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切望の花、被せ舞う NinNovel

切望の花、被せ舞う

異界とは、if。可能性もしもの世界だ。 ひとつの選択が世界を大きく変え、異界が生まれる。 複数の選択が交差すれば、たとえ扉を閉じたとしてもその先で別の異界が生まれ、再び扉は現れる。 ************   『愛の祭』 古の時代、アスク王国に現れた召喚師が伝えたとされる行事。 人々は贈り物を携え、親しい人に感謝を託しあい、時に秘めた想いを告げる。 その行事はアスクが開いた扉より異界に伝わり、英雄たちが闘技大会で力を示すことが愛の証明である、という『愛の祭の異界』が生じた。 この異界への扉を開くことが可能なのは『開く力』の神竜アスクの祝福、そして古の召喚師の伝えた『愛の祭』と星巡りが一致する[…]
異伝:天を仰ぎて星を待つ NinNovel

異伝:天を仰ぎて星を待つ

商人の持ち込んだ切り花を前にして、変わったな、と自嘲した。 彼――ローレンツ=ヘルマン=グロスタールの象徴は、言うまでもなく赤い薔薇である。 その情熱に相応しく、大輪の、深紅に燃え上がる薔薇を選び、常に身に付け部屋を飾り立てることは、責務の1つと言っても過言ではない。 当然今日も瑞々しいものを見立てた。しかし薔薇を選び終わっても、彼は熱心に花を見据えていた。 「……切り花を全部と、あとこの茶葉を貰おうか。いいものをありがとう」 長い目利きに対し商人が訝しげにしているのを勘付いて、色を付けて取引を行うと、相手は驚きつつも小躍りし何度も礼をした。 これで次の仕入れも捗るだろうし、家族に土産でも買う[…]
トリックツアー・スターライト NinNovel

トリックツアー・スターライト

「ハロウィン!? オバケはやだよ!」 ルイージが尻込みするが、それ以外の満場一致で今回のツアーはハロウィンがテーマに決まった。 「誰かプロデュースしたい人はいるかい?」 「ママ! ママがいい!」 マリオがいつもどおりに議事進行係を務めるとチコが飛び出した。 「あら、いいわね。ミステリアスビューティー、ロゼッタの本領発揮!」 「み、みすてりあすびゅーてぃー?」 ピーチが頷くと皆の視線がロゼッタに注がれ、困惑する。 「ママ、お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ!」 「後でコンペイトウをあげるわ……皆様がそう仰るなら、謹んでその役割を承ります」 ツアーのプロデュースと言ってもやることは誰に各カップを[…]
■運命の日 NinNovel

■運命の日

「人生ってうまくいかねぇよなー」 ファルコンハウスで若きドラゴンバードのパイロットは愚痴を吐く。 「何悟ったようなこと言ってるんだよその歳で……」 隣の若者はキャプテン・ファルコンという名を持っているが、今はただのマスターの夫兼高機動小隊の一員兼入り浸っている客である。 「当ててみましょうか? 恋の悩みね」 マスターはコーヒーを出しつつ笑う。 「そう! そうだよ! またフラれた!」 才能に溢れる天才パイロットは、どれだけ人気を得ても気になった子には振り向いてもらえない。 「遠い人だとか、もっと相応しい人がいるって……そんなのオレが決めることだし……」 何回目の失恋かわからない。 ハッカーをやめ[…]
■トリクル・トリクル~雨の魔法~ NinNovel

■トリクル・トリクル~雨の魔法~

ロゼッタの雨傘はピーチから譲られたものだ。 星空の彩りで雨をかきわけ、公園を歩く。 「これが紫陽花というものですか」 ロゼッタには見慣れない、珍しい花だった。 一見ひとつの大きな花は小さな花の集まりで、一本の木を飾る花は無数。 紫陽花の名所で知られるこの公園にはどれだけの花があるのだろうか、と森の奥を見つめてしまう。 「この花は雨の季節に咲くんですよ。晴れている日はあまり綺麗じゃない」 ロゼッタの住む銀河とは逆だな、とワルイージは心中で呟く。 静かに恵みの雨が降る森は、花の集まる宝石の銀河だった。 「紫、という字が含まれているのにあなたの色はありませんね」 少し寂しそうにロゼッタは呟いた。 「[…]
■アプラウズ~花束の告白~ NinNovel

■アプラウズ~花束の告白~

ヘンリーは急いでいた。 「お父さんって何をやればいいんだろー?」 もうすぐ彼とサーリャの娘が生まれる。 未来から来たノワールは少しは健康になり、あまりキレなくなった。 怖い顔のノワールも可愛いが、好きな男の子と楽しそうにしているノワールが一番可愛かった。 「何をすればいいのかなぁ。サーリャの話は難しくてわからないし」 挙動や顔には出ずいつもどおりへらへらと笑っているが、とても急いでいた。 「とりあえず呪っておこうかなぁ」 とりあえずで呪われたノワールの好きな男の子は昏倒したが、彼も親の呪いを受けた強い英雄であり、何よりも“とりあえず”なのですぐに復活する。 平和なイーリスではあまり意味を持たな[…]
■悪の中間管理職 NinNovel

