ってきて、どうしちゃったの?」 「これに乗れば咲良も少しは[…]
恋の魔法は使ってないけど SRWNovel

恋の魔法は使ってないけど

3月と言えど、まだ夜は冷え込む季節である。 くしゃみの音が深夜の公園に響きわたった。 新聞紙とダンボールの下から、その布団には似つかわしくないスーツ姿の青年が転がり出た。 「うー、今日は何故こんなに冷えるのだ! こうなったら、サライ……」 しかし叫ぼうとしたその口を自らの手で塞ぐ。 決めたのだ。魔法に頼らず生きていく、と。 彼の名は闇野響史。肩書きは正義のジャーナリスト。 しかしその実態は、数週間前職と帰る場所を捨てた浮浪者、大魔界の魔道士、ヤミノリウスIII世である。 大魔界へ戻る道は開けず、造反した上その大魔王がガンバルガーに敗れ消滅しては戻るつもりもなく、地上で生きていくことを決めた。 […]
進め炎のバージンロード!結婚式はハッピー☆ラッキー!? SRWNovel

進め炎のバージンロード!結婚式はハッピー☆ラッキー!?

ダリウス人たちの外宇宙移住計画――箱船計画は現状、順調に進んでいた。 しかし不慣れな宇宙という環境が護衛艦である大空魔竜を脅かしていた。 この緊張下では、またリミテーション・シンドロームを発症するかもしれない。 そんな不安がまた緊張を呼んでいた。 そんな時の厨房。 「ん? キョーコちゃん、考え事ね? 悩みあるなら相談乗るよ」 「いえ、私のことじゃないんですぅ。ただルル、大丈夫かなって」 「流石キョーコちゃん、優しい子ね」 「艦長でアイドルって言ってもぉ、限界があると思うんですよぉ。だからもう1つ、パーッと明るい話題を皆に提供するべきじゃないかなーって」 キョーコの話した思いつきは、あっという間[…]
ウソのある世界でも偽りない SRWNovel

ウソのある世界でも偽りない

「それにしても熱い告白劇だったわねー。まさに青春って感じ?」 「なんか半分ヤケになってたけどね。男連中皆」 ゲイナーのとった、プラネッタの“相手の思考を読む”というオーバースキルへの対抗策は、その能力を逆手に取った搭乗者への精神攻撃であった。 ただし、その内容は極めて平和的とも言えた。 何しろ同級生のサラ・コダマへの恋慕の想いを強く熱く叫ぶという、ただそれだけなのだから。 しかしこの手の話が身の毛がよだつほど嫌いな搭乗者のカシマルには恐るべき威力を発揮してしまったのである。 更にゲインたちが煽りガロード、レントンの告白が続くこととなり、作戦は無事に成功した。 凍土の地・シベリアを糖度の地に変え[…]
世界は小さく果てしなく SRWNovel

世界は小さく果てしなく

つまらぬ情けをかけられた。 世界は変わらなければならない。我々のような選ばれた者によって。 ニュータイプや仮面ライダー、ウルトラ族という力があれば理解できそうなもの。 このままでは、未来などない。あの甘い連中に世界の未来が背負えるものか。 あの様子ではそれよりも、別の真実の方が重いかもしれないが。 そして気付いた。アポロン総統も、紛れもなく“ゼウス”であることに。 計画が立ち上がった時は違った。 情け深く、しかし時に冷酷に謀略も粛清も躊躇わぬ姿勢。 そこに私情の介入する余地はなく、崇高と言えた。 事故で行方不明になった時は流石にどうなるかと思ったが、更なる力を得て戻ってきた。 ゼウスの力量も行[…]
EternalForce SRWNovel

