EternalForce

「ところで船長」
「何だい、ボニー」
「あの小僧にはああ言いましたが、船長も鱗がありませんな」
アンの下半身はいわゆる鯱のようなものであり、彼女自身も艶々だと自慢している。
「……ボニー」
「何ですかな?」
「何ですかな、じゃないよ。あんた一体どれだけあたしの補佐をやっているって言うんだ」
「はて……」
「本気で言ってるなら部下なしで船全体を掃除させる」

そんな声を後にしながらハーケン・ブロウニングと愉快な仲間たちはヴィルキュアキントへと突入した。
「なるほどな。俺のミラクルチャームが通用しなかったのはそういう訳か」
「いえ、もっと根本的な問題かと思われます、重力無視コート」
「しかし生命の神秘じゃのう。わしは割と人間に近い姿をしておるからその辺は無問題なのじゃが……」
ニヤニヤしながら神夜に問いかける。
「ぬしは何かを聞いておらぬか、ハレンチ乳出し姫?」
「は、破廉恥じゃありません! それにこれは由緒正しい礼服なんです!」
「ほれほれ、そう言わんと赤ちゃんはどこから来るのか言ってみぃ」
「おい、セクハラフォックス。それは流石に度が過ぎるってもんだぜ?」
零児が尻叩き用にグローブを付け替え、ハーケンが帽子を軽く振っていた。
セクハラに関しては決して他人のことを言えたものではないのだが。
「えーっと、お父様とお母様が一緒に光る桜の木を切ったら中から私が出て来たんだと聞きました! きっと桜がない他の国の方々も……」
「……オーケー、チェリープリンセス。面白いジョークだ」
帽子を深く被りなおし、やれやれとため息をつく。
「というか未だに信じておったのか。わらわ的にはその方が信じがたいわ」
「ち、違うの!? 錫華ちゃん!」
「艦長、この完全天然培養姫をいかがしやがりましょう」
「この状況下ではあの敵の処理の方が優先事項かと思われますが」
KOS-MOSの無機質な声に皆が身構える。
敵意剥き出しの、海賊団の兵士たち。
「何じゃ? アン船長は協力すると言っておったが……行方不明の連中かえ?」
「どうも“憑かれている”ようだな」
「ぬしも感じるか。ここはガツンと正体を見抜いてやれい、トビカゲ!」
「俺はニンジャじゃない」
「なーんか引っかかる名前だねぇ……」
「あの兵士からミルトカイル石の波動と同じものを感知しました。説得は無意味かと思われます」
周囲の騒ぎを他所にKOS-MOSが冷静に分析を続ける。
その横ではアシェンが同様に――と思いきや、彼女はコードDTD発動状態にあった。
「ん~、つまりこういうことだね? 殺してでもうばいとる!!」
「なにをするきさまらー、なーんてな! つまりはいつもの強行突破じゃ!」

惑星エンドレスフロンティア。荒野に浪漫、街に毒舌が溢れるはぐれ者たちの理想郷。
ふざけているように見える彼らだが――実際そうだが――名の知れた屈指の実力者であり、この程度の敵はものともしない。

「安心してください、峰打ちです!」
「一緒に出てきたナマモノは砂になったがの……まったく、このナマモノこそどこから来たのか知りたいわい」
「今回の調査はそれを調べる意味もある。文句を言っていないで早く進むぞ」
あの事件もだが今回も相当なものだな、と独りごちた。
世界の“ゆらぎ”もだが、メンバーの個性の強さにおいても。

そして紆余曲折ありつつも、当初の目的である純度の高い紅のミルトカイル結晶と、ついでにPT2機を手に入れることが出来た。
ミルトカイル石に汚染されていたシレーナ海賊団も、大抵の者は正気を取り戻した。
「すまないねぇ、ボウヤたち。ザマァないさ、このアン・シレーナともあろうものが」
「惚れ直したかい? ボンバーマーメイド」
「バカなボウヤだね。礼は言うけど、惚れ直すも何もハナっから眼中にないって言っているだろ」
「船長がそう言っているのだ。そう見てもらいたかったら鱗が生えるまで鍛えることだ」
「……やっっぱりあんたは何もわかっていないね、ボニー」