■悪の中間管理職

ブラックシャドーの統率する犯罪組織、ダークミリオン。 所属する人員にはそれぞれ思惑がある。 まず、犯罪は利益がある。 社会生活に順応していたら得られない利益。 対価を払わず物を手にいれる。 人を殺す。 だからこそ社会から非難され法によって対価を己で払う――裁きを受ける。 そしてF-ZEROには社会的法律は一切関与なく、独特のルールだけがある。 過激なレースで事故があり人が死ぬのは当然で、死者が出ない方がおかしい。 期待を受けたパイロットの死は痛ましいが感動を呼ぶ。 レースの観戦は娯楽で、過激な娯楽はとても非日常的なので皆が喜ぶ。 大型レースに参加出来ることそのものが素晴らしい栄誉で、彼らの中で[…]
■愛憎により死を超える NinNovel

■愛憎により死を超える

シグルドは目覚めた――目覚めることが出来た。死ななかった。 「どういうことだ……!?」 思わず叫んだ。 襲い来る暴力的な魔の嵐に抗おうとした。 アーダンは命を失ってもなお、形のなくなるまで盾であり続けた。 逃げるよう叫びそれに応えて逃げた者がいた。 生き残ろうとしていた。 シグルドは確信していた――誰が生き残ったとしてもシグルドだけは死ぬ。 むしろ少しでも多く生き残らせるために死ななければならない。 聖剣の輝きはこれまでの何よりも強かった。 「剣技なら私たちの方が上だ。お前は奴を殺せ!」 アイラに促され駆け抜けた。 「アルヴィス!」 城内で待ち構えていた。 来るのはわかっていたというかのように[…]
■正しき地獄の理想郷 NinNovel

■正しき地獄の理想郷

酷くいびつな世界だった。 ヴァイス・ブレイブはあらゆる異界に繋がっている。 異界とはifーー可能性だ。 もしも戦乱の中で祭りを楽しむことが出来たら。 もしも敵対した末に死別した友が、生き残ってわかりあえたら。 もしも邪竜が世界の真の幸福のために力を使ったら。 もしも邪竜の器にしかなれなかった人間が倒されることがなかったなら。 ヴァイス・ブレイブの持つ可能性は幸福なものしかなかった。 ありとあらゆる幸福が集ういびつ極まりない世界だった。 アルヴィスは嫌悪する。 死者を弄ぶだけの世界。死者に夢を見せるだけの世界。 ヴァイス・ブレイブに死は存在しない。 永遠に幸福な夢を見せられる。 そんなものは幸福[…]
■異界で呪う母娘 NinNovel

■異界で呪う母娘

異界って凄い。 何故か私はティアモさんと異界の英雄さんと海で遊んでいた。 綺麗な海。日差しがキツすぎるけど、それも綺麗だ。 こんな綺麗な海で綺麗な夕陽を見ながら、好きな男の子と一緒に波打ち際で追いかけっこしたり水を掛け合ったりちょっとしょっぱいって言って笑いあえればいいのに。 私の生まれた世界には何ひとつなかったものなのにそう思えてしまうから、異界って凄い。 ヴァイス・ブレイブはそんな凄い異界の全てに繋がる特務機関だ。 異界の色々な英雄がいて、信じられないけど私もその1人らしい。 繋がっているけれど行き来出来ない異界がある。 そのうち行けるようになり、仲間が増える。 ヴァイス・ブレイブは凄い。[…]
■魔剣の系譜 NinNovel

■魔剣の系譜

フレデリクは任務を愛している。 しかし騎士団長としての任務に追われ、家庭の長としての任務を疎かにしてしまうのは、主であり愛する人であるリズとその間に生まれたウードに申し訳が立たなかった。 愛と任務を両立出来ないのも、また任務故である。 馬をより速く駆った。 家の扉を開いた。 「ただいま帰りました」 「もう、フレデリクー! 遅かったじゃない!」 リズが飛びついてきた。昔と変わらず元気で愛しい人だが、大人になった。 「すみません、リズさん。任務が多く……ウードはもう寝ていますね」 「寝てないよー! ひどいんだよー!」 おや、と思った。 いつもより遅い時間だ。幼い子供は寝るのが早く、いつも帰る頃には[…]
■呪いの系譜 NinNovel

■呪いの系譜

サーリャは実家に手紙を書いていた。 呪わせるために呪って世代を繰り返し呪い続けた、ペレジアの歴史の1つとも言える呪術師の家。 サーリャの誇りであり、どこにいても連絡が取れる。 伝えたいことを紙に文字として記し送り読んでもらう、これも連絡の呪いの1つだ。 サーリャの所属はイーリス軍でペレジアとは敵対関係だが何ひとつ問題はない。 イーリス聖王クロムが直接指揮を執っているが正規軍ではなく、そもそもサーリャにとってはクロムの半身である軍師ルフレを愛しているがためにルフレの味方をしているというだけだ。 サーリャの実家にとってのペレジアもそうであり、ただ呪術を実践しつづけるためにペレジアを利用している。 […]
■神に捧ぐ愛の舞踊 NinNovel

