数多の交差の『来年も』

L2宙域――ザンスカール軍・ポセイダル軍の同盟による戦線膠着。
ドライクロイツ実働部隊による一旦の鎮圧が求められる。
アステロイドベルト――ウルガル機の観測数、関数状に増加。
チームラビッツの運用最適化のためにも出撃が求められる。
各地のクエスターズの活動――メイヴィー・ホーキンスの提示データと一致することから『遺産』と見られ――――

「今年の仕事はここまでにしましょう」
レイノルド副長の拍手がブリッジに響きふと引き戻される。
「副長。我々は……」
「この世界の平和を導くため軍と民間、地球と宇宙、これまでとこれから……罪・咎・覚悟……様々な想いの交差を背負う『ドライクロイツ』そしてその旗艦ドライストレーガを担う者。そうであるなら、適切な休憩は基本中の基本であるかと」
AOSの補助があるとはいえ、本来のクルーが全滅しての士官学校生たちによる臨時運用とは思えない活躍。
しかし、とミツバが反論する前に、彼は歴戦の勇士たちからの意見をドライストレーガのAOSの提案の前に並べた。
「3が日を休むのとこれらの意見全てに『休息を返上して進撃すべきである』と返すのと、どちらを選択されますか?」
「……随分と根回しがいいのですね」
「元々はアズ君からの提案で……彼女にはエースインタビューで吹き込んだ人がいるそうですので、根本的な意見の出処については不明ということで」

ふう、と溜め息をついて休息の宣言をする。
リアンは踊るようにオペレーター席を立ち、ミツバの手を取った。
「そうだ、折角だから艦長も来年の占いをしてもらいに行きませんか?」
「占い……?」
「ギリアムさんの占い、物凄く当たるって評判なんです! ほら、優柔不断のヘタレ副長も本命を決める指針に、とか!」
叩き込んであるパーソナルデータを参照する。
ギリアム・イェーガー。
DBDによる転移者。次元転移に関する研究をしていたと語り、他の転移者と比較して状況に対して非常に冷静な人物。
彼の乗機であるゲシュペンストを知る人間は他の転移者にもいるが、彼の知己かについては双方が否定する。
「優柔不断は、大きなお世話だと思うが!?」
「いやー、前々から思っていたんですよねー。年下の距離の近い女の子にすぐ気を持っちゃうの、教官として致命的じゃないかなーって」
「ええ。それはそうですね。幸い、アズの好みには合致すると思います」
「脈なし宣言のナイフが鋭いですね艦長……ひとまず。休む気になってくれて何よりです。それはそうと……ギリアムさんは占いをするのですか」
並行世界のエゥーゴに所属していたと語る彼は、元々軍の仕組みがあまり好きではなく、それに異世界では意味がない、と階級を黙した。
第一接触者であり生真面目なミツバやレイノルドが階級で呼び出せば伝搬するということなのか。少し彼らにはわからない部分があるが彼は『さん』という敬称や呼び捨てを好んだ。
「占い、って馬鹿にしちゃ駄目ですよ? ほら、ミシェルさんは卦でルオ商会を動かしているという話ですし」
「世界の流れや意思というものが見え、聞こえる人……発現の仕方のひとつがニュータイプ、でしたか」

そうしてリアンが話した所によると。
占法、問わず。的中率9割。古今東西の、中には誰も知らないようなもので占う。
タロットを操る手元が各機器のコンソールを叩く時と同じくらい熟れている、『その時流れていたニュースの7語句目』から正しい結果を導かれた、など様々な実績が噂になっている。
好むのは『失せ物探し』――言葉ひとつで動くものではないから、と。