EternalForce

「ところで船長」 「何だい、ボニー」 「あの小僧にはああ言いましたが、船長も鱗がありませんな」 アンの下半身はいわゆる鯱のようなものであり、彼女自身も艶々だと自慢している。 「……ボニー」 「何ですかな?」 「何ですかな、じゃないよ。あんた一体どれだけあたしの補佐をやっているって言うんだ」 「はて……」 「本気で言ってるなら部下なしで船全体を掃除させる」 そんな声を後にしながらハーケン・ブロウニングと愉快な仲間たちはヴィルキュアキントへと突入した。 「なるほどな。俺のミラクルチャームが通用しなかったのはそういう訳か」 「いえ、もっと根本的な問題かと思われます、重力無視コート」 「しかし生命の神[…]
きっとそれも愛と呼べる SRWNovel

きっとそれも愛と呼べる

超機合神バーンブレイド3。 3機のメカが変形・合体し、3種類のロボットになる、リュウセイお気に入りのロボットアニメ。 ハジメ博士や、あとリョウトとも熱く語っている。 世間事に疎い私やマイに真っ先に薦めたのも、それ。 現実の軍事と照らし合わせてどうかはともかく、夢に溢れた話ではあった。 バーンブレイドのパイロットたちの絆。 敵味方を超えた共闘。 彼らを支える作中では名を与えられなかった兵士たち。 私たちの部隊にも似ている、と思った。 今日はそれではいけない、と奮起したアヤが――ラーダにもよく言われたし気持ちはわからないでもない――映画に誘ってくれた。 吸血鬼をモチーフにした恋愛映画。 何でも、彼[…]
これは、嘘なんです SRWNovel

これは、嘘なんです

3月31日。特にそれといった敵が来る様子もなく、フリーデンは通常の航行を続けていた。 「そういえば戦前って、4月1日は嘘をついても許される日だったらしいわよ」 「平和な時代ならでは、ですね」 「……不潔だわ」 「飽くまで他愛のない嘘なら、だ」 ブリッジクルーたちはレーダーや視界に気を配りつつも雑談をする。 「でも、折角だから男連中でも騙そうかな。特にウィッツとか単純だし! ガロードはティファに譲ってあげる」 「えっ……?」 隅の方で大人しくしていたティファだが、急に話を振られてびくりとなる。 「余計なことを教えるな」 「女の子なんだもの。可愛い嘘の1つでも言えるようにならないと」 「……私は、[…]
直撃!プレゼント作戦 SRWNovel

直撃!プレゼント作戦

「わー! さすが飛鳥くん! ありがとう!!」 ぼくたち陽昇学園の5年3組では、女子の皆の黄色い声が上がっていた。 その中心にいるのはやっぱり飛鳥くん。 ファンクラブの子たちにちゃんとプレゼントをしたみたい。 「本当、仁くんとは大違い」 「お前らなんかに誰がやるかってんだよ。ホワイトデーってお返しをする日だろ」 「あーら、じゃあ」 仁くんはマリアちゃんの声にドキリと振り返った。 やましいことがあるんだなぁ。 「私にはくれるのよねー、仁?」 「え!? マリアちゃん、仁くんにチョコ渡したの?」 途端に大騒ぎが別の話題になったけど、マリアちゃんはちょっとクールに言った。 「物欲しそうな顔してたから。誰[…]
熱く未来を呼び覚ます SRWNovel

熱く未来を呼び覚ます

特殊戦技教導隊という実績はどこでも欲しいもの。 ブランシュタイン家の跡継ぎであるエルザムや叩き上げの実力者であるカイ少佐ほどではないが、教官や小隊長の口はいくらでもあった。 しかし俺は、その話を蹴った。 亡霊が怖くなって逃げたのだという中傷もあった。 彼らは全く根拠もなく――強いて言うなら自分の恐れを投影して言っているのだろうが――確かにその面がない訳ではない。 俺はどこに行っても“ゲシュペンスト”と巡り会う。 それもまた宿命というものなのだろう。 しかし俺はこの機体が好きだった。 一言で言えば、好き好んで呪われている。 だが俺には指揮官などの立場は向いていない。よくわかっている。 そして後続[…]
聖なる亡霊 SRWNovel