■神に捧ぐ愛の舞踊

祈りを捧げていた。 踊っていた。 胸を締め付けられた。 「あなたの踊りは美しいですね」 「ありがとうございます、リベラさん」 オリヴィエの笑顔に、少し意地の悪い言葉を告げる。 「やれやれ、あなたも私が女だと思っておられるようだ。いつも恥ずかしがっているのに、今は堂々としている」 「ふふ、私が恥ずかしがり屋なのは、自信がないからです。人の心を動かす踊りが出来るか不安で仕方ないんです。でも今のはうまく出来ました。他でもないリベラさんが美しい、と言って下さったんですから」 言葉だけではない意地悪をしたくなった。 真正面から見つめて笑う。 「男が言う美しい、はそんなに綺麗なものじゃありませんよ? オリ[…]
■純情な恋心と恋では済まされぬ執着 NinNovel

■純情な恋心と恋では済まされぬ執着

***Princia Side 私は、何であの人に惹かれてしまったのだろう。 あの人が欲しいのは私ではなく、私が王女であるこの国。 冷酷な人。犯罪組織の資金提供もしているという、下劣な男。 でも。 「サイバー卿、これを持って行って下さい」 「宝石……いや、規格外の品を使った民芸品ですな」 「我が国ではお守りとして親しまれています。これをあなたに差し上げようかと」 彼は表情を動かさない。 爬虫類――と言ったら獣人の方々に失礼だが――のような視線。 「私を守るのは私だけで十分だ」 「ええ、そうでしょうね。あなたが居なくなってくれた方が清々します」 「なら何故私にこれを?」 言えなかった。 このお守[…]
■緑を追うもの NinNovel

■緑を追うもの

都会の中に造られた緑の一画。 開発が進んでも――だからこそ、だろうか――人は緑を忘れることは出来ない。 その1人であるミーガンは木漏れ日を楽しんでいた。 今日は鳥の鳴き声もよく聞こえる。 鳥の種類には頓着のないミーガンだが、この風景のスパイスとしては上等と思えた。 「……今日は、いい日だな」 「グランプリの優勝がなくてもか?」 独り言に何故か応答があり、振り返る。 ――鳥の鳴き声がするのも当然というわけだ。 「ナイチ“ザ・スウィープマン”か……」 「ナイチでいい。呼びにくいだろうしな」 鳥を始めとする動物たちに好かれる男、ナイチ。 彼はその先祖から受け継いだ力により動植物と会話することが出来る[…]
■宵闇に煌めく明星の如く NinNovel

■宵闇に煌めく明星の如く

ムスペルが従える英雄に、その姿を見た。 「オフェリア、何で……!」 ――いや、わかっていたはずだった。その可能性に思い至らなかった訳ではない。 「オーディン、あの子を知ってるの?」 こうして見比べると本当によく似ている。成長する度にその姿を重ねた。 「あの魔導士はオフェリア……俺の娘です」 「わあ! マークスさんたちの時も驚いたけどオーディンにも子供がいたんだ! じゃあ早く契約から解放しないとね!」 リズはやる気だ。実際の優先順位としてもそうすべきだろう。 オフェリアも契約の影響かこちらには気付かない。いくばくかの罪悪感を覚えながらその身を貫いた。 「召喚の儀式するって! カムイさんやフェリシ[…]
■運命の扉の向こう側 NinNovel

■運命の扉の向こう側

その『悪意』とも『災異』とも呼ぶべき『何か』は瞬く間に眷属を増やしていった。 便宜的に『戦禍』と呼ばれている『それ』は英雄を飲み込んでいく。 唐突に現れては『核』を変え己の勢力を増やさんとする。 今回『核』になったのは聖戦の異界、バルドの末裔の聖戦士、シグルドだった。 「すまない、ディアドラ……!」 そう呻いているが今彼が斬ったのが当のディアドラであることに気付く様子もない。 「ああ……シグルド様……」 しかし既に英雄という概念になった彼らに死は存在しない。 しばらく倒れていたディアドラはゆるりと立ち上がり聖書ナーガを手に取り周囲を攻撃しはじめた。 ――何なのだ、これは。 「父上…………」 彼[…]
■閉じたのか、開かれたのか NinNovel

■閉じたのか、開かれたのか

セリスたちが掲示板の前で何やら騒いでいる。 「召喚師殿、今は彼らに近付かない方がいい」 シグルドが耳打ちする。 そんなことを言ってもお前も期待しているひとりだろう?と問うと困った顔をする。 今回召喚が可能になったのはキュアン、シルヴィア、レヴィン――いずれもシグルドと共に在ったユグドラルを取り巻く戦いの歴史、『聖戦の異界』の英雄だ。 「確かに彼らに会いたいし子らが親と再会出来ればと思わずにはいられん。しかしこればかりは……」 「アハハハハハ! お前たちは愚かだな!」 ユリウスの高笑いが広間に響く。 皆が振り返った。 「僕や父上のように勝てば契約を結べるって訳でもない、本当に召喚出来るって保証な[…]
■悔恨 NinNovel

