■異界で呪う母娘

異界って凄い。
何故か私はティアモさんと異界の英雄さんと海で遊んでいた。
綺麗な海。日差しがキツすぎるけど、それも綺麗だ。
こんな綺麗な海で綺麗な夕陽を見ながら、好きな男の子と一緒に波打ち際で追いかけっこしたり水を掛け合ったりちょっとしょっぱいって言って笑いあえればいいのに。
私の生まれた世界には何ひとつなかったものなのにそう思えてしまうから、異界って凄い。

ヴァイス・ブレイブはそんな凄い異界の全てに繋がる特務機関だ。
異界の色々な英雄がいて、信じられないけど私もその1人らしい。
繋がっているけれど行き来出来ない異界がある。
そのうち行けるようになり、仲間が増える。
ヴァイス・ブレイブは凄い。

何よりも凄いのがヴァイス・ブレイブにいる母さんたちだ。
私の知る呪術師の母さんがいた。
冬祭りを楽しむ母さんがいた。
普通の女の子、と名乗っていた。
なるほど、母さんにとってはああいうのが普通の女の子なのね。
キャハ☆ノワール困っちゃう☆
何だこれは! こんなものは我ではない!!
……少なくともキレるのは普通の女の子じゃないわね。
キレたくないなぁ。
でもこれも母さんの愛の証だしこのおかげで戦えているわけで。
海を満喫している今の私は、そこそこ普通の女の子だ。
そして花嫁姿の母さんがいた。
ペレジアの呪術師らしい漆黒の華麗なドレス。
燃え盛る花のブーケ。
呪いしかない、とても母さんらしい花嫁姿だった。
ただこの母さんは本当の花嫁じゃない。
勝ち取った人が幸せな花嫁になるブーケを賭けて花嫁姿で闘技大会をするという異界の母さんだ。

「母さん」
「あら、ノワール。どうしたの? あなたも私の愛を呪ってくれるのかしら」
ヴァイス・ブレイブの母さんたちは皆私が娘だと知っている。
それはそうだ。どんな異界だろうと、私が母さんから生まれるという運命だけは変わらない。
残念なのは私の記憶の父さんの姿がおぼろげな残像しかないこと。
父さんが誰であっても、私は生まれる。
とても大好きで優しい父さんなのに誰でも変わらない、というのはとても悲しい。
「凄いブーケね。綺麗で激しいわ」
寂しさを隠して心の底から花束を褒めた。
「流石は私の娘ね。これの良さがわかるなんて……フフフ、これはムスペルの炎花。このヴァイス・ブレイブの存在する異界の国、ムスペルにしか咲かない永遠に燃え盛る呪いの花束よ」
「本当に綺麗で凄い力がある。母さんのためだけの素敵なブーケだわ」
「ええ。だから闘技大会で負けても良かったの。だって幸せな結婚が出来るだけの安っぽいブーケなんていらない。その程度の呪いは私には必要ない」
「ええ。そんなブーケがなくても私は生まれるもの。大好きよ、母さん」
母さんにまた会えてよかった。
本当によかった。
「本当に弱気ね……すぐ泣いてしまう。でもそれも私がかけた呪いなのね。大丈夫よ、ノワール。あなたもきっと花嫁になれる」
えっ……!?
「私の娘だもの。その時のブーケは……まあムスペルの炎花じゃないわね。私のためだけの最高のブーケだからあなたには似合わないわ」
「そうよね……」
「落ち込むことはないわ。むしろ褒めているのよ。あなたの父親が誰かは知らないけれど、少なくともルフレとの娘であれば全てを滅ぼす炎のブーケは似合わない」
「どんなブーケが似合うかしら……」
「闇を切り裂く雷光を滾らせた呪いのブーケ……ふふ、いいわね。でも、その通りにならなくていいわ」
そのとおりだ。
母さんと父さんがどんな結婚をしたかは知らないけれど、ムスペルの炎花がなかったのは確かだ。
安っぽい花束だったかもしれないし、花すらなかったかもしれない。
ただ大好きだった母さんと父さんは、お揃いの指輪をしていた。
「出来るかしら……」
「出来るけれどこの異界ではないかもね。だけどどの異界でも使える呪いを教えてあげる」
「私に呪いは……」
「手紙を書くこと」
手紙が呪い?
「言葉には力がある。文字には力がある。手紙はその力が形に残る簡素だけど強い呪術書よ。使ってみなさい」
他でもない母さんが言うならそうなのだろう。
私にも使える呪い。母さんの娘で良かった。
「……それと、もう1つ。私の知らないあなただけが使える呪いは沢山あるわ。その1つが私の娘として生まれてくること」
私は間違いなく呪術士だった。

「母さんがそのブーケで敵を焼き尽くす所がみたいなぁ……」
「エクラに頼んであげる。あなたがそのヤシの実の弓で敵を殺す所もまた見たいわね、なかなかいい戦いぶりよ」
どうしよう。
褒められたのは嬉しいけど、キレるのは嫌だ。
戦わなきゃいけない時に限ってキレることが出来ないし。
「難しく考えなくていいわ。戦場に出れば自然と出来る。そう呪ったもの」

「愛は呪い……」
「討ち滅ぼしてくれる!!!」
敵は倒せたけど倒すのに夢中で母さんの戦いっぷりが見られなかった。
やっぱり、キレたくないなぁ。

 

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「手紙」「残像」「花束」で小説を書く、というお題をいただきFEHのサーリャ&ノワールです。
花嫁サーリャはノワール登場フラグか!?とドキドキしていたら本当に来たのでやっぱりフラグでした。
残像も使えるし書くしかなかったです。
サーリャちゃんの相手は別の人が好きですが、ムスペルの炎花は紛れもなくルフサーの結婚式のブーケですね。

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