聖なる亡霊

クロガネと別れ、伊豆基地に帰還せんとするヒリュウ改。 そのデータ室でうとうとしていたギリアムの頬に、熱いカップが押し当てられた。 驚いて覚醒すると、それを行なっていたのはヴィレッタ。 「寝るなら個室にすることね……コーヒーと、携帯用食料」 「気が利くな。しかし特に栄養補給の必要は感じないのだが」 「消耗しているんでしょう? システムXNの仕組みは知らないからそれが原因かは知らないけれど」 「皆の力を借りたしそれほどでもないさ。SRXチームの心配をした方が懸命だ」 「私は隊長よ? そちらは既にフォロー済み」 「それは失礼。では、ありがたくいただくとするか」 笑ってそれを受け取る。 それを見たヴィ[…]
新しい始まりの時 SRWNovel

新しい始まりの時

「地球へ帰りたいと念じる、か」 バーニィがすぐに思い浮かべたのは、サイド6のことだった。 初陣で撃墜されて、そこで出会った少年。 仲間を失ったあの任務。 そして、決して生きては帰れないだろうと思ったあの戦い。 ――アル、この前のあと一機でエースになれるっていうのは嘘だったけど、おれは本当にエースになったんだぞ。しかもあの天下のロンド・ベルでな。 バーニィはそう話す自分の姿を想像した。 しかし、それに対する少年の反応を想像し、ため息をついた。 ――――もう彼はあの時のように眼を輝かせてはくれないだろう。 それに、彼はバーニィが死んだと思っているに違いない。 バーニィ自身、あれで生き残れたのは奇跡[…]
Hoffnung SRWNovel

Hoffnung

「ギリアム! 何故お前が……!」 「あなたが戦ってきたのはそのためだったの!?」 諦めきれない仲間の声。 答えず通信をオフにする。 ――――そう、全てはこのために。 混沌を呼ぶ者を全てこの世界から、あらゆる次元から、排除する。 安息の、未来のために。それが、俺の贖罪。 しかし思い浮かぶのは先程の彼らの表情。責める声。通信は遮断したのに。 モニターを見ると座標やエネルギーは荒れ狂い安定することがない。 この状況に古い記憶を掘り起こした。 ただ、帰りたかった。 それなのに笑顔がどうしても思い出せず、戦いの記憶ばかりが頭に浮かぶ。 混乱と狂気。 気付いた時にはシステムは暴走。単身この世界に飛ばされて[…]
Versprechen SRWNovel

Versprechen

私は不安だった。変化を恐れていた。 変わらなければならないのはわかっていた。 私も、あなたも。 だが、変わってはならないもの――そう思っているものまで及ぶのではないか。 私は信じたかった。 疑いたくなかった。疑いようもないはずだった。 色々変わったけれど戦いの意義も私を包む微笑も声も変わらなかった。 ――――なのにこの違和感は? 私の思い違い? あなたが離れていく気がする。 あなたと噛み合わなくなっていく気がする。 あるいは、最初から――――――――? ――――ひとつだけ、答えて。 ギリアム少佐――あなたが望む世界の中で、未来のあなたはどうしているの――――? ********** そう、あな[…]
愛しています、心から SRWNovel

愛しています、心から

ヴィレッタと共にいる時のギリアムは楽しそうだ。 お互いの仕事の手伝い。演習相手。たまの買い物と食事。 無愛想もいい所の彼の口元が微かに緩み、目つきが優しくなる。 恋人同士だという噂は既にほぼ確定の情報として出回っている。 そんな噂に、ヴィレッタは悪い気はしなかった。本人も、そうだと思っていたから。 少なくとも彼女自身は、彼に恋愛感情を持って接していたから。 ――――しかし、不安でもあった。 キスなどの事実はないし、好きだとかいう類の言葉を彼から聞いたことはない。 抱きしめてもらったことならある――――どうしても泣きたくて仕方がなかった時、胸を貸してくれた。 決して嫌われてはいない。嫌いな相手を[…]
閃光と氷槍のお料理行進曲 SRWNovel

