ChristmasGift
CC097年12月
白い雪にイルミネーションが映える。
クリスマスを目前にして、街は下準備をするサンタクロースで溢れかえっている。
研修中のゼウスの面々にも街の熱気が伝わってきていた。
「もうすぐクリスマスか……なぁ」
「パーティーをやっている余裕はないぞ」
光太郎の舌にダンが釘を刺す。
「まだ何も言ってねぇじゃんかよー。あれか? ウルトラ族の特殊能力か?」
「そんなものがなくてもわかる」
「光太郎さん、わかりやすいですからね」
アムロとダンから攻撃を受け不貞腐れた光太郎はギリアムに助けを求める。
出会って1週間の彼らだが既にこの流れは確立されたものだ。
「ギリアム、お前だってパーティーやりたいだろ?」
「ん……残念だが光太郎、研修中の今ならともかくクリスマスの時には既に任務についていなければならない。とてもパーティーをやる余裕はないな」
冷静に容赦なく切り捨てていく。
だが、ここで終わらせないのがギリアムの人の良さだ。
「……が、プレゼント交換くらいは出来るのではないか?」
「そっか! ダン、アムロ、聞いたかよ! プレゼント交換やろうぜ!」
ギリアムにまでこう言われては仕方ない。
2人も同意して、研修を適当な所で切り上げプレゼントを買いに出かけるのだった。
「よーし、皆買ったな! ……ギリアム、お前の奴小さいな」
「クリスマスまで中身は秘密だぞ。それまでこうして胸ポケットに入れて大切にしておくんだ」
「交換するときのお楽しみ、って奴ですね」
期待に胸を膨らませずにはいられない4人。
平和なクリスマスを過ごすためにもゼウスとしての活動に意気込むのであった。
しかしその願いが叶う事はなかった。
瓦礫の上に雪が降り積もる。
「ギリアムさん……」
「ギリアム……」
「…………馬鹿野郎…………!」
クリスマスを前日に迎えた日、ギリアムは瓦礫の下に消えた。
彼が助けた少女はこれから楽しいクリスマスを過ごすだろう。
彼はゼウスとしてその未来を守ったのだった。
「プレゼント交換するって約束したじゃねぇかよ! プレゼントの中身、クリスマスになったら教えてくれるんだろ!!」
その叫びがギリアムに届く事はなかった。
へしゃげた箱、破れた包装紙。
ギリアムはそれ越しにツヴァイザーゲイン――システムXNの残骸を覗いていた。
爆薬の取り付け作業はラミアがやってくれている。
「あまり嬉しそうじゃないわね、少佐」
背後からの声に振り返るとヴィレッタが歩み寄ってきて隣に並んだ。
真っ直ぐに彼の表情を覗き込む。
「あなたの枷はこれで解かれるのでしょう?」
「そう……だな」
――――そう。ここは憂うのではなく笑うべきだ。
この日のために、ずっと戦ってきたのではないか。
思わず出そうになるため息を必死に抑え、微笑を作り出す。
「ところで、何を持っているの?」
手の中の哀れな骸に気付いて疑問を投げかける。
「クリスマスプレゼントさ」
「随分早いわね。それに……」
「無残な姿だろう?」
ククッと軽い笑いを漏らす。
――――渡せなかったプレゼントを未練がましく持ち続けてきた。
いつか渡せる日が来ると信じて。
でも、もう渡す事は出来ない。
アギュイエウスの扉は永遠に閉ざされてしまう。
「俺がシステムXNを作った――修復したのは、これを渡すためだったのかもしれない」
ヴィレッタが目を丸くする。
――――彼にはそこまでしてそれを渡したい人がいた。
しかしその道を自ら断とうとしている。
もう二度と、会えなくなってしまうのに。
「あなたは本当にこれでよかったの?」
「…………未練がないといえば嘘になる」
どれだけあの時間を取り戻したいと思ったかわからない。
あの笑顔を向けてくれるようになるならどんな償いでもする。
だが――――
「『我らが帰るべき世界への扉を』……その願いの結果、俺はここにいる。ここが俺が帰るべき世界だということだ」
ギリアムの眼から諦めのようなものを感じ取って、ヴィレッタは項垂れる。
「あなたはそれでいいの?」
「ああ……これでいいんだ。俺はこの世界で生きていく。大切な仲間たちと共に」
手元のプレゼントをじっと見つめる。
「なあ……ヴィレッタ。クリスマスは一緒に過ごさないか」
「何なの、唐突に」
「ケーキを買ってきて小さなパーティーをしよう。そしてプレゼント交換をするんだ。心を込めた贈り物を、ね」
「……二人で?」
心拍数が高くなる。
「それが望ましいが君をSRXチームから奪うわけにはいかないからな。皆でやろう」
当てが外れて気抜けする。気にしなくてもいいのに。
「クリスマスは随分先よ。その時の予定までは保障できないわね」
「ああ……だがわかり次第最優先でクリスマスパーティーを予約させてくれ」
「考えておくわ」
「少佐、ツヴァイザーゲインへの爆薬の取り付け、完了しました」
「あら、時間ね」
「ああ……行ってくる」
「その前に少佐……ひとつ聞かせて?」
――――――あの渡されることのなかったプレゼントはこれからどうなるの?
「……本当はこのシステムXNごと廃棄するつもりだったが……君にあげよう。外箱は酷いものだが中身は無事なはずだ」
ヴィレッタが中を検めるとそれは銀色に輝く腕時計だった。
「君が持っていてくれれば、俺は絶対に忘れない。渡すことの出来なかったプレゼントのことも、これから渡すプレゼントのことも」
「ええ……私が忘れさせないわ」
笑顔をお互い確認し、ギリアムはツヴァイザーゲインを積み込んだ輸送機に乗り込んでいった。
CC099年12月25日。
ダカール市のゼウス本部に奇妙な贈り物が届いた。
差出人不明のクリスマスラッピングされた小包。
慎重に開けるとそこには更にラッピングされた小箱3つとメッセージカードが入っていた。
『Merry Christmas!! 2年遅れですまない』
「誰でしょうね。この2年遅れというのが引っかかりますが」
「2年前のクリスマスって言ったら……ギリアムがいなくなった日だよな。まさか……」
「……誰かのいたずらだろう。ギリアムはあの時……」
「案外サンタクロースだったり……はしませんかね」
開封して腕時計をはめてみる。これ以上ないほどしっくりくるベルト。美しい文字盤。
「何だか暖かいですね」
「こりゃ本当にサンタの贈り物かもな。サンタがギリアムに代わってプレゼントをくれたんだ」
「非科学的だな……だが、そうだといいのだがな」
「12月25日」というわけでクリスマス。
ギリアムにとってクリスマスプレゼントを交換するのは最高の仲間の印なんですよ!
ヒロ戦の時系列無視してます。ゼウス結成って確かCC098年のハズ
カイ(シデンさんですよ)のレポートがCC099年1月だから、多分クリスマスあたりに終わったのでしょう。
つまりどこかで街を守るためにザクがガンダムに戦いを挑んだり、というのはまた別の話ですw