■悔恨

国には居場所がなかった。 必要とされているのは『王子』という国の歯車だけ。 父と側近たちの傀儡になるのが運命付けられていた。 だからアイトリスを訪れても何も言われなかった。 むしろ侵略が容易になるとすら捉えられていた。 「ダリオスよ。そろそろお前も良い年頃だ。婚姻などどうかな……そう、例えばアイトリスの姉姫などは」 ――だから。 「御冗談を、父上。アイトリスごときが相手では我がグストンの名に傷が付きます」 だから、この想いを誰にも悟られる訳にはいかなかった。 「ねえ、ダリオス。秘密の話よ。私、王位を継ぐことの重要さを本当はわかっているの。でもね、やっぱりシオンが王になるべきだと思うの……私がグ[…]
■約束よりも強いもの NinNovel

■約束よりも強いもの

「僕ってやっぱ悪い子なんだな~」 ヘンリーは笑っている。腹から血を流しながら――致命傷だ。 「ヘンリー、何でルフレを守らず私を庇ったの。結婚した時の約束と違うじゃない……!」 「思わず、かな~? サーリャにちゃんと呪いをかけてもらうんだった。約束は拘束が弱いからね~。あ~あ、悪い子だからサーリャが泣く顔が……最期の……」 ヘンリーは死にルフレは連れ去られた。故に約束は信じない。 ヘンリーを殺した屍兵を探し、究極の呪いを完成させることがサーリャの目的になった。 「ノワール、あなたたちに呪いをかけるわ」 ノワールに同じ想いをさせたという後悔も呪いに込めて。 「あなたたちは奴らを滅ぼす。呪いの代償は[…]
■夏が始まる NinNovel

■夏が始まる

青い空、白い雲、広がる水平線、強い日差し。 「そして! ビーチフラッグでエフラムに勝った私!」 「お兄様、エフラムは水着を用意していなかったのよ」 ルネスの兄妹に渡す果物を選びながらターナが呆れる。 「甘い! この闘技に参加するからには水着の準備と水着になっても恥ずかしくない身体作りをするのが高貴なる者の務めというものだ!」 「どおりで最近『見せるため』の訓練をしていると思ったら……でも残念ね。私もエイリークと泳ぎたかったわ」 「む……」 「あ、お兄様! ちょっと水着姿のエイリークを想像したでしょ! いやらしいんだから!」 「だ、断じてそういうことはないぞ!」 フレリア王家の2人を遠目にノワー[…]
■異界の系譜 NinNovel

■異界の系譜

シグルドがオーブの入った箱を運んでいる。 「先を越されてしまったか」 エルトシャンが笑う。広間にアレスが召喚出来るようになったことを告示されて急いで来たのだが。 「セリスがはしゃいでいてな。良くあんな真っ直ぐに育ってくれた。オイフェとシャナンに礼を言いたいものだ」 「召喚された時セリスは私をアレスと間違えてな……セリスはディアドラに、リーフはエスリンに似たようだが、アレスにはどこまでグラーニェの面影があるやら」 「ふふ。私も君の反応を見たく、こうして召喚師殿を手伝っている」 「それに私の助けは必要か?」 怜悧な声が響く。 アルヴィス。元の世界でシグルドとその仲間の命を奪った男。 遺恨は置いてき[…]
■大切な人を迎えるために NinNovel

■大切な人を迎えるために

召喚の間にオーブを運び込む。 溜め込んだオーブは多く、なかなか運び終わらない。 「手伝うよ、召喚師殿」 ひょい、とオーブの入った箱を奪われる。 セリスだ。笑顔で箱を抱える。 「セリス、そういうことは相手の承諾を得てからやるものですよ」 「ふふ、母上は手厳しいね。すまなかった、召喚師殿。これを全部召喚の間に運べばいいんだね?」 「セリス、足元に気をつけて。ああ、あと腰を痛めないように……」 「ディアドラ、心配のしすぎだ。さて、私も手伝おう、召喚師殿。倉庫からオーブを運べば良いのだな?」 シグルドとディアドラまで現れたので流石に戸惑う。 何故か、と問うとセリスはまた笑う。 「リーフとナンナが召喚出[…]
■大好きの気持ちを NinNovel