閃光と氷槍のお料理行進曲

「こんな……こんな料理が食えるか!」 メイシスが皿を叩きつけるように置いた。 「な……何と」 「てやんでえ、何しやがんだ! 食いモンには神様が宿ってんだぞ!」 レーツェルが珍しく狼狽している。 無理もない。絶対の自信があった彼の料理をこのように拒絶されたのだから。 「メイシス! レーツェルに謝るんだ!」 「嫌な物は……嫌なんです!」 アルティスに叱られ、食堂を駆け出して行ってしまった。 「信じられんな、こんな美味い食事を……フォルカ、食わんのなら俺が食うぞ」 「良く噛んで食べなくてはならないとショウコが言っていた。吸収が良くなるらしい」 フォルカの皿の上では白熱した攻防戦が繰り広げられていた。[…]
狂乱の堕天使 SRWNovel

狂乱の堕天使

ホワイトデー前日の補給とあって、買い出しに行く人間は後を絶たない。 ただ出入りが多くなるというのは、それだけ騒ぎが起きやすいということで―――― イングラムとギリアムはうめき声をあげ、自らの体制を立て直すより先に、荷物の中身を確かめた。 その結果、即座に立ち上がり相手を睨みつけることに。 「お前が不注意だから……!」 「貴様こそその予知能力は飾りか!?」 二人が差し出したのは出合い頭の衝突事故によって無惨に潰れたギフトボックス。 この状態では中身が無事で済むはずもない。 まだ時間はあるから買いなおせばいい話ではあるが、それで済むなら彼らの仕事はもう少し楽になるのである。 それでも相手が別の人間[…]
平和の味を噛み締めて SRWNovel

平和の味を噛み締めて

『修羅』と呼ばれる人々は、異世界においてもなお戦い続けた。 それを迎え撃つ者たちもまた、争いの耐えぬ日々をすごす。 しかし彼らと修羅は、それでもどこか違っていた。 その相違点がどこにあるかはわからないが―― メイシスが偵察から戻った。 フェルナンドの消息は未だ知れない。しかし恐らく軍師ミザルの下にいるのだろう。 フォルカ、そしてアルティスへの切り札として。 ともかく、修羅軍と対抗者「アーガマ隊」の動きをアルティスに報告せねばなるまい。 「そうか……ご苦労だったな、メイシス」 「いえ、これも任務ですから」 そしてアルティス様のためですから、と心の中で付け加えた。 ミザル率いる修羅軍を離れ単独で行[…]
メイシスのアーガマ潜入記 SRWNovel

メイシスのアーガマ潜入記

私の名はメイシス。 我が敬愛する閃光の将軍、アルティス様のためにかの方の不肖の弟であるフォルカが身を寄せるアーガマという戦艦に潜入している。 侵入はあっけないほどに簡単だった。 この世界はどういうわけだか機体の整備にそれ専用の人間を必要とするらしい。 しかもその数が無駄に多い。おまけに入れ替わりが激しいときている。 私は補給の時に作業着を入手し紛れ込むだけでよかった。 これなら艦内で動いていても怪しまれない。我ながら完璧な策略。 こちらの世界に来てから通信機の調子が悪く顔ははっきりとは見えていないはずだしな。 フォルカにさえ見つからなければわからんはずだ。 私は任務を遂行しつつ艦にうまく溶け込[…]
“希望”の大地にて SRWNovel

“希望”の大地にて

「ここはこのコロニーで一番大きな公園なんだ」 ヴィレッタは興味なさげに頷く。 実際、興味なんてない。 湖が綺麗だとか緑が豊かだとか言うけれども、結局、それは偽りにすぎないのだから。 「本社から、エルピスでちょっとした仕事をやってくれって」 そう言うとラーダは補給やら整備やらで手が離せないから、とすまなそうに頼んできた。 ヴィレッタとて仮にもマオ社社員。 彼女向きとは言いがたい、量だけは多い雑用の類だが、そういう仕事もしなければならない。 「でもちょっと場所がわかりにくいわね」 「そうね。一応地図はあるけれど…………あら、少佐。珍しいですね。私服なんて」 軽く挨拶をして二人の横を通りすぎた人影。[…]
こんな日もあるさ SRWNovel

