遭遇
外の様子は、耳にすることが出来る。
しかし、干渉することは許されない。
それは思ったよりも耐え難いことだ。
今は時を待つしかない。
過剰な期待は、していないけれども。
「面会だ!」
さて、何が出るだろうか?
「ヴィレッタ隊長、お久しぶりです!」
情報部、と聞いたときはまさかと思ったが、目の前にいるのは紛れもなくアヤ大尉だった。
投獄されてしまった私ほどではないが、アヤも行動にはかなりの制約を受けているはずだ。
SRX計画は上にとって不都合な点が多すぎる。
その為にチームは解散させられ、アヤは情報部に送られたのだから。
当然、私と面会するなど許されるはずがない。
そうなると。
アヤの背後の男性……彼の差し金だろうか?
階級章は彼が少佐であることを示していた。
右目を隠し、後ろも肩を過ぎるくらい長い非機能的な髪。
既視感があった。
実際にどこかで見かけたことがあるのか、それとも知っている誰かに似ているのか。
――そう、似ている。
眼、そして雰囲気が。
私が誰よりも良く知る相手に。
視線に気付いたのか、彼は眼を合わせて、微かに笑った。
――――同じだ。
「アヤ、積もる話もあるだろうが、まずは私に話をさせてはもらえまいか」
しかし、その一瞬で気配は後ろに隠れてしまい、彼はよくいる軍人になってしまった。
微笑も消えて、全くの無表情。
「ヴィレッタ・バディム大尉……元SRXチーム隊長、バルマー戦役及びイージス計画にパイロットとして参加……しかしバルマー戦役においての敵対組織への参画容疑で投獄。正しいか?」
尋ねるまでもない、決まりきった事務的な質問。
眼で探りながらの肯定。
「私は地球連邦軍情報部所属、ギリアム・イェーガー少佐だ。君の意思確認のためにここに来た」
「意思確認?」
彼の名前は聞いたことがある。
特殊戦技教導隊……以前存在したPTのテストパイロット集団の一員。
ライディースの兄も所属していたというが。
そして現在は情報部……アヤの上官兼監視役、といったところだろう。
それでここに来るのだから、とんだ食わせ者だが。
「自由になりたいか、ということだ」
「……勿論、自由にはなりたいです」
丁寧語など慣れてはいないが……ここで彼を帰すのは得策ではない。
せめて、真の目的を探ってから。
無愛想のまま、口調は僅かに軽くなった。
「それならいい。本人の意思がないのならばどうしようもないからな」
「自由にして下さるのですか?」
「ああ」
「……条件は?」
私は不信を隠してはいない。
隠すつもりもないし、その方が自然だろうと思う。
「私としては、君のその能力を地球圏のために使ってくれればそれでいい。これは私以外の意図が働いた結果なのでな」
横目で見られてアヤが恐縮した。
恐らくアヤやライディース、マオ社関係から働きかけがあったのだろう。
信用は禁物だろうが、少なくとも敵ではないらしい。
「元々それといった証拠があったわけではないからな」
それはそうだろう。
情報操作は行っているし、感づいたのはSDFメンバーのみ。
ティターンズの影響で、疑わしきは罰しろ、ということになったのだろう。
それでそのまま解放が面倒になったかでもしたに違いない。
「結局、戦争に群がる死の商人どもと地球至上主義の過激派が」
「あの、少佐……」
「ああ、失言だったな」
――――嘗められているのだろうか、私は。
この愚痴、責任問題にもなりかねない。
それをあっさりと言ってしまうというのは。
もしかすると、彼は同類なのだろうか。
それなら、最初の気配も納得がいく。
ある意味私以上に似ていたのは、説明がつかないが。
「さて……私の話はここまでだ。アヤ、あとは自由にするといい。時間だと言われたら私があしらっておく」
そしてまた、寸前でかわされてしまった気がした。
彼は、アヤと私を残して、面会室を出て行った。
私なら間違いなく盗聴はするが、彼はどうだろう?
どちらにしても相手がアヤなら、当たり障りのない話をするくらいだが。
「彼が今の上官で……監視役というわけね?」
「はい……でも、監視役っていうのも名目だけで、優しい人です。こうして隊長にも会わせて下さいましたし」
それが心からの優しさなのか。
あれだけの印象ではわからなかった。
もし、彼が未だにパイロットを続けていて、共に戦うことがあったなら、もう少し、わかることが出来たかもしれないのに。
情報部として長いだろうに、場を踏んだパイロット特有の殺気は隠しきれていなかった。
そんな可能性もなかったとは、言い切れないだろう。
そしてしばらくしてから、私は釈放された。
リュウセイやレビも同様に。
ただ、私が彼と会ったのはこの一回だけだった。
「縁があったら、また会いましょう?」
私の言葉は、届いていたのだろうか。
結局私と彼の運命は一度だけ交差しただけで、彼が持っている“何か”はきっとこの“世界”では発揮されないまま、解き明かされないままなのだろう。
ただ、私の記憶に残るだけ。
それを知ることができなかったことだけが、残念だった。
そういえば、一度だけあった。
彼と再び遭遇したことが。
それは、声だけだったが。
ミケーネの本拠地に乗り込んだとき、グッドサンダーが伝えた全世界の声援。
その中で侵攻していた部隊を潰したばかりらしい部隊が映った。
映像はそのまま、PTを中心に構成されたその部隊のメンバーたちが、順々に声援を送ってきた。
「見ているか、αナンバーズ!! 勝ってくれ……いや、絶対勝てる! こっちだって大勝利したんだぜ!!」
すぐにわかった。リュウセイ……相変わらずだ。
アヤやレビ、イルムガルド中尉の声も伝わってきた。ライディースの時、レーツェルは確かに笑っていた。
そして。
「あとは任せたぞ、αナンバーズ……空間と時が我らの間を阻もうと、我らの希望はひとつだ」
ゼンガー少佐とレーツェルが笑いあい、気力を再度奮い立たせた。
ただ、やはり少し残念に思ったのは、理由は違えど、彼らも私も、変わらないようだ。
お題「If~もしも~」というわけで、α世界ならどうなる?と。
教導隊があるならギリアムもいるでしょ、と。あとアヤが情報部なので(ライは諜報部でしたね)
ぶっちゃけて言えば&であって×じゃないですけどね……
雰囲気的にはキョウスケ編前半を意識しています。