愛哀傘
トン助を追い回す剣人やシローたち。
情勢を鑑みて敵襲がしばらくなさそうだということで、ウッソが見付けた花の綺麗な公園にブルー・スウェアのメンバーが休暇に訪れたのだ。
荒れ果てた地球でこのような場所は珍しい。
何故ウッソがそんなことに詳しいのかといえば、いつかカテジナを誘うために昔からデートスポットのデータ収集は怠らなかったのだという。
そのカテジナはザン・スカール軍の兵士になりいつ襲撃があるかわからないことを考えると、随分皮肉だ。
「……で、何であんな追っかけっこやっているワケ?」
ルーの問いにミカが微笑む。
「『花見と言えば酒だな』『バーベキューもいいんじゃないか?』とゲッターチームが言ってね……冗談だったのだけどトン助には通じなかったみたい」
そして説得のために子供たちが走っているのだが、これでは逆効果というものだろう。
「でも良かったじゃん。息抜き出来てさ」
渓があはは、と声を上げて笑い、號が頷く。
「そうね。あの子たちも学校に行ったり遊びがもっと出来てもいいはずなのに……」
ジュンの表情が曇る。
訓練ばかりで育ち機体に乗ることしか存在を確立出来なくなってしまった自分や鉄也と重ねているのだろう。
無論2人とも、グレートやビューナスを誇りに思ってはいるが、子供たちにはこうはなってほしくないという想いがある――少なくともジュンには。
「あー、暗い話ヤメヤメ。ところで皆に聞きたいんだけど、これ何?」
二等辺三角形の鋭角の頂点から引かれた二等分線が底辺を突き抜けその両脇に『ゴウ』『ケイ』と描かれている。
――――つまり桜の下の地面に描かれたこれは號と渓の相合傘だ。
「相合傘って?」
「そんなことも知らないの!? 女の子としてそれはどうなのよ」
「わ、私シェルター生活長かったし周り怖い大人ばっかだったし! そんなのより意味教えてよ! まさか呪い?」
二重の意味で焦っている渓にある意味呪いね、とミカが笑う。
「この三角が傘で、傘の下で一緒に並ぶ男女はお似合い、ってことよ。お似合いになりますように、っておまじないにも使うけど大抵は周囲がからかっているだけね」
染め上げる頬と湯気を上げる頭で、號に告げる。
「あそこでトン助追っかけてる悪ガキども引っ張ってきて。私も追いかける」
「了解した」
――相合傘を書かれても仕方ないんじゃない、とはからかうのが好きな周囲もさすがに言えなかった。
「うわ、私とジュドーも書かれてる!……ちょっと嬉しいカモ」
「そうなの?」
「アイツ、プルたちのこと未だに気にしているからねぇ」
雑談をしながら手近なベンチに行くルーとミカに対し、ジュンはその場から離れられずにいた。
桜の根元は相合傘で溢れている。
バサラとミレーヌとガムリンは無理矢理傘を組み合わせて三人分の名前を書いてあった。
シローの文字で『甲児兄ちゃん』と書いてある横には誰にも書かれていなかった。さやかかマリアか迷ったのだろう。
他にも色々な相合傘を見たが、ジュンはため息をついた。
――――やっぱり私と鉄也じゃ不釣り合いなのかなぁ。
落書きの相合傘の中に鉄也とジュンの名前はなかった。
無論子供たちにはあまり愛想がいいとは言い難い鉄也はからかいにくいという要因もあるだろうが、自虐の一言も言いたくなる。
ジュンのにとっての鉄也は切磋琢磨しあうライバルであり、かけがえのないパートナーであり、闇の中で見付けた光だ。
ハーフであり褐色の肌を持つジュンは昔は仲間外れやいじめにあっており、自分の存在意義を見失いかけていた。
彼女は『ビューナスAのパイロット』や『剣鉄也のパートナー』として生きていくうちに、自分自身を取り戻した。
自分の命すらも、鉄也から贈られたものだと思っている。
兜甲児のマジンガーZは『神にも悪魔にもなれる』そうだが、グレートマジンガーもそうだとしたらジュンにとっては『神』だ。
それほどまでに慕っている。想っている。
だが、鉄也は愛を唱えれば遠ざかっていくだろう。
愛を求めるが故に愛を嫌う。それが剣鉄也だ。
少し周りを見渡した。
遠くで子供たちを捕まえた渓がからかわれ、照れて、それでも説教を続けている――號は傍観している。
ルーたちはお喋りに夢中だ。
他のメンバーも特にこちらに気を払っている様子はない。
子供たちがこうするのに使ったであろう周囲の小枝で、彼女は鉄也とジュンの相合傘を書き上げた。
――――いつかそういう意味でもパートナーになれますように。
まじないも確かに呪いと書く。
鉄也の行動に何かを願ったことは無論あるが、呪いを掛けたのは初めてだ。
子供たちの落書きに紛れた呪いは、散る桜の花びらが隠更に隠してくれそうだ。
だが、この想いを隠して紛らわすことは、出来そうになかった。
Twitterフリーワンライ企画用SS。D世界の鉄ジュンです。初書きのカプ!
第41回のお題は「桜の木の下で」「三角のアイ(変換自由)「プレゼント」「愛してるの数だけ嫌いになるの」「闇の中の光」
使用数や組み合わせは自由なんですがついつい全部書きたくなる性分。
最初は號渓で書いていたんですが流れ的に自然な気がして鉄也←ジュンです。名残が結構その辺にありますw
普段は渓をからかっているオトナの余裕があるジュンですが、歳相応の恋する乙女だったりもするんだよ、と……!