狂乱の堕天使

ホワイトデー前日の補給とあって、買い出しに行く人間は後を絶たない。
ただ出入りが多くなるというのは、それだけ騒ぎが起きやすいということで――――

イングラムとギリアムはうめき声をあげ、自らの体制を立て直すより先に、荷物の中身を確かめた。
その結果、即座に立ち上がり相手を睨みつけることに。
「お前が不注意だから……!」
「貴様こそその予知能力は飾りか!?」
二人が差し出したのは出合い頭の衝突事故によって無惨に潰れたギフトボックス。
この状態では中身が無事で済むはずもない。
まだ時間はあるから買いなおせばいい話ではあるが、それで済むなら彼らの仕事はもう少し楽になるのである。
それでも相手が別の人間なら自分も悪かった、で丸く収まるのだが――――この二人、非常に仲が悪い。
まして、完全に破壊されたそれはヴィレッタに贈るものだったのだ。
彼女についてのことだけは、負けるつもりはない。
相手が謝るまで退くつもりはない。謝った所で許すつもりもない。
「だいたい俺とヴィレッタの間に割り込もうなどと……笑わせるな。それに貴様の宿命とやらにヴィレッタを巻き込むな」
「ヴィレッタが新しい道を見つけたにも関わらず縛り付けようとしている者が何を言う」
火を切れば止めようもなく、またたく間に別件にまで広がっていく。
「ゾンビは大人しく死んでいろ!」
「状況も判断出来ぬ突撃狂はそのまま墜ちた方が世界のためだ!」

騒ぎを聞き付け野次馬が続々と駆け付けるが、二人は既にそれを気にかけられる状態ではない。

「中尉、どちらが勝つと思います?」
「口論なら分がいいのは両者痛み分けだな。どちらもどっちだ」
皆面白がって傍観している――いつ表へ出ろと言い出すのか楽しみだった。
この二人は直接暴力に訴えることはしないが、それと機体を持ち出すかは別問題。
一度この二人が本気で戦う所が見てみたかった。
――――流石にそうなったら止めなければならないので、残念でもあるのだが。
そして両者間の緊張はピークに達した。
「……やはりお前と同じ道を歩むのは不可能なようだな」
「こちらの台詞だ……二度と出会わぬように貴様を因果地平の彼方へ消滅させてやる」
「俺もお前をあらゆる並行世界から追放せねば」
「何をしているの二人とも!」
「ヴィレッタ…………!」
「っ……ヴィレッタか……」
ある意味この闘争の元凶とも言える女性の声でふと我に返る。
ヴィレッタは恥ずかしくて仕方がなかった。
少し仕事が長引いたと思ったら自分と関係の深い二人が、衆人監視のもと通路のど真ん中で小学生よりレベルの低い口喧嘩を繰り広げていたのだから。
「それで……原因は何なの?」
「そういや知らなかったな」
「私たちが来たときには既に何でもよくなってたみたいですし」
「どうなんですか少佐たち?」
「うっ……」
「それは…………」
改めて尋ねられると、物凄くくだらない理由だ。
熱がひけば己の行動及び言動を恥じる他なく、気まずそうに顔を見合わせる。
「……反りが合わない、それだけだ!」
「戦闘に持ち込む真似はしない。どうやらこいつの頭が冷めたようだしな」
「お前もお互い様だろう!」
「元はと言えば貴様が……!」
「いい加減になさい二人とも!」
ヴィレッタも愛想をつかせて二人の足を思い切り踏みつけてその場を立ち去った。
野次馬も興味を失ったのか散り散りになっていく。
理由に納得が行かなかった者が数名いたが、二人には無視されていた。
ずっと、顔を見合わせたままだった。

――翌日。
「ヴィレッタ、一月前の謝礼だ」
ヴィレッタは目を丸くした。
何故この二人が、一つの包みを差し出しているのか。
「今日はホワイトデーだろう? 一番のプレゼントは……我々が仲良くなることだと思ってな」
そう言いながらお互い眼を合わせないようにしている。
包みを開けばシックな色使いが美しいブランド物のティーセット。
「二人で選んだ。少々紛叫したがな」
「色や柄の趣味が合わなかったからな……だが、こんなに仲良くなったぞ」
肩を組んで笑ってみせた。
――――口元が物凄く歪んでいるけれども。
「援護だってしてやる。こいつの腕では生き残れんからな」
「おかずだって分けてやる。俺が食べない奴をな」
ヴィレッタはしばらく考えこむ素振りをみせた。
その後一言。
「ありがとう。その気遣いはとても嬉しいわ。でも…………」
苦笑いで。igvsmile
「何だか気持ち悪いわね。無理しなくていいから」
ギリアムとイングラムはしばらく真っ白になっていた。
そして正気に戻ると――途端に睨み合いを始めた。
「貴様が笑うのが下手だからだ!」
「お前こそ何だその似非さわやかスマイルは!」
――――――ああ、しまった。
今回はヴィレッタも自分に原因があるのを認めたが、この場でまずやらなくてはならないのは。
「だからやめなさいと言っているでしょう!」
二人の後頭部を思い切りはたいた。

 

ホワイトデーネタでイングラムvsギリアム。
書いている人間は物凄く楽しかったです。やっぱり好きだーv
本当は仲いいんですよ、この二人(私の中では!)
ヴィレ姉のことになるとこうなりますけど(笑)

 

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