散る花に想う2人の時間

軍には正月も暮れも、勿論盆もない。
ただ直属の部下が日本人ばかりということもあり、ギリアムは彼らに盆休みを与えた。
伊豆基地に着いてここから規定の数日は自由に休暇を過ごして欲しいと言うと、サイカが何か言いたげな顔をしていた。
サイカだけではない。壇も怜次も光次郎も表に出さないだけで同じことを考えているであろうという推測が成り立つ。
彼らの問いの答えは、彼の目の前にある。
有能な部下たちの働きで普段は承認だけで済む書類も、一から十まで、いやその裏に隠されたことまで目を通さなければならない。
それでも全て処理を終わらせるのがギリアムの能力であり、意地であった。
部下が次から安心して休暇を取れないようでは、上官として、彼らをまとめる者として失格だ。
――通信機のコールが鳴る。また新しい仕事かと思えば、発信者は少し意外な人物であった。
ヴィレッタ・バディム。外部協力者として情報部の面々とも顔馴染みであり、パイロットとしてのギリアムの有能、という言葉では片付けられない仲間だ。
「差し入れを持ってきたの。オフィスの鍵を開けて下さる?」
情報部の抱える情報だけを見ればノーを突きつける要求だが、ギリアム、いや彼だけでなく情報部とヴィレッタには絶対的な信頼がある。
無論ギリアムの権限でそのあたりの追及を有耶無耶にしていることもあるが。
「アヤとマイが買ってきてくれたの。糖分は脳にいいしね」
菓子折りを取り出してヴィレッタが先にひとかじりする。
断る口実を減らそうということなのだろうと推測はするが、悪いようには思わない。
「私も部下に盆休みを与えて雑務以外は暇なところなの。宜しければ手伝わせてくれないかしら」
そう、SRXチームもヴィレッタ以外は日本人または日系人だ。
リュウセイには帰る家もある。ライには参りたい墓もあるだろう。アヤとマイは不明だが、父に直接感謝を伝えるのもアリだと出立前アヤが笑っていた。
謂わばこの状況は二人とも似た試練を負わされている。
手分けして作業すると、一人では得られなかった安らぎがあった。
それが、仕事が軽くなるという安堵だけでないのは、ギリアム自身もよくわかっていた。
「花火大会があるようだぞ。見に行かなくていいのか」
それでも彼女を遠ざけてしまうのは、彼の本能としか言いようがない。
「あんな人混みに一人で行けって? あなたがエスコートしてくれるなら別だけどね」
「俺には仕事があるのでな」
「それなら私にもあなたを補助するという仕事があるので、いかないわ」
沈黙が覆った臨時オフィスに突如火薬の音が鳴り響く。
「それに行かなくても、こうして見られるでしょう?」
「そうだな……美しく儚い。人の生にも似ている」
「でも輝けるだけ素敵だと思うわ、私はね」
また沈黙が2人の間を張り詰めさせ、打ち上げ花火の音だけが空間を支配する。
訪れる『いつか』を予知し或いは推測する2人は、しばらく遠い花火を見やっていた。
「ギリアム少佐、ひとつ言っておくわ」
「何だ?」
「仕事をしている方が気楽だからって、たまには休暇を取った方がいいわよ」
「人のことが言えるのかな、君は。まあ善処しよう」
花火が光る度に2人が影になり、数秒後に音が届く。
2つの影は、一定の距離を保ちながら、それでもそれ以上離れることがなく、その時間を享受していた。

 

ギリアムさんとヴィレ姉の思わぬ共通点(部下が全員日系)に気付いたのですがそのネタは薄めです
オフィスに2人きりだけどオフィスラブにならないのがこの2人らしいと思っていますw

 

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