■大好きの気持ちを

プレゼントの箱を弄び、横からも裏からも眺めている。 「可愛い女の子からプレゼント貰ったからって挙動不審よ、ヘクトル」 「だってリリーナは未来から来た俺の娘だぞ!? 感慨深くもなるだろ」 「ふふ、お父様がそんなに喜んでくれて嬉しい……初めて召喚された時、若い頃のお父様だって気付いて私泣いちゃって……」 「いきなり召喚されたかと思えば名乗った瞬間泣かれたもんな。大丈夫だ、死んじまった俺の分までお前の傍にいてやるよ」 リリーナの瞳から涙が溢れる。 その頭を武骨な手で撫で、ヘクトルは笑う。 「ところでエリウッドおじ様、ロイを見なかった? 一緒に来たのにいつの間にかいなくなっちゃって。もう、せっかく愛の[…]
■冬祭りの使者 NinNovel

■冬祭りの使者

「またすり抜けかあああぁぁぁぁ!!」 ヴァイス・ブレイブの城に召喚師の悲鳴が響く。 いつものことなのでアルフォンスもシャロンも英雄たちも最早気にしていない。 「でも特に今回は難航してるっぽい? 誰をそんなに召喚したいんだろ」 「ほら、アレですよ。こないだ会った冬祭りの格好したリズさんやクロム様たちです」 オーディンとリズが広間の隅で話し込んでいる。 召喚以来有事の際に真っ先に駆り出される部隊の仲間ということですっかり打ち解けていた。 「あのわたしかぁ! いいよね、あの服! きらーんとしてて! わたしも着てみたかったなぁ」 「バトルシスター一直線って感じでハンドベルが様になってましたね。あ、そう[…]
■10月31日のファルコンハウス NinNovel

■10月31日のファルコンハウス

ミュートシティ、かつてはニューヨークと呼ばれた街。 大手を振って仮装できる民間行事として定着した収穫祭は空の上に街がもうひとつ出来ようと変わることはなかった。 「げぇっ、仮装してきたらケーキセット無料だったのかよ!? 知ってたら仮装してきたのによ!」 「ジャック、俺たち仕事上がりだろ。どこで仮装するんだよ」 下層の路地裏にある隠れた名所――マスターの自画自賛だが――喫茶店・ファルコンハウスではこの10月31日に特別な催しをしていた。 「マスター、この猫耳バンドで……トリック・オア・トリートにゃおん」 「合格です、ルーシーさん。今日の会計はタダでいいですよ」 「ありがとにゃん!」 「ずっりーぞル[…]
■光を継ぐもの NinNovel

■光を継ぐもの

ヴァイス・ブレイブの武器庫でセリスは1人物思う。 数多の世界から集められた英雄たちの武器が保管されているが己が操るティルフィングは迷わず手に取れる。 手入れをする。 聖戦士バルドの直系であることの証明の神器。刀身に顔が映る。 ――――瞳は父親のシグルド譲り。顔つきは母親のディアドラ似。 両親を知るオイフェやシャナンはよくそう言ったものだった。 「ここにいたのか、セリス」 「エルトシャン王、私を探しておられたのですか?」 「最近お前が物思いに耽っていることが多いとユリアが心配していた。あまり妹を困らせるものではないぞ」 儚げなユリアをよく気にかけていたのにいつの間にか逆になっていたのか、と苦笑す[…]
■星々の煌めきが導いてくれた NinNovel

■星々の煌めきが導いてくれた

ウード、セレナ、アズールが行方をくらませて数ヶ月経った。 最後の手がかりは依頼を受けて神竜の聖域に行ったところまで。 八方手を尽くし捜索を行っているがそれ以降のことは全くわからない。 「姉ちゃんの方のノワールも具合悪いのか?」 ライブの杖を握った『ウード』が心配そうに見上げている。 彼は先程まで『ノワール』の手当をしていた。 彼を見ていると――当然だが――幼い頃のウードを思い出す。 違いと言えば剣より斧と治療術に傾倒していることだろうか。 ずっと好きだった。誰かを守ろうとするその背中が。 それは『ノワール』にとっても同じようで、倒れたらすぐ助けてくれることもあり『ウード』の後を追っている。 「[…]
■次もきっと笑顔で NinNovel

■次もきっと笑顔で

「貴様、これはどういうことだ……!?」 鬼面の相でノワールは問う。 「な、何でいきなりキレてるんだよ。俺何かしたか!?」 「貧血を起こしたから救護を呼んでもらったのに、何故貴様が来るのだ!」 「え、えーっと、俺今修道士の修行中で……治療の杖とか薬の使い方とか一通り母さんに習ったし、大丈夫だぜ」 言われてみればウードが手にした杖は初心者用のライブではなくそこそこ修練を積んだ治療者向けのリライブ。 「闇に生きる俺が神の名のもと治療を行うとは、俺も丸くなったものだ……だから弓構えるのやめてくれないか?」 「うっ、ううっ……」 「だぁっ!? 今度は泣き出した!?」 「私、ウードには弱い所見せたくなかっ[…]
■遠き巡り会いの果て NinNovel