「いつもどこにいるかはよくわからないんですが、占って欲しいなー、って思ってると娯楽室・格納庫・食堂のどこかでギリアムさんと遭遇する、というのが目立つ噂ですね。あ、ほら!」
彼は娯楽室の角の椅子でアズと対面していた。
「……このポイントに、珍しいモビルスーツがある。出撃時に君が少し足を伸ばせば見つかるだろう」
「珍しいモビルスーツ! いくらで売れるんだろう……でも、やっぱり悪用されちゃダメだから、現実目標としては、ちゃんと報告して、臨時ボーナス程度に……あ、ギリアムさん、これ誰かに先を越されませんか!?」
「大丈夫さ。君が見つける運命にあるのだよ、アズ」
「少し女の敵の気配を感じましたが、そうやって信じさせるんですね……占ってもらわなくていいって言ったけど、これくらいなら……でもこれで本当に臨時収入あったらハマっちゃうかも……」
「ギリアムさん、ナンパ以上の勧誘はドライクロイツの規律で禁止されているはずですが?」
ミツバの冷静な制止が突き刺さる。
「おや、艦長。流石に年の瀬ともなりますと、ドライクロイツの代表として手本を見せて休暇ですか?」
「副長の指導の賜物です。そして、アズ。誰にでも優しい年上の男性ほど、信用してはいけないものはありません」
「…………」
針の筵だ――レイノルドは嘆息した。全員が年末年始の休暇を取るための汚れ役を引き受けたのにあまりではないか。日頃の行いか。
「そ、そうだ! 自分にやれることを精一杯やる、オイシイ話には裏がある……兄さんがよく言って……でも、高く売れる機体……」
「やれやれ。アズ……よく考えてみるといい。艦長たちに聞かれてしまった以上、発見しても君の収入にはならなくなる」
ミツバの手元のAOS端末に、新たな座標が表示された。
カギ爪の男やヨロイについての不穏な情報がある場所の近辺。
「ああああ、そうだあぁ……!! 臨時ボーナス……!」
「以後、怪しい占い師と儲け話には気を付けるようにな。当たる占い師の方が悪質だ、ということも。良い機会だ。ザンスカール帝国、マリア主義についてでも勉強するといい」
肩を落とし強く落胆するアズに明るく声を掛け、3人に向き直る。
「改めまして。激動の年、お疲れさまでした。良いお年を……そして来年もどうぞよろしくお願いします」
何事もなかったかのように。静かな光を湛えた眼で、柔らかく微笑した。
「誤魔化そうとしても無駄です。艦内恋愛の禁止に伴う食事以上のナンパ及び宗教勧誘、何より女性の敵は営倉入りですが」
「何か誤解をしておられる。少なくとも俺は身体が勝手に動きはしないし……それに。たとえば、最初から艦長が『偶然』通りがかり、泡沫の夢と消えると知っている儲け話で……建設的で有意義な講義を行っていたとしたら?」
悪ぶることもない、挑戦的な笑み。
成程。評判の占い師になるのも無理はない――実際にこの座標に何らかのモビルスーツが存在するのだろう。そして、ミツバたちに聞こえるように話していたのもわかる。
自信に溢れた態度に、ミステリアスな人間離れした外観。パイロットとしての腕前や戦況分析といった実績を踏まえ、それらを『占い』と表現するだけで彼の立ち回りは自由になる。
「あなたは人を惑わせます」
「まあまあ、どうどう! 悪意がある訳じゃないんですよ、多分。悪癖はあるかもしれませんけど」
「ああ。少しからかいたくなるのさ。歴戦の英雄。彼らの鋼の意志を継いだ若き戦士……俺のような年を食った異邦人には少し眩しすぎてね。故におちょくる……失礼。笑顔を見られるのが嬉しいのさ」
リアンがとりなしている所にアズが涙目で強く立ち上がった。
「……わかりました。来年も、ギリアムさんの占いには頼らないようにします。折角の新年だから景気のいい話を聞きたいなー、とか思ったのが間違いでした」
「ああ。君がそう選択したのなら。それに、俺はあのクエスターズほど傲慢ではないからひとつ助言をしよう……迷った時には占いなどに頼るより、親しい人と相談するものだ。彼らのようにね」
「…………でもお金がああぁぁぁぁ」

彼女にとって『積み重ねた生きる意味』として目に見える物――殊更、兄に教え込まれたものへの執着はとても重かった。

「アズ君。年が明けたらお年玉をあげるから大人しくするように……艦長。これについてはポケットマネーより。ドライクロイツの予算には手を付けませんのでご安心を」
「許可します。私も勇太くんとエルくんと……」
「規律! 守りましょう!……この状況で占うとあまり良い結果が出そうにありませんね……けれど折角なので。来年の全体運をお願いします、ギリアムさん」

