■いつからか変わっていた感情
ジャスミンが薬草と動物たちのために木の実を集めている。
ウェルダーはその護衛を自ら買って出た。
「森を行く人々の安全を守るのもレンジャーの使命だ!」
いつものように、そんな理由を堂々と告げて。
時々銃声や魔物のうめき声が遠くから響くのでウェルダーは熱心にその活動を行っているのだろう。
安堵しつつ落ちたドングリの隣に咲いた花に目をつける。
確かこれは乾燥させた粉を煎じて飲むと疲労に効くはずだ。
後でウェルダーに飲ませようと身を屈める。
よく見るとその花の群生地のようでいくつか摘み集める。
合図にと持たされた木の鈴をカラカラと鳴らす。
これは見た目によらず森の中でもよく響き、合流に使えるという。
果たして数分もしないうちにウェルダーがジャスミンの前に姿を表す。
かすり傷が多少あるが大事はなかったようだ。
「ウェルダー君、ありがとうございます。必要量は集まりました。宿屋に戻りましょう」
「うむ。時にジャスミン殿、いつもと違う鳥を連れているようだが」
「あら、私の連れている皆はその場で勝手に集まってくるのですよ。でもそうですね、この2羽は他と違います。今日大怪我をしていたので拾いました。応急処置をしたので一命は取り留めてくれましたが……」
「それは心配だな。手厚く看病してやるといい」
宿屋ではルリアがたまたま同伴になった吟遊詩人の語る物語に瞳を輝かせていた。
「ウェルダーさんもジャスミンさんもお疲れ様です! 私だけお話を楽しんじゃってすみません!」
「構わん。どんな話だったのだ?」
「運命で結ばれた2人が引き裂かれた末に数々の試練を乗り越え再会するお話です!」
ジャスミンはそれに対するウェルダーの反応がすぐに想像でき、少しばかり鬱屈した感情を抱えた。
「おお、まるで俺とジェイドのようだな!」
そしてその予想は的中する。
ウェルダーとジェイドの絆は森の民であり2人の傷を癒やしてきた薬草士であるジャスミンはよく知っているつもりだ。
ただ、昨日寝る前に恋愛小説を読んだせいだろうか――ウェルダーと自分の間にも何かの繋がりがあってもいいのではないかと思ってしまう。
だがウェルダーが何より強く結ばれているのはジェイドだ。だから必然的に、ジャスミンの運命の人はウェルダーではない。
哀しきかな、仲間のために傷が絶えずこの前にジェイドが暴れた時はとんでもない無茶をやってのけて――そんな時ジャスミンは治療をすることしか出来ない。
石という形であれジェイドがウェルダーと一緒にいられることはとても喜ばしいことだ。
だからこそその感情を歪んだ醜いものと捉える。
「あ、疲労を回復する薬草を摘んできたんです。お茶にするといいので淹れてきますね」
団長に、ルリアに、吟遊詩人に、そしてウェルダーに声をかける。
皆感謝の念を述べていた。
そして夜。
昼間拾った鳥の治療をする。
その時ノックがした。
「ジャスミン殿、起きておられるか? 俺も昼間の哨戒任務中に薬草を拾ったのでジャスミン殿の方が有効に使ってくれるだろう」
ウェルダーを招き入れる。
流石はレンジャーと言うべきか。使い勝手のいい見つけやすいものから希少価値の高いものまで揃っている。
「鳥の様子はどうだ?」
「1羽は明日には空に帰れそうです。ただ1羽は……傷は治っても飛ぶのは難しいかもしれません」
「何、ジャスミン殿の気持ちが通じればいつかはまた飛べるようになるかもしれぬ!」
「……そうですね、ウェルダー君。私この2羽を幸せと不幸せに分けて考えて憐れむことしかしてなかった……もう少し頑張ってみます」
それから数日後。
ジャスミンはまた薬草と動物たちのために木の実を集めにいき、ウェルダーはその護衛に当たった。
例の傷が深かった方の鳥はジャスミンの肩が定位置になっていた。飛ぶ気は最早ないようでジャスミンを困らせている。
森を行くと花畑を見つけた。
美しいだけでなく薬草としても使えるものばかりだ。
ジャスミンは花畑に足を踏み入れる。
そして膝をつく。
原因はすぐに思い当たった。
この花畑に沢山いる蝶の魔物――彼らが眠りの鱗粉を撒いているのだ。
眠りに落ちていく意識の中で合図用の鈴だけを何とか鳴らした。
「――ミン殿! ジャスミン殿!」
「ウェルダー君、ありがとうございます……」
「蝶は退治した。だが……」
ウェルダーの表情は鎮痛だ。
動くとズキリと傷が痛む。眠らせたところを餌食にする蝶だったのだろう。
そして、ジャスミンが倒れていた傍に、小鳥の羽が、骨が、散らばっていた。
「済まない。俺がもっと早くついていれば……」
「……あの鳥さんはここが寿命だったんです。私が感傷で生き長らさせていただけ」
「心にもないことを言って自分を傷つけるのはやめるんだ」
「ウェルダー君、ウェルダー君……うわぁぁぁぁぁっ!!」
思わず泣きついたジャスミンをウェルダーは迷うことなく抱きとめた。
「きっとあの子も飛べるようになるって……!」
「手厚く葬ってやろう。葬花も必要だな」
「私も手伝います」
「大丈夫なのか?」
涙目で微笑した。今ウェルダー君から離れる方が不安です、と。
あなたは私の運命の人ではないかもしれない。
でも凄く大切で、優しくて、放っておけない人。
第148回フリーワンライ、お題は『・君は運命の人じゃない・哀しきかな、・幸せな〇〇と不幸せな〇〇(〇〇は自由)・鬱屈・ハッピーエンドを目指した』から全部使いました!
グラブルはTwitterのフォロワーさんが熱くウェルダー&レンジャーサインを語っているのに釣られて始めてまんまとハマりましたw
ガチャゲーだけどガチャに頼らなくていいという推しポイントは優秀ですねウェルダー!
ジャスミン殿はまだうちの騎空団にいないです。またウェルダーもフェイトエピは全部は見ていないので何か間違ってたらすんません
同郷だけどそんなに親しい訳ではなくて、年下のジャスミンがウェルダー“君”と呼んでウェルダーは薬草士として敬意を払ってジャスミン“殿”と呼んでるって距離感いいですね……!