■遠き巡り会いの果て

広間に行くと、オーディンが話し掛けてきた。 いつもの芝居がかった喋り。 呆れたフリをすると慌てて平たく言い直す。 そして神妙に告げる。彼の本当の名前はウードだということを。 いつものお芝居だろうと笑い飛ばすと少し不服そうだったが召喚師と英雄としての絆は深まったとみていいだろう。 ――――知っているんだよ、オーディン、いや、ウード。 同じパーティーの回復係が君の母親であるリズなのは偶然じゃない。 君は両親想いの優しい青年だ。 世界を救うためどれだけ力を求め、力があるように振る舞い、いつの間にか君のアイデンティティーになったそのお芝居の理由を自分は知っている。 救いを求める彼の竜を放っておけず世界[…]
■甘い呪いの誘い手 NinNovel

■甘い呪いの誘い手

「ノワールは良い子だね~」 父親のヘンリーから声を掛けられる。 特に手伝いをした訳でもない。 それどころか現在進行形でお菓子作りのために軍の備蓄を浪費している。 「ノワールはウードのことが好きなんでしょ~?」 「う、うん……」 「僕もサーリャのことが大好きだけど僕は呪うことしか出来なかったからね~、でもサーリャを呪いたくないから大好きだって言い続けたんだ。ノワールはお菓子を作れて凄いよ~」 「父さん、ウードのことを呪いたくないって私の気持ちわかってくれるの?」 「呪いで無理矢理好きにしても意味ないからね~」 ヘンリーはいつも笑って好きにしている。 それでも譲れない一線があった。 そのことを確認[…]
■ヒーローズ捏造支援会話【オーディンとリズ】 NinNovel

■ヒーローズ捏造支援会話【オーディンとリズ】

【C】 リズ「あ、オーディンさん、折角だからお話しよう?」 オーディン「リズ様……勿体ないお言葉です」 リズ「ストップストーップ!オーディンさんはレオンさんの臣下でわたしの臣下じゃないから様付けと仰々しい敬語はなし!オーディンさんのいつもの喋り方面白いし!」 オーディン「では俺のことも呼び捨てにしてくれますか?リズさんにさん付けされると調子が狂っちゃうんで」 リズ「ふふっ、わかったよ、オーディン!これでわたしたち友達だね!」 オーディン「友達……」 リズ「嫌、かな?わたしオーディンのお芝居面白くて好きだし何か他人と思えなかったから友達になりたかったんだよね!」 オーディン「……いえ、俺も嬉しい[…]
■きっと、選ばれし者に NinNovel

■きっと、選ばれし者に

試着室から出て来たオフェリアは、上目遣いでゆっくりと回転した。 ソレイユは目を輝かせている。 「ど、どうかしら……?」 「どうもこうもない! すっごくいいよオフェリア! うーん、もう我慢出来ない! あたしのお金で一式買ってあげちゃう! 店員さん、お願いします!!」 「え、いいの、ソレイユ!?」 「女の子が、特にオフェリアがもっと可愛くなるならあたしは投資を惜しまないよ! それに可愛い服が欲しいって言ったのオフェリアでしょ。オフェリアが本と石以外に興味持ってくれたのが、あたし本当に嬉しくて! だからその服はあたしからの記念のプレゼント!」 オフェリアが元々着ていた服を畳んで袋に入れてもらい、彼女[…]
■新天地にて誓う、永遠の愛を NinNovel

■新天地にて誓う、永遠の愛を

夢であることをまず最初に疑った。 B.B.でも夢くらいは見る。人間が生きていくのに必要な機能だ。 目の前に差し出された小箱が何であるかは、宝飾品に無縁な彼女でもわかる。 リングケース、指輪を収めた箱だ。 クソ、という接頭語を付けたくなるくらい真面目な後輩が彼女をからかうためにそれを差し出したと考えるよりは、夢だと考えた方がまだ自然だった。 「キツイの一発ぶちかましてくれ」 「夢じゃないです、イリーナ中尉」 真剣な面持ちのままゆっくりと箱を開くと、煌めきが彼女を刺す。 「中尉が良ければ、なんですがこれを指に嵌めて欲しいんです。自分とお揃いです」 「バッ、自分が何言ってるかわかってんのか!」 真赤[…]
■白夜より明るき希望、暗夜より昏き心 NinNovel

■白夜より明るき希望、暗夜より昏き心

暗夜との本格的な戦争が始まったというのに、白夜王国の空は相変わらず美しい。 清浄なる星明かりが、眩しくすら感じ――故にこの国の名は白夜と言うのかもしれない。 大河の如き星の集まりは、恋人を引き裂く戒めという。 年に一度、恋人は川を渡り一時の逢瀬を楽しむのだ。 でもそれは、愛し合い、誓い合った仲だから。 彼女の主君でもある人は、気高く、故に、彼女を見てくれることはないのだろうと星を映した水面に顔を向ける。 川の向こうで彼は狩りに興じ、そして別の女性を見初めるのだろう。 せめて己が天馬武者ならと喩え話に本気になってしまうが、呉服屋の娘である彼女の素質に天馬武者は含まれない。 それでも、と想い続けて[…]
■いつか本当の花嫁として NinNovel