エルフェテイル北まで送り届けてもらったが、その突き抜けるような青空とは裏腹にハーケンの表情は曇っていた。
「昔からあの手のボンバーギャルズは苦手だ」
「ハーケン、ため息はルックス低下のもとです。笑うのがいいとシオンは言っていました。私にはよく理解できませんが」
「余計な気遣いは無用じゃ無表情からくり。原因は八割方こやつである。男はやはり誠実さとたくましさじゃ。こんなチャラ蔵に惚れるのなんぞ……」
「ハーケンさん、ファイトです! 凄くカッコ良かったです!」
「……………………」
神夜がにっこり笑い、ファントム=ゲシュペンストが頭を軽く撫でる。
「……この手の男を見る目のない奴ばかりじゃ。まったく、神夜も神夜じゃしこの亡霊も……」
「そう言うがな、俺だってプリンセスはともかくそっちはお断りだぜ、ミスター・ゴースト」
「からくりが駄目ならば私は……」
アシェンが少し俯くとハーケンは慌ててウィンクする。
「おっと、そういう意味じゃないぜ、シンデレラ。美しいレディなら俺はいつでも何でもノープロブレム」
「冗談に決まっておりましょう、このトランプマン」
いつものように軽口を叩き合う中、新入りのアルトアイゼン・ナハトとヴァイスリッター・アーベントはのんきに蝶を追いかけていた。
KOS-MOSが淡々とその様子を観察及び記録している。
「……彼らも今ひとつわからんな。この世界全体もだが」
「静寂の街はゆらぎに満ちて、何処へ行くのか時の迷宮……まあわしらには慣れたもんじゃ。しかし種族を超えた絆はあるぞ。のう、零児?」
「確かにな。いつかは別れる身だが、この出会いはかけがえのないものだ」
「しかし、ああいった種族は本当にどうやって子供を作るのかのう。わしは野球チームでのポジション込みで計画済みじゃが」
「何人作る気だ」
「ぬほほほほほ、作ること自体は否定しなかったな?」
零児が一瞬目を丸くし、そしてそっぽを向く。
「ああ、そっちがその気ならそいつは重畳。だが」
ギラリと小牟を睨みつけた。
「その前に尻を百叩きだ」
「そ、そういうプレイはやめてくれい!」
照れ隠しと悲鳴の応酬にまた神夜がとぼけた声を混ぜ込む。
「それにしても、光る桜なんて珍しいからちょっと勿体無かったですね。おかげで私が生まれてこられたんですけど」
「本気か!? やはり本気で信じておったのか!?」
「ヘソウナギとニンジャマスターの教育不足かと思われます」
「よーし、ここは俺が」
実地で、というセクハラもここに極まれりという台詞を重厚な機械音がかき消した。
神夜及び周囲には幸運だったが、そんなことを言っていられる状況ではなかった。
何しろ先ほどまで仲良く戯れていたナハトとアーベントがぶつかりあい、ファントムが割り込もうとしている。
たかが3メートル、されど3メートル。
暴れれば常人ならばちょっとやそっとの被害ではすまない。
幸い彼らは規格外の存在だったのでかすり傷や気絶で済んでいるのだが。
「そこなからくりども、通訳は出来んのかえ?」
「やれるならとくにやってるっちゅーの!」
「彼らが敵対行動をとっている時から試行していますが無意味でした」
そのうちにグラン・プラズマカッターやパルチザン・ランチャー、リボルビング・ブレイカーが飛び交い始める。
こうなると威力が強すぎて彼らにもなかなか割り込めない。
「ったく、いい加減にしやがれ! 俺のために争うな!」
「だからそれは勘違……」

ぴたり。

ハーケンの言葉に応えるように、PTたちは動きを止めた。
「あれ? 幽霊さんたち、止まっちゃいましたよ?」
「本気か? 見る目がないにも程があるぞよ」
「こいつは重畳……なのか?」
「お前ら、何で疑問符ばかりつけるんだ。で、何でこうなったんだ」
ファントムが指した先にはナハトの肩で無惨にも潰れてしまった蝶の骸。
どうも不慮の事故が起きてしまいそこから対立、止めに入ったファントムもヒートアップしこの事態、というようである。
「オーケー、事態はわかった。だが仲良くしてくれ。メカニカルハニーたちが喧嘩すると俺も悲しい」
当然ながら冗談混じりだったのだが、PTたちはコクリと頷きハーケンにすりよってくる。
「……マジかよ」
「からくりにモテるタイプなのかのう。ぬしのジャキカンフーはどうじゃ?」
「邪鬼銃王である。わらわが糸で操っておるから心配無用じゃ。何より奴らと違い見る目はある」
「ハーケンさんにすりすり……少し羨ましいです」
「姫ならすりすりと言うよりぷにぷにですね」
「いや、問題はそこじゃない。大丈夫か、ハーケン」
「……ボヤボヤしてっとあのバタフライみたいになるな、これは。モテる男はツラいぜ」
皆が困惑しつつ笑う中、KOS-MOSだけが冷静に記録を続けていた。
「シオン……ここで見たもの、いつか必ずあなたに届けます

「船の掃除が終わりました、船長」
「本当にやったのかい。じゃあついでにあたしの肩でも揉みな」
「かしこまりました。しかしいつも思うのですが、私の鱗だらけの手では船長の柔肌が傷つくのでは?」
「やっぱあんたはわかってないねぇ……そのカタさがいいんだよ」

 

本家のネタの詰め込みっぷりにどう対抗するのか(笑)むげフロネタです。
最初に思いついたのは神夜の「赤ちゃんはどこから来るの?」本当は知っていると思いますが、天然さんなのでこういうのもありかな、と。
でもEDのアレはキスだけできゃーきゃー言ってハーケン涙目がオチだと思う(笑)
あとはとにかく萌えとネタで。特にハーケンとファントムたんとボニー×アンに萌え。副長、完全に魚人なせいか人気イマイチっぽいですけど。
タイトルはもちろん「邪気眼」と双璧をなす中二病の代名詞「エターナルフォースブリザード」から。
略してEFだしチーム名決められるなら絶対これ入れてたよ。語感いいし。でもSSではおなじみ「愉快な仲間たち」で。

 

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