こんな日もあるさ

宇宙へ上がり、エクセレンも無事に取り戻したハガネ及びヒリュウ改の面々。 しばらく敵襲もなく、各員は自機の調子を整えつつ、訓練や趣味に勤しんでいた。 しかしそんな時間さえも混乱に奪われてしまうのは、戦士の宿命だろうか。 平和は、長くは続かない。 悲鳴とも怒号ともつかぬ叫びが、ヒリュウ改であがった。 オペレーターのユンは艦内の異常を手早く報告した。 「艦長、食堂で騒ぎが起きているようです」 「食堂!?」 食堂で騒ぎになるとしたらおかずが多いとか少ないとかの口論だが、今は食事時ではない。 何事だろうか。 ユンが映像を出そうとする間もなく、向こうからコールが入った。 「ど、どうすれば、どうすればいいん[…]
信じたい、だから SRWNovel

信じたい、だから

簡単な、ことだ。 実行するだけなら。 肝心なのは、その一歩を踏み出せるか否か。 踏み出すための、理由。 本当なら、黙っていられないから、で充分。 それで足りないなら、早く行かなければコーヒーが冷める……を付け足そう。 どこかで狂っている思考は、まだ迷いの靄がかかっている。 しかし、迷っている暇なんて、俺にはない。 「ヴィレッタ」 彼女が、振り向いた。 「コーヒーの一杯くらいは飲んでおいた方がいいのではないか?」 オペレーションSRWは現在艦隊戦の最中だった。 格納庫では来るべきフェイズ4に備え、急ピッチの作業が進められていた。 そして我々パイロットは、「急いで休め」と艦内待機を命じられていた。[…]
すれ違う願い SRWNovel

すれ違う願い

「フェルナンドを救ってやってくれ……」 「で、でもどうすれば!?」 昔と同じように真剣な眼差しでフォルカが聞いてくる。 しかし昔とは違う。何もかもが。 「……お前の心のおもむくままに」 そう、フォルカは強くなった。 最早自分が導いてやる必要はない。 静かに目を閉じた。 最善を尽くしたとは言えない。心残りもある。 だが、きっとこれで良かったのだ。 これでいい……これで。 笑みがこぼれた。 記憶だけが瞼の裏を通り過ぎていく。 「フォルカ、私の弟よ……またあの頃のように、暮らし、たかった…………」 結局……この望みは叶えられなかったけれども。 「……誓ったんです。望みを叶えるために」 ――誰、の声だ[…]
信頼と献身の方程式 SRWNovel

信頼と献身の方程式

「號、いるかなぁ……」 自分の部屋にいないとすれば、まずはここ、格納庫――予想通り。 しかしなんでまた、ブラックゲッターの上につっ立っているのか。 ――――何とかと煙は高いところが好きって言うケド。 「ゴーウー!!」 仰ぎながら大声で叫ぶ。 影が動き、渓は続ける。 「アンタそんなトコいないでちょっと降りてきなさいよー! これで話すの、疲れるンだからー!!」 やれやれ、だ。 戦闘中なら勢いでいけるが、普通の時にこう上を向いて叫ぶのはなかなかにキツい。 おまけに。 「……アンタねぇ……そりゃあたしは降りてこいって言ったケドさぁ……」 目の前で、號がきょとんとしている。 「何で! アンタ飛び降りんの[…]
小隊長様ご無体を SRWNovel

小隊長様ご無体を

直前一週間ほどから、皆が妙に浮き足立つ、この日。 2月14日、バレンタインデー。 友情と愛情とロマンと社交儀礼が渦巻く乙女たちの祭日。 それが及ぼす利益は凄まじく、それを狙った企業の思惑により、 新西暦のこの世界では世界中、いや、宇宙であろうとも彼女たちはプレゼントを抱え奔走する。 そして男は、ある者はそれをひたすら待ちわび、ある者は冷めた目でみつめるのであった。 「わざわざ業界の策略に乗ることはないだろう」 「んもぅ、そんなこと言ってないの。ほらほら!」 そして、ここでももう一人―― 「レオナのプレゼントが貰えますように、レオナのプレゼントがもらえますように……」 タスクはひたすら囁き祈って[…]
Greensleeves SRWNovel