■いつか本当の花嫁として

俺の幼馴染、メイはポケウッドスターだ。 一緒に旅に出た時はポケウッドの存在すら知らなかったのに、今じゃ大女優。 世間の騒ぎっぷりを気にもとめず、今日もあいつはポケモンと一緒に旅をしている。 「ねぇねぇ、ヒュウ兄、カロスに行ってみたいと思わない?」 「カロス? そういやこないだ女優の何とかって人がイッシュに来てたな。それ目当てか?」 「カルネさんだよ! んー、こないだ共演したし女優としては気になるけど私の目的は別!」 「あー、じゃあ、ポケパルレか? 今のところカロスとホウエン限定のβテスト中らしいからなぁ」 「それとも違うよ。カロスじゃなくてもいい。カントーでも、ジョウトでも、シンオウでも……ど[…]
■日記はここで終わっている NinNovel

■日記はここで終わっている

○月△日 久しぶりに、日本に住む両親に会いに行く。 駅までは、リュウの車で送ってもらった。 空港まで送っても良かったのに、と彼は笑う。 ――冗談じゃない。 彼の隣にいたら、彼のことしか考えられなくなる。 ただでさえ両親にリュウのことを何と話そうか迷っているというのに。 近況は手紙で伝えているけれど、書くのと口にするのとは違う。 駅で電車を待ちながら、両親とリュウのことばかり考えていた。 ○月×日 ニューヨークに帰ってきた。 私は日本の生まれだから、帰ってきたという表現は少し違う気がするのだけれど。 でも、リュウのいるここが、私の帰る場所。 今日は空港まで迎えに来てもらって、彼と話をした。 ――[…]
■サルビアの花にこめて NinNovel

■サルビアの花にこめて

私は、両親というものをあまり知らない。 気付いた時には、兄と2人になっていた。 兄に両親について聞くと『優しい人たちだったよ』と笑う。 「本当に優しい人たちなら、何故私と兄さんを置いていってしまったの?」 私は愚かな子供だった。兄に聞いても仕方がないこと、兄が困ってしまうことくらい、少し考えればわかりそうなものなのに。 ただ、聞かずにはいられなかった。 だいぶ歳が離れているとはいえ、幼い私を抱えて生きるのが大変なのは、私にもわかっていたから。 『運命っていうのは残酷なものなんだ……父さんや母さんが悪い訳じゃない。それに、残酷なだけじゃない。素晴らしい出逢いも、これからあるさ』 困ったように笑っ[…]
■rebirthday NinNovel

■rebirthday

2208年。季節は巡り、もうすぐ4月が来ようとしている。 クランクは街のショーウィンドウを見ながら、どんなプレゼントにしようかな、と考えていた。 高機動小隊の皆がプレゼントを用意し、彼が手作りケーキを焼いてくる―――― ――――彼? 思い直す。そんな考えに、意味はない。 昨日のことのように思い出せるあの日々。 本当に幸せで、忘れかけてた夢を思い出させてくれた。 その夢は掴むことが出来た。 そして今も忘れられない。 ヒーローは不死身だという、本当に子供じみたもう1つの夢を。 実の父親も。彼だって、一度は。 ――そんな訳ないのに。 もう、一緒に過ごしていた時間より、彼がいなくなってからの時間の方が[…]
▲Let’sお見合い NinNovel

▲Let’sお見合い

私が描くとそんなに鼻でかくないけど、 サクーヨ村の人よりも、こっちが先に出てしまった……。 そして帰ってきたし……(汗)  […]
▲ぽけもんだんじょん―こんなこと二度とあってほしくない― NinNovel

▲ぽけもんだんじょん―こんなこと二度とあってほしくない―

未来世界に行く前の依頼でした。 普通ヤジロンだろー!? ビークインはミツハニーでユキノオーはユキカブリだったのにー!! しかもあいつらじんつうりきとあやしいひかり使ってくるし!! エレフが何も持ってないのはとくせい「ものひろい」でグミ収集のためです。  […]
▲一番普通 NinNovel

▲一番普通

性格的にも正体的にも、ロコスが多分一番普通だと思う。 というかパーティー豪華(?)すぎ。 主人公は多分人形ではなくイ○ロス本人だと思うんですが、描いた時はハッキリしなかったので……。  […]
■時と時を結ぶ鈴の音 NinNovel

■時と時を結ぶ鈴の音

時空ホールを抜けても、ジュプトルとヨノワールは組み合って殴り合っていた。 もう、彼らは過去の世界に干渉することは出来ない。 故に世界の行く末はその手を離れていたが、それでも。 「何故歴史を変えようとする! 時間は正しく刻まれなければならないのだぞ!!」 「こんな狂った世界が、本当に正しいって思うのか! あの世界を見ても!」 闇に包まれ時を止め色を失くした世界。 ポケモンたちは憎しみあい、いや、そんな感情を抱くことすらなく、傷つけあう。 この世界の大抵の者は絶望を知らない。 希望を知らないから。 ジュプトルも後の相棒となる人間と出会うまでそうだった。 「これが正しいというなら、俺は間違っていて構[…]
■走り続けて NinNovel

