神の名を持つ放浪者の戦争

あらゆる世界を渡った気がする。
様々な役割をした。
この世界での役割は『宇宙を漂流していた未知の技術による次元転移装置の生体パーツ』だった。

彼らは穏やかだった。
配慮はしてくれたが、逃亡は許さなかった。
死ぬことすら出来ず、何より死ぬ気はなかった。
知っている。彼らがただの次元転移装置だと考えているものはXNガイストの一部でしかないと。
そして彼らは軍だった。
厳密に言えばそうではないが、戦うために技術を集め、研究していた。
次元転移の機能だけでももたらす惨劇は容易に想像がつくが、同時に異次元からの侵略者への抵抗力に成り得る。

この世界は実験室のフラスコで、未来は暗雲に包まれている。
俺で行われている実験は、戦争をどれだけ広げられるか。

くまのぬいぐるみのイメージが浮かんだ。
遠い世界で俺が助けた少女の友人。
帰りたかった。
あの世界でも俺は世界を敵に回したが、名も知らぬ少女の命を救うことが出来た。

俺はただの制御装置の一部でしかないが、制御装置を甘く見てもらっては困る。
完全な次元転移の完成には、使用者たちの意思が必要だ。
そして俺は意思を持った制御装置だ。

Xナンバーディメンション。
意思と力の統合により空間と次元を越えられるという理論。
どこかでそれを知り、如何なる采配かあの機動兵器の名はそれを露骨に示すものだった。

大抵の者は技術を過信する。技術さえあれば何でも可能だと。
ただ利用者が人である以上、何に使うために技術を開発し、開発された技術をどう使うか決めるのは全て意思だ。

意思を持つ制御装置である俺はこの技術を戦争のためには使わない。
それが俺の戦争だ。

*************

ヘリオス、と名乗った。
少なからず哄笑が含まれた反応をされた。
制御装置が神を騙るなどと。
そして制御装置の名が何であろうと、利用者には関係ない。
仮面を作らせた。制御装置の顔が何であるかもまた関係がない。
この姿と名もまたあの世界の俺の側面だった。
世界の敵としての俺。
この世界の俺は誰も救えない、紛れもなく世界の敵にしか成り得ない狂科学者だ。
実験者を恨まずにはいられない俺が実験者と戦うために実験をするという矛盾と戦う。
俺のためだけの決意表明だった。

*************

俺はこれの本来の姿を知ってはいるが開発者ではない。
ただ戦士としての俺の全てを科学者にかけた。

研究を進めるうち、興味深い論文を見た。
時間はエネルギーを持ち、時間が無限に存在する以上そのエネルギーを動力源とすれば永久機関が完成する。
あまりにも突拍子がなく実現性も極めて低いが、理論自体はわかる。
時間の力を使えば次元を超えられる。
提唱者であるグレーデン博士の研究に注目した。
工学者のモントーヤ博士と協力し永久機関の雛型を造り時流エンジンと名付けた。
彼らは純粋に世界の平和を願う正しい研究者たちだ。
雛型とはいえ実体を作った以上進化する。
戦争に使われないよう祈るしかない。

*************

最初の利用者がいるとすれば、俺の所属するEOTI機関を設立したビアン博士が設立したもう1つの組織――DCだと考えていた。
敢えて地球の敵になり、外部からの敵に対する抑止力を育てる。
対立組織を敢えて作りDCの指導者として戦争を起こした。
本気で世界を征服しようとした。
その結果己が死にDCが正義を失ったただのテロリストに成り下がろうとも構わなかった。
偉大な研究者であり戦士であり、その意思と力は強大なエゴだった。
そんなものが正義であるはずがないことを知りながら正義だとした。
ビアン博士の真意を理解する者は少なく、まして彼に放棄された側であるEOTI機関が知るはずもないし知ってはならないが、俺は知っていた。
DCは世界征服のためにこの力を使おうとするだろうが、DCであって欲しかった。