リアンの依頼に頷く。
「それでは。決まりきったお約束だが、これは言わなくてはならない」
彼の『占い』は当たる。
「俺は可能性を提示するのみ。それをどう受け止め、どのような未来を迎えるかは当人次第……そして占うこと。観測すること。俺が言葉で表すことそのものが事象、意志に影響を与えてしまう」
外れることもある。人の意思で回避することも可能である。
「……それでも聞くかね? リアン・アンバード」
笑みを消し真剣な眼差しで問う。
「はい、よろしくお願いします」
「良いだろう。そうだな……」
彼が『占った』ものを目の前の少女や不満を述べつつも強く見守る彼らには悟られぬよう鋭く睨み、しかし一瞬で微笑に変える。
「こうしよう。ミツバ艦長の装備しているAOS端末、ドライストレーガの意志……この後最初に鳴るメッセージアラートが偶数回であるなら吉兆、奇数回であれば来年も波乱の年だ」
宣言と共に腰掛けていた椅子を立つ。
「……年越しの瞬間は、愛機の所で過ごすと決めていたもので、これにて失敬……良いお年を、アズ。リアン。それにミツバ艦長。レイノルド副長」
呆然とする間に手を振り微笑と共に立ち去る。
「アズ。彼は危険です。決して近寄らないように」
「え!? 誠実な人だなーって思うんですけど……真面目で優しい人だと」
「真の危険人物は嘘を本気で語ります。DBDによる来訪者に善意で無差別に手を差し伸べるのは間違っていたかもしれません。副長、彼の動向に怪しい点がないか……」
「年末年始は休暇の誓約です。艦長」
いったい何が気に召さなかったのか、と胃が痛む。
いくら彼女の極端な趣味の正反対――謎めいた余裕のある大人、というものであっても、隠し事はしようとも行動や戦場で並ぶパイロットの感覚を騙せるはずがないだろうに。

その時。電子音のアラートにも似た飾ったファンファーレが彼らの意識に訴えかける。
ミツバの手元の端末から。ドライストレーガより、共通時での年明けの告知。2回から数え、4回で止まる。
「明けましておめでとうございます。確かに偶数回……ギリアムさんはこれを知っていたから占いに使ったのですね。副長、お年玉をください」
「朝日が昇る時刻、9時以降に。そして論理的には占いの大半は『そうだった』と信じさせることが重要」
つまりは説得力と情報収集能力の問題だ。
何らかの超常の力があるにしても伝え方や提示情報の取捨選択を行う能力に重きを置いている。
「んー、聞きたいことああやって調子よく誤魔化されがちですけど、聞くことさえ出来ればどれだけ難しくても当たるって評判なんですが……艦長?」
真顔で端末を睨みつけている――――細工がされている。本来はこうはならない。
メイヴィーと技術的な話をすることはあっても、触らせてはいないはず。
そもそも方針を決めれば自動的に成長し、人の手が入る余地はない。
何故彼はこれが可能であったのか。
「……いえ。粋な計らいであったと、ひとまず認識しましょう」

この世界において、彼は一戦士であり単なる占い師である。
「おや、新年初の客が君か。流石に占えなかったが……助言が必要かね?」
年越しの瞑想を終え、愛機の足元で待つ客に笑いかける。
数々の交差の果て或いは半ばで出会ったこの十字を、彼は胸に握る『希望』にし明日を越える力として挑むのかもしれない。

 

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スパロボワンライで『年越し』をお題に30オリ組とギリアムさん。
実はまだ未クリアで全体の流れがわからんよう、あとどれくらいやればクリアなんだよう、と悲鳴を上げている所ですが、書きたかったので!ワンライ!
エーストーク、何かギリアムさんの長い!
あと何やってんのドライクロイツ評判の占い師!?
写しながら何回も情緒が召されましたし解釈しようと思うと追いつかない部分が多いのですが『女の敵』認定は一度は受けていただかないと……wこのナンパ師がー!
レイノルド副長、推されてるのあっちだと思うんですが、ごめんよ、私はむしろ非公式カプの方が燃える女!

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