亡霊:悪を断つ剣
特殊戦技教導隊は我が誇りだ。
いずれ地球に訪れる侵略者と戦うために人型機動兵器が必要だった。
人型には欠点が多い。
関節を増やせば動きの可能性が増えるが関節そのものを突かれれば弱い。
武器もそうだ。
だが兵器を使うのが人間である以上、人間の形をしているということが何より大事だ。
夢物語を現実にするために集められた6名は相応しい個性を揃えていた。
俺は悪を断つ剣。
エルザムは黒い竜巻。
カーウァイ大佐は指導者。
カイ少佐は指揮官。
テンペストは全てを憎悪する復讐鬼。
そして、ギリアムだけはわからなかった。
非常に優秀で好感の持てる男だ。
最年少で階級も中尉だったがそれすらも異例の肩書きだ。
選抜される必然性は理解出来る。
「エルザム」
親友に問う。
エルザムは黒い竜巻であり、悪を撃つ銃だ。
「ギリアムは優秀だな」
「ああ。そしてつまらぬ男だ。同志である我らの間に年齢や階級など意味を持たぬ。丁寧語と階級呼びをやめろといくら言っても聞き入れぬ意固地な男だ。お前と同じだ」
「違いない。だがその時はいずれ来る。中尉で収まる器ではない」
「ああ。だが上層部もまた奴の器ではない」
「腹芸の出来ぬ男だ。お前と同じ、な」
「ギリアムの本質は?」
「本質?」
「俺が悪を断つ剣で貴様が黒い竜巻、ギリアムは何だ」
「自己申告に基づくなら亡霊だな」
地球初の人型機動兵器にゲシュペンストの名を与えたのはギリアムだ。
戦場に存在するが目に見えぬ者。
そして戦争が終われば消える者。
我々と同じだ、と。
「俺には出来ぬ発想だが理解出来る。だが奴は亡霊ではない」
「実は考えて言ってやったのだ。異名の1つもないのは勿体ないからな」
「聞こう」
俺はそれが聞きたかった。
「漆黒の堕天使」
「俺には出来ぬ発想かつ奴そのものだ。流石だ」
「そうだろう。ギリアムも笑った」
「笑った、だと?」
俺ですら笑う。
だがギリアムが笑ったところを見たことがない。
作り笑いすらしなくただ真剣だ。
「それはいい、と」
「いいですね、ではないと」
「ああ」
エルザムは勝ち誇った。
「羨ましいだろう、ゼンガー。まあ断られたのだが。ギリアムとだけ呼べばいい」
「さしたる問題ではない。いずれ笑いあう時が来る」
そして敵対することになる。
確信したが口には出さなかった。
強い信念を持つ者同士は何らかの形でぶつかりあう。
だがそれも問題ない。
信念を持つ者がぶつかりあい生き残れば理解者になる。
ギリアムと階級が並んだ時俺は言った。
丁寧語と階級呼びをやめねば斬る、と。
「それは恐ろしいな、ゼンガー」
軟化し続けた表情が友としての笑顔になった。
タイプSの爆発事故でカーウァイ大佐はMIAになった。
遺体が見つからず、何よりあの方が死んだなどと認めなくなかった。
その事故を受け特殊戦技教導隊は解散した。
俺たちは戦場で再会した。
テンペストは復讐鬼のまま死んだ。
問題ない。地獄でまた会える。
だが俺はまだ地獄には行かない。
カーウァイ大佐とタイプSはエアロゲイターとして現れた。
あの時より強くなった俺たち4人がかりでようやく互角だった。
そして俺たちの名を呼びながら死んだ。
カーウァイ大佐は地獄に行くべき人ではないが、どれだけ綺麗事を並べても所詮人殺しでしかない俺たちは地獄にしか行けない。
地獄においても戦い続ける宿命だ。
戦争が終わったがいずれまた逢う時が来る。
俺とエルザムは歴史の裏に消え影に潜む。
ギリアムとカイ少佐は表側で。
カイ少佐は後世の育成のために新しく特殊戦技教導隊の名を持つ部隊を作り隊長となった。
世界を暗雲が覆い、敵が現れた。
ウォーダン・ユミル。
斬艦刀で俺を狙うメイガスの剣を名乗る男。
奴は俺だ。
ギリアムは俺たちに懇願した。
俺の写し身を送り込んだ『影』の名をシャドウミラーと呼んだ。
シャドウミラーが何者かは言えないが、ギリアムはシャドウミラーを追い、シャドウミラーはギリアムを追っている。
シャドウミラーが表に出て単独で行動している間に叩かねばならず、俺たちと共に行動することは出来ないと告げた。
そのものの言葉はなかったが許してほしいと懇願していた。
綺麗事だ。
そのような巨悪と1人で戦うことなど出来ぬ。
だが俺には斬艦刀がある。悪を断つ剣だ。
そしてシャドウミラーには俺がいる。
決着を付けねばならんのはギリアムだけではない。
そして誰が許したとして、業を背負い続けるのは己自身だ。
告げられた真実はあまりにも重かった。
シャドウミラーとギリアムは並行世界からの異邦人。
俺の写し身は並行世界の俺を基にした複製だが明らかに奴はもう1人の俺だ。
ギリアムは次元転移装置の開発者でありシャドウミラーを招いた。
ギリアムの業は深く、戦士は業を背負うほど強くなる。
俺はウォーダン・エミルを斬った。
悪を断つ剣はメイガスの剣を断った。
そして人の身に耐えきれぬ業はギリアムを死に向かわせた。
死んでもいいではなく死ぬ、と。
間違っている。
どれだけ業を背負っても人は戦い続ける。
死んでもなお地獄で戦い続ける。
死はさしたる問題ではない。
そしてそのような悪逆が赦されるはずもなくギリアムは死ななかった。
ギリアムはゲシュペンストを駆り戦い続ける。
俺はダイゼンガーを駆り、黒い竜巻はアウセンザイターを駆る。
俺たちはどこまでも亡霊と共に戦い続ける。
戦場に存在する者は形は違えど亡霊でしかないのだから。
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教導隊小説、ゼンガー編です。
教導隊としての彼らを書こうとして、最初に書くべきは彼だと考えました。
私の考える教導隊を悪を断つ剣らしい真っ直ぐさで斬り込ませました。
ゼンガーは戦士です。