作動の目途が立った時接触してきたのは連邦軍だった。
違和感があった。
転移技術を持つ敵は既に現れているし、非常に有用だが、接触を図ったのは連邦軍の一部でしかない特務隊――シャドウミラーだった。
転移技術を一部隊が独占する上に、その部隊は治安維持が目的である連邦軍に所属している。
いくらでも深読みが可能で、確信に変わった。
シャドウミラーの指揮官、ヴィンデル・マウザーは危険だ。
論文を、装置を、解説を明らかに理解していた。
科学者の素養がある。システムXNという雛型がなくとも別の次元転移装置を造ることが出来得る存在だ。
世界の平和を導く興味深い技術だと語るしたたかさに嫌悪しか湧かない。

シャドウミラーの研究者のレモン・ブロウニングもまた俺と同類だった。
人造人間の研究者――生命の創造は、空間の超越と同じく人が愛し続けた研究や物語の大きなテーマだ。
彼女が造った人造人間であるWシリーズは人間に成り得る――プログラムではあるが意思を持つ。
特別な存在にコード以外の名前をつけ、人間として造った彼らに戦争をさせる。
俺と同類であり、俺以上に救えない哀しい存在だ。
俺は理論を理解出来るが生命の創造など出来るはずもない。
何故生命と人間を知り造ることが出来る彼女が生命を消す戦争に荷担するのか。
そんな感傷を抱きはするが、俺を利用し戦争を起こす明らかな敵だった。

実戦部隊の隊長アクセル・アルマーは戦士としての俺の同類だ。
戦場でしか生きられない、兵士にしかなれそうもない男だ。
今の俺は兵士ではないが、機動兵器のパイロットという本質がある。
そして戦士と戦士が敵対した以上、基本的にどちらかは死ぬ。
利用される気も殺される気もない。

シャドウミラーは同族嫌悪しか湧かない存在だ。
EOTI機関の一員らしく自分の研究が世界の平和になると信じる一研究者を世界の敵の姿で演じ奴らに利用される俺は明らかに世界の敵であり道化だった。
狂科学者ですらなかった。

*************

意思の力を求めた。
その1つがT-LINKシステムだ。
共感を操る特別な能力者の力を兵器にする。
帰りたい世界があるのは、人と関わりたいからだ。
気の知れた仲間と共に戦い、名も知らぬ存在の命を救い、平和を勝ち取りたかった。

プロジェクトチームが生体コアを必要としない転移装置を造り動作の目途が経った。
生死と同じく歴史がある限り繰り返され続ける科学の進化――新たな戦争の始まり。
俺の意思は酷く無力だった。

*************

何故俺は知っているのか、という絶望があった。
知らないはずの理論を理解し、実現に近付けることが出来るのか。
俺は制御装置でしかないはずだ。
XNガイストの機動兵器としての機能と次元歪曲装置としての機能を制御するだけの装置だ。
ただ、どこまでも制御装置として造られている。
禁断の機動兵器を完成させその一部となるために存在している。
仮説に過ぎないしそうはなりたくないが、そう思えてしまった。
実験室のフラスコという概念も俺の直感が導いた仮説だが、その存在を人は太古から知っていた。
神、と呼んでいた。

************

実験の失敗を理解した。
俺は別の世界にいた。どこかはわからないが帰りたかった世界ではないのは確かだ。
その上あの世界に不完全な次元転移装置が2つ残された、という明らかな敗北だった。
ただ、少なくとも俺はこの世界では制御装置であることを強制されてはいなかった。

暗雲に包まれた未来がどうなるかはわからないが、希望を導く存在になりたかった。
友を持ちたい。仲間になりたい。
名も知らぬ存在を救える者になりたい。
あの世界での俺の名前を思い出した。
「俺はギリアム……ギリアム・イェーガー」
口に出すと力になる。
名と意思を知る者を増やす。敵味方など関係ない。
ただこの世界で生き抜く。

 

—————-

 

ヘリオスさんの話です。
ネーミングに『拗らせた』以外の理由欲しかったのと彼らしく戦う姿を見てみたい、という動機です。
ヘリオス・オリンパスは所謂デウス・エクス・マキナなので今後も言及はされても実際の描写はされないのでしょうね。
八房さんが回想で描くかな?くらい。
まあそんなこんなで書かれるはずのないヘリオスさんの戦いを妄想してみましたが、プレイヤーがメタキャラをメタ知識全開で書くとえげつないですね←

テキストのコピーはできません。