■深い闇の残滓

4月1日はエイプリルフール。他愛のない嘘なら許される日である。
「でもよぉ……オイラたち毎年それどころじゃねぇよなぁ……」
その日にだけ現れる『闇』との戦いで彼らは精魂尽き果てていた。
「世界が俺たちに嘘を吐いている、というわけか……ナンセンスだ」
サンダルフォンが吐き捨てる。『闇』が羽を毟ろうとしたのを『他愛のない嘘』と片付けるには彼はまだ場数が足りない。
「ダルっちー、っべぇのはフリル終わってもルリぴっぴとか戻らなかったりすることじゃねー的な?」
「誰がダルっちだ! そしてお前の妄想が現実に侵食している時点でお前だけには言われたくない!」
「ノリわりぃー。テンサゲー。ダンチョ的にはその辺どうよ?」
グランは暫し考えてポソリと言った。
「とりあえず疲れたしご飯にしようか」
「サラッと流しただと……!?」
「りょー。ケドあの騒ぎで食糧庫がやられた的サムシングで、買い出しとか釣りとかおなしゃーす」
「俺ら厨房片しとくんでー」
「よろっすー」
「「「ウェーイ」」」

「この森はハーブやキノコが多いですね。果物は街に行った人に任せた方がいいかもしれませんが……ウェルダー君?」
いつもなら先行して危険を払うウェルダーの足取りが重い。
ジャスミンが訝しむとウェルダーが苦笑する。
「すまない、ジャスミン殿。奴がやたらジェイドを狙っていたから、ヒビでも入っていないか心配になってしまった」
グランサイファーでもずっと気にしていた。星晶獣のコアは頑強とはいえ相手が相手、ましてこのコアに何かあれば永久の別れともなれば必死にもなる。
「何だったのだろうな、あいつは……」
「知りてぇか?」
ジャスミンが悲鳴をあげる。『闇』だ。騎空団の全力を叩き込まれてなお嘲笑うエイプリルフールの悪夢がそこにいる。
「ば、馬鹿な、エイプリルフールは終わったはずだ!」
「んなもん見た奴を消しちまえば問題ねぇ。キャラ被りは重罪だ。悪いがここで消えてもらうぜぇ!」
『闇』の拳が地を割る。ウェルダーは咄嗟にジャスミンを抱き上げ回避行動を取った。
この騎空団においてウェルダーはそれほど強くない――彼自身それは理解している。だが。
「ウェルダー君!」
「手荒だが我慢してくれジャスミン殿! 逃げるだけならこちらに分がある!」
――諦めの悪さだけは負けるつもりはない。
そして森というフィールドでレンジャーは無敵だ。少なくともウェルダーはそう信じている。
「うざってぇなぁ! ちょこまかちょこまかとよぉ!」
木が薙がれ、地が穿たれる。直撃どころかかすっただけでも致命傷になりえる圧倒的暴力。
そして、見知らぬ森はレンジャーを拒んだ。
立ちふさがる岩壁と『闇』に挟まれ、ウェルダーは立ち尽くす。泣きそうな声としがみつく腕、そして熱を持った親友だけを感じていた。
「ジェイド……!」
振り下ろされた拳は、絶望した2人を貫かなかった。
「ふぁ~、うぇるだ!」
巨大化したジェイドが『闇』を受け止めている。
「びぃ、だめ」
「うるせえええええ!! お前さえいなけりゃあああああ!!」
光刃がぶつかりあう。
「何でしょうか、これ」
ジャスミンの呟きにウェルダーが応えることはなく、2人はそのまま気を失った。

「……ナンセンスだな」
巨大な歪みを感じて来てみたが、何も起きていない――不自然なほどに。
島を沈められるほどの力だった。断じて誤感知ではない。
「全部嘘だった、というのが世界の理なんだろうな……ああ、わかっている」
今彼を動かしているのは歪みではなく『誰か』の声だ。
「こいつらを連れて帰ればいいんだろう。貸しにしておくから必ず返しに来い」
寝息を立てるウェルダーとジャスミンに手を添え彼は口元を歪める――返して貰えるとも思っていないのに、何故俺はそう念押ししているのだろうな。
「まあいい。ハーブティーなどより珈琲の方がいいと教えてやるさ」
互いを掴んだ指をやわらかくほどいて、両脇に抱える。グランサイファーを目指して。

 

グラブルです。Twitterのフォロワーさん向けにウェルジャス書くぞー!と思ったらナニコレ……となった奴です。
ネタの選択が悪かった自覚はあります。オイラVS真顔ジェイドを見たかったという願望が暴走しました。
サンダルフォンは『るっ!』時空でも貴重なツッコミなので目立ってしまいますね。あとローアイン語難しいです。
一応ウェルダーの良さ的なものは最大限出そうとしました。ナニコレ……ですが自分では結構気に入っていたりします。

テキストのコピーはできません。