■走り続けて

コーヒーなんて簡単だ。 不味くする方が難しい。 確かにバートのように一目で相手の好みをいれられる、というのは熟練が必要だが。 しかし、クランクの淹れたコーヒーを飲んだリュウたちの反応は“こんなもん出したら店が潰れる”というものだった。 「今豆の原価高くてさー」 「だからって減らすな!」 「つい、ね」 「やれやれ。やはり私が淹れましょう」 「でもおっちゃん」 肩は、と続けようとした言葉を慌てて留めた。 男の約束だ。 ファルコンとバートが同じ場所を怪我している、と言われれば感付いてしまう。彼のように。 リュウは変に鈍いからわからないかもしれないが。 バートはいつものコーヒーを出した。 微かに顔を歪[…]
■永遠の絆 NinNovel

■永遠の絆

週末に、バトルタワーの前。 オレが来て、あいつも来る。 「やっほー、久しぶりだね!」 「おう! 行くぞ! 勝負だぜ!」 そして。 「何だってんだよーッ! オレ、また負けちまったのか!?」 あいつのポケモンを1体も気絶させられないまま、オレの手持ちは皆戦闘不能。 「まだまだ、ね」 おまけにこんな余裕な表情見せてくれやがって。 「へっ、お前が強くなるほどオレもオレのポケモンも強くなれるってもんさ。ポケモンに終わりなんてない!」 「そだね! じゃ、次期待しているから!」 そう言うとあいつはとっとと“そらをとぶ”で去って行った。 最初は、親父に挑戦しに行こうと思っていたけど負けて、ここで不貞腐れていた[…]
■まだ答えは見えない NinNovel

■まだ答えは見えない

150年なんて無茶苦茶すぎる。 自分は適応力のある方だと思っていたが、これは流石に無理だ。 戦うことを決め、昨日住む所も貰ったが――――えらく早く目が覚めてしまった。 まだ出勤時間じゃない。 だがここにいても仕方ない。 少し街をぶらつくことにした。 下町はかつての面影を残していた。 だから少し落ち着く。 まあ雰囲気だけで街並みそのものは別物だし、元々あまり出歩かない方ではあるのだが、気分転換にはなる。 このあたりは住宅地のようだが、その中に隠れるようにその喫茶店はあった。 「……ファルコンハウス?」 店の扉をくぐるとマスターらしい男性がカップを磨いていた。 「いらっしゃいませ……おや、初めての[…]
■とある朝の風景 NinNovel

■とある朝の風景

いつものように、青空草原に朝がきた。 名前の通り、今日も晴天。 早起きのサーナイトは、早速皆を起こしていく。 「皆さん、朝ですよー!」 寝ぼけていてもお構いなし。 しかし文句を言うポケモンはいない。 そのおかげで遅刻しなくて助かっているのだ。 ――たとえ、予定がない日が大半だったとしても。 サーナイトが空を行く雲を見送った時、遠くを横切る影を見つけた。 黒く濃い影が集まった、爽やかな朝日には似つかわしくないその姿。 彼らの救助隊の仲間ではない。 イジワルズのリーダーのゲンガーだ。 「ゲンガーさーん!」 手を振りながら駆け寄っていくと、ゲンガーはぎょっと目を見開いた。 姿を見られるつもりはなかっ[…]
■とあるマグナスをめぐる攻防 NinNovel

■とあるマグナスをめぐる攻防

鍵のかかった引き出しをガタガタすると、変色した本が落ちてきた。 「エッチな小説のマグナ・エッセンスが取れるよ。もらっとく?」 →そうね!  いらないわ 顔をしかめるサギに対し、彼女は実に明るく、クスクス笑いでそれを命じた。 渋々ながら彼女の声に応えブランクマグナスを取り出したが、目ざとい同行者がそれを大人しく見過ごすわけもない。 「そんなの持っていくの? やっらしー」 「放っておけ。サギも年頃だ」 二人の台詞に慌てて本を取り落とす。 自分じゃない。自分と一緒にいる精霊が持って行けと言ったのだ。 そう否定するが、そんな言い訳が通用するはずもなかった。 「わしらに聞こえんからと嘘はいかんぞ」 「そ[…]
■私のこころ NinNovel

■私のこころ

「これは重要な選択だよ」 こころがキュウッと締め付けられた。 鼓動も高まっていくがこのからだはサギのものだから、きっとこれはサギのこころのせいだ。 だが私に肉体があったとしたら、同じように鼓動の高まりを覚えていただろう。 急速に強まってくる、私のこころのちから。 邪神の力の一片を持つ私のこころは、宿主であるサギのこころを脅かすまでになっている。 このままだと、主従が入れ替わってしまう。 私が肉体を得て、サギが私のこころに憑くようになる。 サギはそれでもいいと言っている。 残るは、私の決断。 ――ちからが欲しかった。 伝説の精霊憑きには精霊から大いなる叡智とちからを授けられるという。 だが私はサ[…]
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