Hoffnung
「ギリアム! 何故お前が……!」
「あなたが戦ってきたのはそのためだったの!?」
諦めきれない仲間の声。
答えず通信をオフにする。
――――そう、全てはこのために。
混沌を呼ぶ者を全てこの世界から、あらゆる次元から、排除する。
安息の、未来のために。それが、俺の贖罪。
しかし思い浮かぶのは先程の彼らの表情。責める声。通信は遮断したのに。
モニターを見ると座標やエネルギーは荒れ狂い安定することがない。
この状況に古い記憶を掘り起こした。
ただ、帰りたかった。
それなのに笑顔がどうしても思い出せず、戦いの記憶ばかりが頭に浮かぶ。
混乱と狂気。
気付いた時にはシステムは暴走。単身この世界に飛ばされていた。
その時と、同じ。
焦りが生じた。
自分だけならともかく、仲間まで巻き込んで失敗することになる。
それだけは、止めなければいけない。
しかし焦るほどにシステムは安定性を失う。
元通りに修復した訳ではないからなのか。
(鍵が……不完全だからですの…………)
頭の中に唐突に声が響いた。
アインスト・アルフィミィ。
一瞬、意識が遠のいた。
ここで気を失えば確実に失敗する。
その想いだけでどうにか保つ。どこまで持つかは、わからないが。
(でもだからこそ私でも介入できますの)
――――今の異常はお前の仕業か!?
意識を奪われぬように殺意をもって心で問う。
(私だけではありませんの……あなたはわかっているはず…………揺らいでいるのは……あなた)
白い霧に襲われる。
遠のいていくモニターにはこれまでが嘘のように安定した数値。
しかし望んだものではない。
――――何故?
ただ、笑ってほしかっただけ。
偽りはない。揺らぐ事などないはずの想い。
それなのに何故応えない?
何故、幻影の中の彼らは笑ってくれない?
開いていく扉。閉じていく意識。
エネルギー残量、ゼロ。現在の座標、アンノウン。
濁った意識の中にシステムアナウンスが響く。
(あなたの意識が彼らまで呼びこんだということですの……? でも…………)
意識が明瞭になるにつれアルフィミィの声が聞こえなくなった。
頭が痛む。
ゲシュペンストに戻って状況を確認する。
宇宙。そして仲間たち。
――巻き込んだ。
どこまで彼らを苦しめるのか。
故に葬ろうとした。それなのに。
「ギリアム、無事だったのか!」
――――それなのに。
「動けるか? 辛いかもしれないがここが正念場だ!」
何故、責めない?
先程までとは全然違う。
記憶に残る限り、彼らが本気で俺に怒ったのはあれだけだ。
今はいつもどおり。安堵しているようにさえ見える。
「大丈夫よ、私が援護するから……今度はちゃんと追いついてみせる」
「ヴィレッタ…………」
「……アインストの本陣をこちらから叩けるんだって思えばいいのよ、少佐」
笑った。
何故だ。何故。自分を。自分は――――――
何故――――自分は、笑っている?
いつものように敵を叩く。
そしてまた、扉を開く――――今度は彼らの力を借りて。
今度は、成功した。
眼下に地球を臨み、彼らの声を聞き、俺はようやく理解した。
俺は、彼らに笑って欲しかったんじゃない。
――――彼らが笑った所を、見たかったんだ。
それにあいつも言っていた……生きて償え、と。俺はまだ、生きなければならない。
あの時も、本当はわかっていた。帰ってはならないのだと。
「不安定だったのはシステムではなく、俺の方……か」
身勝手ではあるが嬉しく思う。
この世界が、再び俺を受け入れてくれたことを。
――――おそらく俺の“戻るべき世界”が、ここであったことを。
日記からの加筆修正。 ファイナルコード&エクストラコードです。
最初はコード単体で燃えましたが今は直前の台詞「付き合ってもらうぞ、因果地平の彼方へ」と「我らが戻るべき世界への扉を!」とのセットで好き。
ちゃんと対になっているんですよね。『アポロン』と『ゼウス』のヒロ戦での役割も考えますと。
こんな話になったのはヒロ戦ではそんな描写ないのにOGでは何でこうも不安定なのかな、とか思って。
XNガイストではなくシステムXNとして不完全な修復をしたからとか、あの戦いが元で能力の一部を失ったからとか、
因果律の導きとか、他にも色々原因は考えられるわけですが、
想いにより扉を開くものである以上やはり一番の原因は少佐かと。
意識したわけではないですがVersprechenと対になっている雰囲気。