カーテンコールの裏側で

ギリアムのチームではブリーフィングが行われている。
「お偉いさん方は無茶を言いますな……何やらカンヌに出せるものを、と」
壇が愚痴をこぼす。
鋼龍戦隊は軍からも民間からも人気がある――――反感も買っている。たまたま搭乗していただけだと。民間人を徴収している、と。
個性派揃いの独立部隊から統合参謀本部預かりになった鋼龍戦隊は上からの抑えつけが激しい。
「プロバガンダに利用したい元帥閣下にはお引き取り願いたい所だが、民間からのイメージは大事だ」
この状況で誰よりも頭を抱えているのはギリアムである。
その名称がつく前、最初の戦いであるDC戦争からハガネとヒリュウ改と共に連邦軍情報部から出向したパイロットとして戦ってきた彼は、内部事情をよく知っており恩義もある。
現在の状況を一言で言い換えれば『好々爺のショーン副長に面倒事を押し付けられた』という状況だ。
面倒事から逃げつつも責任の重さを知っている50代後半の先任少佐は、彼の目の保養を兼ねた秘蔵子であり実質的な鋼龍戦隊の責任者であるレフィーナ・エンフィールド中佐をそこから逃した。

「ギリアム少佐もご存知のとおり、鋼龍戦隊は世渡りの苦手な軍人や民間人の集まりに異星人や異世界人がいるという状況でして。マイルズ准将もあのとおりですからな」
異世界人や異形であろうと同志であれば、というギリアムがこの世界で苦手になった人種がいる。
英国紳士だ。シェイクスピアやシャーロック・ホームズは基礎教養、旧西暦時代の古典映画を会話に混ぜ女性には礼儀を尽くす、と言えば聞こえがいいが、シニカルな表現を好む。
嫌いではないが言葉では勝てず、やりにくい。

「いいではないか。君とてアルテウル元大統領のアジテーションで煮え湯を飲んだ1人だろう? アジも好感を煽ればプロモーションになる。君はそういうものが得意なはずだ」
もう1人の実力と腹芸で伸し上がった世渡りの上手い英国紳士からも要望を受けた。
「君以外に適任者がいないのだよ。私もやってみたいが君の裏でなかなか忙しい。それに私がやるとサイボーグに電脳を組み込んだ公安の人間が主役になるが、いいのかね」
「了解です」
ギリアムの性格と来歴をよく理解した英国紳士たちの依頼により、ギリアムは鋼龍戦隊の広報映像を製作する監督に就任した。

「いや、その、無茶じゃないですかね。民間に委託した方が……テラ・ダイショウ監督とかソーイチ・フォレスト監督がそれらしいのうまいと思うんですけど」
「そのあたりに依頼すると大作映画を撮ることになる。予算は降りるだろうが撮影期間のことを考えるとな」
各所からの要望や意見を熟考する。
「あまり大袈裟でない映画、それとネット用の短編が必要だろうな。公報はリクセント観光局に協力を依頼しよう。だがやるからにはネタを出す必要があるが……」
この話はヒリュウ改やハガネ、クロガネをはじめ、パイロットの皆にも回っているが皆好きに言っている。
処断が下るに至った明確な契機はエクセレンとハーケンが綿密な打ち合わせの上で共同で出した【遥かなる戦い、ご挨拶】が『あまりにも酷かった』からだが、他にも上がってきた話は『これはまずいのではないか』ばかりだった。

【超機大戦バンプレイオス】
【次元烈風狩狼哉】
【ホワイト・リンクス、戦火を駆ける】
【浅草物語】
【教えに生きる餓えた番犬】
【美食紀行トロンベ】
【蛸と盾、俺の愛と奇跡のマジックショー!】
【リ・テクノロジストの真実――トンビでもいいよ】
【コンパチカイザーと愉快な仲間たち】
その他諸々40以上、だいたいリュウセイが考えたタイトルリストがずらりと並んでいる。

「ギリアム少佐、頭痛薬が必要でしょうか」
「不要だ。解決せねば治らん」
サイカの気遣いに対してかなり濃く淹れたコーヒーを飲んだ。
「俺としては折角民間から抜擢した君のアイデアを拝借したい所だが」
ギリアムは目的と恩義のため軍内部にいるが、一般市民の感性を大事にしたいと考えている。
「そうですね。プロモーションですので仮想敵がいいでしょう。こういうのはどうです? 異形を操る仮面を被った謎の独裁者とか」
「却下だ。仮想敵である以上正体が何であろうと人間はイメージが悪い」
それ以上のことは何も言えない。
直属の部下が悪意なく頭痛を招く瞬間がある――エリートパイロットかつ破壊工作員、その他様々な来歴と実績を持ちつつ誠意を尽くす彼は、戦い続けた結果中間管理職になっていた。
「それでは皆の意見が出揃った所で、僕が考えたプロットと実現に向けてのアイデアを」
「ほう、自信がありそうだな」
壇が応じ皆が興味を示した。
「聞こうか」
ギリアムは嫌な予感がしたが承認し、念入りな企画書が出てきた。

企画名:映画『スティールドラゴン・ビーイング』
メイン機体:SRX及びその分離形態&龍虎王&Gコンパチブルカイザー
敵軍:ラマリス及び敵性超機人
SRXのパイロット(仮案)
R-1:メイリン・ダテ
R-2:ライディース・F・ブランシュタイン
R-3:アリル・キッス

「却下だ」
「いや、読まずにボツらないでくださいよ少佐。書類読む時の速度知っていますよ」
「数行でわかった。ライは元々ブランシュタインの人間で名も知られており士官学校も出ているため彼が主人公。日常生活とパイロットを演じる役者をオーディションで選抜、と」
「いえいえ、このままだとありがちな軍の公報になってしまいます。龍虎王もオカルトとはいえクスハ少尉もブリット少尉も軍属ですし。ここでお見せしたいものが」

怜次が動画を再生した。
「鬼才の異形作家、奴総断乃城氏と人型機動兵器を扱う映像作家、サンバリ・リュギーン氏による異色のコラボ動画がネットで話題になりまして、これが使えるのではと。Gコンパチブルカイザーの見せ場を作れば大衆ウケもいいですし」
「理解した。その方向で進めてくれ。責任は俺が取る、監修は任せた」
これ以上の頭痛を避けようと見ないようにしながらも注視してしまう。
王道とオカルトの混じった戦いの中の日常は、非情にギリアム好みだった。

 

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浴びるような公式のカオス極まりないOG供給に書かずにはいられなかったスパクロOGイベントの後日談です。
書き始めからオチは『劇場版ソレスタルビーイング』にしようと考えていました。
怜次考案なので概要は原作映画版を元ネタにしています。あちらは低予算ですがこっちは上層部的にも本気で、少なくともライ役は新人気鋭のイケメン俳優になるでしょう。
マクロス的に考えるとゲームのOGも史実をネタにしたゲームで情報部が色々関わっているんでしょうか。
新規表情もネタも色々あったのでOG完結への『一端閉幕』だと信じています。ここまで来たから完結を見届けます。

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