Greensleeves

夜が、更けてきた。 情報の整理は大体片がついたし、BGM代わりの音声データも大した事は入っていない。 そろそろ寝ようか、と思ったところでヴィレッタの思考が止まる。 そして慌てて一つのデータを再生しなおす。 聴き間違いではない。 何度も繰り返した。 「どういうことなの……?」 一緒にする仕事の時、大抵はギリアムが呼び出すのだが、その時呼び出したのはヴィレッタの方だった。 「ごめんなさい、少佐。どうしてもあなたの見解を聞きたくて……」 「構わないさ。それで、何について聞きたいんだ?」 「音声データよ。今、再生するわ」 『お前がイングラム・プリスケン少佐か……』 『……む? この男…………何者だ、貴[…]
若さのヒケツ SRWNovel

若さのヒケツ

「ほら、こんなのもあるぞ」 「これはまた懐かしいものを……」 談話室の隅で元教導隊の4人が何やらやっている。笑いあって、何かやたらと楽しそうだ。 「何やってるんですか、少佐たち?」 「おう、何、教導隊時代の写真をな」 談話室の他のメンバーも興味を持って集まってくる。 手から手に回される一枚の写真。揃いの軍服で肩を組んでいる6人組。中央の男性以外は皆見覚えがあった。 「わお、カイ少佐もボスもわっか~い!!」 「こうして見るとやっぱりライに似てるよなぁ」 「この人がカーウァイ大佐ですか?」 「なるほど……流石写真からでも何か風格が感じられるなぁ」 艦内は娯楽が少ない故であろうか。 どこから聞きつけ[…]
指揮官Lv0 SRWNovel

指揮官Lv0

「戦闘指揮官……ですか?」 「はい」 ブリッジに呼び出され出向いてみれば、パイロット総出でお出迎え。 そして戦闘指揮官への任命、である。 「元々当艦ではゼンガー少佐が務めていたのですが……」 「アサルト1はキョウスケが引き継いだんですけど、指揮官はそうもいかないでしょう?」 「自分は情報部からの出向なのですが……」 あまりにもお粗末過ぎる言い逃れ。 これで任を逃れられるとはギリアム本人も欠片たりとも思っていない。 「本来そうでも今はパイロットとして出向していただいておりますからなぁ」 「いつも先頭に立つのに何言ってんだか」 「教導隊の人っすよねぇ」 「階級、実績、共に問題ないわ」 「少佐なら大[…]
「お互い様」だから SRWNovel

「お互い様」だから

ようやく、長い戦いが終わった。 機体が運び出され、静まりかえったヒリュウ改の格納庫。 ギリアムとヴィレッタの二人を除いては誰もいない。 話すことは色々あった。 この戦争のこと。イングラムのこと――これからのこと。 「それから……あなたにお礼を言わせて」 「礼?」 「そうよ……」 言葉の内容より、その響きに疑問を持って問う。 意外なほどに、優しかったから。 ヴィレッタがささやく。 「あなたは、私を信じてくれたから」 ヴィレッタの微笑がすぐそこにある。 どういうわけだか、そうしなければいけない気がして。 視線を少しだけ外した後、ギリアムも微笑する。 「……それはお互い様、さ」 ネビーイーム。地球側[…]
多重の幻影 SRWNovel

多重の幻影

「何しろ手加減などしたことがありませんから……うっかり、加減を間違えるかもしれませんが、宜しいですね、陛下?」 ゼウスのメンバーはネオ・アクシズの喉下まで迫ってきている。 このままではプロジェクト・オリュンポスに支障が出るのは明白だ。 部下には任せて置けぬ、と幹部であるシロッコが自ら出撃する旨を伝えた。 アポロンは仮面の奥でこの男を鋭く見ていた。 ゼウスのメンバーを決して殺すな、とアポロンは部下に命じている。 部下たちは、洗脳するか改造するかだろう、と各々自分なりの理由をつけてそれをしようと尽力していた。 しかし、アポロンがそれを命じた理由を知れば、誰もそれに従おうとはしないに違いない。 そう[…]
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