海辺にて想う、戦いの終わりを
海辺から人混みが消える刻になっても、じわりと纏わりつく暑さは変わらない。
「研究所では知らなかった風の流れ、季節……」
うだるほどだがアユルは嬉しそうにワンピースを踊らせる。
連れて来た甲斐があるというものだが、あまりにも無邪気なものだからジンは思わず意地悪を言った。
「それはそうだ。観測史上稀に見る酷暑、アユルどころか地球の誰もこんな暑さは経験したことがない」
「あら!」
しかし無垢な彼女はやはり顔をほころばせてジンの手を取った。
「ということは、私は今スペンサー大尉と同じ驚きを共有出来ているのですね!」
「あ、ああ……そういうことになるな……」
――――逆にやられた。主にその笑顔に。
「それに海。生命の源……この暑さでも癒やしてくれるようです」
屈み指先で水面を玩び、少しだけ遠い眼をする。使命を負った少女の新たな決意。
「アユル、靴を預かろう。水遊びならもっと本格的にやるといい」
だからひとときでもそれを忘れさせようと、明るい声で提案した。
しかし喜んで靴を渡すアユルを見て、昔孤児院で言い聞かされたことをふと思い出し、付け加えた。
「この時期の海は死者が引きずりこもうとするそうだ。気を付けて、くるぶしまでにして、あとは……」
「ふふっ」
夏以上の熱が籠もったジンの言葉を遮りアユルの朗らかな笑い声が響いた。
「私はどこにも行きませんよ」
満面の笑顔が夕日に照らされ、潮に混じりどこか秋の香りがする風が、彼女の金糸の髪と純白のワンピースをなびかせた。
「……ああ、そうだな」
――――――アユルが行く所なら、俺も何処へでも共に行くのだから。
それが例え、彼岸であろうとも。
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エチゴヤさんのイラストに着想を得て書かせていただきました、海辺のジンアユです。
裏テーマお盆らしいですし、終戦記念日ですし。
ジンアユが幸せな世界線ください